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逃避へ

25.祭典の裏側

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 祭典の御触れが下ったのは、数日前だった。



 おそらく、他国への情報流出を考えてだろう。



「そんなことしても情報は皇国に回っているからね。」

 マルコムは式典用の豪華な鎧を着て言った。



「そうだな。」

 ライガは深呼吸をしながら返事をした。



「緊張するわね。」

 ミヤビは慣れない鎧に動きがぎこちない。



「ミヤビ、やっぱり綺麗だな。精鋭の花形なだけある。」

 サンズはミヤビの姿を見て感心したように言った。



「なに言っているんですか?一番の花形は…」

 ミヤビは詰め所の扉を見た。



 丁度扉が開いた。



「おー。似合うな。馬子にも衣裳というもんな。」

 ヒロキが冷やかすように入ってきた。



「マジもんの花形だからな。」

 アレックスはヒロキを見て言った。



「しかし、何です?その服は…?」

 マルコムはヒロキの恰好を見て訊いた。



 ヒロキが身を包むのは鎧ではなく、布地の服だった。

 露出があるわけではない。

 首と指まで黒いインナーで覆っているが、その上には広がった袖と、そこに長い紐がたなびいていた。おそらく動きの滑らかさを強調するための袖のデザインだろう。

 色は白と赤と派手だ。

 下は動きやすいようにブーツとズボンだ。

 髪は飾りがあるわけではないが、一つに束ねられている。



 ただ、恐ろしくヒロキに似合っている。



「ああ。剣舞が映えるデザインらしい。」

 ヒロキは騎士にしては細い指を立てて言った。



「何かかっこいい。俺たちもそっちの方がいいな。」

「たしかに。」

 リランとアランが鎧をガシャガシャと鳴らしながら言った。



「お前等も似合いそうだもんな。赤蠅だし。」

 サンズは双子を見て言った。



「俺は着れないな。これ、ある程度細身でないと似合わないよ。」

 マルコムは少し誇らしげに言った。

 彼は、意外と自分の筋肉質な体型が好きなところがある。



「どうしたの?ライガ。」

 ミヤビはライガに話しかけた。



「え?なんで?」



「だって、今日全然話していないじゃない。相槌くらいだけよ。」

 ミヤビは不思議そうにライガを見た。



「緊張しているせいだと思う。だって、こんな祭典初めてだからな。」

 ライガは内心、最後になるからと呟いた。



「おい。準備しろ。」

 代理のリーダーを頼まれたアレックスが、一向に動き出そうとしない面々に発破をかけた。



「…結構様になっているな。リーダーのアレックス先輩。」

 サンズは冷やかすように言った。



 アレックスはまんざらでもない顔をした。







 それぞれの騎士たちは持ち場についていた。



 城から出ないお宝様を一目見ようと式典会場には人が押し寄せていた。



 他の騎士たちはいつも通りだが、精鋭だけは豪華な式典用の鎧だった。



「俺らの方がいつものやつでいたいよな。」

 会場に着くとサンズが溜息をついていた。



「あ、団長だ。」

 アランは王族の者に紛れているジンを見つけた。

 たるんだ体型の多い者の中に長身で筋肉質そうな体型と、例の如く包帯を巻いているためすぐわかった。



 おおお!!



 と集まっている町の者たちがざわめいた。



 ミヤビとマルコムがお宝様であるミラを連れて来る係だ。



 アレックスはライガたちだけでなく全体の騎士団の様子を見て回り、残りは王族の前とミラが付く席付近を守る。



 ミラが導かれるままに席に着くと、王城からは豪華に着飾った音楽隊が出てきた。









 綺麗な美術品は見たが、こんな色々な人が一斉に集まるのは初めて見た。



 音楽、歓声、全てがミラにとっては初めてのものだった。



「すごい。…これが、王城の外なの。」

 ミラは感動して、思わず呟いた。



 いつも見ている世界よりも圧倒的に情報量が多いので、混乱しそうになるが、それよりも純粋に見ていて楽しかった。



 王族の警備に着く騎士の中にライガを見つけた。



 中庭の密会だけでなく、彼と同じ世界を見ていると思うとミラは幸せな気持ちになった。



 彼と逃げるので、着の身着のままになるだろうと思っているが、彼からもらった白い花の髪飾り服の中に忍ばせていた。



 この髪飾りはライガに着けてもらった時のみしか着けてない。

 ミラの中で、この髪飾りはライガに着けてもらうものであり、彼との繋がりを実感する唯一ものだった。



 ミラの両脇についている騎士は俯いているが、王城に集まっている人々はミラを見ていた。

 人から視線を集めるのは、あの嫌な王族との食事会だけであったため、彼らの視線が嫌なものではないことに驚いていた。



 王城の外は、こんなに綺麗な場所だったのか。





 別の出し物が始まるのか、何やら騒がしくなった。



 貴族側からや町の人からも、女性の黄色い声が上がり始めた。



 出てきたのは、奇抜な赤と白の服に身をつつんだ細身の男だった。

 細い剣を翳して、剣の輝きと同じような鋭い視線を周りに向けていた。



「…あの人は…」

 ミラの目を見て接してくれる数少ない騎士だった。







 王城近くにある高い建物の屋上では、三人の男がいた。

 異国の服装をしていた皇国から来た三人は、シャツにズボンとブーツと地味な恰好をしていた。



「まるでお祭りだな。アホみたく着飾っている。見てみろ。あの精鋭の浮き具合。」

 アシは開かれた王城の門から見える様子を見て言った。



「あれだけ目立つなら団長はすぐ殺せそうだ。見ろよ。他の王族がみすぼらしく見える。」

 イシュは弓を構えていた。



「逆に残酷だと思わないのかね。こんな催し物をして、目を奪って嫁がせる。僕には理解できない。」

 シューラは首を傾げていた。



「理解しなくていいんだ。ライガの言う通りの警備の配置だったな。あいつの要望にも応えないとな。」

 アシはシューラを見た。



 シューラは舌打ちをして屋上から降りて行った。



 キャアアア!!



 王城の方が騒がしくなった。

 なにやら甲高い声が聞こえ始めた。



「何だよ。何がはじまるんだ?」

 アシは持っている剣で肩を叩きながら、王城の方を見た。



「偉い奇抜な恰好の男が出てきたな。あいつが何かするのか。あんな細い剣で…」

 イシュは言葉を止めた。



「ああ、団長のお気に入りだろ。騎士にしては細いって…」

 アシは気にする様子も無く立ち去ろうとした。



「おい。アシ。あいつ見てみろ!!」

 イシュはアシの肩を掴んだ。



「何しやがる。あぶねえ!!」

 アシは危うく剣ごと掴まれるところだった。



 イシュはアシに注意されたことを気にせず、彼の肩を掴んでそのまま王城に向けた。



 アシは面倒くさそうな顔をしたが、次第に表情が変わってきた。



「…あいつ。前大臣の息子だ。」

 イシュは顔を歪めていた。

 アシは彼の顔を見てしばらく考え込んだ。



「…イシュ。お前はそのまま団長を狙え。」

 アシは真剣な顔をして言った。



「お前は?」



「作戦通りいく。」

 アシは剣を腰につけると、上着を羽織った。



「俺らが会場に着いたら、作戦実行だ。」

 アシはイシュを見た。



 イシュは頷いて、再び弓を構え始めた。
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