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手を取り合う
19.退路を断つ
しおりを挟む馬を走らせていた。
お宝様一族の者たちとは、何となく険悪な空気になって別れた。
それは当然のことだ。
ライガは、引っかかっていた一族のことを見捨てる覚悟が、いや、考えなくていいことをわかった。
視界になにか光が見えた。
それは、矢だった。
ザザッ
ドサ
馬を止めて、勢いが殺せずに地面に転がり落ちた。
だが、ここで呻くわけにはいかない。
剣に手をかけて辺りを見た。
ここで襲撃されるとは思っていなかった。
「…さっきの皇国奴らか?」
ライガは周りの影を見て言った。
「そうだ。帝国騎士。」
影の一つが答えた。
あの声はアシと名乗った男だ。
「お前はアシと名乗っていた奴か…」
ライガは影の位置を確認して、どう逃げ切るか、誰から手にかけるかを考えていた。
「よせ、俺らはお前に話しに来た。」
アシはライガの目が利くところまで出て来て、両手を上げていた。
「…後ろの二人は構えている。」
ライガはアシの後ろにいる他の皇国の者たちを指した。
「…止めろ。イシュ。シューラ」
アシは後ろにいる二つの影に言った。
二人は構えを解いた。
「…俺に何のようだ?…油断させて殺すつもりか?それとも情報か?」
ライガは三人を見て警戒を露わにした。
「本当はお前をつけて一族の場所を見つけ出そうと思ったが気が変わった。」
アシは興味深そうにライガを見ていた。
「なんだ?」
「紳士的な、詰まんない騎士だと思った。けど、さっきの会話、聞かせてもらった。」
アシはどうやらライガたちの会話を聞いていたようだ。
それをどう判断したのかわからないが、ライガは目の前のアシをどう片付けるかを考えた。
相手は三人だ。
後ろのでかい男と、白髪で目が赤い男をどう片付けるか。
でかい男は弓を使うようだ。
「…お前儀式のことを聞きたがったよな。」
「!?」
ライガはアシが言っていたことを思い出した。
「知らないようだったからな。お前、あれだろ?お宝様に対して並々ならぬ想いがあるんだろ?」
アシは警戒した様子も見せず、ライガに歩み寄った。
「…」
ライガは剣に手をかけた。
「警戒するな。きっとお前とは仲良くできる。」
アシは何を考えているのかわからないがライガに笑いかけた。
「…儀式とはなんだ?」
ライガは思ったよりも低い声が出た。
「婚礼の一週間前に行われる。」
アシは自分の目を指した。
「?」
「新しいお宝様が入ってくるのだから、王城に鑑目は二つあると厄介だ。」
アシはライガを見てにんまりと笑った。
「…儀式って、まさか…」
「そんな怖い顔をするなよ。皇国の技術の粋を集めた特殊な目薬で、目を潰すだけだ。」
アシは、次はライガの目を指して言った。
「何だと?」
「本当だ。儀式と言ってもお宝様のための祭典だ。本人も知らないだろうけど、いろんな出し物をするらしい。国民にも公開して…」
アシはライガを見た。
「…彼女が出されるのか。」
「…俺たちは誰に呼ばれたと思う?…この国の王族じゃない権力派閥だ。」
アシはライガから離れて、他の二人を指した。
「その祭典でクーデターを起こすらしい。といっても、外面はそんなのじゃない。俺たちはあくまでも異国の乱入者だ。切り捨ての暗殺者だ。」
アシは最後を強調して言った。
「暗殺…誰を殺すつもりだ?」
ライガはアシたちを警戒して見た。
「王族出身の騎士団長の片づけを命じられた。奴がいなくなれば、王族は力を無くす。」
アシはライガを見据えて言った。
本来ならここで何か怒ったり、感情的な反応をすべきなのだろうが
「は」
ライガは思わず鼻で笑った。
「なんだ?」
アシの後ろにいた大柄の男がライガを睨んだ。
「…俺やアレックスさんやサンズさんにあの状況なら、勝てるはずない。団長は桁違いに強い。」
ライガは思ったままを言った。
そうだ。団長のジンは強い。
一人で精鋭全員分ほどの強さがある。
「だから言っただろ?俺たちは切り捨てだ。刺し違えてでも殺すように言われている。」
アシは諦めたように言った。
「俺に何を協力しろと?」
「警備の情報を俺に流してほしい。」
「は?」
ライガは把握していない祭典の警備の情報など手に入れることができないと思った。
「お前にも損じゃないはずだ。」
「団長を殺すと言われて、裏切れと言うのか?」
ライガは呆れて馬の元に向かった。
「俺たちは帝都に潜んでいる。」
ライガの背にアシが声をかけた。
「俺が団長に報告したらどうする?」
ライガはアシを見た。
「それも含めて俺らは切り捨ての暗殺者なわけだ。」
アシは諦めたように笑った。
ライガは改めて馬に乗り帝都へ急いだ。
ジンの暗殺が仕組まれている。そして、王族の権力は、今ジンによって成っている。
王族の力が無くなれば、ミラは解放されるだろうか?
彼女が、解放されるのなら…
ジンとミラを天秤にかけた。かけるまでもないが、協力してジンが殺されなかったら、どうなるのだろう。
いや、そんなことを気にしている場合ではない。
ミラの目を潰すのを止めないといけない。
彼女の目から光を奪って嫁がせる。
そんなことを許せるはずがない。
ミラが、中庭から出てくる。
そうだ。彼等はそれを言いたかったのだ。
ミラを逃がすのに、彼等が暴れてくれれば…
もう、ミラを連れ出して逃げるしかない。
そう、ミラと自分が一緒にいられるように…
「おい、アシ。いいのか?あいつが団長に言ったら俺らは終わりだ。」
アシは大柄な方の仲間に言われた。
彼はアシと同じ褐色の肌と黒髪とグレーの瞳だが、目は細く鋭い。そして彫が深い。
彼の名は「イシュ」。アシと同じ皇国軍の人間だ。
「遠くから狙えばいいさ。イシュは弓の名手だろ。僕たちは斬りこむ。他の精鋭たちはさっき戦ったのと例の団長のお気に入りだけだろ?」
イシュと共にいた白い髪で赤い目の男が言った。
彼は、目にかかるほどの長さの白い髪と赤い目、牙のような八重歯が特徴的な男だ。イシュよりは小柄だが、アシと同じくらいやや体格のいい男だ。
彼の名は「シューラ」。二人と同じ皇国軍の人間だ。
「そう簡単に言うな。お前等倒せていないだろ?」
アシは困ったように言った。
「だから言っていいのか?と俺は聞いている。」
イシュは困ったようにアシを見た。
「あいつは大丈夫だ。見ただろ?詰まんない騎士野郎だと思ったら、お宝様一族にとんでもない目を向けやがった。あれは、今のお宝様を救うためなら仲間も裏切る。」
アシは自信満々で言った。
「…じゃあ、期待しないで待っておこう。僕は安い宿は嫌だから。」
シューラは手をひらひらとして言った。
「そうだな。捨て駒なんだから、贅沢するだけの金は貰っているんだろ?」
イシュは期待するようにアシを見た。
「そりゃあ、雇い主が帝国の有力者だからな。」
アシは胸を張って言うと歩き出した。
イシュとシューラはアシに続いて歩き出した。
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