上 下
366 / 466
11章【喉元過ぎれば熱さを忘れる】

21

しおりを挟む



 告げられた言葉の意味を理解するのに、驚くほどの時間を要して。
 内心で桃枝が焦りと不安を抱き始めた、丁度その頃に。


「そ、れって。……同棲のお誘い、ですか?」


 山吹は桃枝の肩に手を添えて、丸くなった瞳を向けるために顔を上げた。
 最初に言い出したのは桃枝のくせに、指摘を受けると同時に、桃枝の頬が薄ら赤く染まっていく。


「そう、真っ直ぐ言われると……さすがに、その、恥ずい」
「つまり、同棲のお誘いで合っているってことですか?」
「なんで追い打ちをかけるんだよ。っつぅか、どう聞いてもそうに決まってるだろうが」
「そ、そう、なんですね。……そう、なんだ」


 つられたわけでもないのに、山吹の頬は桃枝と同じくらい──否。桃枝以上に、赤くなってしまう。

 山吹は熱くなった頬に両手で触れて、それからポソポソと訊ねた。


「一緒に住んだら、ずっと一緒ですか?」
「少なくとも、今よりは確実にな」

「『おはよう』と『おやすみ』を、毎日言い合えますか?」
「電話越しじゃなく、直接な」

「毎日、キスをしてくれますか?」
「っ。……あ、あぁ。お前が、嫌じゃないなら」

「エッチも、毎日してくれますか?」
「なッ。さッ、さすがにそれはお互いの負担が──な、なんでそんなに期待したような目を向けて……ッ。……い、いや。そっ、そう、だな。できるだけ毎日、する」


 キラキラ、ピュアピュア。真っ直ぐと向けられる眼差しを受けて、ついに桃枝は山吹から目を逸らしてしまった。

 まるで、誤魔化すように。桃枝はそっぽを向いたまま、ほんのりと話題をずらす。


「ずっと、考えてはいたんだよ。『お前を、あの部屋から連れ出してやりたい』って」


 言うと同時に突然、桃枝はソファから立ち上がった。
 そのまま移動を始めた桃枝を目で追って、山吹は思わず悲し気な声を上げてしまう。


「あっ、イヤです。白菊さん、離れないで──」
「すぐ戻るから、ちょっと待ってろ」


 ポンと頭を一撫でした後、桃枝は山吹を置いて自室へ移動してしまった。

 しつこく駄々をこねるから、今の話をナシにしようとしたのかもしれない。もしかして、嫌われてしまっただろうか。ポツンと取り残された山吹は、ゆっくりとその場で俯く。

 最近の自分は、あまりにも歯止めが効かなくなっている気がする。しかし、一度『好きだ』と自覚してしまうと止められなくて……。


「……うっ」


 まるで様々な不安が一気に押し寄せてきたように、山吹の瞳にジワッと涙が滲んだ。

 しかし山吹にとっては意外なことに、桃枝は自室からすぐに戻ってきた。
 当然、シクシクと泣き始めた山吹を見て桃枝は驚く。


「なんでちょっと離れただけで泣くんだよ」
「泣いてない、です」
「いや、どう見ても──……いや、そうだな。泣いてないな、悪かったよ」


 慌てて、山吹は涙を拭っている。その様子を見て、さすがの桃枝でも『嘘を吐くな』と言う気は起きなかった。

 俯いたままの山吹の隣に座り直し、桃枝は口を開く。


「なぁ、緋花」


 呼ばれたから、素直に顔を上げる。
 すると、桃枝から手を握られた。


「こう改まって言うのも気恥ずかしいんだが、聴いてくれ。……ずっと、俺と一緒にいてほしい。だから、受け取ってくれねぇか?」


 そう言われて、手のひらにポトリと落とされたのは。

 この部屋の合い鍵だった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

ウケ狙いのつもりだったのに気づいたら襲われてた

よしゆき
BL
仕事で疲れている親友を笑わせて元気付けようと裸エプロンで出迎えたら襲われてめちゃくちゃセックスされた話。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...