上 下
290 / 466
9章【負うた子に教えられる】

25 *

しおりを挟む



 勃起したままの逸物は、寂しそうに震えている。山吹自身もまた、悲し気に眉を寄せていた。

 恋人が『駄目』と言ったのだ。望み通りに動いて、なにが悪い。山吹の頭を撫でる桃枝の主張は、この一本だ。

 無論、桃枝がそういう男だと山吹は分かっている。ゆえに、山吹は慌てて言葉を紡いだ。


「ボクが『ダメ』って言ったらダメですけど、でもダメじゃないんです」
「ほう」

「ボクが『ヤダ』って言ったらイヤなんですけど、でもイヤじゃないんです」
「なるほど」


 突然始まった主張を聴き、桃枝は腕を組む。頷く桃枝を見た山吹は、パッと表情を華やがせながら「分かってくれたんですねっ?」と喜んでいた。

 山吹の笑顔を見て『可愛いな』と思いながら、桃枝は一度だけ頷いて……。


「──悪い。全然分からん」
「──ええぇっ!」


 自らの力で、恋人の笑顔を曇らせてしまった。

 山吹は、ガガンとショックを受けている。なぜだ。むしろ、今の説明で『なるほど、完全に理解した』と言える人間は果たしてどのくらいいるのか。


「分かったような顔していたじゃないですかっ!」
「素の表情だ」
「うっ、確かに……!」
「そう即座に納得されるのも、複雑な気分だな」


 山吹は膝を擦り合わせて、モジモジと落ち着きなく身じろいでいる。


「お前の言い分は全く分からないが、とにかく『嫌よ嫌よも好きのうち』ってことだろ。臨機応変に対応する」


 桃枝が持てる誠意を総動員し、山吹への気持ちを主張してみた。……が、山吹は眉を寄せている。

 言うまでもなく、ムッとした顔の山吹も愛おしい。しかし、今は山吹に『可愛い』と言う場面ではない。


「そんな不服そうな顔をするなよ。別にお前の言い分を突っぱねてるんじゃなくて、俺は『お前の言い分が理解できるよう努力をする』っつってんだぞ」


 笑顔のひとつでも向けてほしいものだ、と。言外に、桃枝はそう主張した
 依然として不服そうに唇を尖らせている山吹は、口を開いて桃枝を責め始める。


「──じゃあ、その『努力』を示してください」


 ……なんてことは、なくて。


「──ボクが今、どうされたいのか。分かって、くれますか?」


 顔を赤くしながら、山吹はそろそろと脚を開いた。
 濡れている逸物がまるで、泣いているように見えなくもない。山吹は、羞恥からだろうか。うっすらと、涙目だ。

 懇願するように、求めるように。桃枝を見つめてくる山吹の目に、しっかりと眼差しを返す。


「正直に言うと、お前がどう思っているかの確信はない。……が」


 言葉を区切ると同時に、ベッドが『ギッ』と軋んだ。


「コンドームを渡してくれ、山吹。俺は今、お前に挿れたくて仕方ねぇ」


 桃枝からの言葉を受けて、山吹の目が丸くなる。『キョトン』と言いたげだ。

 真顔で、なにを言っているのだろう。山吹は今、そんなことを考えているのではないか。つまり、山吹の期待とは全く別のことを言ってしまったのかもしれない。すぐに桃枝は、幾ばくかの不安を抱いた。

 ……抱いた、のだが。


「──さすが、ボクの課長ですね。正解です」


 山吹からの返事に、桃枝は抱えていた不安を一気に捨てた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

ウケ狙いのつもりだったのに気づいたら襲われてた

よしゆき
BL
仕事で疲れている親友を笑わせて元気付けようと裸エプロンで出迎えたら襲われてめちゃくちゃセックスされた話。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...