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5章【そんなに好きにさせないで】

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 再度寝間着に着替えたカナタは、ベッドの上でツカサに抱き締められていた。


「明日のデート、凄く楽しみだねっ」


 弾んだ声でそう言うツカサは、満面の笑みだ。

 明かりを消した部屋でもハッキリと見える距離で、ツカサは笑っている。


「楽しみすぎて、結構マジで眠れるか不安だよ~。……カナちゃんは? 眠れそう?」
「はい、たぶん。寝ちゃうと、思います」
「そっか~、なんでだろ──あっ、射精して疲れちゃったかな?」
「そんっ、そっ、そんなこと、わざわざ言わないでください……っ」


 倦怠感にほどよく包まれたカナタとは対照的に、ツカサは随分と元気そうだ。
 今晩、ツカサは本当に眠れるのか。カナタがそう、思わず心配してしまうほどに。

 カナタはツカサの胸に埋めていた顔を、そっと上げた。


「明日、万全の状態でデートしたいって言ってくれたじゃないですか。それなのに寝不足なのは、良くないと思います」
「それってもしかして、俺がカナちゃんのお尻に挿れなかったから拗ねているってこと?」
「なんでそうなるんですかっ」
「自分だけ我慢を強いられた~、みたいな?」


 機嫌が悪いツカサは手に負えないが、上機嫌すぎても手に余る。
 薄々分かっていたことだが、カナタは今、改めてそう確信した。


「心配しなくても大丈夫だよ」


 ──それは、今晩ちゃんと眠るという意味だろうか。

 言葉を区切ったツカサの顔を、カナタは見つめる。
 すると……。


「デートの後、セックスするって約束したじゃない」


 一瞬、カナタはなんのことかと思案する。

 そこで、カナタは思い出す。


『デートが終わった後も、俺とセックスするって約束して?』


 確かにそう、ツカサは一ヵ月前に言っていた。


『わ、わわっ、分かりました……っ!』


 そしてなし崩し的に、カナタはツカサと約束をしたのだ。

 カナタは顔を赤くして、なにも言えずにツカサを見つめ続ける。
 すると、ツカサが嬉しそうに口角を上げた。


「ほとんど毎日シてるのに、一日できないだけであんなに悲しむなんて……カナちゃんって本当にエッチな子だよねぇ?」
「っ!」
「せっかく外に出るし、明日はホテルでセックスする?」
「ツっ、ツカサさんの馬鹿っ!」


 そう言い、カナタはツカサの胸に顔を埋める。


「あははっ! カナちゃんか~わいっ!」


 頭上からは、楽し気なツカサの声が聞こえた。
 カナタが拗ねていることに気付いているのか、いないのか。


「ねぇ、カナちゃん。カナちゃんも俺のこと、ギュってしてくれない?」


 ツカサはそう言い、カナタの体を強く抱き締めた。


「カナちゃんがギュってしてくれたら、落ち着いて眠れそう。だから、ね? カナちゃん、お願い」


 ──この人は、なんて狡い人なのだろう。

 そんな文句ひとつ、口にはできないまま。


「……おやすみなさい、ツカサさん」


 言われるがまま、カナタはツカサを抱き締めた。




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