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12章【そんなに愛を誓わないで】
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しおりを挟むツカサの、母親。
それはツカサにとって、人生の分岐点とも呼べる行動を取らせてしまった、張本人。
実の息子であるツカサを【親としての立場】では放任し、しかし男であるツカサを【女としての立場】では大切に見ていた。
ツカサが他者からの愛を疎ましく思い、他者の存在を忌むようになったきっかけとも言える存在。強烈なインパクトと凄惨な傷をツカサの内側に深々と残した、唯一にして最大の相手。……それが、ツカサの母親だ。
それほどの存在なのだから、ツカサにとっては当然【二度と関わりたくない相手】だろう。マスターやウメを毛嫌いするのとは比較にもならないほど、彼女はツカサにとって最悪で災厄的存在なはずだ。
しかしツカサは、自分の母親がそんな相手だと誰よりも理解していながら……。
『──俺の母親にも、カナちゃんを紹介させてくれないかな』
確かに、そう言った。
この提案を、カナタは『変化だ』と喜んでいいのか。それとも、別の感慨を抱くべきなのかと、随分悩んだ。
……だが、しかし。
「──最近のツカサさん、なんだか変だよ」
──さすがに三週間も進展がないと、カナタがこう言ってしまうのも道理だろう。
あの提案から──カナタの両親にツカサを紹介してから、三週間後。カナタは店内の清掃をしながら、思わずそう呟いた。
この、三週間。ツカサの様子は、明らかにおかしかった。
先ずは、表情。普段から笑みを浮かべてはいるが、カナタに向けるものとカナタ以外に向けるものではその輝きが違う。
だと言うのに、最近のツカサはカナタに対してもどこか静かな笑みを向けていたのだ。少しだけ寂しそうに、それでいて少しだけ悲しそうに。
……それに、態度も。
「確かに。なんだか、最近のホムラさんはちょっと変な気がするよね~」
「あっ、リン君」
カナタの独り言に、相槌がひとつ。相手は、リンだ。
モップの柄に手を乗せ、その上に顎を乗せながら、リンはカナタの隣に並んだ。
ボーッとした様子で相槌を打ったリンを見て、カナタは小首を傾げた。
「リン君にもなにか、ツカサさんのことで思い当たることがあるの?」
「あのね? 僕がカナタ君とこうして話すと、前までは閉店後に──……あっ、ううん。今のは、うん、なんでもない」
「リン君っ? 今っ、今たぶん凄く大事な──」
「そんな感じで、最近のホムラさんは僕に対していい意味でなんのアクションもしてこないから、なにかあったのかな~って!」
「リン君っ、リン君っ! 誤魔化さないでよっ!」
聞き捨てならないワードが聞こえたはずだが、当のリンはと言うと「あはは~っ」と笑いながらそっぽを向いている。おそらく、ツカサに『カナタには話すな』と釘でも刺されているのだろう。さすが、カナタを狂うほど愛しているツカサだ。用意周到すぎる。
カナタの動揺には気付いていながらも、リンは話題の方向を修正した。
「だけど、本当にどうしたんだろうね? カナタ君以外にも優しいホムラさんって、なんて言うかこう。……その、カナタ君には言いづらいけど。僕としては、結構……」
「えっ。も、もしかして、リン君もツカサさんのことが──」
「──物足りなくて、逆に怖い」
「──リン君、一回落ち着こう?」
ツカサのことを心配しているのか、していないのか。腐男子を自称するリンとしては、カナタのことで余裕を失くすツカサが見られなくて物足りないらしい。
カナタは隣に立つ友人を眺めて、ガックリと肩を落とす。
……内心で、ほんの少しだけ安堵しつつ。
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