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21話 やば
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「…だから、緊張するって…」
大翔は目線を外した。レオは頭上の壁にあるハンガーにブレザーをかけて、大翔の方に体を向けて座った。
「俺はちゃんと顔見て話したいよ。おかしいじゃん、近くにいるのに」
いつになく真剣な表情だ。
「俺がお前のリップクリーム使ったのは…本当に悪気はなくて。動画の編集は俺がやってるんだけど、カットしなくてもいいと思ったし。腐女子の心理をよく理解してなかったから。まぁ、今も意味分からんけど。こんな騒がれるならカットしとけば良かったって思ってる。ごめん。」
目線をそらしていた大翔がレオの瞳を見た。キラキラした薄い色素の瞳は嘘をついているように見えない。ついにオレ様レオ様の口から謝罪の言葉が出た!
「で、お前のリップクリーム使った理由だけど…本当にしたいから、した。この前も同じこと言った気がするけど」
この前とは、中休みのことだろう。窓越しに口論したとき、確かにそんな事を言っていた。
「イタズラのためじゃなくて、お前が使ったものを使いたいなって思ったから。そこを、なんで?て聞かれると分からんのやけど…うーん………」
レオは自分のおでこを押さえてしばらく考えた。
「……………可愛かったから?」
「……………え?」
思いもよらない言葉に戸惑う大翔、発言者も同様に戸惑っている。
「純真無垢ですっていう、細いけどまん丸な顔で、されるがままにしてて…もう朝9時なのに、まだ寝起きっぽい眠そうな顔で。うん、可愛かったから。俺も…このリップ使っちゃえ~って、テンションあがって…?ってなった…?のか…………?」
「可愛い………」
カリカリでゴボウと似てると言われていた俺が、可愛い…?目つきの悪いつり目なのに…?
顔も細いと思ってたが、まん丸に思われていたのか…?たしかに鳩田淳と八王子レオのシャープな輪郭がくっきりした顔と比べたら丸いかもしれない…
「可愛い…」
大翔はもう一度つぶやいた。可愛くないと否定したかったが、その人の感性を否定したくなくて何も言えなかった。
「ショーコと本当に仲間じゃないんですか?」
「そうだって」
「じゃあなんでバス停まで送るって?俺に近づくなって、先輩が言ったのに」
大翔は眉をひそめ、レオと目を合わせた。瞳が潤んでいる。泣きたいことなんて、何もないのに。自分でも分からない。
「ん~、ちょっと怒りすぎたなぁと思って、名誉挽回のために」
「名誉…」
「たぶん」
レオは大翔を見ず、機械を操作する。画面には歌が流れた。
♫
気づいてほしい 認めてほしい
それだけの行為だった
並んだ2人は、ボーと画面を見た。
大翔はさらに問い詰めた。
「昨日…なんでわざと横に座ったんですか?」
♫
返してほしい 愛してほしい
そんなの愛じゃなかった
間を開けてレオが答えた
「可愛かったから」
「…はい」
可愛いから近付いた?
何を言っているのか。まず俺は可愛くないと言いたいし…。
人前で俺に近づいたら、周りから色々言われることは知ってるのに、どうしてそうするのか。
鳩田淳はなんで余計なことを言ったのか。
聞きたいことはまだあったが、大翔はもう疲れた。
レオの香りが充満するこの部屋の中に2人でいることは危険だ。頭が、頭のおでこから真ん中にかけた当たりがジンジンする。落ち着かない。頭も体も、どんどんおかしくなる。
(八王子レオは八王子レオでいることで、頭おかしくなんないのかな?自分の顔見えないから大丈夫なのか…)
大翔はテーブルにあるドリンクをとって、ソファーに深く腰掛けた。ストローに口をつけゴクッと一口飲む。
「…あれ?俺、お茶入れたっけ」
「それ俺の。お前のコップはドリンクバーに置きっぱなし」
「あぁあ…、ごめんなさい…先輩が嫌なことを…」
「(こいつに初めて謝られた気がする)いや、だから、お前なら大丈夫なんだって」
「……可愛いから?先輩、俺もう限界です。お願いだから俺の顔そんな見ないで…」
大翔はコップを持ったまま立ち上がり、後ろの壁にかけられたブレザーを空いた手で引っ張ろうとした。
「お兄ちゃん~?」
「大翔くーん」
「大翔~~」
千鶴、はっちゃん、湊の声が遠くから聞こえた。
「ドリンクバーにもいないねぇ」
「男子トイレにもいなかったし」
「お兄ちゃんおごりたくなくて逃げたな?!?!」
「うーん、学校戻って絵描いてるんかなあ。アイディア出たとか言って」
「カバンもスマホも置いたまま?お兄ちゃんならありえるわ」
「お金みんなある?もーちょい歌おうよ~」
声が遠くなり、聞こえなくなった
丸くなり停止していたレオの背中が動いた。
ソファーに両膝を乗せているレオが「ごめん…」と言って声をあげる。頭にフードをかぶっている。
レオのすぐ近くにはシャツが茶色の液体でびちゃびちゃになった大翔が座っていた。
数十秒前。
千鶴たちの声に驚いた大翔は、ブレザーを取る前に急いで座った。
レオは彼の手から落ちそうなコップを取るため、ソファーに両膝を乗せて手を伸ばした。
ワチャワチャの末、コップは落とさずに済んだが、中身のお茶は全て大翔のシャツに飛んでいった。
「下着までびっちょびちょ…」
大翔はワイシャツのボタンを外して、雑に脱いでテーブルに投げた。中に着ていたTシャツも脱いでワイシャツの上に投げた。
「はぁ…裸にブレザーで部屋に戻るしかない…」
といって、上半身裸で立ち上がり、ブレザーを取ろうとした。
「男性アイドルじゃねーんだから、それはやめたほうが良いと思う」
と言ってレオはタンクトップのパーカーを脱いで、大翔に投げた。
オーバーサイズの黒のタンクトップパーカーの下からは、体のラインにぴったりくっついた黒のタンクトップが出てきた。
「俺がブレザー着て帰る。で、その服も洗ってやるよ。鳩田ん家すぐそこだから」
レオは大翔のブレザーを羽織った。大翔が着るとブカブカのブレザーは、レオが着ると袖が短かった。
「え?なんで俺のブレザーを先輩が着るんですか?」
「俺にこのピチピチのタンクトップの下着姿で帰れと?」
「嫌なんですか?そういう人、よくいるじゃないですか」
「嫌だよ…恥ずかしい…じゃあお前がタンクトップで帰れば?」
レオはタンクトップを脱いで、白い肌を出した。
大翔はレオの体を見て思わずギョッとした。貧相な自分のペラペラな体とあまりにも違う。細いのになんでか筋肉質で自分よりも分厚くて、お腹の筋肉が割れている。
レオと淳がアイドルごっこをした画像を思い出した。網戸みたいなタンクトップを着ていたので、薄い脂肪の下から出ている筋肉には気づいていたが、いざ目の前で自分の体と比べると全然違う。
(俺…ペラペラで、ぽちゃぽちゃで…幼児体形じゃん……………)
「はい、着て」
レオは大翔の頭にガバっと下着をかぶせ、腕を通させた。
「うわっ」
レオの手が大きくて温かくてビクッとした。
「ハハッ ブカブカじゃん」
(あったかいし…先輩の匂いするし………あぁああ…………………)
レオは笑ったあと、大翔に投げたタンクトップパーカーを拾って、自分で着直した。
レオの下着に包まれた大翔は、ハグされた事を思い出して、なんだか無性にイライラした。
「スラックスは濡れてないよな?」
そういってレオは大翔のベルトに指を引っ掛けた。
「ちょ………………!!!」
大翔は猫の手のポーズをした。その手は行き場に困り果て、彼は下を向いたまま全身が停止した。
「……大丈夫だね」
距離を縮めすぎた。と気づいたレオはベルトから手を離して後退りした。
大翔は下を向いたままだ。顔は見えないが、耳の上が赤くなっている。
「なんでそんな俺に緊張するの?」
「…先輩だから」
(俺だから?年上だから?どっちの意味?)
「お前…挙動不審すぎるけど千鶴ちゃんとこ戻れる?もう本当にそのまま帰れば?俺、うまいこと言っとくよ。何号室?」
「え…?いや………」
「先輩に任せなさーい」
レオ先輩に関わってろくなことがないのですが。でも大翔は本当に1人で帰りたかった。なにもかも恥ずかしくて逃げたい。
「405です…」
「オッケー。まぁ、あとは俺に任せて。ちょっと行ってくる」
レオはドアを開けて405号室に向かった。
大翔は部屋の中で突っ立った。しばらくして、彼も部屋の外に出た。遠くから女の悲鳴が聞こえた気がした。
大翔は目線を外した。レオは頭上の壁にあるハンガーにブレザーをかけて、大翔の方に体を向けて座った。
「俺はちゃんと顔見て話したいよ。おかしいじゃん、近くにいるのに」
いつになく真剣な表情だ。
「俺がお前のリップクリーム使ったのは…本当に悪気はなくて。動画の編集は俺がやってるんだけど、カットしなくてもいいと思ったし。腐女子の心理をよく理解してなかったから。まぁ、今も意味分からんけど。こんな騒がれるならカットしとけば良かったって思ってる。ごめん。」
目線をそらしていた大翔がレオの瞳を見た。キラキラした薄い色素の瞳は嘘をついているように見えない。ついにオレ様レオ様の口から謝罪の言葉が出た!
「で、お前のリップクリーム使った理由だけど…本当にしたいから、した。この前も同じこと言った気がするけど」
この前とは、中休みのことだろう。窓越しに口論したとき、確かにそんな事を言っていた。
「イタズラのためじゃなくて、お前が使ったものを使いたいなって思ったから。そこを、なんで?て聞かれると分からんのやけど…うーん………」
レオは自分のおでこを押さえてしばらく考えた。
「……………可愛かったから?」
「……………え?」
思いもよらない言葉に戸惑う大翔、発言者も同様に戸惑っている。
「純真無垢ですっていう、細いけどまん丸な顔で、されるがままにしてて…もう朝9時なのに、まだ寝起きっぽい眠そうな顔で。うん、可愛かったから。俺も…このリップ使っちゃえ~って、テンションあがって…?ってなった…?のか…………?」
「可愛い………」
カリカリでゴボウと似てると言われていた俺が、可愛い…?目つきの悪いつり目なのに…?
顔も細いと思ってたが、まん丸に思われていたのか…?たしかに鳩田淳と八王子レオのシャープな輪郭がくっきりした顔と比べたら丸いかもしれない…
「可愛い…」
大翔はもう一度つぶやいた。可愛くないと否定したかったが、その人の感性を否定したくなくて何も言えなかった。
「ショーコと本当に仲間じゃないんですか?」
「そうだって」
「じゃあなんでバス停まで送るって?俺に近づくなって、先輩が言ったのに」
大翔は眉をひそめ、レオと目を合わせた。瞳が潤んでいる。泣きたいことなんて、何もないのに。自分でも分からない。
「ん~、ちょっと怒りすぎたなぁと思って、名誉挽回のために」
「名誉…」
「たぶん」
レオは大翔を見ず、機械を操作する。画面には歌が流れた。
♫
気づいてほしい 認めてほしい
それだけの行為だった
並んだ2人は、ボーと画面を見た。
大翔はさらに問い詰めた。
「昨日…なんでわざと横に座ったんですか?」
♫
返してほしい 愛してほしい
そんなの愛じゃなかった
間を開けてレオが答えた
「可愛かったから」
「…はい」
可愛いから近付いた?
何を言っているのか。まず俺は可愛くないと言いたいし…。
人前で俺に近づいたら、周りから色々言われることは知ってるのに、どうしてそうするのか。
鳩田淳はなんで余計なことを言ったのか。
聞きたいことはまだあったが、大翔はもう疲れた。
レオの香りが充満するこの部屋の中に2人でいることは危険だ。頭が、頭のおでこから真ん中にかけた当たりがジンジンする。落ち着かない。頭も体も、どんどんおかしくなる。
(八王子レオは八王子レオでいることで、頭おかしくなんないのかな?自分の顔見えないから大丈夫なのか…)
大翔はテーブルにあるドリンクをとって、ソファーに深く腰掛けた。ストローに口をつけゴクッと一口飲む。
「…あれ?俺、お茶入れたっけ」
「それ俺の。お前のコップはドリンクバーに置きっぱなし」
「あぁあ…、ごめんなさい…先輩が嫌なことを…」
「(こいつに初めて謝られた気がする)いや、だから、お前なら大丈夫なんだって」
「……可愛いから?先輩、俺もう限界です。お願いだから俺の顔そんな見ないで…」
大翔はコップを持ったまま立ち上がり、後ろの壁にかけられたブレザーを空いた手で引っ張ろうとした。
「お兄ちゃん~?」
「大翔くーん」
「大翔~~」
千鶴、はっちゃん、湊の声が遠くから聞こえた。
「ドリンクバーにもいないねぇ」
「男子トイレにもいなかったし」
「お兄ちゃんおごりたくなくて逃げたな?!?!」
「うーん、学校戻って絵描いてるんかなあ。アイディア出たとか言って」
「カバンもスマホも置いたまま?お兄ちゃんならありえるわ」
「お金みんなある?もーちょい歌おうよ~」
声が遠くなり、聞こえなくなった
丸くなり停止していたレオの背中が動いた。
ソファーに両膝を乗せているレオが「ごめん…」と言って声をあげる。頭にフードをかぶっている。
レオのすぐ近くにはシャツが茶色の液体でびちゃびちゃになった大翔が座っていた。
数十秒前。
千鶴たちの声に驚いた大翔は、ブレザーを取る前に急いで座った。
レオは彼の手から落ちそうなコップを取るため、ソファーに両膝を乗せて手を伸ばした。
ワチャワチャの末、コップは落とさずに済んだが、中身のお茶は全て大翔のシャツに飛んでいった。
「下着までびっちょびちょ…」
大翔はワイシャツのボタンを外して、雑に脱いでテーブルに投げた。中に着ていたTシャツも脱いでワイシャツの上に投げた。
「はぁ…裸にブレザーで部屋に戻るしかない…」
といって、上半身裸で立ち上がり、ブレザーを取ろうとした。
「男性アイドルじゃねーんだから、それはやめたほうが良いと思う」
と言ってレオはタンクトップのパーカーを脱いで、大翔に投げた。
オーバーサイズの黒のタンクトップパーカーの下からは、体のラインにぴったりくっついた黒のタンクトップが出てきた。
「俺がブレザー着て帰る。で、その服も洗ってやるよ。鳩田ん家すぐそこだから」
レオは大翔のブレザーを羽織った。大翔が着るとブカブカのブレザーは、レオが着ると袖が短かった。
「え?なんで俺のブレザーを先輩が着るんですか?」
「俺にこのピチピチのタンクトップの下着姿で帰れと?」
「嫌なんですか?そういう人、よくいるじゃないですか」
「嫌だよ…恥ずかしい…じゃあお前がタンクトップで帰れば?」
レオはタンクトップを脱いで、白い肌を出した。
大翔はレオの体を見て思わずギョッとした。貧相な自分のペラペラな体とあまりにも違う。細いのになんでか筋肉質で自分よりも分厚くて、お腹の筋肉が割れている。
レオと淳がアイドルごっこをした画像を思い出した。網戸みたいなタンクトップを着ていたので、薄い脂肪の下から出ている筋肉には気づいていたが、いざ目の前で自分の体と比べると全然違う。
(俺…ペラペラで、ぽちゃぽちゃで…幼児体形じゃん……………)
「はい、着て」
レオは大翔の頭にガバっと下着をかぶせ、腕を通させた。
「うわっ」
レオの手が大きくて温かくてビクッとした。
「ハハッ ブカブカじゃん」
(あったかいし…先輩の匂いするし………あぁああ…………………)
レオは笑ったあと、大翔に投げたタンクトップパーカーを拾って、自分で着直した。
レオの下着に包まれた大翔は、ハグされた事を思い出して、なんだか無性にイライラした。
「スラックスは濡れてないよな?」
そういってレオは大翔のベルトに指を引っ掛けた。
「ちょ………………!!!」
大翔は猫の手のポーズをした。その手は行き場に困り果て、彼は下を向いたまま全身が停止した。
「……大丈夫だね」
距離を縮めすぎた。と気づいたレオはベルトから手を離して後退りした。
大翔は下を向いたままだ。顔は見えないが、耳の上が赤くなっている。
「なんでそんな俺に緊張するの?」
「…先輩だから」
(俺だから?年上だから?どっちの意味?)
「お前…挙動不審すぎるけど千鶴ちゃんとこ戻れる?もう本当にそのまま帰れば?俺、うまいこと言っとくよ。何号室?」
「え…?いや………」
「先輩に任せなさーい」
レオ先輩に関わってろくなことがないのですが。でも大翔は本当に1人で帰りたかった。なにもかも恥ずかしくて逃げたい。
「405です…」
「オッケー。まぁ、あとは俺に任せて。ちょっと行ってくる」
レオはドアを開けて405号室に向かった。
大翔は部屋の中で突っ立った。しばらくして、彼も部屋の外に出た。遠くから女の悲鳴が聞こえた気がした。
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