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11章【そんなに寄り添わないで】
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しおりを挟む迎えた、土曜日。
カナタはお気に入りのバッグに荷物を詰めた後、ツカサが待つダイニングへと向かった。
通路から聞こえた足音で、カナタの接近に気付いたのか。カナタがダイニングの扉を開けると、椅子に座っていたツカサとは瞬時に目が合った。
「準備できた?」
「はい。お待たせしました」
「全然。カナちゃんを待つ時間も、俺は結構好きだよ。絶対に来てくれるって確信があるからね」
ツカサからの返答に笑みを浮かべつつ、カナタはバッグを背負い直しながらツカサへ近寄る。
そこで、カナタは思わず声を上げた。
「えっ?」
「えっ、なにっ? カナちゃん? どうかした?」
「ツカサさん、あの……荷物、多くないですか?」
ツカサが座る、椅子の近く。そこに置いてあるのは、説明されずとも【ツカサの荷物】だと分かる。
しかし、想定以上に大きい。隣町にある恋人の家に行くだけ……にしては、大袈裟なほど大きなバッグなのだ。
確かに、カナタは実家に行けば着替えがある。そう考えるとカナタとツカサの荷物に差があってもおかしくはない。
……しかし、それにしたって荷物が多かった。
ツカサはカナタにつられるよう、視線を足元のバッグへ向ける。
「あぁ、コレ? 着替えとか、念のための【薬】とか、念のための【念のため】とか。……まぁ、いろいろかなっ」
「念のための、念のため……?」
行き先はサバイバルゲームをするための施設ではなく、カナタの実家だ。それなのにいったい、ツカサはなにを警戒しているのか。
カナタが小首を傾げるも、ツカサは笑みを浮かべるだけ。
「それじゃあお互いに準備も終わったことだし、行こっか」
そう言い、ツカサは珍しく──もないが、本心を華麗に誤魔化した。
こうしてはぐらかされてしまうと、カナタはこれ以上ツカサのことを追及できない。立ち上がったツカサに向かって、頷くことしかできないのだ。
荷物を手にしたツカサと共に、カナタはダイニングを出る。
そこで……。
「んっ? もう出発かい?」
たまたまなのか、ウメと会った。
カナタとお喋りをしていたおかげで喜色満面だったツカサの表情が、一変。表情から笑みは消え、上がっていた口角も恐ろしい──ではなく、悲しいほどに横へ一直線だ。
「少し早いんじゃないかい? 確か、あっちには夕方前に着く予定なんだろう?」
「お前には関係ないだろ」
「なんだって? 誰が休暇をやったと思っているんだい」
「少なくともお前じゃない。シグレだろ」
ピリッ。瞬時に、和やかな空気は氷点下レベルに凍てつく。
この状況を良くないと理解しているカナタは、即座にツカサとウメの間に入った。……当然、ツカサの腕に可能な限り身を寄せながら。
「えっと、あの! 早めに出て、あっちでお昼ご飯を食べようと思っていましてっ!」
「へぇっ、そうかい! メニューは決まっているのかい?」
「お前には──」
「わぁ~っ! オレたちの惚気を聴いてくれるんですかっ? ありがとうございます、ウメさんっ!」
ツカサの機嫌を取りつつ、二人の間に奔る不穏な空気を払拭する。
ヘタクソながらも俊敏な動きのカナタを見て、ウメは思わず「アンタは強い子だねぇ」と呟いた。
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