上 下
56 / 84
5話・監視するのが好き

13

しおりを挟む



 人に手を踏まれたのなんて、初めてだ。
 しかも悪意を持って、攻撃的に。

 そんなの……痛いに、決まってるじゃないか。


「痛っ!」


 痛みに呻くも、先輩は足を止めてくれない。


「何でお前なんだよッ! 何でだよッ何でッ!」
「や、やめ――痛い、です……っ!」
「うるせェんだよッ!」


 何度も何度も繰り返し踏まれ、手が熱くなってくる。


「こんなモン、壊れちまえッ!」


 ガッ、ガッ、と。
 明確な悪意と敵意を向けて、先輩がネックレスを踏む。

 そして……俺の手も、踏みつける。


「クソがッ!」


 踏むという行為に満足したのか、先輩が足を止めた。

 だけど最後に、ネックレスを握り締める手を……蹴り飛ばされる。


「二度と高遠原美鶴に媚びを売るんじゃねェぞッ!」


 それだけ言い、三人は俺を残して歩き出す。
 最後の最後まで、苛立たしげに俺を睨みつけながら。


(媚びなんて、一回も売ったことないんですけど……っ)


 吐き捨てられた言葉を思い返して、心の中で困惑する。

 先輩たちは、美鶴のことが好き。
 だから美鶴が可愛がっていた俺のことが、気に入らなかった。


(だけど、こんなのって……っ)


 慌てて、握り締めていたネックレスを見る。


「……っ」


 守り、きれなかった。

 汚れて、ところどころ土とか砂で傷ついて……一回も身に着けてないのに、すっかり中古品みたいだ。


「初めて……美鶴から貰った、プレゼントなのに……っ」


 シンプルなデザインだけど、美鶴が俺のために選んでくれたネックレス。
 プレゼントしてくれた意味も、どうしてほしいのかもわからなかったものだけど。

 今じゃもう、ボロボロだ。


「……手、痛いなぁ……っ」


 動かせるには動かせるけど、痛い。

 これだけ痛かったんだから、ネックレスくらい守れたつもりだったのに、守れなかった。


(美鶴と関わると、ロクな目にあわない……)


 でも、今回のは……美鶴のせいじゃ、ない。

 美鶴は確かに、カッコいい。男の俺でさえ見惚れるんだから、俺以外の誰かが惚れたっておかしくないと思う。
 だから、先輩たちが惚れた理由も分かる気がする。


(……でも)


 先輩たちのうち、誰か……もしくは全員と、美鶴が付き合ったら?

 ――すごく、いやだ。

 相手が女の子――例えば、胡桃沢さんだったとして。
 そうだったら俺は……納得、できるんだろうか。


(美鶴に、会いたい……っ)


 つい数ヶ月前までは、顔も見たくなかったのに。
 今じゃ、こんなにも……美鶴に会いたくて仕方ない。


「美鶴……美鶴の、ばか……ばぁか……っ」


 誰に言うでもない、中身のない暴言。

 そんなことを呟きながら、俺はただ呆然と……その場に座り込んでいることしか、できなかった。





5話・監視するのが好き 了




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️
恋愛
 リベリアはお飾り王太子妃だ。  夫には学生時代から恋人がいた。それでも王家には私の実家の力が必要だったのだ。それなのに…。リベリアと婚姻を結ぶと直ぐ、般例を破ってまで彼女を側妃として迎え入れた。余程彼女を愛しているらしい。結婚前は2人を別れさせると約束した陛下は、私が嫁ぐとあっさりそれを認めた。親バカにも程がある。これではまるで詐欺だ。 そして、その彼が愛する側妃、ルルナレッタは伯爵令嬢。側妃どころか正妃にさえ立てる立場の彼女は今、夫の子を宿している。だから私は王宮の中では、愛する2人を引き裂いた邪魔者扱いだ。  ね? 絵に描いた様なお飾り王太子妃でしょう?   今のところは…だけどね。  結構テンプレ、設定ゆるゆるです。ん?と思う所は大きな心で受け止めて頂けると嬉しいです。

【本編完結・外伝投稿予定】異世界で双子の弟に手篭めにされたけど薬師に救われる

miian
BL
双子の弟・良太は要領が良くて、周りはいつも弟の良太を可愛がり、自分は不要ではないかと感じる兄・優馬。 高校卒業後、弟の目を欺いて地方の大学へ行くことを希望に卒業までの残り半年ほどを過ごしていた。 道端で車に轢かれそうなところを良太が手を引いて事なきを得たかと思えば、白いモヤが目の前に広がり異世界へと転生してしまった。 異世界へ召喚されたものの必要とされていたのは救世主としての弟の良太だけで、しかも優馬は異世界の言葉が分からず、こちらの世界でも居場所が無く、頼りたくない弟に頼るしかなかった。 弟の良太はずっと兄の優馬が好きでこの世界では自分しか頼る人がいないと分かり歓喜し、良太は優馬を夜な夜な犯してしまう。実の弟から向けられる感情に次第に優馬は壊れていく。 ある日、良太が優馬を妊娠させたいと言い始め、軟禁されるくらいならと図書館で自分が妊娠する方法を調べると言う。図書館で知り合った司書・スハンにある日会わせたい人がいると伝えられ、ついていくと過去に召喚された薬師・大輝と出会う。言葉が通じない世界で大輝との出会いに喜び、生きる希望を優馬は見つけていくが…… 初の投稿なので至らないところもあるかもしれません。 無理矢理、暴力、自死(未遂)、死の描写の表現などもあり苦手な方はお気をつけ下さい。 兄の優馬視点、途中で良太や王子視点など入り話のペースがゆっくりです。 話の前半は 弟・良太 × 兄・優馬(実の双子の兄弟)無理やり、執着、兄を調教、弟闇落ち 話の後半に 薬師・大輝 × 兄・優馬 無自覚→両片想い→両想い 妊娠できない世界で主人公も妊娠しません。(でも、弟が兄を妊娠させたい描写はあります) 第二章は弟の調教メインですが、最後は本命攻めが兄の過去を含めて包み込みます。 R-18はタイトルに※入ってます。 ※弟も間違った方向ではあるものの兄のことが好きで、その変わりゆく様を書きたくて弟との話が長くなっています。 ※役職、情勢など分かっていません。寛大に読んで。 【2023/10/11追記】 BL小説大賞に応募のため、優馬と良太の年齢を修正しました。 誕生日の話があるため、開始時の年齢17歳というのは変えず、転生翌日に誕生日だったけど転生してバタバタで忘れてたから遅めの誕生日をお祝いしよう…の流れに変えました。 それに伴い、他の場面も修正している箇所があります。 ※11月完結予定→間に合いませんでした。ごめんなさい。 【2023/2/3追記】 第二章で大輝を登場させる予定でしたが、第二章は弟・良太との話がメインです。 本命攻めの登場は第三章からと遅い登場です。

今度は殺されるわけにいきません

ナナメ
BL
国唯一にして最強の精霊師として皇太子の“婚約者”となったアレキサンドリート。幼い頃から想いを寄せていたテオドールに形だけでも添い遂げられると喜んでいたのも束の間、侯爵令嬢であるユヴェーレンに皇太子妃の座を奪われてしまう。それでも皇太子の側にいられるならと“側妃”としてユヴェーレンの仕事を肩代わりする日々。 過去「お前しかいらない」と情熱的に言った唇で口汚く罵られようと、尊厳を踏みにじられようと、ただ幼い頃見たテオドールの優しい笑顔を支えに耐えてきた。 しかしテオドールが皇帝になり前皇帝の死に乱れていた国が治まるや否や、やってもいない罪を告発され、周りの人々や家族にすら無罪を信じてもらえず傷付き無念なまま処刑されてしまう。 だが次目覚めるとそこは実家の自室でーー? 全てを捨て別人としてやり直す彼の元にやってきた未来を語るおかしな令嬢は言った。 「“世界の強制力”は必ず貴方を表舞台に引きずり出すわ」 世界の強制力とは一体何なのか。 ■■■ 女性キャラとの恋愛はありませんがメイン級に出張ります。 ムーンライトノベルズさんで同時進行中です。 表紙はAI作成です。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

義妹を溺愛するクズ王太子達のせいで国が滅びそうなので、ヒロインは義妹と愉快な仲間達と共にクズ達を容赦なく潰す事としました

やみなべ
恋愛
<最終話まで執筆済。毎日1話更新。完結保障有>  フランクフルト王国の辺境伯令嬢アーデルは王家からほぼ選択肢のない一方的な命令でクズな王太子デルフリと婚約を結ばされた。  アーデル自身は様々な政治的背景を理解した上で政略結婚を受け入れるも、クズは可愛げのないアーデルではなく天真爛漫な義妹のクラーラを溺愛する。  貴族令嬢達も田舎娘が無理やり王太子妃の座を奪い取ったと勘違いし、事あるごとにアーデルを侮辱。いつしか社交界でアーデルは『悪役令嬢』と称され、義姉から虐げられるクラーラこそが王太子妃に相応しいっとささやかれ始める。  そんな四面楚歌な中でアーデルはパーティー会場内でクズから冤罪の後に婚約破棄宣言。義妹に全てを奪われるという、味方が誰一人居ない幸薄い悪役令嬢系ヒロインの悲劇っと思いきや……  蓋を開ければ、超人のようなつよつよヒロインがお義姉ちゃん大好きっ子な義妹を筆頭とした愉快な仲間達と共にクズ達をぺんぺん草一本生えないぐらい徹底的に叩き潰す蹂躙劇だった。  もっとも、現実は小説より奇とはよく言ったもの。 「アーデル!!貴様、クラーラをどこにやった!!」 「…………はぁ?」  断罪劇直前にアーデル陣営であったはずのクラーラが突如行方をくらますという、ヒロインの予想外な展開ばかりが続いたせいで結果論での蹂躙劇だったのである。  義妹はなぜ消えたのか……?  ヒロインは無事にクズ王太子達をざまぁできるのか……?  義妹の隠された真実を知ったクズが取った選択肢は……?  そして、不穏なタグだらけなざまぁの正体とは……?  そんなお話となる予定です。  残虐描写もそれなりにある上、クズの末路は『ざまぁ』なんて言葉では済まない『ざまぁを超えるざまぁ』というか……  これ以上のひどい目ってないのではと思うぐらいの『限界突破に挑戦したざまぁ』という『稀にみる酷いざまぁ』な展開となっているので、そういうのが苦手な方はご注意ください。  逆に三度の飯よりざまぁ劇が大好きなドS読者様なら……  多分、期待に添えれる……かも? ※ このお話は『いつか桜の木の下で』の約120年後の隣国が舞台です。向こうを読んでればにやりと察せられる程度の繋がりしか持たせてないので、これ単体でも十分楽しめる内容にしてます。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

セフレじゃなくて本命だったなら早く言ってくれ

雨宮里玖
BL
健人には好きな相手がいた。大学の同級生の稜だ。だが稜には彼女がいる。 だからこの想いは叶うわけがないと健人は気持ちを閉じ込め稜には友人として接していた。 ある日突然稜から身体の関係を迫られ、健人は抗えずにそれを受け入れてしまう。そこからふたりのセフレ関係がずるずると続いてしまった。 もうそんな不毛な関係を断ち切りたいと健人はついに稜のもとを逃げ出した——。 攻め:稜(22) 大学生。ミスターコンテスト1位。 受け:健人(22) 大学生。 美咲(22) 大学生。稜の彼女。ミスコン1位 ハッピーエンド短編です。 R18表現にはタイトルに※をつけています。

処理中です...