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第五章 冒険者編

54 冒険者組合にやってきました

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 翌日。
 僕は、シフォンとカレンを連れて冒険者組合に足を運んでいた。
 本当はカレンは留守番の予定だったのだが、昨日の帰り道にどうしても連れて行って欲しいと懇願されたので仕方なく同行させることにした。
 とはいえ僕が許可しても冒険者組合のトップであるレッドさんが容認しない限りカレンは冒険者になれないんだけどね。
 その時は諦めてもらうしかない。

「はあ……」
 冒険者組合までの道のりは思いのほか長い。
 いつにも増して人通りが少ない駐屯エリアを三人で歩きながら僕は溜息をつく。
 昨日の魔女の屋敷ほど遠いわけではないのに、どうしてこうも長く感じるのだろう、と。
 いや、原因はわかっているのだ。
 空気だ。
 空気がともかく重い。雰囲気が悪いのだ。
 そのせいでやけに時間が長く感じる。
 二人がいるからだろう。
 シフォンとカレン。
 まさに水と油のような関係の二人が一緒にいるからこんなにも空気が重いのだ。
 二人はどう言うわけか初対面の時から仲がすこぶる悪い。
 親の仇かってくらい仲が悪いのだ。
 どんな風に仲が悪いのかというと、とにかく二人が目を合わせれば口喧嘩だ。どちらからともなく片方が挑発し、もう片方が喧嘩を買う。
 そんなことがここ最近ずっと続いている。
 僕の悩みの種だ。

 カレンが挑発するのはまだ分かる。
 カレンは12歳だし、親を早くに亡くした境遇もあって何でも一人でこなそうとするきらいがある。そのため他者が自分のテリトリーに侵入してくるのを尽く嫌う。だから相手を跳ね除けようとして強く出たり挑発したりするのだ。
 カレンの性格はすぐに治るものではない。
 今はまだ仕方がないと割り切れる。

 しかしシフォンは違う。
 シフォンは15歳。カレンの先輩だ。
 年上だったら年下の挑発くらいで腹を立てないのでは、と思うのだ。
 多少の粗相は見逃すべきだ。
 それが年長者というものなんじゃないかな。

 __っていう話を何度もしているのだがシフォンは黙ってしまう。

「どうしてもカレンのこと好きになれない?」

 道中カレンがお花摘みに行っている間に、僕は説得を試みていた。

「好き嫌いの話ではないです。ボクは単にあいつが気に食わないです」

 それは嫌いってことなんじゃ……。

「あいつの目は、自分だけが不幸だっていう目をしてるんです。親が死んだからなんです? ボクの両親だって死んでます、です。師匠だって家族に捨てられて辛い思いをしてるです。妹様のことも。それなのにあいつは……許せないです」

 なるほどなあ。
 ようやくシフォンの気持ちが知れた。

「気持ちもわからなくもないけどさ。カレンはまだ子供なんだよ。僕たち以上に世界を知らなすぎるんだ。だからシフォンが許せないことを優しく教えてあげるのが僕たちの役目なんじゃないかな」
 するとシフォンは不適な笑みを浮かべた。
「……だからこうして精神的にも肉体的にも優しく教えてあげてるんです」
「う、うん」

 こ、こわっ!
 僕は思わずそっとシフォンから距離を取るのだった。

「あれが冒険者組合よ!」
 それから何事もなく僕たちは冒険者組合の庁舎前にやって来た。
 やはりというか何というか道中は重く暗い雰囲気のままだった。
 ようやく解放されるとなって僕はほっと安堵の息を吐く。
 そして改めて冒険者組合の建物を眺めた。

「へえ」
 意外と大きい。この街が冒険者発祥の地ということだけあって組合庁舎は立派な建造物だ。
 横もそうだが縦も長い。五階くらいありそうだ。

「本当にこの建物です? ボクは信じられませんです」
 僕と同様に組合庁舎の大きさに圧倒されていたシフォンが疑問の声を上げた。

「なによ。わたしの案内が間違ってると言いたいわけ?」
 それを耳ざとく拾うカレン。
「間違っていないという証拠がないです」
 挑発するシフォン。
「はあ?」
「なんです?」
 いつもの流れが始まったことに僕は辟易としながら、
「二人ともそのへんで。まずは受付に行こうか」
 そう呼びかけた。
 すると二人は大人しく着いてくるのだから、根はいい子たちなのだ。

「ようこそ、冒険者組合へ。今日はどうなされました?」

 庁舎に入ると、正面の受付にいた女の人にニコニコと話しかけられる。
 厳つい人が出てくると思いきや、随分と愛想の良さそうな女性が現れたことに少し驚く。
 
 世間における冒険者の印象はあまり良くない。
 冒険者が誰でもなれる仕事だからだ。せっかく神様から職業を授かっているのにそれを活かす仕事ではなく、職業に左右されない冒険者を選ぶことが多くの人は理解できないし許せないのだ。
 神に逆らった裏切り者。
 それが冒険者が野蛮人と言われる所以だ。
 でも実際は違う。
 冒険者という仕組みは、不遇職の人や僕のような無職を救済するために作られた崇高なものなのだ。
 僕はそれを設立者のレッドさんから教えてもらった。
 レッドさんには、冒険者組合ひいては冒険者の地位を高めるという大きな目標がある。
 そのための工夫の一つが風通しの良い空間を提供することなのだろう。
 確かに厳つい人が受付をしていたら怖くて近づけないもんね。

「あの組合長のレッドさんと会う約束をしていまして」
「!」
 途端に受付嬢の様子が一変した。本気モードに切り替わったというか。

「失礼ですがお客様のお名前を伺ってもよろしいですか」

 口調と所作が丁寧になりつつもどこか剣幕を感じられる受付嬢に、僕は恐る恐る答える。

「あ、アレクです」
「アレク様ですね。只今確認を取ってまいりますので、少々お待ちくださいませ」

 深々とお辞儀すると受付嬢は走らないギリギリの速さで立ち去った。

「あの人驚いてたわね」
「やっぱレッドさんって凄いんだなあ」
「師匠の方がもっと凄いです」

 カレンとシフォンの間に挟まれながら僕たちは椅子に座って待つことに。
 そんな時。

「おいおい、この忙しい時にガキを連れてきた大馬鹿者はどこのどいつだあ!?」
 
 二階へ続く階段から赤髪の男が下りてくる。
 髪をガリガリと掻きむしって、見るからに不機嫌そうだ。
 格好から推測するに冒険者だろう。
 武器が見当たらないから武器を使わないタイプなのだろうか。
 籠手を嵌めているようにも見える。
 拳闘士か。
 
 そんな風に遠目から観察していると、くいくいと横から袖を引かれた。

「ああいうのは関わらない方がいいわよ。無視よ無視」
「うん、そうだね」
 カレンの提案に乗って僕たちは後ろを向いて見て見ぬふりをする。
 喧嘩をふっかけられても迷惑でしかないからね。
 
 すると。

 ___ガッ!

 突然後ろから肩を掴まれた。
 なんだよ。痛いな。

「お前に言ってんだよ。女に囲まれていい気になってるんじゃないぞ? ここはガキの来るところじゃ……あ」
 目があった。
 その顔は見覚えのある顔だった。
 赤髪で目つきが鋭くて、以前にママさんの店で喧嘩を売ってきた……。

「ルド……さんでしたっけ?」
「あ、ああああああああああああああ」

 面白いようにルドの顔がみるみる青くなる。
 どうやら僕のことを覚えてくれていたらしい。

「あ、あん時のやつうううううううううううううう!?」

 冒険者ルド。
 僕が喧嘩で圧勝したその人だった。
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