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第二章 覚醒編

8 大変なことになりました

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その夜。
僕は寝れずにいた。

木に寄りかかり目を瞑ってはいるものの、意識は覚醒している状態だ。
隣ではアリスが規則正しい寝息を立てている。
お兄さまのお隣だと緊張して眠れません、と言っていたのはなんだったんだろう……。

まあいいか。体力温存は大切だ。

僕はどこでも仮眠を取れるよう訓練を受けている。

なのに中々眠れない。

ずっと頭にひっかかっていることがあるのだ。

スキル。

スキルが発現したことが気がかりだった。

僕は現状三つのスキルを持っている。
ナイフI、投擲、料理。

無職であるはずがなぜかスキルを手にしている。

意味がわからない。

そして、もう一つ不可解なことがある。

この三つのスキル、共通性が全くないのだ。

ナイフスキルは、裏稼業のお箱といってもいいスキル。ナイフの扱いが上手くなるスキルだ。

投擲スキルは狩人たちが持つスキルだ。獲物を追い詰めたりするときに使う。

そして料理スキル。
これは当然、料理人専用と言ってもいい。料理人にとって基本中の基本のスキルだ。

暗殺者。狩人。料理人。

つまり大雑把に言えば、僕は実質暗殺者であり狩人であり料理人でもあるということになる。

すべの人間が平等に一つの職業を授かる、という原則から逸脱しているのだ。

このことに気づいてから僕は自分の存在が怖くなった。

無職にはなるし、しかしなぜかスキルは手に入る。

それもバラバラな職業のスキル。

あきらかに普通じゃない。

僕の存在はイレギュラーと見るべきだ。

しかし気がかりなこともある。

果たしてこれは僕だけなのか。

それとも僕が知らないだけで、複数の職業を持つ人がいるのだろうか。

(いや、考えても仕方がないか)

わからない事を考えても時間を浪費するだけだ。

まあ、旅を続けていればわかってくることもあるはずだ。

そう思い、僕は一旦思考を中断する。

なにはともあれスキルが手に入った。

このことを喜ぼう。

おかげでアリスを守るという約束は果たせそうだから。

スキルはないよりあった方が断然良いに決まっているしね。

(それにしても、スキルの取得って思っていたより簡単なんだなぁ)

そう。

僕はスキルが発現した時を思い出す。

ナイフスキルが発現したのは、ナイフで角兎を殺めたときだった。
投擲スキルは、ナイフを投げることで角兎を仕留めれたときだった。
料理スキルは、料理を完成させたときに発現した。

このことからわかることは、ある程度成果を出さないと発現しないという点。

逆に言えば、ある程度成果を出せば発現する。

と、いうことはだ。

ここから先、何か成果を上げるたびに他のスキルも発現するのではないだろうか。

ここまできてまさか三つだけとは考えにくい。

僕には無限にスキルを取得できる可能性がある。

(……こわいな)

恐怖はある。

自分が、自分ではなくなってしまう恐怖。

だが今回のは無職になったときのような、自分が無理やり外部によって変えられてしまう恐怖ではない。

自分が強くなり過ぎてしまうのではないかという恐怖だ。

強くなるのはいい。むしろ強くなりたい。

しかし想像できない力を持つことで、大切な人を傷つけてしまうのではないか。

そんな恐さを感じている。

ーーいや。

力があるのに、その力を使わないのは違うか。

強くなることでアリスを守ることができる。

これでいいじゃないか。

余計なことは考えず、アリスのことだけを考えればいいんだ。

変化を恐れるな。

変わることで見えてくる景色もあるはずだ。

「よし。決まった」

自分が進むべき道は決まった。

僕はもっともっと強くなる。

経験を積み、スキルを手に入れ、強くなるのだ。

どんな時でもアリスを守れるように。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
熟練度が一定に達しました。
スキル 恐怖耐性を取得しました
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
熟練度が一定に達しました。
スキル 瞑想を取得しました
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
優しい声音に誘われるように、僕はゆっくりと意識を手放していった。



「お兄さま、起きてください! 大変なんです!」
「……ん?」

翌朝。
僕はアリスの切羽詰まった声で目を覚ました。
昨日は夜遅くまで考え込んでいたため目覚めが悪いと思いきや、やけにスッキリしている。
体の疲れも全く感じない。

どういうことだろう、と考え込んでいると。

「お兄さま! おはようございます! 今日は一段と凛々しいですね!」
「うん、おはよう」
抱きついてこようとするアリスをとどめて、僕は聞く。
「それより何が大変なの?」

「……はっ!! そうでした! 大変なんですお兄さま! 荷物が、荷物がありません!」
「ええ!?」

アリスの話によるとこうだ。
今朝トイレをするために起きたアリスだったが、切り株の近くに置いておいた荷物がないことに気づいた。辺りを探してみたが見当たらず、途方に暮れたので僕を起こして指示を仰ごうとしたようだ。

「昨晩まではあったよね」
「はい! 着替えも取り出しましたし」

そうなんだよな。
僕も寝る直前まで荷物があったことは確認している。

つまり。

僕が寝てからアリスが起きるまでの数時間の間に何者かが持ち去った可能性がある。

「アリスが持ってきてくれたもの全てが消えた、か」
「お金もです……」

しょんぼりするアリス。
これは想像以上に痛手だ。
食料や水はなんとかできる。
しかし、着替えやお金といったものは街に行くまで手に入らないだろう。
節約すると決めたお金が消えてしまうのは残念だ。

「厄介だなぁ」

なにより僕が荷物を持ち出された事に気づけなかったことが驚きだ。

寝ていたといっても、多少の物音に気付けないほどやわな鍛え方はしていない。

ナイフを懐に忍ばせ、常に警戒は怠っていなかった。
森には魔物がいる。いつ襲われるかわからないからだ。

それでも気づけなかった。

誰かが忍び寄り、荷物を持ち、去る。

僕は、この一連の動作に全く気づかなかったのだ。

これは本当に厄介だ。

僕は本来荷物があった場所を見る。

そこには薄らと足跡らしきものがあった。

目を凝らさないと気づかないレベルだ。

そして、その足跡は森の奥深くまで続いているのだ。

十中八九荷物を奪った犯人のものだろう。

物音を一切立てず荷物を持ち出した犯人が、足跡を残すような間抜けなことをするはずがない。

僕を誘っているんだろうな。

荷物を返して欲しければ辿ってこい、と。

「厄介だな」

僕はもう一度呟いたのだった。
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