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第四章 聖女編

47 魔女に会いに行きます

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 翌日の昼下がり。

 僕はアリスをおぶり、ソフィアに言った魔法の専門家がいる場所を目指して歩いていた。
 通行人とすれ違うたびに視線が背中に向けられる。みんなギョッとしたような顔をするからちょっと面白い。
 
「おんぶしてる人が珍しいのかな?」
「そんなわけないでしょ。アレクの妹の顔を見れば誰でもそうなるわよ……」

 道案内として同行してもらっているカレンが呆れたように言った。
 今回、シフォンはお留守番だ。昨日の疲れが抜けきれていないらしい。カレンと同じ空気を吸うだけで具合が悪くなるとか言っていたな。
 それを耳聡く聞いたカレンと一悶着あったのだが割愛しよう。
 僕もいつもの光景だと割り切ることにした。
 
 そして昨日思わぬ再会をしたソフィアだが、彼女もアリスが心配で来たそうにしていた。しかし仕事があるからと断念していた。
 ソフィアは、小人族のお爺さんの宿で住み込みで働いているらしい。あの宿はソフィアの大切な収入源であるとともに住居なのだそうだ。

 『私はあなたと違い、メイドという職業を持つので重宝されているのです。ふふん』
 なんて、宿を出発する前に嫌味を言われた。

 それすらもソフィアの顛末を知ってしまった僕には強がっているように感じられて可哀想に思えた。
 絶対に彼女を王都に送り届けようと誓うのだった。

 それと一つ謎が解けたことがある。お爺さんの宿に最初入ったとき、カレンが店内のあまりの綺麗さに驚いてたことがあった。
 あれはソフィアの仕業だったのだ。メイドには掃除スキルがある。その力を使ったのなら納得の手際だ。
 そしてここでもまた一悶着があった。
 どうやらカレンは、ソフィアの職業を知らなかったようなのだ。だから僕と同じ厨房で働かせていたようで、メイドならどうしてもっと早く教えてくれなかったのか、と怒っていた。
 ソフィアとしても街に来た当初は余裕がなく、伝えるのを忘れていたらしい。ちなみに相変わらずカレンに対してはビクビクしていた。
 本当に二人の間には何があったのだろう。謎は深まるばかりだ。
 
「まさかアレクが魔女さまの知り合いだったとはね」
「そこまで凄い人だと知らなかったんだよ」
 
 魔女さま、というのはフリーユの街で有名なとある魔術師のことだ。様々な魔道具を発明し、この街に貢献している凄い方らしい。フリーユの街に入るときに使われる鑑定の魔道具を作ったのもその人だ。
 僕が専門家に覚えがあると言ったのは、その魔術師のことを知っていたからだ。てっきり簡単に会える人だと思ったらそうでもないらしい。
 今朝、その人宛に手紙を出したとき、カレンに言われて戦々恐々としていたけれど、あっさりと了承の返事をもらえたのだ。
 ちなみに手紙来るのめちゃくちゃ早かった。
 僕としても、早くアリスを診てもらえるのならそれに越したことはない。
 ということで、早速お邪魔させてもらうことになったのだ。
 
「魔女さまは、滅多に人前に出ないのよ。街でも直接顔を見たことがない人の方が多いくらい。魔道具店はいつも閉まってるし」
「へ、へえ」

 どうしよう。緊張してきた。
 
「いつ知り合ったのよ。どんな裏技を使ったわけ?」

 カレンは不思議でならないらしく、質問攻めにしてくる。

「本人というより、僕が知っているのは旦那さんの方なんだよ」
「だれ?」
「商人だよ。この街に入るときに仲良くなってさ。奥さんが魔道具を作っている魔術師だと教えてもらったんだ」

 教えてもらった、というより半分身内の自慢話だったけど。
 でも商人のおじさんのおかげで、魔女に話が通ったのだから感謝しなければならない。
 それと、カレンにも感謝しないと。

「カレンが居場所を知ってくれていて助かったよ」
「ふ、ふん。魔女さまの魔道具店なら街の誰でも知ってるわ。その辺の子供でもよ」

 カレンも子供だと思うのだが言わぬが花だ。
 照れ隠しなのだから。
  
「そういやママさんとはどんな感じ?」

 カレンは絶賛ママさんと喧嘩中である。
 ママさんは、カレンの育ての親だ。カレンの本当の両親はとっくの昔に亡くなっていて、女手一つでカレンを育ててきた。
 ママさんはとても優しく愛に溢れた人だった。カレンのことを第一に考えており、カレンを大切に思っていた。半分冗談で、カレンを僕の婚約者にしてくれとお願いしてくるくらいだ。カレンの将来も心配していた。
 僕がアリスを愛しているように、ママさんもカレンのことを愛していた。話した時間は短いけれどそれが顕著に感じられた。
 だから二人が離れ離れになっている今の状況は良くない、と思う。
 カレンにとっても、ママさんにとっても。
 僕としては、早く二人に仲直りしてほしいのだ。
 
 「どうもこうもないわよ……」

 嫌なことを思い出した、そんな顔だった。
 仲直りまでの道のりは遠いようだ。
 
 遠い、といえば魔女がいるという家も遠い。
 かれこれ街中を1時間は歩いているんじゃないか。
 僕たちは宿のある宿泊エリアから市場エリアに移動し、そこからも外れた暗くじめじめした細い道を歩いていた。
 人がやっと一人通れるような道だ。
 反対から人が来たらどうしようって感じ。
 
「本当にこんなところにあるの?」

 カレンを疑っているわけでないが、こんなところにお店があるとも思えない。それに有名な人なら普通大通りのような人が多い場所に店を構えるものじゃないのか。
 
「魔女さまの意向なのよ。魔術師たるもの表には出ず影でひっそりと生きるのがセオリーっていうね。そのために奥まったところに専用の区画を整備して、家を建てて、この道を作ったそうよ」
 
「なんて迷惑な人なんだ」
 つまり歩いているこの細道は、魔術師さまが望んで狭く作らせたってことだ。てか、セオリーってなに? そんなこだわり迷惑でしかないよ。
 
 「よく領主が許可したね」
 
 「領主さまも、魔女さまには頭が上がらないのよ。鑑定魔道具の発明で街の治安は見違えるほど良くなったそうよ。他の魔道具もそうだけど、魔女さまの発明品は街の発展に欠かせないものとなっているの。魔女さまにはそれだけの価値があるのよ」
 
「価値、かあ」
 価値なしと判断され家を追い出された僕とは正反対だ。 
 前を歩くカレンが振り返る。

「だからいい? 絶対に変なこと言わないでよね。わたしも魔女さまに会うのは初めてなの。嫌な印象を持たれたくないわ」
 
「たとえば?」
 
「そうね」
 カレンは少し恥ずかしそうに、
「……わたしがアレクの婚約者である、とか?」
 なぜそうなる。
 お披露目の場じゃないんだからさ。
 
「何度も言うけど、カレンは婚約者じゃないからね」
  
「今は、でしょ!」
 
「どうなんだろうね」
 僕は適当に流した。
 それどころじゃなかった。
 細道を抜け開けた場所に出たと思ったら、視界にデン!と立派な屋敷が現れたのだ。
 あれが魔女の住居兼お店らしい。
 
 いや、デカすぎない?
 
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