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2章【未熟な社畜をギャップ証明しました】

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 だが、甘いジャッジはカワイのためにならない。
 俺は背筋を正したまま、真剣に真っ直ぐと、カワイを見つめる。


「それじゃあ、例えば? カワイが知ってる【人間界の常識】を言ってみて」
「例えば……」


 適切な例え話をするために一度、カワイが考え込む。その仕草も可愛いなんて、本当に狡い子だ。二億点あげよう。

 カワイは眉を寄せて、悩んで、悩んで……。ポツリと、単語をこぼした。


「……宴会」
「宴会?」


 これはまた、悪魔らしからぬ単語だ。俺は頷きながら、一先ずカワイが持つ【人間界のルール】とやらを拝聴する。


「宴会でカンパイするとき、目下の者はグラスを少し下げる」
「うんうん。他には?」

「他には……。人間は、誰かに見られているときは薬を飲んじゃいけない」
「……うん、うん」

「会社で決裁を受けたり回覧したりする書類にハンコを押すときは、お辞儀をしているようなイメージでハンコを少し傾ける」
「うーん……」

「どう? ボクの人間界に対する知識はカンペキでしょう?」
「──薄々気付いていたけど、知識が偏ってないかな?」


 あるけど! 確かにその風習はあるけども! だけど違う、それは【一般常識】ではないから!

 なんだろう、この『ジャパニーズ忍者』と言われているような気持ちは。合っているんだけど、少し違う、みたいな。忍者はジャパンにしかいないから、ジャパニーズもなにもない、みたいなさ!

 なんだか、日本の細かな風習に魅了されて偏った知識を嬉々として話す外国人を見ているような気持ちだ。間違ってはいないけど、間違っている。

 俺のツッコミを受けたカワイが、静かに衝撃を受けた。


「違う、の? 魔界の図書館にある本には、そう書いてあったのに……」
「えぇえっ! このズレた常識、魔界で書籍化してるのっ?」


 助けを求めるように壁を見ると、ゼロ太郎が冷静に[気になるようでしたら、ダウンロード購入いたしましょうか?]と提案してきたではないか。買えるのか、魔界の本! さすが人工知能の最高峰だ!

 まぁ、そこはおいおい常識のすり合わせをしていくことにして、と。俺は立ち上がり、スーツから着替えるために移動を始めた。


「えっと、ちょっと着替えてくるね。その間に夜ご飯、なにが食べたいか考えておいて?」


 今の時間でも出前を頼める料理を、ゼロ太郎が壁やら天井やらに画像表示してくれるだろう。その間に、俺は部屋着に着替えなくては。

 なんて、思っていた矢先に。


「──ヒト。ボクまだ、ご褒美貰ってない。ギューは?」
「──いったァッ!」


 自分の右足に左足をぶつけた俺は、その場で盛大にすっ転んだ。『ドベシャッ!』と大きい音が鳴ったが、それどころではない。


「えっ、えっ! いっ、いいのっ? 本当にギュッてしていいのっ?」
「うん、してほしい。その服カッコいいから、今のヒトにギューッてされたい」

「あぁあァッ! ゼロ太郎ありがとうッ! スーツ一式仕立ててくれてありがとうぅーッ!」
[まさか主人から雄叫び交じりに感謝を告げられる日がくるとは……]


 盛大に転んで鼻とかをぶつけたけど、そんな痛みは吹っ飛んだ。

 俺はカワイが求めるままに、その華奢な体をムギュッと抱き締める。うん、仕方ないよな。だって、カワイが望んだんだから。うんうん、合法、合法。




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