お願い乱歩さま

のーまじん

文字の大きさ
上 下
3 / 61
活動開始

大川

しおりを挟む
  「大川くんもね。」
   葵は遥希に笑いかける。
  遥希は身長180センチの長身で肉付きがよい。
  肉と言っても贅肉ではなく筋肉の方だ。
  郷土資料部と言うより、外見で決めるなら、柔道やレスリング部に居そうな雰囲気の男である。

  遥希は葵が拭いたテーブルに鞄を静かに置いて資料を取り出した。

  「調べたいものが沢山あるんだ。文化祭も近いし。」
  遥希は口数少なくそう言った。
  遥希と葵は、2年ではあるがクラスは違う。
  1年の時には、あまり活動できなかったが遥希は黙々とレポートを作っていた。
「何か、発掘されたの?」
  葵は興味深そうに遥希に聞く。少し離れた田んぼが道路に舗装されるので、発掘調査が入っていた。
  遥希は隠しきれない笑顔を浮かべて葵を見る。
「あの人気スペシャルで信州の土器が取り上げられたんだ!うちのblogも検索に引っ掛かるかもしれないから、早めにアップしたいんだ。」
遥希はヤル気満々だ。 
嬉しそうな遥希を見ていると激しい郷土愛を感じる。そして、真逆の奈穂子のやる気のなさを思い出す。
  「凄いよね。遥希くんは。村おこしに力を入れてて、感心するよ。」
 葵は、しみじみとそう言った。
  遥希は、同級生の女の子に誉められて照れ臭そうにする。
「村おこしなら、木曽さんところだって、頑張ってるじゃないか。奈穂子さん、小説書くんだろ?」
「えっ(°∇°;)」
葵は、42歳の自分の叔母を奈穂子さん、呼ばわりされたのと、小説の事が知れわたっている事に驚いた。
「オヤジに聞いたんだ。なんか、商店街の会議でも、一際、ヤル気満々だったって。」
遥希は何故か嬉しそうだ。
  その様子を見ながら、葵は、遥希が奈穂子と同じ商店街の八百屋の息子だった事を思い出した。
「ヤル気満々…では、ないよ。」
葵はブツブツと文句ばかりの奈穂子を思い出して暗くなる。
  そう、まだ、意味不明の活動報告を書いただけだ。
  「明智小五郎で村おこしにするんだってな。」
実直な遥希の期待のこもる台詞が痛い。
「うーん…でも、何も進んでないみたいだよ。勢いで発言して、困ってるみたいだもの。」
葵は奈穂子を思って暗くなる。
  なんだか、行き当たりばったりな感じで、仕上がらず、後で、皆に責められないか心配だ。
「やっぱ、小説部分が問題なのか?」
遥希、何故か、この話題に食いついてくる。
「うーん。たぶん。」
なにもかも、とは言えずに、葵は曖昧に言葉を濁した。
「やっぱ、挿し絵は奈穂子さんが書くんだよな?」
遥希は問いただすように圧をかけて葵に聞いた。
「わかんないわ。そこまで知らないもん。」
正確には、関わりたくない。が、正直な気持ちだ。

「困ってるんだな。」
「多分ね。」
何か、激しく心配されて、葵は、少し鬱陶しくなる。そんなに心配なら、同じ商店街の住人なんだから、手伝えばいいのだ。
「俺、小説書こうかな?」
「はあ?( ̄O ̄;」
葵は、自分の気持ちが駄々漏れしてないか、心配になる。
「ねえ、遥希くん、小説なんて書けるの?」
葵は驚いて遥希を見た。
  文芸部と図書館を一緒に利用し、文化祭の協力の話とかが出ても、小説なんて書けないと断っていた遥希なのだ。
  それに、正直、彼の文章は箇条書きである。
  が、遥希は、何故か自信満々でやる気に満ちている。
  「大丈夫だ。二次作だから、元の作品がある。
  俺は、レポートは書き慣れているから、あんな風に短く分かりやすく書くのは得意だ。」
遥希は、自分に語りかけるように話してから、戦隊ヒーローのエンディングのようにゆっくりと頷いた。

  「えっ…レポートって。それは、ちょっと、違うかも。」
葵は、謎のやる気を見せる遥希を驚異に思いながら呟いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

不自由ない檻

志賀雅基
青春
◆広さに溺れて窒息する/隣人は与えられすぎ/鉄格子の隙間も見えない◆ クラスの女子の援助交際を真似し始めた男子高校生の日常……と思いきや、タダの日常という作者の目論見は外れました。事件を起こした主人公にとって化学の講師がキィパーソン。初期型ランクルに乗る三十男。特許貸しでカネに困っていない美味しい設定。しかしストーリーはエピグラフ通りのハード進行です。 更新は気の向くままでスミマセン。プロットも無いですし(!)。登場人物は勝手に動くわ、どうなるんでしょうかねえ? まあ、究極にいい加減ですが書く際はハッピーエンドを信じて綴る所存にて。何故なら“彼ら”は俺自身ですから。 【エブリスタ・Nolaノベル・ノベルアップ+にも掲載】

願いの物語シリーズ【立花光佑】

とーふ(代理カナタ)
青春
後の世に伝説として語り継がれる試合があった。 『立花光佑』と『大野晄弘』 親友として、ライバルとして、二人の天才はそれぞれの道を歩んだ。 この物語は妹に甘く、家族を何よりも大切にする少年。 『立花光佑』の視点で、彼らの軌跡を描く。 全10話 完結済み 3日に1話更新予定(12時頃投稿予定) ☆☆本作は願いシリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆ その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。

私たち、博麗学園おしがまクラブ(非公認)です! 〜特大膀胱JKたちのおしがま記録〜

赤髪命
青春
街のはずれ、最寄り駅からも少し離れたところにある私立高校、博麗学園。そのある新入生のクラスのお嬢様・高橋玲菜、清楚で真面目・内海栞、人懐っこいギャル・宮内愛海の3人には、膀胱が同年代の女子に比べて非常に大きいという特徴があった。 これは、そんな学校で普段はトイレにほとんど行かない彼女たちの爆尿おしがまの記録。 友情あり、恋愛あり、おしがまあり、そしておもらしもあり!? そんなおしがまクラブのドタバタ青春小説!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

私の日常

友利奈緒
青春
特になし

処理中です...