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のーまじん

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 「あるわよ。2025年!明智小五郎の100周年!」

 奈穂子の言葉が胸をつく。
 夕日に染まる二車線道路を見つめながら、車の助手席で葵は、奈穂子の壮大な夢を思い返す。

 奈穂子は言った。
「著作権とか気にしないで、町おこしに使えるヒーローが必要なのよ。
 少し前は、製作会社さんの厚い、厚い、ご厚意で何となく、それっぽいご当地ヒーローを作っていたけどっ。   
 何となく、見る方も、やる方も、気にはなっていたんだもん。

 明智小五郎は、有名だし、著作権切れてるし。
 手頃で素敵なご当地ヒーローになってくれると思うのよっ。」
奈穂子は、夢見るようにそう言った。

 葵がまだ、小学生の頃、ゆるキャラとかが流行っていて、確か、市役所でも作成していたと思う。

 災害とかが頻発ひんぱつする前はイベントも沢山あった。
 お米が特産の隣の町では、米の精霊が青年団のニューフェイスに力を与えて変身させていた。

 その為、年配の役員の演じる悪役の方が、さまになっていて、おじさんたちの悪口まじりの激励を受けながら戦っていた。

 最近は、見なくなったけれど…色々、大変だったのかもしれない。

 葵は、昔、黄色いヒーローに抱っこされた事を思い出した。

 あまり、ポージングは上手うまくなかったけど…嫌いじゃなかったな。

 あのとき、優しく頭を撫でてくれたヒーローは、今、どうしているのだろう?
 子供の頃の楽しい思い出が、秋の寂しさを含みながら葵の胸をよぎる。

 ヒーローショーより、その後のマグロの解体ショーの方が盛り上がった事やら、マグロの目玉を笑いながらサービスしてくれたおじさんの方が、悪の組織の人より怖かった事。

 “著作権が切れた作品は、世界のすべての人に等しく与えられた遺産だわ。
 今こそ、使わせて貰う時だと思うの。”

  奈穂子の言葉が胸に響く。

 “もう一度、町の活気を取り戻すのよ。
 何か、小さなラッキーがあれば、雪だるま式に良いことが膨らむかもしれないでしょ?
 うまくヤリさえすれば、今なら、あの大都会、大阪府民の力を借りられるわ。
 がんばって、政府にカッコいいヒーロー作画を買って貰うのよ。
 そして、全国の村おこしで使えるようにして貰うんだわ”

 奈穂子は、そんな壮大な夢を語っていた。

 正直、葵には、奈穂子の夢の効能は分からなかったが、政府とかが出てきた辺りから、やはり、大人になると、何となく、打算が見えてしまうんだと感じた。

 だからと言って、私には書けるのかな?
 漫画の神様に愛される話なんて。

 辺りが薄暗くなって、車のライトがつく。
 葵は、色々な事を考えて不安になる。

 葵だって、打算はある。
 奈穂子達に笑っていてほしいし、皆でイベントを楽しみたい。
 その方が、景気もよくなるし、将来が明るくなるきがする。

 それは、突き詰めれば、やはり、自己満足の為と言える。
 葵は、世界の人達の平和とか、日本の経済がどうこうなんて、難しい事を考えたりはしていない。

 世界のすべてを愛せる聖女になんてなれない。
 叔母さんや、友達や、地域の人達の事だけでも…正直自分の事だけで、いっぱいいっぱいなのだから。

 「本当に……私に書けると思う?」
葵は、奈穂子に聞いた。
 奈穂子は、音楽を聴きながら運転をしたままだった、が、しばらくしてから、少し驚いたように葵に聞いた。
「は?別に、書けなきゃ、それでいいじゃない。
 最近、ろくでもない事ばかりだったんだから、100年目の明智小五郎を作るチャンスくらい、どんとチャレンジすれば良いじゃない。
 皆、時代で有利、不利はあるんだもん。
 お祖母ちゃんの若い頃は、アイドルになれば、一生安泰だったけど、今は、それも無理なんだし。
 ばかね、そんなに考え込まなくても、葵の小説が爆死しても商店街がどうこうなったりしないわよ。」
奈穂子は、そう言って爆笑する。

 「笑うなんてひどいわ。」
葵は、ふて腐れる。
「ごめん。……ありがとうね。そんなに心配してくれたんだね。」
奈穂子は、今度は真面目に返事を返した。
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