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六本の糸~収束作戦編~
銃弾
しおりを挟む熱でひしゃげた扉だったものと明らかに爆風を受けたであろう部屋にひるむことなくカワカミ博士とラッシュ博士は進んだ。
「障害物がないと早いですね。」
辺りを見渡しながらカワカミ博士は呟いた。
「ここを守る理由もないもの。だいたい、あなたに妨害が必要だったのか考えものよ。」
「モルモットに殺されろと?あんな恐ろしい集団がいたんですよ。」
カワカミ博士は怖がる様子も見せず淡々と言った。
「ところで、キャメロン。時間稼ぎのつもりですか?」
カワカミ博士は後ろを歩くラッシュ博士に顔だけ向けた。
「時間稼ぎ・・・・?」
「はい。あなたの血があればもっと早く入れる道があるでしょうに、それを伝えずにいる。効率の悪い方だと思っていましたが、これには意図を感じます。コウヤ様たちの方にはクロス様がいます。近い道を通れるのに対してこれはどうかと・・・・」
「頭悪いから忘れていただけよ。」
ラッシュ博士はあっけらかんと言った。
「あなたの知能は知りませんが、記憶力は悪くないはずです。」
カワカミ博士はラッシュ博士から顔を背け進んだ。
かつて数人の命が奪われ、血が流れた部屋に辿りついた。
「ここの部屋であなたは正体を現したわけね。」
ラッシュ博士はカワカミ博士を見て口元を歪めた。
「正体も何もないです。」
「死んでいないとは思っていたけど、こう再会するとは思っていなかったわ。」
ラッシュ博士は扉に手をかけたカワカミ博士に言った。
カワカミ博士は扉を開く手を止めた。
「時間稼ぎは有効でしたよ。キャメロン。」
「だから違うわ。」
「私の行動が当初の目的からずれている気がしているのでしょう。キャメロンは。」
カワカミ博士は首を振るラッシュ博士を見た。咎めるような気配はなかった。
「あなた、昔のギンジ・カワカミになっている。事態が悪い方向に向かっているから考えが変わるのは分かるわ。けど、このままだと私の望みを叶えられない。」
ラッシュ博士は両手を広げた。
「そうですか。何度も言いますけど、足止めは有効でした。ここに向かっているということをこんなに早く気づかれるとは意外でした。」
カワカミ博士は誰かに言うと、扉を開いた。
ギイイイ
開かれた扉の先には、銃を構えた数人の人間がいた。
「やっぱり、近道を通りましたか。私は知らないですが、知っていたのですね。」
カワカミ博士は向かいにいる銃を構えた者たちに笑いかけた。
銃を構えるのはレイラとハクトだった。その後ろのディアとクロスは銃に手をかけている。一番後ろにいるのはアリアの体を借りたムラサメ博士だった。彼を庇うようにユイとコウヤが銃は装備しているが、触れることなく立っていた。
「お父さん・・・・」
銃を構えていないユイが縋るようにカワカミ博士に言った。
「今すぐに洗脳を解け。」
命令するようにレイラは言った。
「いいのですか?このままだとフィーネは不利です。先にフィーネの方だけと順番にするのがいいのでは?」
カワカミ博士は怯えることなく答える。
「やあ、ギンジ。」
ムラサメ博士は意気揚々とカワカミ博士に声をかけた。
「これはシンヤ。アリアさんの体に入っていながらも存在感は健在ですね。」
カワカミ博士は目を細めて笑った。
「・・・・ムラサメ博士・・・・」
ラッシュ博士は複雑そうな顔をしていた。
「やあ、キャメロン。君は迷惑をかけたね。許せるものではないかもしれないが、君は私の頼みを聞いた延長線上で選んだ道だから私は恨んでいないよ。ユイちゃんやレイラちゃんは知らんけどな。」
ムラサメ博士は無責任とも思えることを言った。
「カワカミ博士・・・・どうしてこんなこと・・・・?」
コウヤはユイの前に手を差し出し、感覚的にユイとカワカミ博士の距離を開かせる動きをした。それを見てカワカミ博士は笑った。
「貴方にならユイを任せられそうですね。」
「冷やかさずに答えてください。俺はあなたにすごくお世話になった。ロッド家の屋敷からずっとあなたに頼っていた。」
「なぜって、答えは出ているのでしょう。コウヤ様。クロス様やディア様は気付いておられます。」
「・・・・それだけ?どうなるのか知りたいだけじゃないの?」
ユイは厳しく言った。
「それだけですよ。あなたが思っている以上に大事なことなのですよ。理解することは。理解されないことは争いの種です。シンヤ。あなたは理解し合う世界を望んだ。私はそれを一蹴しましたね。理解などし合えない。人間の理解には限界がある。その限度は人それぞれです。他人に対して少なくても理解を持てる人間もいれば、まったく持てない人間もいる。自分でさえ理解できないのですから難しいことなのは確かです。・・・そんな彼らがドールプログラムの危険を理解するでしょうか?見えないのですよ。危機を感じられない。感じられるのは戦場に出た者たちだけ。いずれ感じられる者に疑問が集まります。勇敢で尊敬すべき者たちなのに・・・・授業で学問を理解できないように講義して理解してもらえるとは思っていません。」
カワカミ博士はすらすらと語り始めた。言葉の勢いから、どうやら普段から考えていることのようだ。
「理解させるためにこんなことを・・・・」
ハクトは顔を顰めた。
「人は理解できない者に対してどこまでも非道になれます。言葉の通じない者、文化が違う者、縋る対象の違う者。これは歴史的に裏付けられた真実です。」
カワカミ博士はハクトに同意を求めるように頷いて言った。
「確かに最善・・・・最適の理解のさせ方だ。」
ディアは顔を顰めながらも同意した。
「少し違います・・・・理解を求めましたが、理解より人に対して有効なものがあったのですよ。」
カワカミ博士は嬉しそうに頷きながらも試すようにコウヤ達を順に見た。
「・・・・・昔のお父さんだ。」
ユイは悲しそうに言った。
「昔の私も今の私も私です。経験で人は変わる。知識を得て学問の幅が増えるように経験と教訓で考えの幅も変わる。」
「同じようなことをムラサメ博士が言っていた。」
レイラはムラサメ博士を見た。ムラサメ博士は両手を広げた。
「これはギンジの受け売りだったかもしれない。」
だから当然だと笑って言った。
「さて、今の解答で私が何故この手段が有効だと思ったか、わかっていただけたでしょう。」
カワカミ博士は執事の時の様にお辞儀をした。
「脳みそが筋肉のような考えだ。」
クロスはあまり好感を持っていないようだ。
「人類全員が賢いわけではないです。低い水準に合わせるのがセオリーですから。理解を求めるよりも、経験による教訓を与えるのですよ。理解できないなら感じさせればいい。簡単なことです。」
カワカミ博士はにっこりと笑った。
コウヤはその笑顔を見て、とても寂しくなった。
「それよりも、洗脳を解く方法を教えていただきたい。」
ディアは討議を治めるように再び銃口を向けた。
「ナツエ様を探せば簡単でしょう。私はこのまま神のように人々を操るつもりはないです。それに・・・ナツエ様を抑えないと、ドールプログラムが悪用される可能性があります。いずれは血眼になって探される運命です。なら、あなた方の手で・・・彼女を見つけてください。」
カワカミ博士は当然のことのように言った。
「ナツエに全てを託したか、お前は頭で全てを片付けるが、行動に移せないやつだな。あの時も構築したが、作動する方法で怖気づいた。それ以上進まなかった。私は、自分の死をもって、自身がプログラム内に入ることでネットワークを作動させることに懸けた。お前は肝心な一手は人任せにする。」
ムラサメ博士は嘆くようにカワカミ博士に言った。
「動かしたから今の悲劇がある。」
「悲劇とお前にとっては興味があるだろう。好奇心をくすぐられて楽しいというのも事実だろう。」
ムラサメ博士とカワカミ博士は言い合いをしながらも楽しそうだった。
「ナツエさんを探すしか止める方法は無いのですか?」
クロスは言い合う二人に聞こえるように声を張って言った。指揮をしていただけあり、響く声の出し方を知っている。
「あります。私の心拍数と連動させていますが、私はそれを遠慮したいですね。」
カワカミ博士は自身の胸を指差した。
「私とてそんな無責任な人間ではないです。収束させられなくなる場合も考えていますが、その手段を取らないようにしています。それに、結構強引にやった作業なのでドールプログラムが暴走する可能性があります。」
カワカミ博士の言葉を聞いてディアは銃を向けた。
「では、あなたに危害を加えると・・・命を脅かすと影響はあるということですね。」
「保証はできないですが、そうでしょう。暴走の可能性を考えて即死をお勧めします。」
カワカミ博士は微笑んだ。
「ナツエさんの探し方は?」
ハクトはディアの銃の銃口を下に向けるように手をかけた。
「それはコウヤ様が知っていらっしゃる。ただ、私の予想だと・・・・通信するにしては近くに寄った方がいいでしょう。そんなに電波を飛ばせれないはずです。少なくとも半径十数メートル以内という感じでしょうか。」
カワカミ博士はそう言うと両手を広げて挙げた。
「私はこれ以上何かするつもりはないです。安心してナツエ様を探してください。」
カワカミ博士は微笑んだ。時間はこちらで作りますよ。と付け加えた。
「このままだとあなた罪に問われますよ。こんなこと作戦になかった。」
ハクトは心配するように、多少の憐みを浮かべてカワカミ博士を見ていた。
「作戦責任者のレイモンド様は了承済みです。あの人はこれを含めて事態の収束のシナリオを書いています。」
カワカミ博士はクロスを見た。クロスは目を伏せた。
「レイモンドさんはこんな人類を危機に追い込みかねない作戦を了承したの?」
コウヤは温厚そうなレイモンドを思い浮かべた。
「あの人は旦那様・・・・レイ・ディ・ロッド侯爵を失ってから自暴自棄になっています。正直言うなら人類が滅ぼうと自分が主導権を握れるようになろうと関係ないのですよ。彼は自覚しているから表に出てこないですが、相当に狂っています。」
カワカミ博士は再びクロスを見た。クロスはしぶしぶだが頷いた。
「だから、安心してください。」
カワカミ博士は人を安心させる時や、元気づけるときのような笑みを浮かべた。
「・・・・安心か・・・・」
ユイは顔を顰めながらもコウヤ達を見た。どうやらナツエを探しに行こうと言っているようだ。
コウヤ達も頷いた。
ガチャリ
廊下の方から音がした。
「!?」
急いで銃を構えるコウヤ達。
「止めろ化け物ども!!」
叫び声のような怒声が響いた。
バン
叫び声に覆いかぶさるように銃声も響いた。
洗脳電波があったおかげで感覚が鈍っていた。そして、ここに他の誰かが来るとは思っていなかった。
銃弾が放たれたであろう方向をコウヤは見た。
カワカミ博士が血しぶきが舞わせながら床に倒れた。
「・・・あ・・・・いやあああああ!!」
ユイの悲鳴が響いた。
ハクトとクロスは撃った人間を押さえつけた。
拳銃を取り上げて床に押し付ける。
「・・・・そうか、お前もこのドームに登録されていてもおかしくないな・・・・」
押さえつけらえたものを見てディアは顔を歪めた。
「あんた・・・・」
レイラもだ。
「そこの男を殺せば解けるのであろう!!そして、この元凶ともいえる者だろう!!」
押さえつけられて叫ぶのは、現総統のライアン・ウィンクラーだ。
撃った人間よりコウヤは撃たれたカワカミ博士が気になり、撃った人間をハクト達が止めにかかったのと同時ぐらいにカワカミ博士に駆け寄った。
「ギンジ・・・・」
ムラサメ博士は倒れたカワカミ博士を見て呆然とした。
「・・・・は・・・はは・・・・」
カワカミ博士は笑った。
「心拍数が・・・・言った傍からそれです・・・・早く、ナツエ様を探してください。ああ、実験せずにリンクさせたから・・・・思った以上に・・・・」
カワカミ博士は左胸を撃たれている。
「しゃべらないで!!・・・・ラッシュ博士!!お父さん助かる?大丈夫?」
ユイはラッシュ博士に縋るように訊いた。
「心臓は逸れているから今は生きているけど・・・処置をするわ。悪いけど、運ぶの手伝ってくれる?」
ラッシュ博士はカワカミ博士の撃たれた場所を抑えた。
「お前等化け物が元凶だ。ドールプログラムなどなければよかったのだ!!」
ライアン・ウィンクラーは唾を飛ばしながら叫んだ。
「それを利用したのはお前等だろう!!」
ハクトはライアンを抑える手に力を入れた。
「兄さんもタナも気付いていなかった。危険なものに。これがなかったらこんな悲劇は起きなかった!!」
ライアンは抑えつけられても声の勢いは殺さずに叫んだ。
「悲劇を作ったのはお前等だ!!欲を出して人を人と思わない・・・・どれだけ死んだと思っている!!」
クロスが声を荒げた。
「ずいぶんと殺したやつが偉そうなことを言うな!!お前も・・・・お前も・・・お前等全員私たちのことを言えるか?この化け物。」
ライアンはコウヤ達を睨みつけた。
「ここで私は処置をするわ。そいつ縛り付けたら早くナツエさんを探しに行きなさい!!」
ラッシュ博士はカワカミ博士をストレッチャーに乗せて叫んだ。
「お父さん・・・お父さん。」
ユイはぐったりとしたカワカミ博士の手を握った。
「行こう・・・・ユイ。」
コウヤはユイをカワカミ博士から引きはがした。
「私が抑える。」
そう言ったのはムラサメ博士だった。いや、違う。
「アリア・・・・・?」
コウヤはムラサメ博士だった少女を見た。
「あんたのお父さんと同居はもうごめんよ。あんたがしなさい。」
アリアはコウヤを睨み、駆け寄った。
「ちょっと、あ・・・・・」
止めようとするコウヤの腕を押しのけてコウヤの頭掴んだ。
「後でぶん殴る。」
アリアは真顔で言った。
コウヤはその言葉を聞いて意識が途切れた。
その場にへたり込んだコウヤにユイは駆け寄った。
「コウ!!」
「安心して。彼の中にお父さんの意識を送り込んだだけ。」
アリアはそう言うとユイに優しい笑顔を見せた。レイモンドを抑えるクロスとハクトの元により、代わるように言った。
「アリアちゃん・・・・」
ハクトは心配そうに見た。
「私機械入ってて強いから大丈夫。ニシハラ大尉。クロスさん。」
アリアは言った通り、力がかなり強いようだ。
「あなたたちは・・・・コウヤの母親を見つけるんでしょ。早くしなさい。」
アリアはライアンを押さえつけた。
アリアにクロスが紐を渡す。プラスチック製の細いやつもだ。
「それで指も縛れ。」
クロスは手短に言った。
「わかった。詳しいのね。」
アリアは渡された紐で手早く縛った。
「大丈夫そうだな。行くぞ。ユイ。コウを抱えろ。」
ハクトはアリアの様子を見て安心した。
「え・・・えっと・・・・・」
ユイは一気にいろんなことが起きてパニックに近い状態だった。
「お前が抱えろアホ。」
クロスは舌打ち交じりに言うとコウヤに駆け寄り持ち上げた。身長はクロスの方が大きく、細身とはいえ筋肉質のため軽々と持ち上げた。
「行くぞ。ユイ。」
ディアはユイを引っ張り、走るように促した。
レイラはアリアを見て目礼をした。
チカチカと視界が点滅していた。
目は開いていた。ただ、いい状態を保つために機械的に瞬きをして、何かに動かされていた。
視界が意識を取り戻したような感覚だ。テレビの画面だと思っていたものが自分の視界になったようだった。
「・・・・は・・・・え・・・・」
モーガンは頭を抱えた。後ろを振り向くと倒れることなくみんなが定位置に付いていた。
「・・・・そうだ。頭に変な音が響いて・・・それから・・・」
自分の意思で動けなくなった。だが、動けるし生きている。
「これがドールプログラム・・・・」
自由にならないからだと意識が明確なのに他人事のように思える自分の視界。
思い出しただけで冷や汗が出る。とてつもない恐怖だった。
恐怖を感じられることも幸せだと思えた。
それよりも、モーガンは艦長席に座るレスリーの元に駆け寄った。
「艦長・・・・レスリー!!レスリー!!」
叫び声はむなしく、レスリーは反応を示さない。
「・・・・くそ!!」
モーガンは教えられた通り操舵の作業に戻った。
そうだ、通信すれば・・・・・
この状況で意識がある可能性のある人物はいる。
パニックになりながらも通信機器の前に座るイジーを少し押しのけた。
「・・・・どれだっけ・・・・どれだ・・・・・」
モーガンは手を震わせながら探した。
「あ・・・・あった。えっと・・・・」
モーガンは混乱していてどうすればいいのか整理できなかった。
そのモーガンの腕を誰かが掴んだ。
「ひい!!」
情けない声を上げてモーガンは飛び上がった。
「・・・・お前は操舵しろ・・・・・」
目を細めて冷や汗をかくレスリーがいた。
「か・・・・艦長おおお」
モーガンは目に涙を浮かべた。
「・・・・・今の場所を見ろ・・・・敵地の真ん中だ。・・・・・意識を取り戻していないうちに離脱する。フィーネを棄てる。」
レスリーはモーガンを横目で見た。
「え・・・・」
モーガンは目を見開いた。
「5分で出れるところまで行く。それまでに全員を避難船に乗せる。」
レスリーはまだ意識を取り戻していない乗組員を見た。
「私・・・・動けます・・・・」
声を掠らせながらリリーは言った。
どうやら他人の声を聴くことで意識が浮上したようだ。イジー、マックス、カカ、リオと順に意識を取り戻し始めた。
「まだ、避難するまではいかないのでは・・・・?」
イジーはモニターを見ながら言った。
「他の戦艦が意識を取り戻していなければだ・・・・もし取り戻していたら俺らは袋の鼠だ。フィーネはおとりに使う。」
レスリーはモニターに映る戦艦たちを睨んだ。
「でも、意図的に意識を戻させている場合は・・・・」
「連絡が入ってないのが気がかりだ。イジーとリリーは外に出ているメンツに連絡を取れないかやってくれ。今はそれで動く。」
『取り戻したかフィーネ。』
通信が入った。その声を聴いて操舵室に微かに安心したような空気が漂った。
「ハンプス少佐・・・・・」
泣きそうな声をモーガンが上げた。
『コウヤ達はカワカミ博士を追って研究用ドームに入った。ちなみに俺が意識を取り戻していることは伏せている。』
「伏せている・・・・?」
『俺とジョウさんは連絡が取れた。・・・・やはりこの事態はカワカミ博士が噛んでいる。今はコウヤ達の連絡待ちだ。できる限り俺もフィーネをフォローする。だが、俺たちは月寄りのところにいる。そこまでどうにかして生きて来てくれ。』
キースは少し言葉を濁らせた。
その意図を察しみんな暗い表情をした。
「何故意識を取り戻していることを隠しているのですか?」
マックスは不思議そうに尋ねた。
『コウヤ達はムラサメ博士と行動を共にしていた。ムラサメ博士に対して信用を持っていない俺は敢えて隠したわけだ。』
キースは当然のことのように言った。
「でも、もう隠さなくていいですよね。」
イジーは淡々と言った。
『そうだな・・・・』
キースは気まずいような感じだった。
「ではコウヤ達と連絡が取れたらお互いまた動きを確認するということでいいですか?こちらは意地でもハンプス少佐達の援護を得られる場所に行く。」
レスリーはキースに確認した。
『ああ、わかった。ジョウさんにも連絡しておく。』
キースはそう言うと通信を切った。
「避難船は残っているか?」
レスリーはリリーとイジーに確認した。
「はい。元々フィーネの乗車許容人数は多いですから避難船に余裕はあります。まだ数台あります。」
イジーの返答にレスリーはマックスとリオとカカを見た。
「数台はおとりに使う。使う場面が無いことを祈るがな。・・・・目指すは・・・・「天」だ。」
レスリーはモニターに小さく映る月を見た。
「・・・・あの時と・・・同じだ。」
レスリーは呟いた。
フィーネは月を目指し進み始めた。
辺りの戦艦が意識を取り戻し始めたようだ。動きに変化が見れた。
「艦長。目を覚ましたのは俺たちだけじゃない・・・・」
モーガンは目を細めてモニターに映る戦艦を睨んだ。
「・・・・攻撃してきそうか?」
「・・・・間違いなくしてきます。」
モーガンは断言した。
「砲撃準備。何としても月まで行く。」
レスリーは自身の顔の傷を触った。
「はい」
全員が叫ぶように返事をした。
「指示はお前がやれモーガン。俺は操舵する。」
レスリーはモーガンの横に立ち、舵を取った。
「・・・・わかりました。でも、艦長もお願いします。」
「ああ、マックス。お前とリオとカカは避難船を放出する準備をしてくれ。自分たちが乗るのを残してな・・・・」
レスリーはマックスとリオとカカを見て言った。
「わかった!!」
マックスはリオとカカに頷いて操舵室を出て行った。
「・・・・さて・・・・行くか。」
向かう先に戦艦が多数。それぞれ砲台をフィーネに向けている。
「・・・・下に移動する。」
レスリーは一言言うと操作盤をいじり始めた。
「・・・弾幕お願いします。」
モーガンは砲撃の指示をした。
リリーは頷き操作をした。弾を放つ振動にフィーネは揺れた。
「俺は勝手に自分のルートで動かす。何かあればすぐに口を出せ。」
レスリーはそう言うと大きく舵を切った。
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