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5章【未熟な社畜は自覚しました】
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しおりを挟む椅子の高さを調整し終え、俺は目の前にあるボタンや画面を見つめた。
なるほど、ボタンを押してペダルの重さを調整できるのか。存在は知っていたけど、実際に触るのは初めてだなぁ~。
カワイは……。……うん、大丈夫そうだ。ボタンをポチポチ押して、負荷を調整しているっぽい。順応が早いなぁ。
「とりあえず、三十分から四十分ぐらい漕いでみよっか?」
「うん、分かった」
スマホことゼロ太郎を立てかけて、っと。俺たちは早速、各々でマシーンの設定をしてからペダルを漕ぎ始めた。
……だけど、二分後。
「なんか、ただ無心でペダルを漕ぐっていうのも暇だなぁ~……」
俺は、心のままに呟いた。
なんと言うか、目的地もなく漕いでいるのはこう、なんと言うか。『つまらない』とは違う、虚無感じみている。
画面には消費カロリーや進んだ距離が表示されているけど、そこをジッと見ているのも、なんだかなぁ~。
なんて意味を込めてぼやくと、カワイは隣の俺を見た後で、前を見た。
「前の方にテレビがあるよ?」
「距離があって音がよく聞こえないし、そもそも興味のある番組じゃないかなぁ。……えっ。もしかしてカワイ、音聞こえるの?」
「うん、バッチリ。でも、聞こえないならつまらないよね。それじゃあ、仕方ないね」
純正悪魔の聴力、えげつなぁ~っ。それとも、カワイの耳がいいのかも?
……カワイの耳、か。俺はジッと、隣でペダルを漕いでいるカワイを見つめた。
「うん、可愛い。可愛いよ、カワイ」
「えっ。いきなりどうしたの? ……ヒト?」
なるほど、カワイを見ながらペダルを漕げばいいのか。これなら、半日ぶっ続けでも漕げるな。
と思っていたら、立てかけていたスマホがブブッと震えた。俺は慌ててスマホを掴み、落っこちてしまわないように支える。
「……あれ? もしかして、今の振動ってゼロ太郎?」
[はい、そうです。主様が通報されないようにと、体を張りました]
えっ、どゆことっ? 分かんない。
ゼロ太郎がスマホを振動させた理由にはてなマークを浮かべていると、カワイがテレビを見ながら話を振ってくれた。
「ヒトが興味のある番組って、なに?」
「うっ。そう言われると、答えに詰まる」
思えば、自宅でテレビなんて全然見ないもんなぁ。出勤前に惰性でニュース番組を流してはいるけど、それが好きかって言われると違うし……。
「カワイは? 部屋にテレビは置いてあるけど、なにか見てる?」
そう言えば、カワイって俺がいないときにテレビとか見てるのかな。興味本位で訊ねると、カワイは前を向いたまま答えてくれた。
「──キ○ーピー○分クッ○ング」
「──伝統ある有名番組、だとッ?」
カワイが『キ○ーピー』って言うの、可愛いなぁ~。驚愕と愛おしさが同時にやって来る答えだ。ありがとう。
減りかけていた元気がフルゲージにまで回復した後、俺も前を向いた。
「でも、こうしてカワイとお喋りしながら運動するのはいいなぁ。付き合ってくれてありがとう、カワイ」
「ボクも興味あったし、連れて来てくれてありがとう」
「カワイはなんていい子なんだ。将来、いいお嫁さんになるよ。……なられたら堪らないけどさ」
「ヒト、目が怖い」
誰がうちのカワイを嫁に出すものか。カワイが欲しいなら俺を倒せ。俺を倒してから、ゼロ太郎を口で倒してみろ。できるものならな。
妙な怒りと闘志を燃やしてペダルを必死に漕ぐと、隣のカワイがオロオロしながらも「負荷、増やした方がいいんじゃないかな」と提案してくれた。
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