上 下
35 / 68
【星巡り】

【四季のある星】

しおりを挟む



 その星で出会ったのは、草や花で体を覆うひとりの少女だった。


「四季! わたしたちには四季があればそれでいいの! だって、四季って素晴らしいもの! ……ねぇ、お姉ちゃん? お姉ちゃんもそう思う?」


 愛らしい少女は、沢山の花を抱き締めながら、その中のひとつを私に差し出す。

 この星は、四季で満ちている。少し瞳を動かせば、あちらこちらから色々な匂いがした。

 ──貴女は四季の、なにが好きなのですか?

 少女に訊ねると、無邪気な笑みが向けられた。


「全部! 春の花も、夏の雨と日差しも、秋の涼しさも、冬の雪も……全部好きだよ!」


 ──【全部】?

 周りをぐるりと見渡してみると、少女の言っていることが分かる気がする。
 冬眠から目覚めた動物達が大地を踏み、小麦色の肌をした子供たちは葉の赤くなった木々を登り、そして、積もった雪を掴んでいる。……どうやら、この星は四季に溢れている星らしい。

 ──貴女は今、夏の花々を抱いていますよね?

 ──それらが枯れることを、やるせないとは思いませんか?

 少女は、小首を傾げた。


「『やるせないかどうか』って? そんなことないよ! だって、お花は枯れちゃうからキレイなんだもん! それに、お花がなくても葉っぱがあるし、その後は雪もあるもん。だから、これ以上にステキなことなんてないと思うよ?」


 ──なるほど。

 この星で重要なのは、四季があるかどうか。四季があるならそれで良くて、ないならそれまでらしい。

 飽きのこない星だとは、思う。ここで暮らしたなら、私はきっと二度ない毎日を大切に思えるかもしれない。

 ──もうひとつ、質問してもいいですか?


「もちろんだよ! なんでも訊いて!」


 少女の笑みに頷いた後、私は訊ねた。

 ──貴女も貴女の両親もお金がなくて、偉い人になれなくても。……それでも、貴女は今みたいに笑っていられますか?

 少女は……やはり、笑みを崩さなかった。


「──もちろんだよ! だってわたし、お金のおかげで四季を感じたこと、一回もないもん! えらくなりたい~って思ったこともないし、お金があったって四季をどうにかできるわけでもないし! お金とえらさだけじゃ、つまんないもん!」


 ──どういうことでしょうか?

 少女はハキハキと、まるで両親に今日あった楽しかったことを聞かせるかのような興奮ぶりを見せる。


「お金があって、楽しいこともたしかにあるって思う。でも、それは四季じゃないもん! お金があったって本物の雨は降らせられないし、雪をいっぱい降らせることもできない。それに、どれだけえらくてもキレイなお花をキレイって思えないなら、ヤッパリつまんない! 意味ない! ……ちがうかな?」


 それは……私にとって目から鱗が落ちるような話だった。
 それが、この星の【四季】。この星の、全てなのだ。

 ──お金がなくても、四季があるのなら。……貴女は、幸せですか?

 私の呟きに対する返事は、私に対するものではなかった。


「──あっ! お姉ちゃん、たいへん! お母さんが『今日は吹雪よ』って言ってたのわすれてた!」


 不意に。
 私は風と雪に、体を押された。

 足を踏み外した私は。……そのまま、星から落下した。


「あぁっ、ねぇねぇ! そう言えば、お姉ちゃん……どうして──」


 少女の声が、よく聞こえない。
 四季のある星が、どんどん遠ざかっていく。

 ……もしも、もしも。
 あの星の人々が、自然に触れられなくなったら。少女たちは、どう思うのだろう。

 あの星から落下していく私には、到底分かるはずもない話だけれど。 




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

処理中です...