上 下
59 / 84
6話・大事にするのが好き

3

しおりを挟む



 俺は子供の頃、美鶴に裏切られた。

 それからずっと……美鶴のことが、嫌いだったのに。


(俺、それでも美鶴のことが大好きだったのか……っ?)


 ありえない。
 子供の頃、俺は確かに美鶴が嫌いだったんだから。

 ――でも、今は?


『好きだ、真冬』

『お前、ほんっと……可愛いなァ』

『諸星、コレ』


 美鶴に『好き』って言われたのは、嬉しかった。

 美鶴に『可愛い』って言われると、こそばゆいけど嫌じゃなくて。

 美鶴にプレゼントを貰ったら、そのことばっかり考えてた。


(……いや、いやっ! これは、違う……っ!)


 セックスしてるから、恋人みたいな感覚と勘違いしてるだけ。

 俺は美鶴に脅されて、仕方なく抱かれてるだけだし。
 子供の頃、美鶴が俺から友達奪ったのを忘れたのか?

 ……でも、美鶴は俺のことが好きで……ヤキモチで、奪ったって。

 でもでも! 美鶴は胡桃沢さんにも『好きだ』って言ってたじゃないか!

 ……そもそも何で、俺以外の奴にも言うんだよ。


(……ど、どうしたんだ、俺っ!)


 考えれば考えるほど、思考がドツボにはまっていく。
 美鶴を許しちゃダメなはずなのに、美鶴のことを考えるともぞもぞふわふわモヤモヤするのは何だ?

 ――俺、本当に……美鶴のこと、が……っ?


「真冬くん、どうしたの? 百面相なんかして」
「ぅえっ?」


 慌てて両手で顔を隠すと、胡桃沢さんが眉尻を下げた。


「……ヤッパリ、美鶴のこと……好き、なんだね」
「その件については絶賛こんがらがり中だからっ!」
「じゃあそういうことにしておこっかな~?」


 胡桃沢さんは楽しそうに、語尾を弾ませる。

 だけど……表情は、どことなく暗い。


「……胡桃沢さん、もしかして――」
「美鶴のことは好きじゃないし、むしろ大嫌いってもう一回言わせたいのかな~?」
「ご、ごめん……っ」


 暗い顔をしているから、思い当たることを言おうとしたら怒られた。

 じゃあ、何で胡桃沢さんは落ち込んでいるんだろう。


「真冬くんがね、美鶴のこと好きだって……子供の頃から、なんとなぁく知ってたよ? ……でも、ヤッパリ、認められなかったの……」


 そうか、やっとわかったぞ。
 胡桃沢さんは美鶴のことが嫌い。だから、俺が美鶴のことを好き……? なのが、納得できないんだ。

 胡桃沢さんがどうして暗い表情をしているのか理解した俺は、心の中でウンウンと頷く。


「胡桃沢さん、落ち着いて聞いてほしい。確かに美鶴は、横暴で俺様でワガママいっぱいで思いやりもないし、自分至上主義な奴だけど……いいところも、ちょっとは……ある、と、思う……?」
「……うん、分かるよ」


 よかった、分かってくれたらしい。

 我ながら苦しい説明だったし、結局なにを伝えたいのかまとまってすらいないけど――。


「でも、それでも……アタシは……っ!」


 俺が心の中でガッツポーズをしたのと。

 胡桃沢さんが俺に抱きついてきたのは。

 ほぼ、同時だった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺にはラブラブな超絶イケメンのスパダリ彼氏がいるので、王道学園とやらに無理やり巻き込まないでくださいっ!!

しおりんごん
BL
俺の名前は 笹島 小太郎 高校2年生のちょっと激しめの甘党 顔は可もなく不可もなく、、、と思いたい 身長は170、、、行ってる、、、し ウルセェ!本人が言ってるんだからほんとなんだよ! そんな比較的どこにでもいそうな人柄の俺だが少し周りと違うことがあって、、、 それは、、、 俺には超絶ラブラブなイケメン彼氏がいるのだ!!! 容姿端麗、文武両道 金髪碧眼(ロシアの血が多く入ってるかららしい) 一つ下の学年で、通ってる高校は違うけど、一週間に一度は放課後デートを欠かさないそんなスパダリ完璧彼氏! 名前を堂坂レオンくん! 俺はレオンが大好きだし、レオンも俺が大好きで (自己肯定感が高すぎるって? 実は付き合いたての時に、なんで俺なんか、、、って1人で考えて喧嘩して 結局レオンからわからせという名のおしお、(re 、、、ま、まぁレオンからわかりやすすぎる愛情を一思いに受けてたらそりゃ自身も出るわなっていうこと!) ちょうどこの春レオンが高校に上がって、それでも変わりないラブラブな生活を送っていたんだけど なんとある日空から人が降って来て! ※ファンタジーでもなんでもなく、物理的に降って来たんだ 信じられるか?いや、信じろ 腐ってる姉さんたちが言うには、そいつはみんな大好き王道転校生! 、、、ってなんだ? 兎にも角にも、そいつが現れてから俺の高校がおかしくなってる? いやなんだよ平凡巻き込まれ役って! あーもう!そんな睨むな!牽制するな! 俺には超絶ラブラブな彼氏がいるからそっちのいざこざに巻き込まないでくださいっ!!! ※主人公は固定カプ、、、というか、初っ端から2人でイチャイチャしてるし、ずっと変わりません ※同姓同士の婚姻が認められている世界線での話です ※王道学園とはなんぞや?という人のために一応説明を載せていますが、私には文才が圧倒的に足りないのでわからないままでしたら、他の方の作品を参照していただきたいです🙇‍♀️ ※シリアスは皆無です 終始ドタバタイチャイチャラブコメディでおとどけします

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

【R18】平凡な男子が女好きのモテ男に告白したら…

ぽぽ
BL
"気持ち悪いから近づかないでください" 好きな相手からそんなことを言われた あんなに嫌われていたはずなのに… 平凡大学生の千秋先輩が非凡なイケメン大学生臣と恋する話 美形×平凡の2人の日常です。 ※R18場面がある場合は※つけます

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

イケメンがご乱心すぎてついていけません!

アキトワ(まなせ)
BL
「ねぇ、オレの事は悠って呼んで」  俺にだけ許された呼び名 「見つけたよ。お前がオレのΩだ」 普通にβとして過ごしてきた俺に告げられた言葉。 友達だと思って接してきたアイツに…性的な目で見られる戸惑い。 ■オメガバースの世界観を元にしたそんな二人の話  ゆるめ設定です。 ………………………………………………………………… イラスト:聖也様(@Wg3QO7dHrjLFH)

全寮制の学園に行ったら運命の番に溺愛された話♡

白井由紀
BL
【BL作品】 絶対に溺愛&番たいα×絶対に平穏な日々を過ごしたいΩ 田舎育ちのオメガ、白雪ゆず。東京に憧れを持っており、全寮制私立〇〇学園に入学するために、やっとの思いで上京。しかし、私立〇〇学園にはカースト制度があり、ゆずは一般家庭で育ったため最下位。ただでさえ、いじめられるのに、カースト1位の人が運命の番だなんて…。ゆずは会いたくないのに、運命の番に出会ってしまう…。やはり運命は変えられないのか! 学園生活で繰り広げられる身分差溺愛ストーリー♡ ★ハッピーエンド作品です ※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏 ※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承ください🙇‍♂️ ※フィクション作品です ※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです

処理中です...