お願い乱歩さま

のーまじん

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活動開始

午後のお茶会2

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  スコーンをオーブンに入れると、辺りを片付けて、縁側に木製のテーブルを置く。
  そして、北欧風のランチョンマットを敷くと、いとこのアキちゃんの結婚式の引き出物…らしいティーセットを薫は並べる。

  「紅茶の好きな友達が、デパートで買ってきてくれたのよ。」
と、有名な英国のお茶…と言う緑の缶を薫は出してくる。

  それから、葵に笑いかけ、葵がまだ、エプロン、マスク、三角巾の姿なのに気がついて、薫は真顔になる。
「葵ちゃん、もう、ここは良いから、髪でもとかしてらっしゃい。」
薫は、大真面目に葵に言う。
  葵は、そこまでしなくても…と、不満に感じたが、祖母の嬉しそうな姿に、黙って従うことにした。

  思えば、祖父が生きていた頃は、祖父の後ろで、心配しながらサポートする様な薫だった。

  それが、少女のように嬉しそうにお菓子を作ったり、洋服の話を積極的にしながら、遊びをねだっきたのだ。

  本来の少女趣味の薫の姿を見つけて、葵は、つきあっても良い気がした。

  祖父は、釣りやらキャンプが好きだったし、
  薫の一人娘の奈緒子は、薫の少女趣味に付き合うような性格ではない。

  葵の着ている洋服と一緒に、薫の夢は仕舞われていたのだろう。

  折角、着たのだから、コスプレ気分で、昭和の少女世界を楽しもう。

  葵は、学校で、秀実にそれを話す事を考えてワクワクした。

  いつか、このまま感染が低いままなら、三人でお茶会も楽しいかもしれない。
  葵の夢は膨らんだ。


  それから、薫は、持ち前の家事能力をパワーアップさせ、テキパキと後片付けから、セッテングを終わらせて、恋する娘のような軽やかさで階段を登り、髪をとかす葵のもとへとやって来る。

  「葵ちゃん、髪、やってあげようか?」
薫は、提案のように言うが、ヘアーアレンジをしたくてたまらなそうだった。
  葵が頷くと、少し長めのボブヘアーの葵の髪を、嬉しそうに編み込んで行く。
「お祖母ちゃん……こんな事出来たんだ。」
さらさらと、結い上がる髪に、葵は、思わず感動する。
「うん。おばあちゃん、三人姉妹だったから、こう言うの、好きだったの。」
薫は懐かしそうに話をする。
  葵は、黙って頷いて聞いていた。
「本当は、こういうの、姉さんが一番上手かったわ。私は、座って実験台になっていたの。姉さんにまた会いたいわ。」
薫は、独り言のように呟く。
「九州のおばちゃんの事?」
葵は、薫よりもかなり年配の上品な白髪の女性を思い浮かべた。

  記憶が正しければ、70代になっていると思う。
  6年前に大阪に旅行で会って以来、叔母さんと薫は、会ってないと思う。

「そうよ。ああ、そう言えば、葵の読みたがってたあの漫画、姉さんのお下がりなのよ。」
薫は、嬉しそうにわらい、ちょいちょいと、ヘアピンで仕上げをした。

  「はい、出来上がり。」薫は、そう言って、鏡ごしに葵に微笑んだ。
「凄い。まじ、レトロコスしたみたい。」
葵は、思わず叫ぶ。
「れ、レトロ……こす……」

薫は、複雑な呻き声でそれに答えた。
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