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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】
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しおりを挟むお洋服騒動は秘密裏に処理され、俺は今、カワイと一緒にお寿司をテーブルに並べていた。
「昨日言った通り、今日はカワイとお祝いをしちゃうよ~っ。さぁ、カワイ! 遠慮せず、好きなだけ食べてね!」
「分かった。ありがとう、ヒト。ゼロタローも、デマエを呼んでくれてありがとう」
[いえ。【カワイ君のため】ですからね。どういたしまして]
「うぐぐっ!」
ゼロ太郎、ちょっと根に持ってるな? 仕方ないじゃないか、死活問題なんだから。
俺とゼロ太郎のやり取りをなにも知らないカワイは、テーブルに並んだツヤツヤのお寿司たちを見て、喜んでいた。……ように、見える。
悪魔の尻尾が揺れているのは、犬と同じで【喜んでいる表れ】って解釈でいいのかな。でも、ちょっぴりデリケートな部位の気もするから訊きにくいぞ。
「ところで、部屋でただ留守番してるのも暇だったでしょ? することが掃除だけっていうのも、つまんなかったよね。ごめんね、部屋になにも面白い物がなくて」
それよりも、今後の話だ。俺はカワイにお皿を用意しながら、話題を振った。
素直なカワイのことだから、てっきり肯定されるかと思ったのだが。
「ううん、充実した一日だったよ。掃除、楽しかった」
お皿を受け取りながら、カワイは首を横に振った。
「明日は換気扇の掃除と、寝室の掃除をする予定。……だよね、ゼロタロー」
[その通りでございます。可能ならば洗濯機と洗剤の使い方もお教えし、主様に代わって家事を学んでいただければと思っています]
なんという展望だ。ありがたいけど、申し訳ないぞ。
カワイはお寿司と一緒についてきたおしぼりで手を拭いた後、お寿司を選びながらさらに付け足す。
「リビングの掃除もするつもりだし、窓とかも掃除する。この部屋のことはボクに任せて、ヒトはお仕事ムリしないでね」
「カワイ……」
あれ、おかしいな。まだお寿司を食べていないはずなのに、鼻の奥がツンとするぞ。ワサビか? ワサビだよな?
「ありがとう、カワイ。正直、本当にメチャメチャ助かるよ」
仕事を言い訳にするつもりじゃないけど、なかなか家事って手が回らないんだよなぁ。まさに、渡りに船。カワイには本気で申し訳ないけど、でも、ありがたい。
両手を合わせて、夜ご飯とカワイに感謝を。……さて、俺もカワイに続いてお寿司を食べようかな。
カワイは初手でタコのお寿司を口に運び、その弾力に驚きながらもおいしそうに咀嚼をしている。ただお寿司を食べているだけなのに、可愛いなぁ。
なんて、頭の中をふわふわタイムにしていると──。
「──ヒトと指切りした、あの部屋は? 掃除しなくても大丈夫?」
「──んぐっふ!」
危ない! お寿司が喉に詰まるところだった! 俺は慌てて、コップに注いだ水道水を飲んだ。
ゴクゴクとお寿司並びに水を飲み、俺はダラダラと冷や汗をかきながら、カワイから目を逸らす。
「あー、いやっ、あの部屋、あの部屋ね~っ? あはっ、あはは~っ。あの部屋はね、俺が自分でどうにかするからっ。だから、カワイはな~んにも、ま~ったく気にしなくていいんだよ~?」
「そうなんだ。分かった、指切り続行だね」
「うんうんっ、続行続行!」
よ、よし! なんとか誤魔化せたぞ!
ゼロ太郎が心の中で『苦しいですよ、主様』と言っているような気もするけど、気のせいだ!
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