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ヴィーナオーパンバル
分岐点
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これは、100年くらい前のヨーロッパのお話。
北欧の小貴族の娘メアリーは社交界デビューの晴れ舞台ヴィーナ・オーパンバルの夜に謎の錬金術師から魔法の呪文を教えてもらいました。
がっ、
恋をした少女には、魔法の呪文は使えません。
無自覚に恋をしていたメアリーは、規約違反で魔法技師として世界を漂うことになるのでした。
が、恋バナ好きの少女トトによって、メアリーは若返り、そして、運命の分岐点、ヴィーナ・オーパンバルの前日に戻ることが可能になりました。
幸せいっぱいのメアリー。
ジンと共にやり直しの分岐、ヴィーナ・オーパンバルの前日に戻るのでした。
めでたし、めでたし。
「で、なんで、私はオペラ座にいるんだい?」
炭のような黒髪と真珠のような滑らかな肌の17歳の少女に戻ったメアリーがジンに言いました。
そう、ここは冬のウィーン。
オペラ座では、まさにヴィーナ・オーパンバルが終わった熱気が込み上げていました。
メアリーは観賞用の二階席の通路にジンと二人で立っていました。
廊下も観賞用の席もみんな人でいっぱいでしたが、なぜか大男の怪物のジンもメアリーの事も誰も気にしてないようです。
それは不思議な気持ちにメアリーをしましたが、そんなものに気をとられていたのは数分です。
近くの伯爵家のボックス席の扉が開いて興奮した男が祝いの言葉を叫んでいました。
「カールがとうとうユリアに求婚したぞ!!」
それは、メアリーの好きなカール・ゴードンの学友の…、
メアリーは、彼の名前を思い出せませんでした。
いいえ、もう、思い出す必要を感じませんでした。
幸せそうなカールの、はにかんた笑顔と、その横に幸せそうに腕を絡ませる伯爵令嬢ユリアの姿を見たからです。
パーン
誰かがイタズラで祝いの空砲を空に打ちました。
一瞬、メアリーは自分の心臓が破けた音だと思いました。
めまいがして…
力が入りません。
伯爵令嬢と言えば聞こえは良いですが、器量はメアリーより数段おちます。
少し太めで、白くポチャポチャした頬をして…
でも…、姿がどうであろうと、とても綺麗だとメアリーは思いました。
それは、愛する人に愛されて、それを信じることが出来る女性の内面から発する光のようなものだと思いました。
とても綺麗で…
胸が締め付けられる…
メアリーは、目の前の自分にも、他の人達にも気がつかないほど嬉しそうな二人を目眩を感じながら見つめていました。
が、なんの興味も関係もないジンが、しゃがんで鼻くそをほじくっているのが目に入ると、思わず平手でジンの頭を叩いてしまいました。
「痛いなぁ…、人の頭を叩いちゃいけないんだよ。」
ジンは叩かれたところを右手で撫でながら口を尖らせて文句をいいました。
そうです、メアリー、なにがあるにしても、人の頭を叩くのはいけません。
「うるさいわねっ。アンタ、人じゃないでしょっ!ジンじゃないさっ。
なにさっ、
ジンと言えば、変幻自在でなんでも出来る魔法の天才だろ?それなのに、なにさ、この始末はっ!
アタシは、なん十年の時を経て、告白する前にフラれたじゃないかっ!バカちんがっ。」
メアリーは、言葉こそキツいのですが、声はかすれ、見ているジンも、その姿に言い返す言葉を引っ込めました。
気の強そうな…、本当に気の強いメアリーが、今にも泣き出しそうに見えたのです。
メアリーは同情される予感がして、急いで歩き出しました。
心は痛いし、
この先を考えるとどうして良いのか分かりません。
でも、こんな間抜けなジンの前で泣き顔なんて見せたくはありませんでした。
魔法の呪文を唱えた17歳のあの日、一人で旅を続けながら、どんなに辛いことがあっても、メアリーは涙は流さなかったのですから。
それなのに、婚約を決めたカールの無防備で幼くさえ見える笑顔を見たら、急に体から元気の源が蒸発して、ただ、子供のように大きな声で泣きたくなったのです。
お父さん…
メアリーは、12歳の時に家から送り出してくれた、優しいお父さんがとても恋しくなりました。
「メアリー、よく考えたんだけど、オレ、やっぱり人だよぅ。だって、ジンて魔人の事だもん。
痛かったんよ。謝ってよ。」
ふらつきながら歩くメアリーにまとわりつくように、ジンは大きな体でチョコチョコついてきました。
「うるさいねっ。アンタが、間違うからいけないんだよっ。
トトに言われたろう?
ヴィーナ・オーパンバルの前日に戻れって、
なんで、当日に戻るのよっ。」
メアリーは苛立たしげにジンを見ました。
「オレ、アンタじゃなくて、フェネジって名前なんだ。」
「アンタの名前なんて、どうでもいいよ。」
メアリーは冷たく言いました。
ジン改め、フェネジは、一日前に時間を戻せるのかもしれません。
でも、メアリーは、幸せそうなカールの笑顔に、ユリアへの思いが、一日二日で芽生えたものでは無いのがわかりました。
ユリアは伯爵令嬢でしたが、それをはなにかけることなく、認めたくはありませんが…優しくて、素敵な女の子です。
今さら、一日前に戻ったところでどうなる分けでもありません。
若返っただけでも儲けもんだと思おう。
メアリーは心の中で負け惜しみを言いました。
そして、とにかく、この空気を読まないトンチキと離れて、一人で失恋の悲しみにトップリと浸かりたいとフェネジを睨みながら思いました。
これからどうするにしても、今晩くらいはサメザメと初恋の終わりを泣いてもバチは当たらないと、そう考えたのでした。
北欧の小貴族の娘メアリーは社交界デビューの晴れ舞台ヴィーナ・オーパンバルの夜に謎の錬金術師から魔法の呪文を教えてもらいました。
がっ、
恋をした少女には、魔法の呪文は使えません。
無自覚に恋をしていたメアリーは、規約違反で魔法技師として世界を漂うことになるのでした。
が、恋バナ好きの少女トトによって、メアリーは若返り、そして、運命の分岐点、ヴィーナ・オーパンバルの前日に戻ることが可能になりました。
幸せいっぱいのメアリー。
ジンと共にやり直しの分岐、ヴィーナ・オーパンバルの前日に戻るのでした。
めでたし、めでたし。
「で、なんで、私はオペラ座にいるんだい?」
炭のような黒髪と真珠のような滑らかな肌の17歳の少女に戻ったメアリーがジンに言いました。
そう、ここは冬のウィーン。
オペラ座では、まさにヴィーナ・オーパンバルが終わった熱気が込み上げていました。
メアリーは観賞用の二階席の通路にジンと二人で立っていました。
廊下も観賞用の席もみんな人でいっぱいでしたが、なぜか大男の怪物のジンもメアリーの事も誰も気にしてないようです。
それは不思議な気持ちにメアリーをしましたが、そんなものに気をとられていたのは数分です。
近くの伯爵家のボックス席の扉が開いて興奮した男が祝いの言葉を叫んでいました。
「カールがとうとうユリアに求婚したぞ!!」
それは、メアリーの好きなカール・ゴードンの学友の…、
メアリーは、彼の名前を思い出せませんでした。
いいえ、もう、思い出す必要を感じませんでした。
幸せそうなカールの、はにかんた笑顔と、その横に幸せそうに腕を絡ませる伯爵令嬢ユリアの姿を見たからです。
パーン
誰かがイタズラで祝いの空砲を空に打ちました。
一瞬、メアリーは自分の心臓が破けた音だと思いました。
めまいがして…
力が入りません。
伯爵令嬢と言えば聞こえは良いですが、器量はメアリーより数段おちます。
少し太めで、白くポチャポチャした頬をして…
でも…、姿がどうであろうと、とても綺麗だとメアリーは思いました。
それは、愛する人に愛されて、それを信じることが出来る女性の内面から発する光のようなものだと思いました。
とても綺麗で…
胸が締め付けられる…
メアリーは、目の前の自分にも、他の人達にも気がつかないほど嬉しそうな二人を目眩を感じながら見つめていました。
が、なんの興味も関係もないジンが、しゃがんで鼻くそをほじくっているのが目に入ると、思わず平手でジンの頭を叩いてしまいました。
「痛いなぁ…、人の頭を叩いちゃいけないんだよ。」
ジンは叩かれたところを右手で撫でながら口を尖らせて文句をいいました。
そうです、メアリー、なにがあるにしても、人の頭を叩くのはいけません。
「うるさいわねっ。アンタ、人じゃないでしょっ!ジンじゃないさっ。
なにさっ、
ジンと言えば、変幻自在でなんでも出来る魔法の天才だろ?それなのに、なにさ、この始末はっ!
アタシは、なん十年の時を経て、告白する前にフラれたじゃないかっ!バカちんがっ。」
メアリーは、言葉こそキツいのですが、声はかすれ、見ているジンも、その姿に言い返す言葉を引っ込めました。
気の強そうな…、本当に気の強いメアリーが、今にも泣き出しそうに見えたのです。
メアリーは同情される予感がして、急いで歩き出しました。
心は痛いし、
この先を考えるとどうして良いのか分かりません。
でも、こんな間抜けなジンの前で泣き顔なんて見せたくはありませんでした。
魔法の呪文を唱えた17歳のあの日、一人で旅を続けながら、どんなに辛いことがあっても、メアリーは涙は流さなかったのですから。
それなのに、婚約を決めたカールの無防備で幼くさえ見える笑顔を見たら、急に体から元気の源が蒸発して、ただ、子供のように大きな声で泣きたくなったのです。
お父さん…
メアリーは、12歳の時に家から送り出してくれた、優しいお父さんがとても恋しくなりました。
「メアリー、よく考えたんだけど、オレ、やっぱり人だよぅ。だって、ジンて魔人の事だもん。
痛かったんよ。謝ってよ。」
ふらつきながら歩くメアリーにまとわりつくように、ジンは大きな体でチョコチョコついてきました。
「うるさいねっ。アンタが、間違うからいけないんだよっ。
トトに言われたろう?
ヴィーナ・オーパンバルの前日に戻れって、
なんで、当日に戻るのよっ。」
メアリーは苛立たしげにジンを見ました。
「オレ、アンタじゃなくて、フェネジって名前なんだ。」
「アンタの名前なんて、どうでもいいよ。」
メアリーは冷たく言いました。
ジン改め、フェネジは、一日前に時間を戻せるのかもしれません。
でも、メアリーは、幸せそうなカールの笑顔に、ユリアへの思いが、一日二日で芽生えたものでは無いのがわかりました。
ユリアは伯爵令嬢でしたが、それをはなにかけることなく、認めたくはありませんが…優しくて、素敵な女の子です。
今さら、一日前に戻ったところでどうなる分けでもありません。
若返っただけでも儲けもんだと思おう。
メアリーは心の中で負け惜しみを言いました。
そして、とにかく、この空気を読まないトンチキと離れて、一人で失恋の悲しみにトップリと浸かりたいとフェネジを睨みながら思いました。
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