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第三章 フリーユの街編
22 なんとか勝ちました
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厨房で働くことになった僕だったが、カレンという少女と勝負することになった。
「勝負内容は、ジャガイモの皮剥き。どちらが速く、ジャガイモの皮剥きを終わらせられるか勝負よ!」
厨房台に積み上げられたジャガイモの山。
半数ずつ僕とカレンの前に置かれている。
カレンの提案は、もともと皮剥きをするよう頼まれていた僕としては願ってもない内容だった。というか、カレンは勝負をしつつ作業を終わらせようとしているのかもしれない。
店は相変わらずの盛況っぷり。仕事そっちのけで料理勝負などしても店の迷惑になるだけだ。
その辺を考慮しての勝負内容ということらしい。
僕に勝負を吹っかけてきたのも、僕がいることは店の不利益になるという理由だったし、カレンはこの宿屋に並々ならぬ思いがあるのだろう。
「一個練習してもいい?」
「かまわないわ」
僕は山積みにされたジャガイモの中から一つ手に取り、ナイフを滑らすようにして試しに皮剥きをしてみる。
ーーうん。いい感じだ。
時間にして1秒ってとこか。
練習だしこんなものだろう。
ママさんから渡された包丁の切れ味は申し分ない。
シフォンのおかげで料理スキルLv25まで上昇した僕にとって、皮剥きくらい朝飯前だ。
スキルを使わずとも体に染み付いた動きでこなせる。
「よし。始めようか」
「ふ、ふーん。まあまあってとこね」
カレンは若干引き攣った笑みで言った。
上から目線は変わりなかったけど。
料理屋の子供だけあって皮剥きには絶対的な自信があるようだ。
「(アレクってもしかしてデキる人……今からでもママに謝ろうかな……いやいやいや! 勝てばいいだけ!
勝てば!)」
「始めないの?」
カレンがナイフを持ったまま勝負を始めないので聞くと、不機嫌そうな顔を向けてくる。
「今始めようと思ってたの! 少しできるからって調子に乗らないで」
「ごめんごめん」
おそらく精神統一でもしていたのだろう。
カレンには料理を始める前に行うルーティン的なものがあるのかもしれない。
邪魔してしまったことを謝りつつ、僕は戦慄していた。
カレンが、練習一回見ただけで僕の実力を正確に見抜いたからだ。
確かに料理スキルをもつ僕は、普通の人より料理はできるだろう。
上手く作れる自信もある。
だが、今も忙しなく料理をしているママさんやエルフさん達プロの料理人と比べると、僕の料理の腕は「少しできる」程度に収まってしまうのだ。
おそらく彼女達のスキルレベルは僕の二倍以上あるだろう。
60とかその辺ではないだろうか。
つまりカレンは、その事実を一瞬で見抜いたのだ。
僕の実力がプロの料理人と比べて「少しできる」程度なのだ、と。
子供だと侮っていたが、この子は恐ろしい力を秘めているかもしれない。
「いくわよ」
「あ、うん」
気持ちを切り替えよう。
例え自分の実力が見抜かれても、相手の実力が未知数でも、カレンは子供には変わりないんだ。
子供と15歳を迎えた僕には圧倒的な差が存在する。
そう。
スキルだ。
カレンは、職業を授かる年齢に達していないのだから、当然スキルもない。
このアドバンテージは大きい。
僕は、もしもの時はスキルを使うことができるのだから。
子供相手に卑怯と思うことなかれ。
成人している人なら一つや二つスキルを持っているのは当たり前。
僕は少し特殊だとしても、カレンだってその辺はわかっていて勝負を挑んだはずだ。
スキルを使われても文句は言えないはずである。
「___レディー・ゴー!」
カレンの掛け声が合図となってジャガイモの皮剥き勝負が始まった。
僕は手当たり次第にジャガイモを取って皮を剥いていく。
戦略は特にない。
結局多く皮を剥いたほうが勝つのだから、ごちゃごちゃ考えるより手を動かしたほうが早い。
ーーシュシュシュッ
5個、10個、20個と剥いていく。
この調子で行けば3分もかからず僕の分は終わりそうだ。
さて、カレンの方はどうだろう?
「……!?」
ちらりと横を見ると、カレンの残りのジャガイモは僕の半分ほどだった。
なんてことだ。想像以上にカレンの皮剥きは速かった。
スキルを使っていないとはいえ、スキルを使い続けたからこそ体に染み付いた動きで皮を剥いている僕より、スキルを持たないカレンの実力は何段階も上をいく。
あの手の動き。無駄が一切無いし、とにかく速い!
スキルを持たずしてあんなこと可能なのか。
恐ろしい子だ。
ほんと、カレンには驚かされてばかりだ。
「ふふん」
カレンと目が合うと、相変わらずの不敵な笑みを浮かべていた。
「別に大したことなかったわね!」
完全に勝ちだと確信しているようだ。
「ーーまだだ」
僕は言う。
こうなった以上、奥の手を使うしかないだろう。
_________
料理スキル 発動
_________
瞬間。
僕の腕は料理人の腕へと変貌する。
空中に残り全てのジャガイモを放り投げる。
「何してんの? 諦めちゃった?」
カレンが小馬鹿にしたような声をあげる。
気にせず僕は空中を凝視する。
ここだ!
空中で包丁を振るう。
ーーシュパッ!
すると残り全てのジャガイモが、裸となって皿の上に積み上がった。
一丁上がりだ。
やはりスキルは偉大だなぁ。
「終わったよ」
改めてスキルの便利さを実感しつつカレンに報告する。
「嘘でわたしを動揺させようたって、そうはいかな………へ?」
残り10個の皮剥きに取り掛かろうとしていたカレンの手が静止した。
綺麗に剥かれたジャガイモの山を見たカレンの顔がみるみる青ざめていく。
「う、嘘……?」
「嘘じゃないよ」
「う……嘘よぉぉおおおおおおおおおおお!?」
暫くカレンの発狂は止まなかったのだった。
だから嘘じゃないって。
「勝負内容は、ジャガイモの皮剥き。どちらが速く、ジャガイモの皮剥きを終わらせられるか勝負よ!」
厨房台に積み上げられたジャガイモの山。
半数ずつ僕とカレンの前に置かれている。
カレンの提案は、もともと皮剥きをするよう頼まれていた僕としては願ってもない内容だった。というか、カレンは勝負をしつつ作業を終わらせようとしているのかもしれない。
店は相変わらずの盛況っぷり。仕事そっちのけで料理勝負などしても店の迷惑になるだけだ。
その辺を考慮しての勝負内容ということらしい。
僕に勝負を吹っかけてきたのも、僕がいることは店の不利益になるという理由だったし、カレンはこの宿屋に並々ならぬ思いがあるのだろう。
「一個練習してもいい?」
「かまわないわ」
僕は山積みにされたジャガイモの中から一つ手に取り、ナイフを滑らすようにして試しに皮剥きをしてみる。
ーーうん。いい感じだ。
時間にして1秒ってとこか。
練習だしこんなものだろう。
ママさんから渡された包丁の切れ味は申し分ない。
シフォンのおかげで料理スキルLv25まで上昇した僕にとって、皮剥きくらい朝飯前だ。
スキルを使わずとも体に染み付いた動きでこなせる。
「よし。始めようか」
「ふ、ふーん。まあまあってとこね」
カレンは若干引き攣った笑みで言った。
上から目線は変わりなかったけど。
料理屋の子供だけあって皮剥きには絶対的な自信があるようだ。
「(アレクってもしかしてデキる人……今からでもママに謝ろうかな……いやいやいや! 勝てばいいだけ!
勝てば!)」
「始めないの?」
カレンがナイフを持ったまま勝負を始めないので聞くと、不機嫌そうな顔を向けてくる。
「今始めようと思ってたの! 少しできるからって調子に乗らないで」
「ごめんごめん」
おそらく精神統一でもしていたのだろう。
カレンには料理を始める前に行うルーティン的なものがあるのかもしれない。
邪魔してしまったことを謝りつつ、僕は戦慄していた。
カレンが、練習一回見ただけで僕の実力を正確に見抜いたからだ。
確かに料理スキルをもつ僕は、普通の人より料理はできるだろう。
上手く作れる自信もある。
だが、今も忙しなく料理をしているママさんやエルフさん達プロの料理人と比べると、僕の料理の腕は「少しできる」程度に収まってしまうのだ。
おそらく彼女達のスキルレベルは僕の二倍以上あるだろう。
60とかその辺ではないだろうか。
つまりカレンは、その事実を一瞬で見抜いたのだ。
僕の実力がプロの料理人と比べて「少しできる」程度なのだ、と。
子供だと侮っていたが、この子は恐ろしい力を秘めているかもしれない。
「いくわよ」
「あ、うん」
気持ちを切り替えよう。
例え自分の実力が見抜かれても、相手の実力が未知数でも、カレンは子供には変わりないんだ。
子供と15歳を迎えた僕には圧倒的な差が存在する。
そう。
スキルだ。
カレンは、職業を授かる年齢に達していないのだから、当然スキルもない。
このアドバンテージは大きい。
僕は、もしもの時はスキルを使うことができるのだから。
子供相手に卑怯と思うことなかれ。
成人している人なら一つや二つスキルを持っているのは当たり前。
僕は少し特殊だとしても、カレンだってその辺はわかっていて勝負を挑んだはずだ。
スキルを使われても文句は言えないはずである。
「___レディー・ゴー!」
カレンの掛け声が合図となってジャガイモの皮剥き勝負が始まった。
僕は手当たり次第にジャガイモを取って皮を剥いていく。
戦略は特にない。
結局多く皮を剥いたほうが勝つのだから、ごちゃごちゃ考えるより手を動かしたほうが早い。
ーーシュシュシュッ
5個、10個、20個と剥いていく。
この調子で行けば3分もかからず僕の分は終わりそうだ。
さて、カレンの方はどうだろう?
「……!?」
ちらりと横を見ると、カレンの残りのジャガイモは僕の半分ほどだった。
なんてことだ。想像以上にカレンの皮剥きは速かった。
スキルを使っていないとはいえ、スキルを使い続けたからこそ体に染み付いた動きで皮を剥いている僕より、スキルを持たないカレンの実力は何段階も上をいく。
あの手の動き。無駄が一切無いし、とにかく速い!
スキルを持たずしてあんなこと可能なのか。
恐ろしい子だ。
ほんと、カレンには驚かされてばかりだ。
「ふふん」
カレンと目が合うと、相変わらずの不敵な笑みを浮かべていた。
「別に大したことなかったわね!」
完全に勝ちだと確信しているようだ。
「ーーまだだ」
僕は言う。
こうなった以上、奥の手を使うしかないだろう。
_________
料理スキル 発動
_________
瞬間。
僕の腕は料理人の腕へと変貌する。
空中に残り全てのジャガイモを放り投げる。
「何してんの? 諦めちゃった?」
カレンが小馬鹿にしたような声をあげる。
気にせず僕は空中を凝視する。
ここだ!
空中で包丁を振るう。
ーーシュパッ!
すると残り全てのジャガイモが、裸となって皿の上に積み上がった。
一丁上がりだ。
やはりスキルは偉大だなぁ。
「終わったよ」
改めてスキルの便利さを実感しつつカレンに報告する。
「嘘でわたしを動揺させようたって、そうはいかな………へ?」
残り10個の皮剥きに取り掛かろうとしていたカレンの手が静止した。
綺麗に剥かれたジャガイモの山を見たカレンの顔がみるみる青ざめていく。
「う、嘘……?」
「嘘じゃないよ」
「う……嘘よぉぉおおおおおおおおおおお!?」
暫くカレンの発狂は止まなかったのだった。
だから嘘じゃないって。
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