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第十章 退廃的食生活

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「俺の友人は、カップ麺で死んだんだよ」

 僕の馬術の師匠はある日、そう言いました。
 その人は大学に入って初めて親元から離れ、毎日大好きなカップ麺を食べ続け、ある日ぽっくり逝ってしまったそうです。

 毎日カップ麺!
 とまではいかないものの、料理するのに飽きてしまった僕は、これと似たり寄ったりの食生活を送っていました。

 毎日朝はバターたっぷりのチーズトースト、昼はケバブで夜は冷凍ピッツァ。
 オーストリアには四旬節という期間があり、その間一か月はチョコやグミなど『自分の大好きな物を摂らない』という宗教的な習慣があります。
 僕は当時、安くてうまいケバブにハマっていたのでケバブを食べるのを禁止しました。
 しかしオーストリアのお店はたいてい午後八時には閉店するのにケバブ屋は二十四時間オープンでウィーンにはどこにでもあったことから、結局三日目には我慢できずにジューシーなケバブサンドウィッチにかぶりついていました。

 国によって異なる『文化』とは興味深いものですが、ウィーンと言えばカフェ文化でしょう。
 日本ではアイスコーヒーと言えば、もちろん缶コーヒーの冷たいコーヒーを想像しますが、ウィーンでは違います。
 名前の通り、コーヒーにアイスクリームを入れ、その上にクリームとウェハースを乗せた、パフェのような飲み物です。
 それにさらに甘ぁいケーキを注文するのですから、甘いもの好きの女子にとってウィーンは天国でしょう……
 体重のことを考えなければ。

 けれど、なぜでしょう。
 どんなにカロリーの高いものを食べて、夏には毎日芝に転がってずっと日光浴をしていても、僕の体重は増えませんでした。
 オーストリア人が「そりゃあ日本人特有の体質だね」と言うので、調子に乗った僕はますますたくさん食べるようになっていきます。

 しかし、そんな怠惰な生活も神様は見逃しませんでした。
 高度差のせいでしょうか、フライトで飛行機がランディングの態勢に入るたび歯に痛みを感じるようになった僕は、一時帰国した際に歯医者に行きます。
「歯医者は保険適用範囲ではない」とか、
「日本と海外の歯医者では治療法が違う」とかの噂を聞いていた僕は、

 オーストリアで一度も歯医者に行きませんでした。

 だから数か月前から始まった歯痛は日本へ帰るまで悪化する一方。
 挙句の果てにやっとたどり着いた歯医者では、

「全部の虫歯を一時帰国中のたった一週間で治すのは不可能です」

 と言われてしまいます。
 そしてこの状態のまま放っておけば虫歯はさらに勢力を増し、他の歯にも悪影響を与えかねない、オーストリアで歯医者に行かないのであれば、今この場で抜くしかない、と忠告されました。
 何かと楽観的な僕は、奥歯が抜けても、そこから親知らずが生えてくるだろう、と抜歯を決断します。

 しかし、その奥歯は虫歯になっているとはいえ、抜くにはもったいないほど丈夫でした。
 ドリルで削られ、ペンチでぐりぐりされてもびくともせず、やっと抜けた時に思わず先生も「立派な歯でしたよ」と言って、僕の手にボロボロの歯を渡してくれました。

 あれから数年たちますが、親知らずは顔を出しません。
 あの時の決断を後悔した僕は、毎日意識して歯磨きするようになりました。
 しかし、また失敗。
 歯のため歯肉のため、と値段だけで歯磨き粉を選び、入れ歯用の接着剤を購入して、口の中をがちがちに固めてしまいました。
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