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のーまじん

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サイドビジネス

幸せを売る女(仮)11

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 「全く…なんでこんな話をしているのかしら?」
私は洗い物をすべて終わらせて自分の黒歴史を思い返して眉を潜めた。

 こんな昔の話、奈津子だってつまらないに違いない。

 取って置きのデザートを早く出して話題を変えよう。私はそう考えた。が、奈津子は違うようだ。

 「ふふっ。良いじゃない。なんか懐かしい。
 ファミレスって、車で一時間の国道沿いのあそこでしょ?
 今は、更地の駐車場だけど。」
奈津子は寂しそうに言った。
「うん。デザートの美味しいあそこよ。
 私、あのファミレスでナタデココを初体験したのよ。」
私は、ヨーグルトに混ざっていた不思議な食感のナタデココにときめいた自分を愛おしく思い返した。

「ナタデココかぁ…懐かし。最近、食べてないよね?」
奈津子は目を細め、同じく学生時代の自分を思い返しているようだった。

 「で、綾子と二人でその後、どうしたのよ?」
奈津子は少し意地悪なからかいの笑顔を私に向けた。
 知ってるくせに…

 私は、少し不機嫌を混ぜた渋い苦笑を奈津子に返す。

 「どお…って。綾子におごられてパフェを食べながら、旦那の悪口を言ったのよ。
 綾子はとても優しくて、私の不満を静かに聞いて同意してくれたわ。

 お父さんも…と、言うか、婿養子の旦那に気を使って、家族はみんな旦那のかたを持つから、私はいつも不満がたまっていたのね。
 綾子と話していて、それに気がついたわ。

 で、盛り上がってきた時に、綾子が言ったのよ。
 『これから気分転換に海に行こう!』って。」
私は、ばつが悪くて投げるようにそう言った。

 結末を知らなかったその時は、盛り上がる気持ちにそれくらい大丈夫だと考えていた。

 結婚した私は、殆ど友人と大人の遊びをしないで暮らしていた。
 90年代のヒット曲をつれて、蔵王とか苗場のスキー場にも行けなかったし、
 海にバーベキューとかもしにいかなかった。

 代わりに家事手伝いと言う気楽な身分と、料理教室に行ったりと、主婦の贅沢はさせてもらったので、文句を言える立場でも無いのだけれど、でも、
 そうは頭で分かっていても、未婚の友達の土産を貰って話を聞くたびに、自分だけが仲間はずれになったような、寂しい気持ちも知らないうちに膨らんでいたのだと思う。

 それでも、一度は躊躇はした。

 うん、確かに、私は綾子に行かないといってみたと思う。

 でも、家にも帰りたくないとも考えていた。

 あんな偉そうな言い方をするオジンとなんで結婚なんてしたんだろう?と、なんだか泣きたい気持ちになっていた。

 今、思い返せば、旦那も結構、無理をしていたのだと思う。
 妻の両親と弟と妹と同居なんて、大切にされていたって気を使うに違いない。
 結婚して、夫婦二人っきりで家にいる。
 そんな特別なシュチエーションに、旦那だって私に甘えたくなったのだと、今なら理解はできる。

 が、当時は、旦那は大人で、私が彼に甘えるものだと思っていたのだと思う。

 そして、一番の運の悪かった事は、その年が1999年の7月だったと言うことだ。

 人類が長い歴史のなかで二回しか経験したことの無い、ミレニアムの世紀末のだったのだ。

 綾子の殺し文句はこうだった。

 「湘南に行くこともなく20世紀を終わらせるつもり?」


  (///∇///)はぁぁぁっ。


 ああ、恥ずかしい。

 でも、この年、世紀末に踊らされたのは私だけではない。
 噂では、人類滅亡するかもしれないからと全財産を使った人や、
 結婚する人も増えたんだそうだ。
 大晦日の危篤者の死亡率まで減ったのだそうだから(みんな、21世紀を見届けようと気力を振り絞ったらしい)、やはり、世紀末と言うものは、魔力があるのだと思う。

 私は、旦那と一晩、離れて考えたいと言う気持ちと、
 友人がしているような、徹夜のドライブをしてみたいと言う気持ちもあった。
 旦那は、仕事でいろんな所へ行けるので、休みの時は家でゆっくりしたがった。
 だから、私は、なんだか不満だったのかもしれない。

 まあ、今さら原因を考えてみても仕方がない。

 私は、若くて、向こう見ずの世間知らずで、
 世の中は世紀末で、

 そして、綾子と二人で海から昇る朝日を見たいと考えたのだ。

 湘南の海岸で流行りの曲を聞いて、昇る朝日を見ながら、夜明けの缶コーヒーを二人で飲む。

 それは、中学時代、私たちがまだ、『夜明けのコーヒー』の本当の意味を知らなかったときに思い描いた光景だった。

 いつか、大人になって好きな男性と初めての朝を迎えたときに二人でコーヒーを飲む。

 それが、夜中のドライブで信州から湘南に向かって朝日をみて、缶コーヒーを飲む事でないと知った世紀末の夏だとしても、

 その時は、二度と戻れない少女時代と20世紀がダブって眩しく感じたのだった。
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