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1話・追い詰めるのが好き

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 あれから数日後の、放課後。
 靴を履き替え、さぁ帰ろうと思った瞬間。


「嘘、だろ……」


 空を見上げると――いや、見上げなくても分かる。


「雨ぇっ? うそ、やだぁっ!」
「濡れちゃう~!」


 この女子たちが言う通り……雨が、降り始めたのだ。

 かく言う俺も、傘を持ってきていない。なので、そこで騒いでいる女子相手に『雨が降ってるだけでうるさいなぁ』とは、言えなかった。

 ちなみに、朝は快晴だったのだ。それはもう、徹の家の前でうたた寝ができるくらいの、快晴。
 昼休みも晴れていたから、まさか雨が降るだなんて……誰にも想像できなかっただろう。


「徹は……帰った、か」


 ついさっき、徹は別の友達と一緒に歩いていた。だからたぶん、もう帰っただろう。


(この様子だと、すぐやむ……ようには、見えないしなぁ……)


 濡れる覚悟を決めるか……往生際悪く、やむのを待つか。
 そう、考えあぐねていると。


「――諸星?」


 ――突然、背後から俺を呼ぶ声が聞こえた。

 全身。それでいて、細胞レベルで起きているかのように思える……拒否反応。
 相手なんて、分かっている。


(……高、遠原……っ)


 そこには、高遠原が……一人で立っていた。
 一瞬だけ向けてしまった視線を、元に戻す。

 ……が。


「傘は?」


 あろうことか、俺に話しかけてくるではないか。


(何で、普通に話しかけてくるんだよ……っ!)


 腹立たしいことこのうえない。

 だけど、反応したら負けだ。俺はそこに誰もないなかったかのように、また考え直す。


(高遠原は無視だ。……そうだな、雨……雨か。ヤッパリ、濡れるしかないかなぁ……)


 脳内会議の結果……『走って帰る』が最有力候補。


(よし、帰ろう!)


 そう結論付けた。

 ――瞬間。


「――車を呼べばいいだろ? ……あぁ。お前には【運転してくれる人がいなかった】か」


 ――高遠原が、わざとらしい挑発を向けてきた。


「……っ!」


 思い切り睨みつけると、俺が反応を示して心底愉快なのか。

 ――高遠原は、ニヤニヤと笑っている。

 高遠原が言うように……俺には、車を運転してくれるような相手が、いない。


(――親がいないって、知ってるくせに……っ!)


 いや……厳密に言えば、いる。
 だが、家にはいない。


「何だよ、その目は? 俺様と関わりたくなかったんじゃないのか?」


 自分から声をかけてきたくせに、高遠原はやけに強気だった。

 ――反応したくなんて、ない。

 ――こんな奴と、関わりたくなんてないのに……っ!

 俺の頭は、高遠原から指摘された……【親がいない】という事実しか、考えられなくなった。




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