お願い乱歩さま

のーまじん

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  大川くんの腕…握っちゃった( 〃-〃)

  自分の部屋で、机に向かって葵は、下校の時の事を思い出した。
  男の子の腕にあんな風に掴むなんて……きっと、大川くんも呆れてる…

  葵は、その時、腕を握ったまま見上げた遥希の困惑した顔を思い出した。

  痛いって…言われたわ。少し、顔を歪めて(-_-;)
  私って…わりと腕力あるのかな。

  葵は、ノートを開いて、もやもやとする。
  全く、こんな事で悩むのは、江戸川乱歩のせいなのだ。

  乱歩が『宇宙怪人』なんて話を書いてなければ、あんな風に遥希くんの腕をつかんでスマホを覗きこんだりしなかった。

  大川くん…近くでみると、顎のラインが綺麗だった。

  (///∇///)………

  葵は、余計な煩悩を振り払うように首を振る。

  「そうよ、童話、童話を書くんだわ。」
一人の部屋で、居もしない誰かを説得するように独り言を呟いて、ノートを開く。

  結局、『宇宙怪人』は使わない事になった。
  怪人二十面相も登場してないのに、四十面相の話なんて可笑しい。それに、秀実は言った。

  “今から書いたら、新世紀の明智小五郎にはならない“と。

  

  「葵ちゃんの叔母さんの説で言うなら、私達は明智小五郎を書く資格は無いのよ。」
秀実は葵に自慢げに言う。
「無いって…資格が無いってどう言う事よ?」
葵は少し怒りながら抗議をする。
  叔母の奈穂子は、葵の作品を楽しみにしているのだ。確かに、考え方は色々だけど、資格が無いとは酷いと思う。

  が、秀実は、怒る葵に笑いかけ、手を握って嬉しそうに空を見上げる。
  そして、こう、言葉を続けた。

  「2025年…私達、オトナになっているんだもん。」


  ( 〃-〃) 成人……

  葵は、秀実の握った手をつい、握り返す。

  いつもは気にしてないけれど、そう、葵たちはもうすぐ、成人するのだ。

  成人の言葉が解放感と期待で葵を包んだ。
  「私達、その頃は、誰の許しもなく、大阪にだって行けるのよ。
  2025年…無垢な魂で新しい明智小五郎を描くのは、私達の後輩になるんじゃないかしら?
  私達は、それを大人として応援するの。
  私達、別れ別れになっても、その時、再び会うのよ。」
「秀実ちゃん……。」
葵は、高校を卒業した後の進路について、おぼろげに考えた。
  秀実は頭もいいし、やはり、東京の大学へと進学するのかもしれない…と。

  そう考えると、少し、切なくなってくる。

  そんな葵を秀実は慰めるように言った。
「大丈夫。私達の後輩は、絶対にやってくれるわ。
  明智小五郎のアニメ化にむけて。
  だから、私達は、まずは、デビューまでの乱歩を書きましょう。」
秀実の台詞に説得させられそうになる。
「でも…」  
それが不安で葵は、つい、反論したくなる。が、秀実の笑顔が次の言葉を奪う。
「でも…は、無しよ。だって、私達が高校を卒業する2023年。それが、江戸川乱歩のデビューの100周年なんだから。
  不安と希望を胸に、飛び立つ気持ちを描けるのは、私達の世代だけなのよ。」

  私達の世代だけ……

  葵は、そのキラキラとした言葉に呑まれるように頷いた。

  が、自室で落ち着いてみると……なんだか、芝居がかった嘘臭い台詞にも感じてくる。

  明智小五郎を書かなければ、何を書いたらいいのだろう?
  ノートに文字を書いてみる。

  乱歩、宇宙、童話。

  なんとも、噛み合わないワードである。
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