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第四章 聖女編
42 僕は犯罪者だったようです
しおりを挟むソフィアの話が始まってから小一時間。
話は、追いかけてくる騎士アーノルドから逃れ、森に入った時に遡っていた。
「___私の視界に突如、何かが現れました。あれが何だったのか今となってもわかりません。動物だったのか、人だったのか。ともかく私は驚きのあまり気を失ってしまったのです。そして目が覚めたら、この街にいました。どうやら私はアーノルドに捕まり奴隷として売られそうだったようです」
衛兵に教えてもらいました、とソフィアは言う。
「そうなんだ。大変だったね」
長話で聞くのが疲れてきた僕は、適当に相槌を打つ。
いつ終わるんだろう。
ちなみに話を聞いているのは僕だけだ。
宿屋のお爺さんは早々に退散してしまった。
夕飯の仕込みがあるとかなんとか、理由をつけていたけれど単純に聞くのが億劫になったのだと思う。
ずるい。
ソフィアの話はまだまだ続く。
「大変かといえばそうなのでしょうが、気を失っていた間の出来事なのでそれほど実感はないのです。でも、これだけは分かります。とある方が救ってくださらなければ、私は、こうして普通に生きていられなかった……」
「とある方?」
「顔は知りません。私は気を失っていたので。……でも、とても強いお方だったと聞いています。街に侵入しようとするアーノルドと二人の盗賊を無傷で倒してしまわれたようです。おかげで、馬車に囚われていた私は奴隷にならずに済みました」
「良かったね」
「はい。私の王子様……ではなく、その方にお礼を言いたくて、ずっと探しているのですが見つからないのです」
悲しそうに目を伏せるソフィア。彼女なりに真剣に探していたのだろう。
「見つかるといいね」
僕は思ってもないことを言った。
「色々と情報はあるのです。黒髪の青年で、獣人の少女と病弱な妹を連れており、妹の方は金髪でこの世のものとは思えないほど綺麗な顔立ちをしていたとか。そこまで特徴があるのならすぐに見つかると思ったのですけどね……人探しというのは難しいものです」
「う、うん」
そこまで知られていたのか。
ソフィアの情報収集能力を侮っていた。
でも、そこまで知りながら目の前に本人がいることに気付かないのも凄いな。
いや、無理もないのかな?
ソフィアは僕が無職だと知っている。
常識的に考えて、無職が騎士に勝てるはずがない。
彼女の頭の中では、初めから僕という選択肢は除外されているのだろう。
「先は長いかもね」
「でも、私は絶対に見つけますので」
決心は固いようだ。何が彼女をそうさせているのだろう。
それにしてもまさかあの場にソフィアがいたとは驚きだ。
あれはフリーユの街に入る直前のことだったか。
検問所で、鑑定を拒んでいた三人の騎士がいたのだ。フリーユの街では街に入る際に、職業鑑定の義務がある。犯罪者を入れないための仕組みだ。
しかし彼らは何かと理由をつけて拒んでいた。
呆れたことに、鑑定を受けないくせに街に入れろと言うのだ。
僕も含めて、周囲の人が疑心を抱き、不満を募らせるのは当然だった。
そんな時。一人の騎士が、いつまで経っても街に入れない門兵を手にかけようとしたのだ。
僕は腹がたった。だってそうだ。上級職の騎士だから何をしても許されるわけではない。人を殺めていい理由にはならない。
だから、止めた。彼らの横暴を実力で抑えた。
騎士を倒すことに成功すると、周りの人に感謝されたり、英雄なんて呼ばれて恥ずかしい思いをしたり……そんな出来事があったのだ。
今のソフィアの話と照らし合わせると、あの時、騎士が乗ってきた馬車には気を失ったソフィアがいたのだ。 奴隷として売られるために。
だけど僕が騎士たちを倒したから、ソフィアは売られずに助かった、と。
そういうことらしい。
ただ本人には悪いけどソフィアが助かったのは偶然でしかない。
僕にはソフィアを救うつもりなど毛頭なかった。
というより、今の話聞くまでソフィアがそんな目に遭っていたのを知らなかったのだ。
だから今更「あの時助けてもらったんです」とか言われても実感わかないし、「あ、そうなんだ」って感じだ。
そういうわけで、僕から彼女に真実を告げることはないだろう。
「……ああ、どういうお方なのでしょう。騎士に勝ってしまわれるということは間違いなく上級職以上でしょう。無傷で勝利したということは最上級職? いえ、もしかすると、その上の伝説級もあり得るのでしょうか! ああ! 早くお会いしたいです!」
変な妄想をして恍惚とした表情を浮かべるソフィアを見ながら、僕は内心思う。
実際は無職です。
「ソフィアは、その人に会ったらどうしたいの?」
何気なく聞いてみた。
ソフィアの口ぶり的に、感謝したいだけではない気がするのだ。
別に返答次第では打ち明けようとかは考えていない。
ただの興味本位だ。
「もちろんデート……って、なんでもないです。というか、いきなりなんですか? 無職の犯罪者のくせに私に気安く話しかけないでくれますか? 調子に乗ってるんじゃないですか?」
急に辛辣だ。
彼女が妄想に耽っているのを邪魔したのがいけなかったらしい。
ずっと長話聞いてあげたのにこの仕打ちだ。
ひどい。
……ん?
「犯罪者?」
「ご自身が一番わかっているんじゃありませんか?」
「え? 何を?」
「しらを切っても無意味ですよ? 証拠は十分にあるのですから」
余計、さっぱりわからない。
ソフィアは何の話をしているのだろう。
「あなたがキレイル家を破門された日、同時刻、アリス様が行方不明になりました。警備の者の話によれば、あなたらしき人物がアリス様と王都を旅立ったことが確認されています。もう、分かりますよね?」
「だからなにを?」
なおも分からず尋ねる僕に、ソフィアは呆れたようにため息をつく。
「ここまで言ってもわからないのですか? アルファード様ではありませんが、無職になって脳みそまで空っぽになったのではありませんか?」
それは屋敷を去る直前父上に言われた言葉だ。
改めて言われても腹立つ言葉だ。
「……本気でわからないんだよ。さっさと教えてくれ」
するとソフィアは、想像もしてなかった事を口にした。
「あなたが、アリス様を誘拐したってことですよ」
してないが?
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