1 / 64
第一章 無職編
1 無職になりました
しおりを挟む「む、無職です」
屋敷の一室。向かいに座る神官が告げた。
「へ? 無職?」
思ってもいなかった言葉に僕ーーアレク=キレイルは、素っ頓狂な声を漏らした。
「え、ええ。スキル『鑑定眼」で確認したところ、アレク様の職業は空欄でした。つまり……無職ということになります」
「職業がない? それはどういうことですか」
意味がわからず僕は質問する。
「アレク様は、職業を授かれなかったのです」
神官はキッパリ断言する。
「なぜですか」
「このような事例は初めてで……。申し訳ございません、分かりません。ただ…」
「ただ?」
「今後新しく職業を授かることはないでしょう。アレク様は十五歳になられたわけですから」
「そんな……」
「あなたに神の祝福が在らんことを」最後にそう告げて、神官は逃げるように部屋を出て行った。
お決まりの言葉も、神の祝福を得られなかった今の僕には嫌味にしか聞こえなかった。
「ははは……」
静寂が訪れた部屋に乾いた笑い声が響く。
「無職ってなんだよっ……!」
ドンっ!
神官が座っていた椅子を蹴り飛ばすと、壁にぶつかり木っ端微塵に砕けた。
僕は確かに強くなった。
騎士になる準備はできていた。
でも、騎士にはなれなかった。
「今までの努力は無駄だったのか」
ベットに顔からダイブする。貴族にあるまじき振る舞いだ。
けれど、そばに使えるメイドも今日は咎めない。
もう何も考えられない。
考えたくなかった。
窓から見える空は、灰色に染まり始めていた。
。。。
今日は僕の十五歳の誕生日だ。
この世界の十五歳は特別な意味を持つ。
神から信託が降り、【職業】を授かるのだ。
例外はなく誰しもが平等に一つ享受する、一大イベントだ。
職業は人生だ。
一度降りた信託は覆ることはなく、その人は一生、十五歳に授かった職業で生きていかなければならない。
【木こり】なら木を切り倒す生涯を過ごし、【漁師】なら魚を獲り、【騎士】なら国に仕え、【魔術師】なら魔導を極める。
職業でその後の人生が決まると言っても過言ではない。
だから十五歳の誕生日は特別だし、みんな覚悟を持ってこの日を迎える。
我がキレイル家は代々王家に仕える『騎士』の家系だ。
父上は『騎士』の中でも最上級の【剣鬼】の職業を持つ。
母上も【剣鬼】と同等、もしくはそれ以上の【剣聖】。
祖父も祖母も【騎士】系統の職業だった。
もちろん中には、【騎士】の職業を手にできなかった者もいた。
その人たちは汚名だ。
家名を汚すだけの必要のない存在。
神に君主をお守りする力がないと判断された弱者。弱者は家名を失い家を追い出される。
二度と敷居を跨ぐことは許されない。
それが決まりだ。
心が弱い者は『騎士』にはなれない。故に愚兄は騎士に選ばれなかった。強者のみに【騎士】の信託は降りる。
ーー強くなれ
幼い頃から父上に教えられていた僕は、強くなるため努力した。
毎日血反吐を吐くまで走り、豆が潰れて血だらけになるまで剣を振り、両親の地獄の鍛錬を耐え続けた。
さらに政治学、軍事学、生物学、医学……とありとあらゆる学問を学び知識を身につけた。
全ては強い騎士になるため。
自分で言うのもあれだが、才能はあったのだろう。
僕はどんどん強くなり、同年代には敵なしだった。
ひとたび大会に参加すれば圧勝。僕の独壇場。
それでも驕ることなく、より強くなるために技を磨き、鍛錬を続けた。
そんな僕を両親は褒めてくれた。妹も応援してくれた。
屋敷のすべての人が称賛する。
将来は歴史に名を残す偉大な騎士になるだろうと、誰もが噂する。
その言葉があったから僕は頑張れたのだ。
それなのにーー。
「出ていけ。お前の居場所は我が家にはない」
メイドに連れられて執務室に行くと、見たこともないような鬼の形相の父上がいた。
母上は蔑む目で僕を見ている。妹のアリスはよっぽど顔を合わせたくないのか、ここにはいない。
従者含めて誰一人僕と目を合わせようとしない。
「聞こえなかったのか?」
「父上、僕にチャンスをください。僕は今までキレイル家のために努力を惜しみませんでした。騎士にはなれませんでしたが、兵士として、いえ、捨て駒としてでも一緒に居させてはもらえませんか」
「去れ」
果たして、僕の切実な願いは聞き届けられなかった。
「理由をお伺いしても?」
「言わぬと分からぬほどお前は馬鹿ではあるまい。それとも【無職】になって脳みそまで無くなったか?」
くすくすく、失笑が耳朶を打つ。
ーーああ
僕の居場所は完全に無くなったんだと否応でも理解する。
「はぁ…」
父上の心底失望したため息。
「あれほど金を注ぎ込み労力を割いたと言うのに、騎士どころか職業さえ授かれないとは。国王様にどう顔向けすればいいのか……。この汚名は、お前が消えようとも無くなることはないのだ。お前の存在がキレイル家を貶めたのだ!」
歯を食いしばる。
家のために頑張った。勉強して鍛錬して強くなった。
それなのに、使えないと分かった瞬間この仕打ちだ。
悔しい!
悔しいっ!
悔しいっ!!
職業がそんなに偉いのか!? そう問いたかった。
でも、本当はわかっている。
いくら努力したところで僕は、騎士に選ばれた人間には一生勝てない。
【騎士】スキルを使われれば、スキルを持たぬ僕なんて瞬殺だ。
この世界は職業がすべて。
選ばれなかった僕は必要のない存在。
「もう一度言う、去れ。我が剣の餌食になりたくないのならな」
父上が見せる本気の目に僕は怯み、使用人に引っ張られるまま手ぶらで屋敷を出た。
外は土砂降りだった。
雨具を忘れたことに今更ながら気づくが、屋敷に戻ることは許されない。
僕はもうキレイル家の人間ではないから。
雨粒が身体から熱を奪っていく。
みるみるうちに心が冷めていくのがわかった。
「これからどうしよう……」
門を出た僕は当てもなく歩き始めるのだった。
0
お気に入りに追加
112
あなたにおすすめの小説
異世界でDP稼いでたら女神って呼ばれちゃった
まったりー
ファンタジー
主人公はゲームが大好きな35歳の女性。
ある日会社から長期の休みをもらい、いつものようにゲームをやっていた。
そう、いつものように何も食べず眠らず、そして気付かないうちに力尽きた、彼女はそれを後で知ります。
気付いたらダンジョンマスターの部屋にいてダンジョンを作るように水晶に言われやることが無いので作り始めます夢だからっと。
最初は渋々やっていました、ガチャからはちっさいモンスターや幼女しか出ないしと、しかし彼女は基本ゲームが好きなので製作ゲームと思って没頭して作ってしまいます。
ゲームの《裏技》マスター、裏技をフル暗記したゲームの世界に転生したので裏技使って無双する
鬼来 菊
ファンタジー
飯島 小夜田(イイジマ サヨダ)は大人気VRMMORPGである、『インフィニア・ワールド』の発見されている裏技を全てフル暗記した唯一の人物である。
彼が発見した裏技は1000を優に超え、いつしか裏技(バグ)マスター、などと呼ばれていた。
ある日、飯島が目覚めるといつもなら暗い天井が視界に入るはずなのに、綺麗な青空が広がっていた。
周りを見ると、どうやら草原に寝っ転がっていたようで、髪とかを見てみると自分の使っていたアバターのものだった。
飯島は、VRを付けっぱなしで寝てしまったのだと思い、ログアウトをしようとするが……ログアウトボタンがあるはずの場所がポッカリと空いている。
まさか、バグった? と思った飯島は、急いでアイテムを使用して街に行こうとしたが、所持品が無いと出てくる。
即行ステータスなんかを見てみると、レベルが、1になっていた。
かつては裏技でレベル10000とかだったのに……と、うなだれていると、ある事に気付く。
毎日新しいプレイヤーが来るゲームなのに、人が、いないという事に。
そして飯島は瞬時に察した。
これ、『インフィニア・ワールド』の世界に転生したんじゃね?
と。
取り敢えず何か行動しなければと思い、辺りを見回すと近くに大きな石があるのに気付いた。
確かこれで出来る裏技あったなーと思ったその時、飯島に電流走る!
もしもこの世界がゲームの世界ならば、裏技も使えるんじゃね!?
そう思った飯島は即行その大きな岩に向かって走るのだった――。
※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています。
素材採取家の異世界旅行記
木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。
可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。
個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。
このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。
この度アルファポリスより書籍化致しました。
書籍化部分はレンタルしております。
転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!
小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。
しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。
チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。
研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。
ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。
新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。
しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。
もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。
実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。
結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。
すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。
主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
オペレーション✖️シールド〜周りのエロい声が凄すぎて僕の防御(理性)を貫通してきます。スキルの裏効果と派生で最強の盾使いを目指すッ!〜
トロ
ファンタジー
元聖騎士の子供として生まれたロイドは聖騎士になれなくても冒険者になりたいと小さい頃から憧れていた。
しかし、10歳になるとスキルが授けられる『開花の儀』でロイドは戦闘系のスキルが得られなかった。
一時は諦めかけるが、自分のスキルの使い方が判明し、父親譲りの才能が開花する。
「これなら僕だって冒険者になれるッ!」
と心の中で意気込みながら訓練を再開したロイドに待ち受けたのは──
『んんッ、あぁ…あんッ、うぅん♡』
──と、ひたすら実の母親や周りの可愛い幼馴染、美人達の『おっぱい』や『エロい声』に耐える日々だった。
どうしてこうなった!?
──と鋼の精神で日々奮闘しながら『守る』為に最強を目指していく。
※本作はエロ要素、シリアス、コメディ、ハーレム要素、ラブコメ要素のある『王道ファンタジー』です。
※頭を空っぽにして読む事をお勧めします。
※お気に入り登録待ってます!
ダンジョンマスターの領地経営・かわいい人間、亜人やモンスター集めてイチャイチャしたいと思います。もちろん女冒険者は俺のもの
たぬきねこ
ファンタジー
おっぱい大好きな普通?のおっさん主人公:宮代大和(37歳)は仕事帰りに突然異世界に召喚された。 ええっ? 召喚主は歴史上の人物、濃姫さま? どういうこと?
日本と違う異世界、剣と魔法の世界に召喚された俺は、濃姫様からダンジョンマスターになってダンジョン(領地)経営しろだって・・・んな無茶苦茶な。 ある山奥にて出会った巨乳美少女シルエラに一目惚れした主人公はそこで決意する。シルエラとエッチなことのできる新居(ダンジョン)を作ろうと。 異世界に現代風の街を作った主人公。その周りに集まる人間・亜人の美少女たち。 ハーレム・・・自分の欲望を守るため、領主として冒険者として日々邁進するダンジョンマスター。エロい主人公と運命のヒロインふたりを描くエロティックファンタジー!
【味覚創造】は万能です~神様から貰ったチートスキルで異世界一の料理人を目指します~
秋ぶどう
ファンタジー
書籍版(全3巻)発売中!
食べ歩きだけが趣味の男、日之本巡(ひのもとめぐる)。
幻の料理屋を目指す道中で命を落としてしまった彼は、異世界に転生する。
転生時に授かったスキルは、どんな味覚でも作り出せる【味覚創造】。
巡は【味覚創造】を使い、レストランを開くことにした。
美食の都と呼ばれる王都は食に厳しく、レストランやシェフの格付けが激しい世界だけれど、スキルがあれば怖くない。
食べ歩きで得た膨大な味の記憶を生かし、次から次へと絶品料理を生み出す巡。
その味は舌の肥えた王都の人間も唸らせるほどで――!?
これは、食事を愛し食の神に気に入られた男が、異世界に“味覚革命”を起こす物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる