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11章【喉元過ぎれば熱さを忘れる】
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しおりを挟む告げられた言葉の意味を理解するのに、驚くほどの時間を要して。
内心で桃枝が焦りと不安を抱き始めた、丁度その頃に。
「そ、れって。……同棲のお誘い、ですか?」
山吹は桃枝の肩に手を添えて、丸くなった瞳を向けるために顔を上げた。
最初に言い出したのは桃枝のくせに、指摘を受けると同時に、桃枝の頬が薄ら赤く染まっていく。
「そう、真っ直ぐ言われると……さすがに、その、恥ずい」
「つまり、同棲のお誘いで合っているってことですか?」
「なんで追い打ちをかけるんだよ。っつぅか、どう聞いてもそうに決まってるだろうが」
「そ、そう、なんですね。……そう、なんだ」
つられたわけでもないのに、山吹の頬は桃枝と同じくらい──否。桃枝以上に、赤くなってしまう。
山吹は熱くなった頬に両手で触れて、それからポソポソと訊ねた。
「一緒に住んだら、ずっと一緒ですか?」
「少なくとも、今よりは確実にな」
「『おはよう』と『おやすみ』を、毎日言い合えますか?」
「電話越しじゃなく、直接な」
「毎日、キスをしてくれますか?」
「っ。……あ、あぁ。お前が、嫌じゃないなら」
「エッチも、毎日してくれますか?」
「なッ。さッ、さすがにそれはお互いの負担が──な、なんでそんなに期待したような目を向けて……ッ。……い、いや。そっ、そう、だな。できるだけ毎日、する」
キラキラ、ピュアピュア。真っ直ぐと向けられる眼差しを受けて、ついに桃枝は山吹から目を逸らしてしまった。
まるで、誤魔化すように。桃枝はそっぽを向いたまま、ほんのりと話題をずらす。
「ずっと、考えてはいたんだよ。『お前を、あの部屋から連れ出してやりたい』って」
言うと同時に突然、桃枝はソファから立ち上がった。
そのまま移動を始めた桃枝を目で追って、山吹は思わず悲し気な声を上げてしまう。
「あっ、イヤです。白菊さん、離れないで──」
「すぐ戻るから、ちょっと待ってろ」
ポンと頭を一撫でした後、桃枝は山吹を置いて自室へ移動してしまった。
しつこく駄々をこねるから、今の話をナシにしようとしたのかもしれない。もしかして、嫌われてしまっただろうか。ポツンと取り残された山吹は、ゆっくりとその場で俯く。
最近の自分は、あまりにも歯止めが効かなくなっている気がする。しかし、一度『好きだ』と自覚してしまうと止められなくて……。
「……うっ」
まるで様々な不安が一気に押し寄せてきたように、山吹の瞳にジワッと涙が滲んだ。
しかし山吹にとっては意外なことに、桃枝は自室からすぐに戻ってきた。
当然、シクシクと泣き始めた山吹を見て桃枝は驚く。
「なんでちょっと離れただけで泣くんだよ」
「泣いてない、です」
「いや、どう見ても──……いや、そうだな。泣いてないな、悪かったよ」
慌てて、山吹は涙を拭っている。その様子を見て、さすがの桃枝でも『嘘を吐くな』と言う気は起きなかった。
俯いたままの山吹の隣に座り直し、桃枝は口を開く。
「なぁ、緋花」
呼ばれたから、素直に顔を上げる。
すると、桃枝から手を握られた。
「こう改まって言うのも気恥ずかしいんだが、聴いてくれ。……ずっと、俺と一緒にいてほしい。だから、受け取ってくれねぇか?」
そう言われて、手のひらにポトリと落とされたのは。
この部屋の合い鍵だった。
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