67 / 78
【足あと売りのアシ】
【深夜・1時26分】
しおりを挟む深夜に、アウィーはそっと目を覚ます。
そしてすぐさま、視界に見覚えのある後ろ姿を見つけた。
『──足あと売りさん!』
すかさず、アウィーは起き上がる。不思議なことに、アウィーがいるのは相変わらず、アウィーが眠った部屋だった。
だが、この不思議な現象はどうだっていい。こんなことを問答している時間は無いのだから。
アウィーに呼ばれた足あと売りさん──アシは、実に楽しそうな様子でアウィーを振り返った。
『また会えたね、可愛いお客様。追加注文かな? ありがとうございます~』
『お願い! あの人をっ、ゲッネを助けてっ!』
『ゲッネ……って、キミが欲しがった足あとの名前かい? いったいぜんたい、どういったご注文で?』
アウィーは、はやる気持ちを抑えつつ。……けれど、興奮気味に。アシへと、事の経緯を説明した。
意外にも清聴してくれたアシに若干驚きつつも、アウィーは全てを話し終える。すると、アシは頷きながら相槌を返してくれた。
『なるほどね~。あの夜、なんだかベッドでやけに盛り上がってるな~とは思ったけど……なるほど、なるほど。それはなんて言うか、残念だったね~?』
『そんな簡単に流さないでっ! そもそも、そっちが請求したお代なんでしょうっ! だったら最後まで責任を持ってよッ!』
『……んん? ボクが請求したお代、だって?』
アシが、小首を傾げる。その反応はアウィーにとって、全くの予想外だ。
そしてまたしても、アウィーにとって予想外の言葉を、アシはあっけらかんと呟いた。
『──キミからのお代は、今晩請求するつもりだよ?』
『──え、っ?』
呆然とするアウィーを見て、アシは『なにか勘違いしていない?』とでも言いたげだ。
しかし、アウィーはアシの態度に構っていられない。
あの悪夢のような出来事が、請求されたお代ではないのなら。それならいったい、これ以上なにを?
アウィーは、ペタリとその場にへたりこんだ。なにも言えずにただただ、座り込むことしかできなかった。
打ちひしがれているアウィーにはお構いなしに、アシはアウィーが使っている枕の下に手を突っ込んだ。そして、一枚の紙切れを引きずり出した。言うまでも無く、アウィーが泣きながら用意した紙切れだ。
『まさか、キミみたいな若い子からクレームが入るなんて思ってなかったからさ~? 普段はクレーム対応なんてしないんだけど、キミは可愛いから特別に来てあげたってワケ! ……でも、なんだかキミの勘違い? だったみたいだね? あ~、良かった!』
『……私の、顔……な、の?』
『ん~?』
アウィーは床を見つめ、生気の無い声で訊ねる。
『足あとの、お代って……私の顔、なの……?』
俯くアウィーの声は、暗い部屋の中に溶けていく。アシはアウィーを見下ろして、それから……。
『──それは、キミが起きてからのお楽しみってことで!』
アシは、無邪気に笑ってみせた。
『そんなに気になるなら、目を覚ませばいいよ。そうすれば、答えはすぐだからさっ』
どこまでも無邪気に、どこまでも楽しそうに。アシはただ、笑っていた。
20
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。


会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる