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11章【そんなに寄り添わないで】
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しおりを挟むカナタのオーダー通り、夕食は母親お手製のオムライスだ。
そこからは穏やかな時間を過ごしながら、カナタがモジモジと内気な態度を見せつつも、交際の告白。並びに、結婚報告をする予定だ。
ツカサはカナタがアクションを起こさない限り、目立った動きはしないつもりらしい。柔らかい雰囲気を表情から作りつつ、談笑をするのならば緩やかに応じるつもりだった。
しかし、そうした二人の想定を壊す者がいたのだ。
「──回りくどいのはどうにも苦手でね。……単刀直入に訊ねるが、ホムラ君はカナタとはどういった関係なのか、聞かせてほしい」
カナタの父親が、食前の挨拶よりも先にそう言ったのだから。
夕食をテーブルに並べた母親も、旦那の発言に驚いている様子だった。
「ちょっと、あなた。いきなりそんな言い方、失礼じゃないっ」
「お前が言っていたのだろう。『カナタが紹介したい人がいるらしい』と。それが、彼なのだろう。ならば、父親としては関係性を明かしてもらいたいじゃないか」
「それは、そうかもしれないけど……っ」
直球すぎる問い掛けに、カナタは戸惑う。隣に座るツカサに、情けない視線を向けてしまったくらいだ。
だが、ツカサはと言うと……。
「カナちゃんではなく俺に訊いてくれて、嬉しいです。お義父様は優しいですね」
ニコリと笑みを浮かべて、悠然とした態度で対話に応じたのだ。
「お付き合いさせていただいております。誠心誠意、真剣に」
柔らかな笑みを浮かべながら、ツカサはなんてことないように答える。
標的がカナタではなくツカサであるのならば、これほどやりやすいことはない。狼狽えるカナタのフォローをすることも容易ではあるが、それではカナタの自主性を疑われてしまう。
ツカサは即座に、父親の内面を理解する。愛想はないが、カナタのことを誰よりも理解しているのだろう。
だからこそ、父親はカナタではなくツカサに訊ねた。内気で弱気なカナタでは答えられないと、そう思い込んでいるからだ。
ツカサの答えを聴いて、すぐに父親は眉をしかめた。
「……カナタは男で、君も男だ。それでも、君はカナタのことを愛していると?」
「はい」
「カナタも、それと同じ気持ちを君に向けていると?」
「はい」
迷いもなく、淀みもない返答。堂々とした態度で対峙するツカサを見て、父親の表情は硬化する。
同性愛のカミングアウトとは、もっと動揺をするものではないのか。初めてツカサを見たその瞬間から、父親は内心でそんなことを考えていた。
だが、ツカサの態度は毅然としている。なんの負い目や引け目もなく、ただ『事実を述べているだけだ』と主張しているようだった。
「同性愛という価値観に、否定的な考えはない。そうした形の恋愛も、わたしは構わないとは思っている。……だが、こと自分の息子となると話は別だ。手放しで祝福はできない」
「仰る通りだと思います」
「教えてくれないか。君が、カナタを選んだ理由を」
要約するのならば、父親は【納得】をさせてほしいのだ。
最愛の息子を選び、こうして両親に挨拶へ来た理由が。そうまでしてカナタと共にいたいと思える、ツカサの考えを。父親は知って、その上で判断をしたいのだ。
「ツカサさん……っ」
不安そうに名を呼ぶカナタを見て、ツカサは一瞬だけ考える。
ここでこのまま、ツカサが両親を納得させて。……それは、カナタが求める【変化】という意に沿っているのか。
カナタは自らの言葉で、両親から理解を得たいのではないかと。ツカサは頭の片隅で、そう考えた。
……しかし、すぐにツカサは別の考えを抱く。
「──俺がカナちゃんを好きになったきっかけは、カナちゃんの【弱さ】でした」
手を離し、後ろから眺めるのはツカサの本意ではない。
──ツカサはカナタのそばに寄り添い、その手を繋いだまま、カナタが望む【変化】という道を歩きたいのだ。
それが超個人的ワガママだとしても、ツカサはカナタのためにと口を開いた。
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