9 / 11
♦️勇者と邪竜巫女の対決♦️
しおりを挟む
時は午前11時頃、太陽の光を浴びる大草原にアレンとレイラがピクニックをしにやって来ていた。
もっとも、ピクニックと言っても修行のために来ていたため、ランチを終えるとすぐに特訓を始めた。
「いくぜレイラ!」
「来なさいアレン!」
お互い相手の動きを見逃さないように睨みあってからすぐに距離をつめるために走った!
そして二人同時に剣を出現させると、お互い相手に向かって剣を振り下ろした!
お互い振り下ろすタイミングが同時でつばぜり合いになったが、レイラの方が力があるぶんアレンを押していた!
「ふふふ、どうしたのアレン♪ 本気をだしていいのよ♪」
「うぐぐぐ、余裕か……だが負けてたまるかああああ!」
アレンは顔を真っ赤にしながら全身に力を入れてレイラの剣を押した!
すると徐々にだが、レイラを押されていった。
「あら? やるじゃないアレン♪ でもまだまだ!」
レイラはそういうと、更に力を加えてきてアレンを押し返した。
「うおおおお! まじかよ! 俺は全力を出していたのに、レイラはまだまだ出していなかったのか!」
「ごめんねアレン……でも気にしないで、この力の差は種族の違いなだけだから、アレンが弱いわけじゃないわ」
「いや、そんなのは理由にならない! だって俺はレイラを護るために強くなりたいのだから、少なくともレイラより強くならないと護れない!」
「アレン………そうね、そうかもしれないわね…………だけど!」
レイラは突然アレンの剣を流すような動きをして体制を崩させた後に、自分の剣もその辺に投げてからアレンを押し倒した!
そしてレイラはそのままアレンに熱いキスをした。
「レ、レイラ?!」
「んちゅ♡ ちゅぱ♡ はむ♡ ふぅ……アレンはさぁ、すごく真面目なんだね」
「真面目?」
「そう、真面目よ。アレンはすごく真面目さん」
「俺は真面目じゃないよ、ただ好きな人を護りたいだけさ」
「真面目じゃない、アレンは私のことを護りたくて強くなろうと努力してくれている」
「…………。」
「だからアレン、何度何度も言っているけど、あまり追い込みすぎないでね」
「頑張るときは頑張る! 疲れた時は休む! 癒しが欲しければ私が癒してあげる!」
「ありがとうレイラ」
アレンはレイラに慰められた後に、休憩をかねてデートを再開した。
「ふふふ、アレン~♪ 風が心地いいわね♪」
「そうだな、たまにはこんな日も悪くないな」
『こんな幸せな時をずっと過ごしたい』とこの時2人は思っていた。
だがその時、遠くの方から感じた禍々しい気配により二人の幸せな時は終わってしまった。
「どうやら幸せな時間はずっとは続けられないようね」
「……そうだな、どうやら今度は向こうの方から来たようだ」
「もう一人のレイラであるヴァルレジアが!」
2人はこちらに近づいてくるヴァルレジアの気配を感じ取ると、戦うために身構えた!
そして、1分も経たない内にヴァルレジアがやってきた!
「ふぅ……ようやく見つけたぞ、レイラ」
「………どうやら新しい身体を手に入れたようね、ヴァルレジア」
「ああ、たまたま出会った巫女を打ち負かして手に入れたのさ」
「そう、ならば私は貴女を打ち負かしてその身体から貴女を追い出す!」
「やれるものならやってみろ! 言っておくが以前の私より私は強くなったぞ!」
「それは私たちも同じよ! いくわよ!時間加速!」
レイラが魔法を唱えると、アレンとレイラのスピードが上がった!
そして素早くヴァルレジアに近づきパンチを食らわせようとした!
「はっ! 所詮はこの程度か! そんな攻撃片手で充分だ!」
ヴァルレジアはそう言うと、片手を前に突き出して魔法壁を張り二人の攻撃を防いだ!
「あはははは!やはりこんなものか!」
「うるさいっ! まだまだよ! うりゃあああ!」
レイラは両手をグーにして、ひたすら魔法壁を殴り続けた!
だが魔法壁は固く、いくら殴ってもヒビすら入らなかった。
しかし、そんな状況でもレイラは攻撃を止めなかったので、次第に拳から血が出始めた!
「レイラ一回攻撃を止めよう! 君の手がもう限界だ!」
「懸命な判断だ、アレン=ルドアール! 諦めて剣で攻撃をしてくるんだなぁ」
「ダメっ! 剣で攻撃すれば彼女の身体をバラバラにしてしまう!」
「でもだからってこれ以上やればレイラの手が!」
「大丈夫! それよりヴァルレジアからこの子の身体を取り返すわよ! うおおおおお!」
レイラはそう言うと力をさらに込めて拳を打ち込んだ!
ゴン!ゴン!ゴン!っと何度も!
そして、そんな様子をヴァルレジアはガードをしながら黙って見ていたが、やがてため息をついた後に口を開いた。
「はぁ~ いい加減に諦めたらどうだ? お前がいくら攻撃をしても無駄なのは分かるだろ?」
「うるさいっ! 私は助けると言ったら助けるの!」
「やれやれ、仕方がない………。」
ヴァルレジアはもう一回ため息をした後に、バリアを突然解除したかと思うと素早くレイラのみぞおちにパンチを食らわせた!
「かはっ!? あ………う………………。」
ヴァルレジアの攻撃を受けたレイラはそのまま気を失ってしまい地面に倒れた。
「レイラ!」
「案ずるな、ただ気絶させただけだ。それよりお前は自分の心配をした方がいいぞ」
「何故なら私がここに来た理由はレイラを邪竜だった頃に戻すため。それにはお前という存在は邪魔だとは思わないか?」
「ちっ、要は俺を殺しに来たというわけか」
「そのとおりだ! さぁ、覚悟しろよアレン=ルドアール!」
ヴァルレジアは次の瞬間、左手から紫色の炎を出現させてアレンに向けて放った!
「燃え尽きろ!」
「うわっ!? クソッ! こうなったら!」
アレンは飛んでくる炎を剣で振り払い、それからヴァルレジアのお腹目掛けてパンチを繰り出した!
「くらえヴァルレジア! レイラと同じ痛みを味わえ!」
アレンの拳はそのままヴァルレジアのお腹に入り、『ゴスッ!』という音をたてた。
だが、もろに攻撃を受けたはずのヴァルレジアはピンピンしており、ニタリと嫌な笑みを浮かべてからアレンにこう言った。
「くははは、所詮は人間だ、弱い……弱すぎる。非力だ、無力だ………こんなのでレイラを護るとか笑わせる」
「なにっ!?」
「先代の勇者の方がまだ骨があったぞ? 人間の身でありながら、このヴァルレジアを追い込んだのだからなぁ?」
「それってまさか!」
「あぁ、そのまさかさ! 先代の勇者……それはお前の祖父だ!」
「あっ…………。」
「レイラはお前の弱さをどうせ種族のせいにしただろうが、実際は種族なんて関係ない、お前が弱っちいだけだ!」
「うぐっ!」
思わないようにはしていたが、ここまではっきりと言われると結構きついものだ。
しかもヴァルレジアはレイラの闇、裏側の存在、つまりこの発言はレイラの本音そのもの!
アレンはヴァルレジアの発言に少しショックを受けてしまい、うつ向いた。
自分でも分かっていた、だが……いざ言われると自信がなくなってしまう。
俺は弱く、とても彼女を護れない人間だと実感してしまうからだ。
アレンは暫く動かなくなってしまい隙だらけになっていたが、意外にもヴァルレジアは攻撃をせずに動き出すのを待っていた。
それは余裕からなのか、それとも紳士的な面があるのか、それは彼女本人しか分からないが、静か待った。
そして、どれくらい経ったかは分からないが、気絶していたレイラが目を覚ました!
「うぅうん? 私は…………。」
「おっと、勇者様を待っている間に起きちまったか」
「う~ん……あっ! アレン!」
レイラはうつ向いているアレンに駆け寄り声をかけた。
「アレン! アレンっ! どうしたの! 何でうつ向いたままなの? 」
「今話しかけても聞こえてないと思うぞ」
「ヴァルレジア、貴女何かしたの?」
「別にぃ、ただ真実を伝えてやっただけさ♪ 先代の勇者に比べて弱っちぃ、お前の力量は種族なんて関係ないってな!」
「なっ!? アレン! ヴァルレジアの言葉になんて耳を貸しちゃダメよ! 」
「………………。」
「情けない男だなぁ、こんなやつのどこかいいのだか、全く理解出来ない」
「うるさいっ! アレンは優しくて真面目な人なの! 私が好きと言ったら好きなの!」
「へぇ……そうかい。まぁいいや、今のお前がそう言う考えならそれでいい、だかなぁレイラ!」
「私はお前の半分、お前は私のことを非情で慈悲の心がないと思っているかもしれないが、元々はお前もこういう奴だってことだ!」
「違う! 私は貴女とは違う! 私は私、貴女は貴女! 別々の存在よ!」
「その証拠に、強さも、姿も、性格だってまるで違う!」
「逆に……声、記憶、服装は同じだけどな」
「むむむ、で、でも! 私はアレンを愛している、でも貴女はアレンを嫌っている! ほら、全然違うじゃない!」
「確かに私は勇者であるアレンが嫌いだ、そしてそんな勇者を好いているお前を見ているとイライラする!」
「ふん! 私が幸せになっているから羨ましいんでしょう?」
「羨ましい? 残念だが、私にそんな感情はない。私はただお前を………いや、いい」
「何よ? 言いたいことがあるなら言えばいい」
「別にいいさ。それより今思い出したんだが、私とお前では決定的な違いがあったぞ」
「何よ、その決定的な違いって。さっきまで同じ存在みたいなこと言ってたくせに?」
「ああ、同じ存在ってところは今も思うけど、生きる目的が違ったことに気づいたんだ」
ヴァルレジアは下を一回向いた後に、再びレイラの方を見て『にたぁあ』とした顔になってから言った。
「お前は幸せになることが目的、私は他人をしわよせにすることが目的だ」
「何その最低な目的、人を不幸にさせることが目的なの?」
「そうだ、それがお前が邪竜になった時に持っていた思想だ」
「そんなわけない! 私はそんなこと思ってない! もうこれ以上話しているのは無駄だわ!」
「そうだな、私もそう思っていたところだ。さぁ、勝負の再開といこうじゃないか、レイラ! 今度はそう簡単にやられないでくれよ?」
「もう負けないわ!」
「………………。」
「アレン……ちょっと待っててね、決着をつけてくるから」
レイラはうつ向いているアレンを抱きしめた後に、ヴァルレジアに向かって走った!
「覚悟しなさいヴァルレジア! 今度は容赦しないわよ! 」
「はっ! 来いレイラ!」
レイラは右手から蒼い光を出現させて、そしてその光を剣の形に変えてからヴァルレジアに向かって振り下ろした!
すると、ヴァルレジアもレイラと同じ動作をして紫色の剣を出し、攻撃を防いだ!
「なまくらな剣、いや、あえて刃が通ってない剣を作り出したのか」
「うぐぐぐぐ」
「あくまでもこの身体は傷つけないと……あまいぞレイラ=ヴァレルジア!」
ヴァルレジアは一喝すると、レイラの剣を『ガインっ!』という音と共に弾き飛ばした。
そしてそのまま剣先をレイラの胸の位置に突きつけた!
「くっ! やはり私はヴァルレジアには勝てないの?」
「いや、レイラ……お前と私の力量は同じだ、お前は私に能力を奪われたと思っているようだがそれは違う」
「私はあくまでもお前の半分の存在、だから分離した時に力を奪ったのではなくコピーした」
「では何故お前は私に勝てないのか……それはお前が心のどこかで力を押さえてしまっているからだ」
「お前は優しい、優しすぎるくらいだ、だから邪竜本来の力が出せないんだ!」
「つまり、お前がそうやっている限りお前は永遠に弱いままだ!」
「………たしかに、私は貴女みたいに非情にはなれない。それに、なるべく人は殺したくない」
「………だが、時に非道にならなければお前は破滅するぞ」
「それでも、それでも! 私は!」
「いい加減にしろ! 元々私たちは邪竜だ! 人間共と馴れ合えるわけがない!」
「そんなことない! 少なくともアレンは私を大切にしてくれているもん!」
「何故そう思える? 私は絶対に信じない!」
ヴァルレジアはこの世の全てを憎んでいると言わんばかりの形相になりながら剣を構え続けた!
そして、暫くすると突然真顔になりポツリと呟いた。
「わかった……もういい。この手だけはあまり使いたくなかったが………仕方がない」
「………何する気よ」
「お前はその男がいる限り考えを変えないだろ? だから私がその男の身体を奪って殺してやるよ!」
ヴァルレジアはそう言いながら既に夜月の身体を抜け出し、アレンに飛びかかろうとしていた!
「だ、ダメ! やめてヴァルレジア! それだけは!」
「知るか! お前が考えを変えないから悪いんだ! そらぁいくぞ!」
ヴァルレジアはレイラを無視してアレンの身体を乗っ取りに行った!
「やめてえええええ!」
「その身体、頂くぞ! アレン=ルドアール!」
「…………レイラ」
アレンはこのまま身体を奪われてしまう!
この場に第3者の存在があればそう思うだろうという状況だった。
だが、状況はレイラの行動で一変した。
それは、ヴァルレジアがアレンの身体に入る前にレイラがアレンを護るためにアレンの前に立ちはだかった為、ヴァルレジアはレイラの身体に入ってしまった!
「きゃああああああ!」
レイラは大きな悲鳴をあげた!
とても大きく、これから自我を失っていく恐怖をのせた少女の悲鳴だった。
そしてその悲鳴が聞こえてきたアレンはようやく正気を取り戻した。
「レイラ!」
「いやああああああああ!」
レイラが更に大きな悲鳴をあげたとたん、レイラの身体は光だし、邪竜ヴァルレジアへと変わった!
「……ふぅ、やはりレイラはこの男を庇ったか、まぁそのおかげで私たちは1つに戻れたわけだけどな」
「どう言うことだ?」
「簡単な話だ! 愚かにも出来損ないのお前に恋をし、平和ボケしたレイラに代わってこの邪竜ヴァルレジア様が世界を滅ぼしてやろうと思っただけさ!」
「だがレイラの身体を奪うにはレイラを騙して奪うしかなかった、だからお前を利用したんだよ、アレン=ルドアール」
「丁度お前がうなだれていてくれてよかったよ、お前がレイラの足を引っ張っていてくれたおかげで目的が簡単に達成できたよ♪」
「そんな……俺のせいでレイラが…………。」
「そうだ! お前のせいでレイラは自我を失い、そして身体を支配された! もっとも、レイラの半身である私が乗っ取った訳だからべつにレイラという存在が消えたわけではないのだがな」
「だがまぁ、実質消えたも同然! そしてお前もこれからこの邪竜ヴァルレジアに消されてしまうというわけだがな!」
ヴァルレジアはそう言いながら宙に浮き、そしてそのまま魔法を唱え始めた!
「『終末と絶望を告げる紅き月よ!この愚かなる勇者に死を与えるがいい!終末の月光!』くたばれ勇者!今回はこのヴァルレジア様が完全復活した記念だ! 特別に3発くらわせてやる!」
ヴァルレジアが魔法を唱え終えると、空が暗くなり紅い大きな満月が3つ現れた!
「ははは! 逃げられないぞ! この広範囲の光に触れれば即消滅だ!」
アレンはヴァルレジアの攻撃に絶対絶命になっていた!
「くっ!」
まずいぞ、ヴァルレジアは今レイラの身体に戻っている、つまり本来の力を出せるということだ!
あんな攻撃当たったものなら一瞬でやられる、いやそれどころか世界が滅ぶ!
「アレン=ルドアール、勇者にも守り人にもなれないまま死ねええええ!」
ヴァルレジアが両腕を振り下ろすと、3つの満月は紅く光った。
『もうダメだ!』とアレンは思った!
だが不思議なことに、何時まで経っても光線が降ってこなかった。
「あ、あれ? 攻撃してこない…………。」
「う……ぐっ…………。こ、これは…レイラ…………まだ意識があったのか」
ヴァルレジアは空中で苦しそうな顔をしながら両腕を組んだ。
その姿を見ていたアレンは胸が痛んだ。
「レイラ、そこにいるのか? 意識があるのか?」
「うぅ………くそっ! ここは一時撤退するか」
レイラの意識が邪魔をして思うように動けなくなったヴァルレジアは、戦闘から離脱して何処かへと飛んでいった!
「レイラ!…………必ず連れ戻してやるからな」
とは言ったものの、どうする。
ヴァルレジアは凄まじく強い、身体なんて持たなくても世界滅ぼせるだろうと思うくらいだ。
「…………とりあえず、この子を連れて街に戻るか」
アレンは夜月をおんぶして、街へと歩き始めた。
まさかこんなことになるなんて、レイラ……レイラ。
アレンは自分のせいでレイラを失ったと、絶望しながら街へと戻っていった。
つづく
もっとも、ピクニックと言っても修行のために来ていたため、ランチを終えるとすぐに特訓を始めた。
「いくぜレイラ!」
「来なさいアレン!」
お互い相手の動きを見逃さないように睨みあってからすぐに距離をつめるために走った!
そして二人同時に剣を出現させると、お互い相手に向かって剣を振り下ろした!
お互い振り下ろすタイミングが同時でつばぜり合いになったが、レイラの方が力があるぶんアレンを押していた!
「ふふふ、どうしたのアレン♪ 本気をだしていいのよ♪」
「うぐぐぐ、余裕か……だが負けてたまるかああああ!」
アレンは顔を真っ赤にしながら全身に力を入れてレイラの剣を押した!
すると徐々にだが、レイラを押されていった。
「あら? やるじゃないアレン♪ でもまだまだ!」
レイラはそういうと、更に力を加えてきてアレンを押し返した。
「うおおおお! まじかよ! 俺は全力を出していたのに、レイラはまだまだ出していなかったのか!」
「ごめんねアレン……でも気にしないで、この力の差は種族の違いなだけだから、アレンが弱いわけじゃないわ」
「いや、そんなのは理由にならない! だって俺はレイラを護るために強くなりたいのだから、少なくともレイラより強くならないと護れない!」
「アレン………そうね、そうかもしれないわね…………だけど!」
レイラは突然アレンの剣を流すような動きをして体制を崩させた後に、自分の剣もその辺に投げてからアレンを押し倒した!
そしてレイラはそのままアレンに熱いキスをした。
「レ、レイラ?!」
「んちゅ♡ ちゅぱ♡ はむ♡ ふぅ……アレンはさぁ、すごく真面目なんだね」
「真面目?」
「そう、真面目よ。アレンはすごく真面目さん」
「俺は真面目じゃないよ、ただ好きな人を護りたいだけさ」
「真面目じゃない、アレンは私のことを護りたくて強くなろうと努力してくれている」
「…………。」
「だからアレン、何度何度も言っているけど、あまり追い込みすぎないでね」
「頑張るときは頑張る! 疲れた時は休む! 癒しが欲しければ私が癒してあげる!」
「ありがとうレイラ」
アレンはレイラに慰められた後に、休憩をかねてデートを再開した。
「ふふふ、アレン~♪ 風が心地いいわね♪」
「そうだな、たまにはこんな日も悪くないな」
『こんな幸せな時をずっと過ごしたい』とこの時2人は思っていた。
だがその時、遠くの方から感じた禍々しい気配により二人の幸せな時は終わってしまった。
「どうやら幸せな時間はずっとは続けられないようね」
「……そうだな、どうやら今度は向こうの方から来たようだ」
「もう一人のレイラであるヴァルレジアが!」
2人はこちらに近づいてくるヴァルレジアの気配を感じ取ると、戦うために身構えた!
そして、1分も経たない内にヴァルレジアがやってきた!
「ふぅ……ようやく見つけたぞ、レイラ」
「………どうやら新しい身体を手に入れたようね、ヴァルレジア」
「ああ、たまたま出会った巫女を打ち負かして手に入れたのさ」
「そう、ならば私は貴女を打ち負かしてその身体から貴女を追い出す!」
「やれるものならやってみろ! 言っておくが以前の私より私は強くなったぞ!」
「それは私たちも同じよ! いくわよ!時間加速!」
レイラが魔法を唱えると、アレンとレイラのスピードが上がった!
そして素早くヴァルレジアに近づきパンチを食らわせようとした!
「はっ! 所詮はこの程度か! そんな攻撃片手で充分だ!」
ヴァルレジアはそう言うと、片手を前に突き出して魔法壁を張り二人の攻撃を防いだ!
「あはははは!やはりこんなものか!」
「うるさいっ! まだまだよ! うりゃあああ!」
レイラは両手をグーにして、ひたすら魔法壁を殴り続けた!
だが魔法壁は固く、いくら殴ってもヒビすら入らなかった。
しかし、そんな状況でもレイラは攻撃を止めなかったので、次第に拳から血が出始めた!
「レイラ一回攻撃を止めよう! 君の手がもう限界だ!」
「懸命な判断だ、アレン=ルドアール! 諦めて剣で攻撃をしてくるんだなぁ」
「ダメっ! 剣で攻撃すれば彼女の身体をバラバラにしてしまう!」
「でもだからってこれ以上やればレイラの手が!」
「大丈夫! それよりヴァルレジアからこの子の身体を取り返すわよ! うおおおおお!」
レイラはそう言うと力をさらに込めて拳を打ち込んだ!
ゴン!ゴン!ゴン!っと何度も!
そして、そんな様子をヴァルレジアはガードをしながら黙って見ていたが、やがてため息をついた後に口を開いた。
「はぁ~ いい加減に諦めたらどうだ? お前がいくら攻撃をしても無駄なのは分かるだろ?」
「うるさいっ! 私は助けると言ったら助けるの!」
「やれやれ、仕方がない………。」
ヴァルレジアはもう一回ため息をした後に、バリアを突然解除したかと思うと素早くレイラのみぞおちにパンチを食らわせた!
「かはっ!? あ………う………………。」
ヴァルレジアの攻撃を受けたレイラはそのまま気を失ってしまい地面に倒れた。
「レイラ!」
「案ずるな、ただ気絶させただけだ。それよりお前は自分の心配をした方がいいぞ」
「何故なら私がここに来た理由はレイラを邪竜だった頃に戻すため。それにはお前という存在は邪魔だとは思わないか?」
「ちっ、要は俺を殺しに来たというわけか」
「そのとおりだ! さぁ、覚悟しろよアレン=ルドアール!」
ヴァルレジアは次の瞬間、左手から紫色の炎を出現させてアレンに向けて放った!
「燃え尽きろ!」
「うわっ!? クソッ! こうなったら!」
アレンは飛んでくる炎を剣で振り払い、それからヴァルレジアのお腹目掛けてパンチを繰り出した!
「くらえヴァルレジア! レイラと同じ痛みを味わえ!」
アレンの拳はそのままヴァルレジアのお腹に入り、『ゴスッ!』という音をたてた。
だが、もろに攻撃を受けたはずのヴァルレジアはピンピンしており、ニタリと嫌な笑みを浮かべてからアレンにこう言った。
「くははは、所詮は人間だ、弱い……弱すぎる。非力だ、無力だ………こんなのでレイラを護るとか笑わせる」
「なにっ!?」
「先代の勇者の方がまだ骨があったぞ? 人間の身でありながら、このヴァルレジアを追い込んだのだからなぁ?」
「それってまさか!」
「あぁ、そのまさかさ! 先代の勇者……それはお前の祖父だ!」
「あっ…………。」
「レイラはお前の弱さをどうせ種族のせいにしただろうが、実際は種族なんて関係ない、お前が弱っちいだけだ!」
「うぐっ!」
思わないようにはしていたが、ここまではっきりと言われると結構きついものだ。
しかもヴァルレジアはレイラの闇、裏側の存在、つまりこの発言はレイラの本音そのもの!
アレンはヴァルレジアの発言に少しショックを受けてしまい、うつ向いた。
自分でも分かっていた、だが……いざ言われると自信がなくなってしまう。
俺は弱く、とても彼女を護れない人間だと実感してしまうからだ。
アレンは暫く動かなくなってしまい隙だらけになっていたが、意外にもヴァルレジアは攻撃をせずに動き出すのを待っていた。
それは余裕からなのか、それとも紳士的な面があるのか、それは彼女本人しか分からないが、静か待った。
そして、どれくらい経ったかは分からないが、気絶していたレイラが目を覚ました!
「うぅうん? 私は…………。」
「おっと、勇者様を待っている間に起きちまったか」
「う~ん……あっ! アレン!」
レイラはうつ向いているアレンに駆け寄り声をかけた。
「アレン! アレンっ! どうしたの! 何でうつ向いたままなの? 」
「今話しかけても聞こえてないと思うぞ」
「ヴァルレジア、貴女何かしたの?」
「別にぃ、ただ真実を伝えてやっただけさ♪ 先代の勇者に比べて弱っちぃ、お前の力量は種族なんて関係ないってな!」
「なっ!? アレン! ヴァルレジアの言葉になんて耳を貸しちゃダメよ! 」
「………………。」
「情けない男だなぁ、こんなやつのどこかいいのだか、全く理解出来ない」
「うるさいっ! アレンは優しくて真面目な人なの! 私が好きと言ったら好きなの!」
「へぇ……そうかい。まぁいいや、今のお前がそう言う考えならそれでいい、だかなぁレイラ!」
「私はお前の半分、お前は私のことを非情で慈悲の心がないと思っているかもしれないが、元々はお前もこういう奴だってことだ!」
「違う! 私は貴女とは違う! 私は私、貴女は貴女! 別々の存在よ!」
「その証拠に、強さも、姿も、性格だってまるで違う!」
「逆に……声、記憶、服装は同じだけどな」
「むむむ、で、でも! 私はアレンを愛している、でも貴女はアレンを嫌っている! ほら、全然違うじゃない!」
「確かに私は勇者であるアレンが嫌いだ、そしてそんな勇者を好いているお前を見ているとイライラする!」
「ふん! 私が幸せになっているから羨ましいんでしょう?」
「羨ましい? 残念だが、私にそんな感情はない。私はただお前を………いや、いい」
「何よ? 言いたいことがあるなら言えばいい」
「別にいいさ。それより今思い出したんだが、私とお前では決定的な違いがあったぞ」
「何よ、その決定的な違いって。さっきまで同じ存在みたいなこと言ってたくせに?」
「ああ、同じ存在ってところは今も思うけど、生きる目的が違ったことに気づいたんだ」
ヴァルレジアは下を一回向いた後に、再びレイラの方を見て『にたぁあ』とした顔になってから言った。
「お前は幸せになることが目的、私は他人をしわよせにすることが目的だ」
「何その最低な目的、人を不幸にさせることが目的なの?」
「そうだ、それがお前が邪竜になった時に持っていた思想だ」
「そんなわけない! 私はそんなこと思ってない! もうこれ以上話しているのは無駄だわ!」
「そうだな、私もそう思っていたところだ。さぁ、勝負の再開といこうじゃないか、レイラ! 今度はそう簡単にやられないでくれよ?」
「もう負けないわ!」
「………………。」
「アレン……ちょっと待っててね、決着をつけてくるから」
レイラはうつ向いているアレンを抱きしめた後に、ヴァルレジアに向かって走った!
「覚悟しなさいヴァルレジア! 今度は容赦しないわよ! 」
「はっ! 来いレイラ!」
レイラは右手から蒼い光を出現させて、そしてその光を剣の形に変えてからヴァルレジアに向かって振り下ろした!
すると、ヴァルレジアもレイラと同じ動作をして紫色の剣を出し、攻撃を防いだ!
「なまくらな剣、いや、あえて刃が通ってない剣を作り出したのか」
「うぐぐぐぐ」
「あくまでもこの身体は傷つけないと……あまいぞレイラ=ヴァレルジア!」
ヴァルレジアは一喝すると、レイラの剣を『ガインっ!』という音と共に弾き飛ばした。
そしてそのまま剣先をレイラの胸の位置に突きつけた!
「くっ! やはり私はヴァルレジアには勝てないの?」
「いや、レイラ……お前と私の力量は同じだ、お前は私に能力を奪われたと思っているようだがそれは違う」
「私はあくまでもお前の半分の存在、だから分離した時に力を奪ったのではなくコピーした」
「では何故お前は私に勝てないのか……それはお前が心のどこかで力を押さえてしまっているからだ」
「お前は優しい、優しすぎるくらいだ、だから邪竜本来の力が出せないんだ!」
「つまり、お前がそうやっている限りお前は永遠に弱いままだ!」
「………たしかに、私は貴女みたいに非情にはなれない。それに、なるべく人は殺したくない」
「………だが、時に非道にならなければお前は破滅するぞ」
「それでも、それでも! 私は!」
「いい加減にしろ! 元々私たちは邪竜だ! 人間共と馴れ合えるわけがない!」
「そんなことない! 少なくともアレンは私を大切にしてくれているもん!」
「何故そう思える? 私は絶対に信じない!」
ヴァルレジアはこの世の全てを憎んでいると言わんばかりの形相になりながら剣を構え続けた!
そして、暫くすると突然真顔になりポツリと呟いた。
「わかった……もういい。この手だけはあまり使いたくなかったが………仕方がない」
「………何する気よ」
「お前はその男がいる限り考えを変えないだろ? だから私がその男の身体を奪って殺してやるよ!」
ヴァルレジアはそう言いながら既に夜月の身体を抜け出し、アレンに飛びかかろうとしていた!
「だ、ダメ! やめてヴァルレジア! それだけは!」
「知るか! お前が考えを変えないから悪いんだ! そらぁいくぞ!」
ヴァルレジアはレイラを無視してアレンの身体を乗っ取りに行った!
「やめてえええええ!」
「その身体、頂くぞ! アレン=ルドアール!」
「…………レイラ」
アレンはこのまま身体を奪われてしまう!
この場に第3者の存在があればそう思うだろうという状況だった。
だが、状況はレイラの行動で一変した。
それは、ヴァルレジアがアレンの身体に入る前にレイラがアレンを護るためにアレンの前に立ちはだかった為、ヴァルレジアはレイラの身体に入ってしまった!
「きゃああああああ!」
レイラは大きな悲鳴をあげた!
とても大きく、これから自我を失っていく恐怖をのせた少女の悲鳴だった。
そしてその悲鳴が聞こえてきたアレンはようやく正気を取り戻した。
「レイラ!」
「いやああああああああ!」
レイラが更に大きな悲鳴をあげたとたん、レイラの身体は光だし、邪竜ヴァルレジアへと変わった!
「……ふぅ、やはりレイラはこの男を庇ったか、まぁそのおかげで私たちは1つに戻れたわけだけどな」
「どう言うことだ?」
「簡単な話だ! 愚かにも出来損ないのお前に恋をし、平和ボケしたレイラに代わってこの邪竜ヴァルレジア様が世界を滅ぼしてやろうと思っただけさ!」
「だがレイラの身体を奪うにはレイラを騙して奪うしかなかった、だからお前を利用したんだよ、アレン=ルドアール」
「丁度お前がうなだれていてくれてよかったよ、お前がレイラの足を引っ張っていてくれたおかげで目的が簡単に達成できたよ♪」
「そんな……俺のせいでレイラが…………。」
「そうだ! お前のせいでレイラは自我を失い、そして身体を支配された! もっとも、レイラの半身である私が乗っ取った訳だからべつにレイラという存在が消えたわけではないのだがな」
「だがまぁ、実質消えたも同然! そしてお前もこれからこの邪竜ヴァルレジアに消されてしまうというわけだがな!」
ヴァルレジアはそう言いながら宙に浮き、そしてそのまま魔法を唱え始めた!
「『終末と絶望を告げる紅き月よ!この愚かなる勇者に死を与えるがいい!終末の月光!』くたばれ勇者!今回はこのヴァルレジア様が完全復活した記念だ! 特別に3発くらわせてやる!」
ヴァルレジアが魔法を唱え終えると、空が暗くなり紅い大きな満月が3つ現れた!
「ははは! 逃げられないぞ! この広範囲の光に触れれば即消滅だ!」
アレンはヴァルレジアの攻撃に絶対絶命になっていた!
「くっ!」
まずいぞ、ヴァルレジアは今レイラの身体に戻っている、つまり本来の力を出せるということだ!
あんな攻撃当たったものなら一瞬でやられる、いやそれどころか世界が滅ぶ!
「アレン=ルドアール、勇者にも守り人にもなれないまま死ねええええ!」
ヴァルレジアが両腕を振り下ろすと、3つの満月は紅く光った。
『もうダメだ!』とアレンは思った!
だが不思議なことに、何時まで経っても光線が降ってこなかった。
「あ、あれ? 攻撃してこない…………。」
「う……ぐっ…………。こ、これは…レイラ…………まだ意識があったのか」
ヴァルレジアは空中で苦しそうな顔をしながら両腕を組んだ。
その姿を見ていたアレンは胸が痛んだ。
「レイラ、そこにいるのか? 意識があるのか?」
「うぅ………くそっ! ここは一時撤退するか」
レイラの意識が邪魔をして思うように動けなくなったヴァルレジアは、戦闘から離脱して何処かへと飛んでいった!
「レイラ!…………必ず連れ戻してやるからな」
とは言ったものの、どうする。
ヴァルレジアは凄まじく強い、身体なんて持たなくても世界滅ぼせるだろうと思うくらいだ。
「…………とりあえず、この子を連れて街に戻るか」
アレンは夜月をおんぶして、街へと歩き始めた。
まさかこんなことになるなんて、レイラ……レイラ。
アレンは自分のせいでレイラを失ったと、絶望しながら街へと戻っていった。
つづく
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
魔女と歩む魔法の世界2
天野夜夢桜
ファンタジー
魔女エルマと少年レンが別れてから数十年後、今度はレンの子孫である人物と魔法の世界を歩んでいくというお話になります。※前作より文章構成が少し変わっています。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる