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4章【そんなに自分を壊そうとしないで】

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 未だにカナタは、ツカサへの気持ちに正しい名前を付けられていなかった。

 『好き』と口にすることはできるが、それは【優しい年上のお兄さん】としてなのか。
 それとも、本当に【一人の人間】として。
 あまつさえ【恋愛感情】としてなのかも、分かっていない。

 それでもいつからか、カナタはツカサに恐怖心を抱く回数が減っていた。

 ……しかも。


「あっ、は……っ!」


 ツカサの手が、カナタの逸物を握る。
 もう片方の手は、カナタの乳首をつまんでいた。


「カナちゃん、腰動いてる。……もしかして、挿れてほしいの?」
「そ、れは……っ」
「俺も本当はカナちゃんに挿れたいけど、マジでマスターがいつ戻ってくるか分からないからさ。今は我慢、ねっ?」
「ひゃ、あぅ……っ」


 言葉尻に合わせて、ツカサの指が乳首をつねる。
 カナタは体をビクリと震わせて、与えられる快感に翻弄された。


「カナちゃんが俺に犯されたときに見せる、とろけきった顔。……それは、誰にも見せたくないんだ。だから、ごめんね」
「ツカ、サっ、さん……っ」
「そうだよね、早くイきたいよね。焦らさないから、大丈夫だよ。安心して」


 ツカサが手を動かすたびに、くちゅくちゅと淫らな音がダイニングに響く。

 カナタは無意識のうちに、ツカサの手へ逸物を押し付けた。


「イ、く……っ。も、でちゃ……っ」
「いいよ、出しちゃおうか」


 カナタは近付く絶頂に対し、子供のように首を左右に振り乱す。


「はぅ、んっ! ど、しよ……っ。声、出ちゃ……あ、っ!」


 マスターは喫茶店にいるかもしれないが、タイミング悪くこっちの平屋に戻ってくるかもしれない。
 そのことを危惧したカナタは、縋るような目をツカサへ向けた。

 カナタからの視線に気付いたツカサは、小さく笑みを浮かべる。


「今日のカナちゃん、いつも以上に可愛い」
「あっ、んぅ……っ!」
「いいよ、塞いであげる。カナちゃんの喘ぎ声は、俺だけのものだからね」


 どこか優越感にでも浸っているかのような、満足げな瞳。
 ツカサは微笑みを浮かべたまま、快楽の虜となったカナタにキスをする。


「ん、ふ……ん、ぅ」


 キスをされると同時に、ツカサの手が動きを速めた。
 射精を促すようなその手つきに、カナタは呆気なく絶頂へと向かう。


「んぅ、ふっ、んんぅっ!」


 熱い劣情が、ツカサの手とカナタの下穿きを汚していく。
 数回に分けて吐き出された精液は、瞬く間にツカサの手を犯した。


「凄い量だね。そんなに気持ち良かった?」


 唇を離した後、ツカサは放心しかけているカナタへ訊ねる。
 カナタは肩で息をしながら、素直に小さく頷いた。

 ……ぼんやりとした思考の中、カナタは考える。

 ツカサのことをどう思っているのかは、まだ分からない。
 それでも、ツカサとの性交は以前までのように、不快感や恐怖心などのマイナス感情を伴っていないこと。
 そして、ツカサの体温が酷く心地いいことだけではない。

 ──確実に、ツカサに対しての気持ちが変わっていることも。

 それだけは、感情の袋小路を彷徨うカナタ自身にも分かっていた。


「射精した後のトロ顔カナちゃん、凄く可愛い。崩さず壊さず、頭からまるっと食べちゃいたいくらいだよ」


 そして唯一、ツカサに『可愛い』と言われると嬉しくなることは、変わっていない。
 それらも全て、カナタは頭の片隅でハッキリと分かっていた。

 ただそれが、浅ましい依存心なのか。
 それとも、恋愛感情と言い切っていいのかだけが。

 ツカサからの眼差しを受けてもなお、カナタには分からなかった。
 



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