魔法の呪文

のーまじん

文字の大きさ
上 下
7 / 15
ヴィーナオーパンバル

真実の愛

しおりを挟む
  「全く、それにしたっていい加減にしてほしいよ。」

 ここ数日、半狂乱のフランクの側にいて泣いていたメアリーは酔っぱらって眠っているフランクのベッドの横で悪態をつき始めました。

 最後に会ったのが、ヴィーナ・オーパンバルの夜。
 17歳の可憐なメアリーをエスコートしてくれた20歳のフランクは、とても大人に見えましたが、数十年の放浪生活ですっかりオバサン思考の現在のメアリーには今のフランクは子供のように思えます。

 「だから、フランクと結婚しちゃえばいいんじゃない?どうしてフランクと結婚しないのさ。」
メアリーの横で、昨晩の晩酌のつまみの残りを食べながらフェネジは不満を言いました。

 初恋のカールは、他の女の子と婚約したのです。

 今さらカールとどうこうなる気が無いなら、フランクのお嫁さんになっても問題はありません。
 どうして、そうしないのか、魔神ジンのフェネジには理解できませんでした。

 「はぁ?何言ってんだい、アンタはっ!」
それを聞いてメアリーが怒り出しました。
「だって、そうしたら、丸く収まるでしょ?」
フェネジは文句を言います。メアリーがフランクと幸せになりさえすれば、フェネジは家に帰ってゆっくり出来るのです。

「冗談じゃないよっ、ダンスと結婚じゃわけが違うんだからねっ!
 乙女は、そうそう簡単に気持ちを入れ換えて、恋の相手を変えるなんて出来ないんだよっ。」
メアリーは、フェネジに厳しい言葉でいいましたが、悲しみにくれるフランクの寝顔を見ていると、そうしてやれない自分が悪いような気がします。

 疲れて眠るフランクの綺麗な額を右手で優しく触れながら、メアリーは、自分がもう、フランクに認識してもらえない、別の世界の生き物になった事を自覚しました。

 「どちらにしても無理じゃないか!
 例え、その気になったとしても…私にはもう、フランクを慰めてあげる手すら持ち合わせていないんだから。」
メアリーは悲しくなりました。

「それなら大丈夫(  ̄▽ ̄)」
メアリーの言葉を聞いて、フェネジは嬉しくなりました。
「大丈夫って…なんだい?」
メアリーは、悲しいシーンをぶち壊されて、不機嫌になりながらフェネジを睨みました。
「多分、魔法でなんとかなるよ。」
「そんな魔法あるんなら、さっさと使えばいいじゃないかっ。」
メアリーは、三日分の絶望の日々を返して欲しくなりましたが話が長くなるので言いませんでした。
 そんな事より、フランクが立ち直れる方が大切です。
 元に戻ることが出来たら、
 フランクに触れることが出来るなら、

 彼を勇気づけて、新しく彼を愛する努力を始められるかもしれません。

 「うん。簡単だよ。メアリーが真実の愛をフランクに見せたらいいんだよ。
 さあ、やってよメアリー。君ならきっと出来るから。」
フェネジは、純真な笑顔でメアリーに期待しました。
 「し、真実の愛ったって…。」
メアリーは、困惑しました。
 幼馴染みのフランクは、優しくて、大好きでしたが、それはお兄さんのような気持ちです。

 恋人とか、そんな気持ちではありませんでした。
 それに、長い旅の生活で、すっかり色恋ごとから離れた生活をしていたメアリーは、気持ちが大人になりすぎていて、急に乙女モードで恋愛なんて、とてもテンションをあげられそうにありません。

 「無理だよ…。」
しばらくフランクの顔を見ていたメアリーは、そう言いながらフラフラと立ち上がりました。

 「フェネジ、アンタこそ、恋をしてみたらいいよ。そうすれば、私の気持ちが分かるから。」
メアリーはそう、捨てぜりふをいい放つとフランクの部屋を出て行きました。

 「嫌だよぅ…、だって、みんな、ちっとも楽しそうじゃないんだもん。」
フェネジは、メアリーが閉めたドアに向かって独り言を言いました。
「でも…、このままだとフランク、長くはもたないと思うけど。」
フェネジは、疲れて眠るフランクの顔に不気味な死相が現れて行くのを感じました。
 それは、昨日より少しだけ濃くなっていて、死期を早めているようでした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう

天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。 侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。 その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。 ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

処理中です...