上 下
25 / 88
3章【親友の弟と同居を始めて、】

9

しおりを挟む



 俺は、部屋の掃除を。
 龍介は漫画を描きながら、会話をする。

 そう言えば、まだ龍介に話してなかったよな。……その程度の気持ちで発した言葉だったのだが、どうやらそこそこの衝撃を与えてしまったらしい。

 ──まぁ、そうなるよな。

 燃えるゴミをまとめ終わり、最後は燃えないゴミとその他だ。俺は作業を続けながら、冬人が部屋に来た経緯をポツポツと話した。

 ……全てを聴いた後。


「──つまり? 死んだ兄貴を感じるために、わざわざ知らない男と同居し始めたってことか? 生粋のブラコンじゃねェか、その弟クンはよォ?」


 まるで、一刀両断。
 龍介は辛辣な言葉を放った。


「難儀なもんだなァ、平兵衛? 圧倒的な巻き添えだろ、ソレ。ヤ~イ、被弾被弾~! 爆死爆死~ッ!」
「死んでねぇっつの」


 気付けば龍介は、いつの間にか机ではなく俺の方を見ている。

 どうやら、龍介は【平兵衛がブラコンに迷惑を掛けられている】と解釈したらしい。つまり、この言い方は煽っているのではなく、龍介なりの心配なのだ。

 なんだかんだ言って、龍介は狭く深い付き合い方をする。そもそも人間嫌いで、俺以外だと家族とすら仲が良くない。
 だからこそ家を出て、一人で暮らしているくらいなのだから。


「そんなモンに付き合う必要ねェだろォが。そんなことに時間割いて精神摩耗させるくらいなら、もっとボクの世話でも焼いとけっての。……くっだらねェ、マジで」
「……心配してくれて、ありがとな」
「おめでたミラクル回路かよ、キッモ。【心配】じゃねェよ。より有意義な時間の使い方を教えてやったんだろォが。解釈違いとかマジ死ねって感じだぞ。漫画家嘗めんな」
「曲解すぎるだろ。全国の漫画家に謝れ」


 龍介からすると【平兵衛以外は悪】という認識があるのかもしれない。……俺からすると、そんな龍介の方が【難儀】な気もするが。

 俺は冬人が迷惑だとか、ましてや愚痴のつもりで話したんじゃない。
 だが、龍介は心配してくれてるんだろう。


「ってか、芸能界入ったのだって変な話だろォ? 死んだ兄貴に成り代わろうとしてるんじゃねェのォ?」

 
 確かに、タイミング的には【兄のスキャンダルを利用しての売名行為】に見えるかもしれない。

 ──だが、あの時の様子は……。

 一緒に撮影をした時のことを、思い出す。

 冬樹の代役をしようと、努力していたのは伝わった。
 でも、芸能界に入って有名になりたいとか。……ましてや『有名人に会いたい!』といった下心のようなものは、感じられなかった。


「死んだ兄貴の荷物全部渡して、サッサと追い出したらどうだァ? 強盗じゃないにしても、胡散臭いだろォが」
「俺には、そうは思えないって言うか……。どうにも、放っておけないって言うか……」


 ハッキリしない俺の物言いに、興味がなくなったのだろう。龍介は「ケッ」とだけ言うと、また机に向かった。


「どォ~でもい~わァ~」


 それだけぼやくと、なにかをメモしていた紙をグシャグシャにまとめて、後ろへ放り投げる。……オイ、掃除したばかりだぞ。
 それはアレか? 心配してやってるのに冬人を追い出そうとしない俺への、小さな反抗のつもりか?

 龍介が放り投げた紙を燃えるゴミの袋に入れて、俺は全てのゴミ袋をキツく縛る。


「一応、龍介に顔を見せに来たのと……まぁ、近況報告ってことで」


 ゴミ袋を持って、俺は作業をしている龍介の背中に声をかける。


「また、そのうち来るわ。……礼。なにか思いついたら、言ってくれ」


 それだけ言い、ゴミ袋を玄関の通路まで運ぶ。
 ここまでやっておけば、後は龍介自身がゴミの日に袋を出しておく。暗黙の了解、のような感じだ。


「じゃあな、龍介」


 ゴミ袋の運搬を終え、そう声をかける。
 龍介はペンを持っていない方の手を、軽く上げた。


「へいへェ~い」


 小さく左右にフラフラと振られた、龍介の手。
 それからまた、龍介は作業に戻った。





3章【親友の弟と同居を始めて、】 了




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき
BL
 何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。  自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

くんか、くんか Sweet ~甘くて堪らない、君のフェロモン~

天埜鳩愛
BL
爽やかスポーツマンα × 妄想巣作りのキュートΩ☆ お互いのフェロモンをくんかくんかして「甘い❤」ってとろんっとする、可愛い二人のもだきゅんラブコメ王道オメガバースです。 オメガ性を持つ大学生の青葉はアルバイト先のアイスクリームショップの向かいにあるコーヒーショップの店員、小野寺のことが気になっていた。 彼に週末のデートを誘われ浮かれていたが、発情期の予兆で休憩室で眠ってしまう。 目を覚ますと自分にかけられていた小野寺のパーカーから香る彼のフェロモンに我慢できなくなり、発情を促進させてしまった! 他の男に捕まりそうになった時小野寺が駆けつけ、彼の家の保護される。青葉はランドリーバスケットから誘われるように彼の衣服を拾い集めるが……。 ハッピーな気持ちになれる短編Ωバースです

その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました

海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。 しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。 偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。 御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。 これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。 【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】 【続編も8/17完結しました。】 「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785 ↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

処理中です...