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六本の糸~研究ドーム編~

43.正体

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 コウヤ達は無事研究用ドームに着いてから少し時間を置いていた。

 何故かというと、ゼウス共和国のドールに乗った男が彼らの船に乗り込んできたからだ。

 だが、その男というのは、ロッド中佐の元で諜報活動をしていた作業着の男だった。

 コウヤ、ディア、ゼウス共和国の軍服を着た男は三人でドールの出撃口にいた。

「なんというか・・・殺風景だな。」

 コウヤは出撃口から見えるドームの様子を見て感想を述べた。

「明らかに人間の気配が薄い。ここはまだ入り口だろ。」

 ディアはそう言うと目を瞑った。

「どうだ?」

 コウヤはディアがハクト達を探っていると思い声をかけた。

「だめだ。妨害電波のようなものが絶えず流れている。」

「そうか。ディア。結局お前のドールを置いて行ってよかったのか?」

 コウヤは思い出したように言った。

「ああ。この船に乗せるわけにはいかないからな。軍も裏返りかけているのだから「天」に置いたままの方が安全だ。」

「どういうことだ?」

 コウヤはディアの方を不思議そうに見た。

「この船に乗っているミゲル・ウィンクラーは・・・」

「偽物。最も本物がどういう顔かもわからないけど。もともと偽って乗り込んでいたようだ。それに気づいたからディア・アスールはこの船を勧めた俺を警戒したってわけだろ。」

 ディアの言葉を切るように作業着の少年。現在はゼウス共和国のドールスーツを身に着けた男は言った。

「よくわかったな。君も気付いたか?」

 ディアは男の方を見た。

「俺は中佐が「天」に上がると聞いた時に「天」の軍本部に関係する人物全ての写真と資料に目を通した。」

「・・・うわ、お前有能だな・・・・」

 コウヤは純粋に感心した。

「それだけの能力がなければ中佐どのを守れないからか・・・?」

「違う。あの人・・・・は俺がいなくても生き残れる。ただ・・・俺は自分の存在意義が欲しかった。」

 男は寂しそうに言った。

「・・・・存在意義・・・・」

 コウヤは男の言った言葉を繰り返した。

「さて、この話はここまで。どうする?」

 ディアは余裕そうに笑った。

「障害は消す。これは俺も中佐も徹底していること。」

 男は唇を引き締めて言った。

「もっと平和的な解決はできないのか?」

 コウヤだけ慌てた様子であった。

「ミゲル・・・・いや、あの男はどこだ?」

 男は物騒な口調で周りを見渡した。

「この付近にいない。操舵室にいるだろう。」

 ディアは目線を上に移して言った。

「おい、ここの会話とか聞かれているんじゃ・・・・」

 コウヤは不安になり周りを見渡し何かを探し始めた。

「機械は止めた。私に対して機械の小細工は通用しない。」

 ディアの目は据わっていた。

「アスールさん。あいつ殺しても大丈夫か?」

 男はディアの方を見ると腰に忍ばせているであろう拳銃に手をかけた。

「泳がす。あの男の雇い主を知りたい。どう見ても密偵向けの男じゃない。何か意図があって、役割があるはずだ。」

「どうする?」

 コウヤは二人を見た。

「泳がすということをしたことないから俺は役に立たない。」

 男は両手を挙げて言った。

「別に私たちは普通に動けばいいんだ。あいつはきっとこのドームに降りる。技術や戦闘能力はこっちの圧勝なんだ。余裕にしていればいい。あわよくば案内係になってもらおうか」

 ディアは口元だけ笑って言った。

「それはそうと、俺のせいで出るのに時間を取らせてしまっているようで申し訳ない。中佐たちはおそらくもう目的地に着くと思う。だから、時間を取らせた俺が言うのもあれだが・・・」

 男は急いでるように言った。

「わかっている。出よう。ただし君が乗ってきたゼウス共和国のドールに三人で乗る。」

 ディアは男が乗ってきたドールを指さした。

「は?三人も?」

 コウヤは驚いた。

「念のためだ。操縦も念のため私がする。異論はないな。」

 ディアは男を見た。

「異論はない。むしろそうしてほしい。」

 男は納得したように言った。

「私が乗って出る予定のこのドールは持っていこう。それぐらいの演技はしといたあちらも動きやすいというものだろ?」

 ディアはそう言い、自分が乗って出ると言っていたドールに触れた。

「そうだな。たぶんあのミゲルはこのドールを回収しに来る。中にフェイクでも入れておくか。」

 男はそう言うとコウヤを見た。

「え?俺?」

 コウヤは驚いた。

「冗談だ。それに、お前こそ一番リスクを冒してはいけない。お前は自分の重要さを理解してない。」

 男はそう言うと自分が着ていたゼウス共和国のドールスーツを脱ぎ始めた。

「いいのか?着替えなら物陰で」

 ディアが礼儀としてか、形式的な様子で目を逸らしていた。

「別に気にしない。俺は戦闘するつもりでこのドールに乗ってなかったから神経接続も手足だけの簡易的なものだ。下に軍服も来ている。」

 男はそう言うとスーツを全部脱いだ。その下にはゼウス共和国の軍服があった。

「簡易接続の指導まで受けているのを見るとなおさら訓練を受けたと見えて仕方ない。」

 ディアは男の様子を見て言った。

「軍の訓練は受けている。軍属ではないだけだ。」

 男はそう言うと顔を上げた。

「そろそろ顔を見せてもらってもいいか?」

 ディアは自分の前髪を指さし男にそれを上げるようにジェスチャーした。

「ここまでならいいだろう。」

 男はそう言い前髪を鼻の上まで上げた。

 二人は少し驚いた。

 男の鼻から上の右半分に大きな傷跡が見えた。おそらく顔の右上全体にあるのであろう。

「昔、襲撃に巻き込まれてな。もうそっちはわかってんだろ?」

 男はそう言うと前髪を再びおろし着ていたドールスーツをディアが乗る予定だったドールに無人状態で神経接続を行った。

「コウはおそらく簡易接続については知らないと思う。簡易接続とは手足と頭だけの接続でドール操作するものだ。急ぎの移動の時に使う。いつもの接続と違うから戦闘能力は大きく下がる。そして、あのように無人状態でのスーツのみの接続はドールにパイロットが乗っていると錯覚させる。よって有人状態のように偽装できる。」

 ディアは男を指さしながらコウヤに説明した。

「偽装か・・・・」

 コウヤは何かに使えそうだなと考えたが、自分が特に考えなくてもいいかと判断して考えるのを止めた。

「別にコウが思考を巡らせて作戦を練る必要は無いと思うが、覚えておくと便利だぞ。」

 ディアはコウヤのその様子を見て笑った。

「お前はエスパーか?」

「似たようなものだ。私も、お前もだ。」

 ディアは笑って言った。

「準備はできたぞ。」

 男が二人の元に走ってきた。

「ではドールに乗り込むか。」

「簡易接続でいいのか?」

 ディアの様子を見て男が訊いた。

「ああ。3人も乗るんだからコックピットがコードで狭くなるのは避けたい。」

 ディアはそう言うとゼウス共和国のドール、ゼウスドールに乗り込み始めた。

「ありがとな。」

 男はコウヤに言った。

「え?」

 コウヤは急に言われた礼に戸惑った。

「俺を信用してくれて。この船に乗り込ませてくれて。」

 男は口元に笑みを浮かべゼウスドールに乗り込み始めた。

 男の後姿を見てコウヤは優しく微笑んだ。

「それは俺の方だ。・・・あなたのおかげで」

 コウヤはそう言うと二人に続きドールに乗り込んだ。









「くそ。早いな。」

 キースは先頭を走る長身の男を追っていた。

「無理についてこなくていい。そちらは年寄りもいるのだから。無理はするな。」

 キースの前を走る長身の男、ロッド中佐は息一つ乱さずに淡々と言った。

「中佐さんがペースを落とすってことはできないのか?」

 キースは目の前の男を睨みながら言った。

「私は急ぎの用事がある。とても大事な。君たちに構っている暇はない。」

 そう言うと彼はペースを上げた。

「あ・・・おい」

 キースはロッドを追おうとしたが

 後ろのリリーとモーガンと執事の様子を見て立ち止まった。

「す・・・すいませんハンプス少佐。」

 息を切らしながらリリーは大声で言った。

「気にするな。中佐殿の言う通りここはペースを落とした方がいいな。俺たちは軍人とはいえ普通の人間なんだから。」

 キースはそう言うとリリー、モーガン、執事が追い付いてくるのを待った。

「しっかし、こんな施設ならドールで出ればよかったな。」

 そういうキースに後ろから執事が答えた。

「それはよした方がいい。この施設にはおそらく大量の妨害電波や洗脳のための電波が発せられています。」

 どうやら、リリーとモーガンよりも先に執事が追い付いたようだ。

「電波?通信機とかの妨害でならわかるが・・・」

「ドールプログラムの神経接続は脳に直接語り掛けます。接続をしているドール自体が妨害電波や洗脳電波を受けた時、パイロットに作用する可能性があります。この施設の意図を考えると、洗脳用の電波を発していてもおかしくない。」

「へー・・・・。じゃあ、この施設内でドールに乗るのはだめということか?」

 キースの問いに執事は首を振った。

「いいえ。接続でも簡易接続ならあまり影響はないと思います。あと、サブドールは大丈夫ですね。」

 執事はそう言うと足を止めた。どうやらモーガンとリリーの前に執事が着いたようだ。

「サブドールもドールプログラムじゃないのか?」

「サブドールの操作に必要な神経接続は手足です。脳に干渉しない機械なので、厳密にいえば『ドールプログラムを応用し簡易的だが少し戦力不足の機械』と考えればいいでしょう。」

「そうか・・・この施設自体のシステムを乗っ取るってのはできるか?」

 キースは執事を真っすぐ見た。

「できます。ですが、一番早いのは、母体プログラム該当者をプログラム内に送ることでしょうね。」

 執事は指で数を数える素振りをした。

「母体プログラム?他のと違うのか?」

 執事はキースの問いに大きく頷いた。

「該当者がいるプログラムは6つです。ただし、母体プログラムは3つ。幸いその3つは該当者がいるプログラムです。」

「幸い・・・か。敵さんに渡ったらやばいんだろ?そして、ハクトがその母体プログラム該当者だろ?」

 キースの言葉に執事は驚いた顔をした。

「そうです。でもなぜ?」

「あんたがアスールさんじゃなくてハクトを行かせたらしいからな。あいつにこの施設乗っ取ってもらおうという算段だろ?」

 執事はそれを聞いて笑った。

「さっきからの質問といい、あなたはよくわかる方ですね。もうわかっているのですね。私のことも・・・」

 執事は苦笑いした。

「ああ。うしろお子ちゃまは、何もわかってないからな。」

 キースはそう言うと後ろを振り向き、追い付いたが、会話に入れないでいるリリーとモーガンを見た。

「あの二人も・・・あなたも巻き込まれた者たちですよ。」

「そんなこたない。そりゃ、ドールプログラムは渦の中心でそれに深く関わっているものも中心近くにいる。でもよ、渦を作ってるのは別のやつだろ?俺を巻き込んだのはそいつらだ。」

 キースは笑って言うと執事もつられて笑った。

「そう言っていただけるのはうれしいです。」







 研究用ドームの中を一体のゼウスドールが地連軍のドールを抱えて歩いている。

 地連軍のドールの中は無人であることが見てわかる。

 動くゼウスドールの中には男女三人がぎゅうぎゅう詰めになっていた。

「演技だとしてもどうしてこのドールを持ち出す必要があったんだ?別のサブドールでも・・・」

 ゼウス共和国の軍服を着た男は不思議そうに訊いた。

「ミゲル君はこのドールに乗った私を回収するつもりだ。なら、中身が空のドールを回収してもらい、飼い主様のところに案内してもらおう。」

 ディアは不敵に笑った。

「どうしてミゲルが怪しいと思ったんだ?それに、無人のドールを持ち出すにはどう演技しても寄りかかり合いながらになってしまう。あいつに見破られないのか?」

 コウヤは二人を交互に見た。

「さっきも言った通りだ。資料に目を通していた。見たことあるIDに見たことない顔だったら警戒する。見破られに関しては大丈夫だろう。あの男は軍人じゃない。おそらく素人だ。」

 男は当然のように答えた。

「そうだな。念のために私は君を見張るとミゲルに言ったから気に留めないだろう。」

 ディアは感心したように言った。

「ディアは?」

「私は、勧められたドールに洗脳用のプログラムが見られたからな。簡易的なものだから察知できた。もし、これがコウだったら察知できずに大変なことになっていたかもしれない。」

「俺の方が何か能力低そうだな・・・」

 コウヤは納得していない様子だった。

「当然だ。経験、知力、判断力、冷静さについてはお前のようなひよっこにはまだ付いてこない。お前はいいところ才能だけでいきがっている雑兵だ。」

 男はコウヤに辛らつな言葉を投げた。

「大方合っているから何も言えない。」

 コウヤはそう言うと黙り込んだ。

「来たぞ。」

 ディアがそう言うと二人は狭いコックピットの中モニターを見た。

 画面の中には先ほど自分たちが出てきたドールの出撃口から一体のサブドールが出てきた。

「サブか・・・・結構下手だな」

「軍人じゃなさそうだ。確かに軍人っぽくなかった。」

 その言葉にディアは頷いた。

「お前への突っかかり方も軍隊の訓練を受けていればもっと違っただろうな。あれは、あまり外に出ない仕事が本職だろ。もしくはそう演じているか・・・・なら相当な役者だ。」

「二人ともよく見ているな。俺は別に自然だと思ったぞ。」

 コウヤが感心していると男が振り向いた。

「お前の知る軍人を一人思い浮かべろ。明らかに華奢だ。そして、ガキだろ?」

 コウヤはハクトを思い浮かべた。

「・・・確かに・・・ハクトは筋肉質だよな。俺もだけどな!!」

 ディアが冷たい目でコウヤを見た。

「比べる対象が違う。ハクトとあのミゲルと比べるなんてハクトに失礼だ。」

 ディアはそう言うと静かにドールを操作し音をたてないように抱えていた地連のドールを地面に置いた。

 それをみて男は感心した。

「さすが、簡易接続でもこのクオリティか・・・特別体質だけではないな、アスールさん。」

「ディアでいい。これに引っかかったミゲルを追う。いったん離れるぞ。」

 そう言うとディアはゼウスドールを操作し、地面から浮き、床を揺らさない高さで飛んだ。

「ミゲルはおそらく地面を走ってくる。振動はバレるが、騒音はバレない。」

 ディアがそう言うと男は頷いた。

「そうだな。」

 コウヤはそんな二人を見比べて、ひどく置いて行かれてる気がした。

「お前が引け目を感じる必要はない。適材適所だ。」

 ディアはそう言うと笑った。男も笑った。

「最初に会った時より自分を分かっているじゃないか。安心しろ。こういう芸当ができなくてもお前は強い。俺はそう感じる。」

「・・・・えらく優しいな・・・」

 コウヤは意外そうに男を見た。

「おだてたら木に登ってくれるかもしれないからな。」

 男は砕けた口調で言い笑った。

「・・・・引っかかってくれたようだ。」

 ディアは二人の会話を聞かずに置き去りにしたドールを察知していたようだ。

「後を追おう。どうする?」

 男はさっきの砕けた口調ではなく、真剣な声だった。

「少しずつ距離を詰める。入るところに入ったらあいつをサブドールからたたき出して案内してもらうさ。」

 ディアは悪い笑みを浮かべた。









「機械音が消えた・・・・・」

 イジーは目の前の警備兵から発せられていた機械音が消えたのを悟った。

「死んだら消えるようだ。どうやら、ここの警備は頭に機械が埋め込まれたやつらしい。」

 シンタロウは頭に指を差し苦そうな顔をした。

「頭に・・・・そんな・・・・なんで。」

 イジーは何がどうなっているのかわからなかった。

「ドールプログラムは頭に脳に干渉する。たぶんそれを増大させる機械だろ。」

 シンタロウはレイラが頭痛に悩んでいたことを思い出した。

「あんた、本当にいろいろ見てきたのね。・・・さっきのサブドールの操縦技術は見事だったわ。」

 イジーは素直に褒めた。

「こう見えてゼウス共和国ではレイラの・・・ヘッセ少尉の補佐をしていた。・・・・フィーネとも対峙しているって話したか。」

 シンタロウはそう言うと笑った。

 使命感と生と死の境を垣間見たことで人はここまで強くなれるのか・・・

 だが、彼の能力はそれだけではないはずだ。

 イジーはそんなことを考えていた。

「イジー。進むぞ。準備はいいか?」

 シンタロウは扉の隙間に向かっていた。

 イジーはそれを見て置いて行かれたくないという気持ちが何故か大きくなった。

「待って!!・・・・ここからはなるべく離れないで行動しましょう。」

 イジーはそう言うとシンタロウに近付いた。

「そうだな。さっきもあんまり離れてないけどな。」

 シンタロウはそう言うと腰に付けた拳銃に弾を追加していた。

「あれ?持ってきた銃ってそんな銃だった?・・・」

「そこの警備兵から取った。弾も車に乗っていたから使わせてもらう。死を嘆くのはすべて終わってから・・・だろ?それまでは徹底する。」

 イジーはそれを聞き、警備兵の腰から銃を取りに戻った。

「別にイジーは無理するな。」

 シンタロウは慌ててイジーを止めた。

「あなただけにそんな汚れごとやらせない。私も徹底する。」

 イジーはそう言うと銃を取り自身の腰につけ、弾を車から持ち出した。

 それを見てシンタロウは少し悲しそうな顔をした。

「シンタロウ、私は今のあなたの気持ちわかる。」

 イジーはその顔を見て言った。

「え?」

 シンタロウは急いで表情を戻した。

「さっきあなたが銃を放った時に私もそう感じたから。」

 イジーはそう言うとシンタロウを真っすぐ見た。

「私たちは徹底する。ここを止めないと、地連とゼウス共和国の間で永遠に争いが繰り広げられる。」

 イジーはそう言うとシンタロウと同じく拳銃に弾を補充した。

「・・・・そうだな。」

 そう言うと二人は並んで扉の向こうに向かった。









 イジーとシンタロウが扉に入って行ってから少しすると一人の男が扉の前に立った。

「ルーカス君ではない、このサブドールの操作・・・・誰だか知らないが・・・・見事だな。」

 男は大破した車たちとその横に置かれたサブドールを眺めて言った。

「・・・・ハンプス少佐ではないはずだ。・・・・地連の軍人か?」

 男は少し考えたが、直ぐに顔を扉に向けて進んだ。

「誰でもいいことだ」

 彼はそう言うと扉の中に進んで行った。







 キース達4人は再び歩き出した。

「歩いていていいんですか?」

 モーガンは急ぎたいのか少しうずうずしていた。

「いいんだ。中佐が先に行っているのなら大丈夫だろ。それより、俺らは・・・」

 キースは視線を執事に移した。

「俺らは?」

 リリーはキースの視線を追った。

「・・・この執事さんを施設内に安全に運ぶことだ。無茶するなよ。」

 キースは執事を見て笑って言った。

「これはこれは、安心な警備ですね。」

 執事はそう言うと笑った。

「へ?執事さんを?」

 リリーとモーガンは顔を見合わせて首を傾げた。

 しばらく進むと、リリーは疲れて少し下を向いた。

「え?・・・・さっきの車のかな?」

 何かを見つけたのか下を見ながら小走りした。3人を追い抜かし立ち止まった。

「これ見て・・・ここの道すごいへこみがある・・・」

 リリーは床のへこみを指さし言った。

「これは・・・新しいな。さっきの車に乗っていたサブドールか・・・・」

 キースはそう言うとへこみに触れた。

「・・・・うまいな。結構戦場を経験した使い手だな。へこみのまわりにタイヤ痕が大きく残っているから、ここに着地したのは車を撒くためか・・・ただし、また戻っているな・・・それでこのへこみで済むのは器用だな。」

 キースは感心していた。

「コウヤ君たちですか?」

 リリーはキースを見た。

「いや、別人だと思う。だから誰だかわからないんだ。」

「味方なら悩まなくていいんじゃないですか?」

 モーガンは気楽そうに言った。

「そうだけど・・・なんか・・・気になるな・・・」

 キースは何か引っかかっているようであった。

「少佐さん。あの扉を破るために爆走していたのでは?」

 執事はそう言うと遠くに見える黒い塊を指さした。

「なんだあれ?」

 キース、リリー、モーガンは目を凝らしてみた。

 執事が指さす方向には黒い塊がいくつか転がり、その向こうに扉らしきものが見えているというものだった。黒い塊からは煙が発せられているため細かいところまでは見えなかった。

「結構距離があるな。中佐もあそこを目指したんだな。」

「あそこを破るために爆走していた車ってことは、コウヤ達じゃないのは確実なんだね。」

 モーガンは納得したように言った。

「どうして?」

 リリーは分からないようで納得してなかった。

「だって、あの扉を把握するには一旦確認する必要があるでしょ?コウヤ達は俺たちより後から来ているから、不可能なんだ。」

 モーガンの説明にリリーは感心した。

「モーガン頭いい・・・」

「確かに、モーガンさっきからさえているな。これが実戦経験で培われるものかもな。」

 キースはそう言うと目を細めて前を見た。

「・・・少佐さん・・・」

 執事がキースに小声で囁いた。

「・・・・なんだ?」

 キースも小声で答えた。

「・・・・モーガン君ですが・・・・洗脳電波の影響で、頭の働きが活発になっている可能性があります。」

「・・・なにか支障があるとかは?」

「支障といえるかわかりませんが・・・・しばらくすると急な疲労感が来ると思います。下手したら倒れるかもしれません。気にかけてください。」

「わかった。ありがとな。」

 キースはそう言うとモーガンに近付いた。

「なんですか?キースさん。」

 モーガンはキースを見て訊いた。

「モーガン。リリーちゃんもだけど、この施設はよくない電波とかあるかもしれないから、二人とも頭が痛くなったり、気分が悪くなったときはすぐに言えよ。万一のときに動けないと命取りだ。」

 キースはモーガンを見た後にリリーの方を見た。

「わかりました。私は大丈夫です。」

 リリーはそう言うと敬礼をした。

 モーガンも同じく様にならない敬礼をした。

「モーガン。もっとしっかり敬礼しろよ。」

 キースはそう言うとモーガンの敬礼に上げた右手の形を整えた。

「お!!なんか俺軍人っぽい!!」

 モーガンが楽しそうに言っていた。

 キースはそんなモーガンを笑顔で見て、執事の傍に戻った。

「少佐さん。進みますか?」

「ああ、行くぞ。二人とも。」

 キースの声にリリーとモーガンは手を挙げて答えた。









「ミゲル・ウィンクラーか・・・・ふ・・・まさかウィンクラー姓の軍人に変装するとは思わなかった。」

 一体のサブドールの中で、地連の軍服を着た男が呟いた。

「意外とうまくいくもんだな。まさか、あのディア・アスールがこんな罠に引っかかるとは・・・・」

 男はそう言うと目の前に転がる一体のドールを見て笑った。

「あのゼウス共和国の男が来たときはどうなるかと思ったが、やっぱり馬鹿だな。」

 サブドールをドールに近づけようと男はサブドールを操った。だが、思うように動かないのか表情は曇っていた。

「くそ・・・・意外と難しいな。そういえば、あの船に乗っていた「コウヤ」という男は何者だ?」

 男はそう言うと、また表情を曇らせた。

「くそ・・・よく飛べるな。こんな操作性の悪いもので・・・」

 やっとサブドールを近づけられたのかミゲル・ウィンクラーと名乗っていた男は笑った。

「ディア・アスール確保・・・・これでラッシュ博士の解析作業が進む。そして、俺がドールプログラムを・・・」

 サブドールは慣れない様子でドールを持ち上げた。

 安定しないサブドールの動きは遅く、持ち上げているドールが危うげに揺れていた。

「あのゼウスドールはいないか・・・・先に行ったのか?薄情なやつだな。」

 男はそう言うとまた、いら立った表情でサブドールを操作していた。

 かなり遅く、5分かけて500mほど進んだ。

 慣れてきたのか、動きは少しずつ早くなっていくが、安定せず、まだ遅かった。

 しばらく進んだ先に、電車が止まるような施設があった。どうやら、ここにドーム間を移動した電車を停めているようだ。

 ただし、ここには荷物用の車両しかない。どうやら倉庫のようだ。

 線路にそってサブドールは進んだ。

 しばらく進むと大きな扉があった。この扉は車でどうにかなるもではなく、中から開いてもらうか、ドールで破壊するしかないようだ。

「・・・・えっと・・・通信繋げるのが・・・・」

 ミゲルと名乗った男は、慣れない手つきで通信機をいじり目の前の扉と通信しようと試みていた。

「あれ?・・・・つながらない?」

 男は焦り始めた。

「おかしい、警備システムが動いていないのか?そもそもシステムが作動していないのか?」

 男がブツブツ言い始めた時、背後からすさまじい勢いで近づいてくる物体があった。

 サブドールの操作に慣れていないような男に察知できるはずもなく

 その物体が男の乗るサブドールにとびかかるまで気付かなかった。

 サブドールが衝撃で床に転がった。

「がっ・・・いた・・・が・・」

 中に乗っていた男はその衝撃を受けて息を詰まらせた。

「嘘だろ・・・・コックピットは衝撃を軽減しているって・・・」

 どうやら男は初めてのことらしく、なにか呟いていた。

『やあ、ミゲル・ウィンクラー君はどうやら軍人ではないようだね。』

 声の主はさっき確保したはずの

「・・・ディア・アスール・・・」

『そのサブドールの操作を見ているとセンスがないのがわかるな。もともとの運動能力が低いのか。体を動かす仕事じゃないな。』

 この声の主は途中から船に乗り込んだ男だ。

「お前ら・・・・なぜ気付いた。」

 男は疑問をぶつけた。

『コウ、この状況でも疑問をぶつける職業を知っているか?』

 ディアの声が響いた。

『え・・・?疑問をぶつける職業って言ったら・・・』

 コウヤは何か思い浮かんだ気がした。

「くそ・・・・ラッシュ博士の研究を進めるためにはお前等モルモットが必要なんだよ。」

 ミゲルと名乗った男は叫んだ。

『ディア。ドール操作を変わってくれ。こいつ、殺す。』

 無機質な声でゼウス共和国の軍服を着ていた男は言った。

 ミゲルと名乗った男は背筋が寒くなるのを感じた。

『血気が盛んだな。だが、こいつにはやってもらうことがある。本名はなんだ?名前を知らないと・・・それと、今・・・ラッシュ博士と言ったな。』

 ディアは、聞き覚えのある女の名前に耳を止めた。

「そうか・・・お前はアスール財団の者か。博士を知っていてもおかしくない。」

『ラッシュ・・・・』

 コウヤは思わずその名前を呟いた。

 その名前を呟いた時、一人の女の姿が浮かび上がった。

 真面目そうな医者で、そばかすが目立つがかわいらしい顔立ちをした一人の女性。

 悪戯をして怒られたり、父親からの説教に隠れるのに協力してもらったひと。



『・・・・キャメロン・・・・』

 コウヤはその女の名前を呟いた。

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