上 下
7 / 68
【幼馴染みは恋愛がヘタ!】

6

しおりを挟む



 これで、相談は完了だろう。悩みは無事に、解決しただろうか。玲はデコピンに怯える姫毬を見た。

 玲から向けられた視線に、姫毬はすぐさま気付く。


「えっと、ありがとう、れーくん。わたし、明日キャプテンさんの教室に行ってみるね。それで、ちゃんとお断りするよ」
「結局ソイツのところに行くのかよ。……ついて行かなくて平気か?」
「うん、平気っ。なにかあったら大声で『助けて!』って叫ぶから心配ないよっ!」
「その状況がそれはそれで心配なんだが」


 なにがどう転べば、学校の中で『助けて』と叫ぶ状況になるのだろう。心配だ。……キャプテンが。

 しかし、姫毬の表情はやけにスッキリとしている。完璧に悩みが解決したようだ。玲は一先ず、ホッと安堵する。


「それで、教室に行ってどう断るんだよ」


 だからこれは、ただの雑談だ。玲はチョコをつまみながら、姫毬に訊ねる。
 すると姫毬は、ニコリと笑みを浮かべた。それからポスッと、玲の肩にもたれかかる。

 彼女からの唐突すぎるスキンシップに、健全な男子高校生である玲はビクッと身を震わせて驚いた。


「なッ。お、おいっ、姫毬──」
「──『世界一カッコいい彼氏くんにゾッコンです』って言うねっ?」


 だがすぐに、玲は体を硬直させる。
 ビシリと体を固める玲を見上げて、姫毬はほんの少しだけ驚いた様子だ。


「あれっ? もしかして……れーくん、照れてる?」
「誰がアホ姫毬相手に照れるかっつの」
「えぇ~っ? でも、顔赤くない?」
「夕日じゃねぇの」


 自分だってさっきまで顔を赤くしていたくせに、どの口が。
 そもそも玲は気付いても指摘しなかったと言うのに、なぜ姫毬はわざわざ口にするのか。ぽやんとしている姫毬の思考は分からない。

 ……だが、そういう天然でフワフワ思考の姫毬にゾッコンなのだから、玲は文句を言えなかった。
 トンと、玲は姫毬の頭に頬を寄せる。


「……あー、のさ」
「うん? なに?」
「姫毬は、言いたいのか。周りに、俺と……付き合ってる、って」
「えっ、全然?」


 意外にも、カラッとした返事。
 てっきり寂しい思いをさせているのかと思ったが、どうやら違ったらしい。姫毬の返事に、玲は安堵──。


「だってれーくん、女の子に冷たいから全くモテないでしょ? だから、わざわざ『彼女がいます』って言わなくても心配な──いたたっ! 痛いっ、痛いよれーくぅんっ!」


 ──ではなく、怒り心頭。

 玲は姫毬の頭にグリグリと自分の顔を押し付け、スキンシップじみた攻撃を始めた。


「俺だってそこそこモテるわバカ姫毬!」
「えぇ~っ、嘘だぁ~っ! って、ひゃんっ! 髪の毛を引っ張らないでよぉ~っ! 叫ぶよっ? 大きな声で『助けて』って叫──あっ、ご、ごめんなさい嘘だよっ、置いて行こうとしないでよぉ~っ!」


 前言撤回。姫毬のアホさ加減は、どうにかならないものか。

 スクールバッグとチョコを回収してベンチから立ち去ろうとする中、恋人の手によって制服を鷲掴みされながら……玲は、深い深いため息を吐いたのであった。




【幼馴染みは恋愛がヘタ!】 了




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お見合いすることになりました

詩織
恋愛
34歳で独身!親戚、周りが心配しはじめて、お見合いの話がくる。 既に結婚を諦めてた理沙。 どうせ、いい人でないんでしょ?

憧れの先輩とイケナイ状況に!?

暗黒神ゼブラ
恋愛
今日私は憧れの先輩とご飯を食べに行くことになっちゃった!?

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

処理中です...