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誕生日1

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 今日は私の誕生日。アルストリア伯爵家の次女として、誕生日パーティーが開かれるのは毎年のことだが、今年は特別だった。婚約者であるヴィンセント様が出席してくださる。それだけでなく、婚約が公表されてから初めての正式な社交の場――つまり、私が「婚約者」としての振る舞いを示す大事な日だった。

「今日は絶対に成功させなきゃ……」

 鏡の前でつぶやきながら、ドレスを思い浮かべる。今回は私が特別に注文したドレスが用意されているはずだった。淡いピンク色のシルク生地に繊細な刺繍が施され、胸元には控えめながらも美しい装飾が輝く――そんなイメージのドレスだ。

 私の好きな色であるピンクは、少し勇気が必要だったけれど、婚約者としての立場にふさわしい華やかさを見せたくて選んだ。

「ヴィンセント様、きっと喜んでくれるわ。」

 自然と頬が緩む。そのドレスを纏った自分の姿を想像し、胸の高鳴りを感じていた。今日だけは主役。今日だけは姉を気にせず、自信を持って、彼の隣に立てるはずだと――そう信じていた。


 準備の時間が近づき、私の部屋にドレスが運ばれてきた。けれど、その瞬間、胸に違和感が広がる。

「これ……?」

 運ばれてきたドレスは、私が注文したものとは全く違うものだった。色は薄い灰色に近いベージュ。飾り気もなく、質素で、どこか侘しい印象を与えるものだった。

「どうして?」

 私はドレスを見つめながら呆然と立ち尽くした。注文したドレスがどうしてこんなに地味なものに変わっているのか、理由がわからなかった。

 すぐに変更を訴えようと思ったが、準備の時間は迫っていた。侍女たちも忙しそうに動き回り、「これがエリーナ様に最もお似合いだと思います」と断言する。

「……そう、これでいいわ。」

 私はそれ以上言うことができなかった。誰かが意図的にこのドレスを用意したのではないか――そんな考えが頭をよぎったが、確信もなく、ただ心に不安を抱えたままそのドレスを身に纏った。

 鏡に映る自分の姿を見つめる。薄暗い色味のドレスは私をさらに地味に見せ、婚約者としての華やかさとは程遠い。

「これで……本当に大丈夫なの?」

 胸に広がる不安を隠せないまま、私はパーティー会場へ向かった。
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