マチエール

カマンベール

文字の大きさ
上 下
29 / 62
3

29話 お寿司

しおりを挟む
県立美術館。市から代表で選ばれた作品を制作した高校生達が会場に集まり、作品鑑賞を楽しんでいる。
 
「すげ、俺たちの絵、並んで飾ってある」

湊と大翔は美術部の顧問、的場先生の車に乗って県立美術にやってきた。

2人とも薄水色のシャツ、明るい水色チェックのネクタイとスラックスを履いている。

大翔は黒のリュックを担いでオレンジのクロックス履き、湊はスクールバッグを持ち茶色の革靴を履いている。
 
「湊の絵も県立に進むと思わなかった。特別賞だけど、市立美術館のエントランスに飾るだけって意味に聞こえた」

「俺もそう思った。県立に進んで嬉しいなあ」


「あれ?大翔くんと、そのお友達だ~」

明るい声の方を見ると赤髪を結んだ、キラキラオーラの男がいた。ノーネクタイで薄水色のシャツを着て、水色チェックのスラックス、茶色の革靴、生成り色のトートバッグを持っている。

大翔と湊が着るとコスプレ感の強い制服なのに、鳩田淳が着るとしっくりくる。

大翔は(今日もオーラがすごい…)と思った。

「2人は的場先生の車で来たの?すごいね!俺は普通に電車で1人で来たよ~!」

「八王子先輩と一緒じゃないんですか?」

「なんか最近忙しそうで~。俺ももう八王子家から卒業する時期だな~て、しみじみ思う」

(八王子家からの卒業?)

大翔と湊が頭にハテナを浮かべていると、マイクを持った大人が前に出た。

少し離れたとこで淳と的場先生が、会話をしていた。

「今日来ないと思ってて…来るなら車出したのに」

「先生の家から反対方向じゃん~」

アナウスが、会場に響いた。

「お待たせいたしました。国立美術館に進む作品が決定しましたので発表いたします。美術部門からは……………」



「湊くんは人を感動させる能力があるね~」

笑顔の淳が、おしぼりで手を拭きながら、目の前に座る湊を褒めた。その横には大翔が座っている。

「まさか僕の絵が国立に進むなんて…」

湊は表彰が入った筒をテーブルの上に立たせている。

美術部門から1枚だけ選ばれた作品は湊の描いた昇り龍だった。

まさか自分が選ばれるとは思わず、発表の言葉を全く考えていなかったため、適当に思いついた言葉を話していたが、会場では涙する人が何人も見えた。

「俺も選ばれたかったな~。今日は奢るからいっぱい食べてね♡」

そういって淳は、テーブルの横についている蛇口を捻ろうとした。

「わわわ、危ないですよ!火傷しますって」

湊が素早く湯呑みを差し出して、お湯を受け入れた。

「火傷…?手洗い場で…?」

湊は湯呑みに、お茶の粉をいれながら質問した。

「手?これお茶作るための熱湯でる蛇口ですよ?…淳先輩、もしかして100円寿司初めてですか…?」


「うん、初めて。CMで見て行ってみたくて…でも職人さんも見当たらないし、どうやって注文するかもわかんない…😣」

「サンプル品すごい本物みたい」といって、流れているマグロを指でつつこうとしたので、大翔が慌てて皿を取り上げた

「だめ!食べないのにベタベタ触っちゃ!」

「それ食べれるの?」

大翔と湊はタッチパネルの使い方、お皿の取り方、わさびの出し方、お会計の仕組み…全てを細かく教えた。


「鳩田先輩の実家ってお金持ちなんですね…回らない寿司しか知らないなんて。一人暮らししてるのもすごいですし」

教え疲れた大翔は、マグロを食べながら本音まま話した。

淳は驚いた顔をした。

「お金持ち…?真逆だよ!両親はパチンカスのアル中借金持ちで、俺は放置子だしバカだから常識がなくて」

大翔と湊の思考と手が止まった。淳の口から出てくると思えないな言葉が出てきたから。

大翔が「ほうちご…?」とつぶやいた。

「ずっと公園にいたり、外うろついてて、大人に構ってもらおうとしてたよ」

「だ、だから家事力すごいんですか?あのバズってるナイトルーティンの動画、あの動きはかなり手慣れてますよね」湊は焦った顔をしながら口を開いた。

「あれは全部レオに教えてもらった。小3のとき、高熱で公園で倒れてたらレオのパパが俺のこと拾って。レオのママが歯科医だから、俺のひどい歯を全部治してくれた」

淳は寿司に何もつけずに、箸でパクパク食べた。

大翔は醤油ボトルを持って説明した。

「先輩、お醤油はこれを使って、お皿はないので直接、ネタにかけて…それか空いたお皿に醤油をいれて…」

「寿司って醤油つけて食べるものなの?ありがと」

大翔と湊は微笑み顔で固まってしまった。

「八王子家に入り浸るようになったけど、泊まると両親が捜索願いだすから実家には帰ってた。ある日、レオが怒ったんだよね。自立しろって。家事とか全部教えてくれて。YouTuberになって稼げっていうから言われた通りした。赤い髪もキャラ作りのためにしろって言われて」

淳はモグモグしながら上の空になった。

「俺がしっかり者で、いつも気だるそうで偉そうなレオを支えてるって設定だけどね。レオが台本かいて編集もしてるけど、いい加減に自立しなきゃなーと思って」

大翔は鳩田淳のことを、しっかりした頼れるお兄さんだと思っていた。それは八王子レオの台本だったのか?

「大翔くんとレオ見てると、昔の俺とレオを思い出すんだあ。レオって枯れそうな観葉植物を買って育てるのも趣味だし。かわいそうな子はほっとけないっていうか。なんだかんだ言って人を育てるの好きなんだよね。彼女も育ててたし」

そう言って笑う淳は、相変わらずキラキラしていた。そのキラキラは大翔の全身に刺さった。内側から刺されたように痛みが走る。痛風になったのかな?と思った。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...