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六本の糸~地球編~

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 私は君がどこにいるのかわからない

 誰よりも優しかった君は今の私たちを見ると悲しむだろうね

 でも、私は決めたんだよ

 君は争いを嫌うだろうから敢えて言わなかったんだ

 私は例の場所を取り返すために生きている

 今の私を生かしているのは過去の思い出と君たちの存在だ

 だから、君も、みんな死なないでくれたまえ

 また再会する場所を取り戻すまで生きてくれたまえ

 私たちはまた会うためにいるのだよ





 父に言われ手紙を書いた。誰かに出すわけでもない。自分がこれからやることの決起文のようなものだ。戦争と混乱からみんながどこにいるか掴むことは出来なかった。おおよその検討が付くところはとても悲しいところだが、とにかく私は皆がどこにいるのかわからない。



 そんな私もとても悲しい立場になっている。この立場になるために子供ながら汚いと思えることも沢山した。



 父も財団も自分の存在価値を利用し、後は少しの一押しで飾り物の立場を掴んだ。











「頭痛があったわけではないのですね。・・・・ドール乗りはとても負担がかかるというのは知っていますが、あなたのように症状が軽くなる例は珍しい。これも適合率の高さが理由ですかね。」

 医務室専属の医者は頭を抱えてコウヤを見ていた。



「ありがとうございます。俺、動いても大丈夫ですか?」



「ええ。頭に異常もありませんし、ドールが衝撃を受けたわけではないようでしたから。ただし、無理は禁物ですよ。異常があったらすぐに戻って休んでください。その辺でもいいですけどね。」



「はーい。どうしても降りたくて・・・・」



「そうですか。ですが、予定を大幅に変更してこの後は本部に向かうらしいですよ。」



「え?」



「艦長の判断です。あなたに負荷をかけすぎたということで、追ってくる敵のことを話して珍しくごり押ししたらしいですよ。ハンプス少佐がいくら上層部に顔が利くからと言っても当初の予定を大幅に変更してます。」



「俺に・・・?」



「ドール乗りのことをよくわかるのは同じドール乗りだといいます。ニシハラ大尉はそれでも一般の感覚からかけ離れた人です。その人が大事を取って予定を変更しているんですから、あなたに心配されることが起こりつつあるのではないですか?」



「艦長が・・・・・」

 ハクトが自分を心配しているのは何となくわかっているが、ドール乗りとしてだろうか。彼はもしかして自分が記憶を取り戻そうとしていることに対して心配をしているのだろうか。



「考えすぎだ・・・・」

 コウヤは頭の中で立てた仮説を声に出して否定した。



「油断は禁物です。」

 医者はコウヤの顔を真面目に見ていた。どうやら彼の言ったことに対して言ったと思われているようだ。



「・・・・はい。」

 コウヤは説明する気もなく、そのまま頷いた。



 ユイ、ハクト、ディア、クロス、レイラ



 頭の中で蘇った記憶に出てきた親友の名を浮かべた。



 ディアとディア・アスールが同一人物である可能性は低いだろう。だが年齢が同じであることと、何かが引っかかっていた。それをコウヤは確かめたかった。







「すごい人だな・・・・・」

 ついそんなことを言ってしまうほど第6ドームは人であふれていた。



「当然だろ。あのディア・アスールを見るために各ドームから人が押しかけているし、ここは地連の軍施設があっても近くに中立国ドームが並んでいるから安全と言われている場所だし。」

 とシンタロウはなぜか誇らしげに言った。



「すごい、だから避難民もここで降りるのね。ここからだと近くの中立国ドームにアクセスしやすいしからね。」

 と戦艦から第6ドームに降り立った人々のことをアリアは思い出した。



「アリアはもうここに降りないのか?」

 シンタロウが気になったように訊いた。



「私、軍に志願したのよ。第1ドームでたくさんの人が死んだのを知ったし、知り合いもたくさんいた。悲しむ暇なんかないほど。コウヤはどうなるかわからないけど、私、やることないから。だから、本部に行って私でもできるオペレーターに志願するの。この戦艦リリーさんは私より年下なのにあんなに戦っているんだもの。」

 自分に関しては曖昧にいっているが、強い意志を感じる表情で言った。



 それを見たシンタロウは寂しそうに笑った。



「じゃあ、ここでお別れだな。俺は、ここの訓練所でドールパイロットになる。」

 彼も強い意志を感じさせた。



「そう、コウヤには言った?」



「まだ、あいつが色々話してくれたからな。俺もしっかりと話さないと・・・・。でも別れる前に言おうと思っている。いつか会えることを約束したいんだ。」

 シンタロウは寂しそうにだが、少し夢を見るように言った。



「男子のそんな通じている感じが羨ましい。シンタロウはコウヤのことよくわかっているんだね。」



「そうでもない。俺から見るとアリアは俺たちのことをよくわかっているんじゃないか?」



「まさか。私は分からないもん。本当に、知りたいのにね。」

 アリアの呟きをシンタロウを苦笑いをして聞いた。



「考えられなかった。私たちに戦争が身近になる日が来るなんて・・・・」

 アリアは哀しさを滲ませて言った。



 シンタロウは何も言わずに頷くだけだった。









「艦長!!どこからまわります?」

 ソフィは嬉しそうにマップを片手に持っていた。



「わざわざありがとうございます。俺まで一緒に・・・・」

 とコウヤが私服で歩き回る船員たちに言うと



「君はもう私たちの仲間なんだからいいの!!お礼なんて」

 とリリーは力強く言った。



「リリーがそういっているのだ。気兼ねすることはないコウヤ君。」

 ハクトは珍しく私服を身にまとって言った。



「はい。艦長。」

 と言うと



「ここでは艦長というな。仮にも同い年だ。気軽にハクトと呼んでくれてかまわない。」



「はい・・・・・ハクト」

 その様子を見ていたモーガンが



「なにカップルみたいなことしてるんですか?艦長。俺もハクトって呼んでいいんですか?」

 とノリノリで言ってきた。



「お前は年下だろ。」

 ハクトはそう一蹴した。



「ハクト呼びが板についているわよ。コウヤ君。」

 リリーは羨ましそうにコウヤを見た。彼女は年下のため呼び捨てにできないからであろうか。



「そうよ。ここではお友達よ。ねーハクト君。」

 ソフィはハクトをかわいがるような口調で言った。



「流石最年長!!声に母性が溢れる!!」

 モーガンはソフィをおだてるように言ったが、ソフィに鋭く睨まれていた。





「モーガンは何で整備士になったの?」

 買い物を楽しむ女性陣を待ちながらコウヤはモーガンに訊いた。



「俺さ、避難船に乗ってゼウス軍から逃げたことあるんだ。その時、黒いドールに助けられたんだ。だから、少しでもドールに乗る人の手伝いがしたくなってね・・・」

 と語ってくれた。モーガンはコウヤに敬語を使うつもりはないようだ。



「へー・・・・みんなそれぞれ何かあって軍隊に入ったのかな・・・・」

 とコウヤは買い物をする他の船員たちを眺めながら呟いた。



「そうだな・・・・リリーと副艦長は実家が軍家だからだし、副艦長は父親を襲撃で亡くしているし。それ以外はいろいろわけありだ。艦長も親友を捜すために軍に入ったらしいし・・・・」

 と女性陣に引っ張りだこにされているハクトの方を指さした。



 その話を聞いたコウヤは少しだけモヤモヤした。



「それよりも、ソフィさん父親亡くしているの?」



「結構有名だよ。少将だし。月ドームの「天」が襲撃されたって知らない?打撃を受けたのが貴族の屋敷もあったけどほとんどが軍施設だったからあまり有名じゃないのか?まあ、混乱もあったし、「希望」の破壊が大きかったからな。地球にいたら月のドームのことなんか気にしなくてもいいからな。」



「それいつ?」



「「希望」が襲撃されてから一年くらいかな・・・・?「天」は幸い破壊されなかったから今も健在だよ。」

 モーガンは今度行くか?と笑いながら言った。









「ハクトさん、これ似合うと思いますか?」

 とリリーは服を試着してハクトの前でモデル歩きをした。



 ハクトはいつもと変わらない表情で

「ああ・・・・いいんじゃないか。」

 と特に関心もなく言った。



 リリーは少しふくれっ面になり

「もう!!ちゃんと見てください!!」と怒った。



 それを見ていたモーガンは呆れて

「艦長。男は男で回りましょう。」

 とハクトを引っ張って行った。



「あ!!モーガン。」

 とソフィが気づいた時にはコウヤとモーガンとハクトとシンタロウで出て行ってしまった後であった。







「すまん、モーガン。」

 とハクトは謝った。



「艦長モテるんですから気を付けてくださいよ。女性の買い物には付き合わないのが得策です。」

 とモーガンは根拠があるのか自信満々に言い切った。



「女性の買い物か・・・・アリアも置いてきてしまったな。」

 コウヤはメンバーを見て言った。



「男同士飯でも食いに行きますか。」

 シンタロウは自分の空腹を訴えた。



「わかった。俺がおごろう。」

 とハクトは張り切り近くの飲食店に進んだ。



 モーガンは嬉しそうに

「よっしゃー艦長のおごりってついているな。」

 と上機嫌だった。



 コウヤとシンタロウも嬉しそうに付いて行った。



「モーガン・・・・外で艦長と言うのはやめてくれ・・・・・道行く人がみんなこっちを見てくる。」

 とハクトが少し恥ずかしそうに言うと



「わかったぜー!!兄さん!!」



「可愛い弟ですね。」

 シンタロウは冷やかすようにハクトを見た。



 ハクトは無言でモーガンを見ていた。



「あ!!あそこでご飯食べようか!!」

 コウヤは慌てて近くの店を指差してハクトを押し込んだ。







 入った飲食店は中華が専門のようだった。

「中華か。休みの時によく食べたな。」

 ハクトは懐かしそうに笑った。



「ハクトは中華が好きなのか?」

 コウヤはメニューを見ているハクトに訊いた。



「嫌いではないな。量が食べれて美味しくて安い店があってな。財布の寂しい軍勤務にはうれしいものだった。」

 とハクトはメニューに夢中になっていた。



「きっと女性陣はイタリアンとかに行くんでしょうね。」

 とモーガンは言った。



「よく知っているな。モーガンの過去の女性関係でも暴露するのか?」

 とコウヤが面白半分にモーガンに話を仕掛けた。



「いいますか?俺・・・・こう見えて・・・・」

 とそこでモーガンは溜めた。



「こう見えて・・・?」

 ハクトが興味津々に訊いてきた。



「あるわけないですよ。・・・・ってハクトの兄貴メニュー熱心に見てるふりしながらめっちゃ聞いているじゃないですか!!」

 モーガンはげらげらと笑いながらハクトを指差した。



 コウヤは笑いながら

「ハクトの兄貴だとさ・・・・いいんじゃない?」



「なんか・・・ごろつきになった気分だ・・・・」

 ハクトが少し恥ずかしそうに言うと



「ずいぶん身分の高いごろつきですね~」

 とシンタロウもハクトを冷やかすように笑った。



「よーし。みんな何をたのむ?」

 ハクトはごろつき会話から話を変えた。



「俺は、これにした。」

 ハクトは一番安いランチセットを指差した。



「俺も」



「あー、俺も」



「じゃあ俺も・・・・」



 なぜかわからないが全員が同じメニューを頼んだ。



「もっとチャレンジしてもいいんだぞ。俺の奢りだからって気を遣うな。」

 ハクトはモーガンとコウヤとシンタロウを心配そう見た。



「別のところで気を遣うつもりがないので、ここでは気を遣おうと思いました。」

 モーガンは手を挙げて宣誓するように言った。



「え?」

 ハクトがモーガンに向けて疑惑のまなざしを向けた時



「おい!!そこのガキ!!何撮りやがった。勝手に写真を撮るな!!」

 と怒鳴り声が聞えた。



 店の外でどうやら何かがあったようだ。



 ハクトはそれを聞き嘆くようにため息をついた。



「どこにでもいるんだな・・・・ああいう輩は」

 放っておけない性分なのだろう。立ち上がり、店を出た。



 そんなハクトを見てコウヤも放っておけなくなり、そのあとを付いて行った。



「ちょっと!!!どうすんのメニュー」

 とモーガンが言うと



「ごめん待ってて!!」

 シンタロウも立ち上がり出て行った。







 声の元には数人のガタイのいいチンピラ風の若者と記者のような風貌をし、大きなカメラを持った少年二人であった。



 チンピラ風の男が

「さっきお前俺らを撮っただろう!!?」

 と少年のもつカメラを指差して叫んでいた。



「ごめんなさい。僕たち都会が初めてだったから・・・・珍しくてつい」

 と気の弱そうな少年が怯えながら謝った。



「めずらしい?」

 その言葉にチンピラは異様に食いついた。



 もう一人の少年が

「珍妙ってことね。俺等妖怪初めて見たっすよ。」

 と軽そうに挑発した。



 それを聞いた気の弱そうな少年は

「ちょっと!!何言っちゃってるの!!?謝ろうよダンカン。」

 ダンカンと呼ばれた少年はそんな言葉聞かず



「すっごいねー今時こんなチンピラいたんだ。おっさんたちどこの時代から来たの?」

 と続けて挑発した。



 その様子を見ていたハクトとコウヤとシンタロウは呆れた。



「ふざけんなクソガキが!!!」

 チンピラの一人が挑発してきた少年に殴り掛かった。



 ハクトは素早く飛出し男を蹴り上げた。



「ぐは!!」

 男はハクトの蹴りにより宙を舞い落ちた。



 当然だが訓練された動きを見てコウヤは感心した。



「すげーな。現役は違うな。」

 横でシンタロウも感心していた。



 ハクトは蹴り落したチンピラに駆け寄り、胸倉を掴み上げた。何事かを囁くとチンピラは顔色を変えて、一目散に走り去った。



 それを見た他のチンピラたちは顔色を変えて走り去って行った。



 その様子を見ていたダンカンと呼ばれた少年は楽しそうに笑って



「やーい!!腰抜け!!」

 と叫んだ。



「お前バカか?あんなこと言ったら逆上するに決まっているだろ。」

 とハクトはダンカンと呼ばれた少年を叱った。



「ありがとうございます。」

 気の弱そうな少年の方がお礼を言ってきた。



「ほら、ダンカンもお礼を言ってください。」

 と気の弱そうな少年はダンカンと呼ばれた少年をハクトに向き合わせた。



 ハクトを見たダンカンと呼ばれた少年は



「・・・・お兄さん俺等とあんまり年齢変わんないようだね。」

 とハクトを見ての第一声。









 店の中で一人待っていたモーガンは不機嫌だった。まして、新たに自分の知らない人間が二人も食事を共にすることになったのだからだ。自分と同じくハクトの奢りだったが、待たされたモーガンは納得していなかった。



 食事が終わり店の外に出てから



「誰?この二人。」

 新たに加わったメンバーをモーガンは睨みつけていた。



「外でけんかしていた奴だ。」

 ハクトはさも当然のように答えた。



 気の弱そうな少年は礼儀正しく

「どうも、僕は記者の見習をしていますザックと言います。」

 と自己紹介をした。



 ダンカンと呼ばれた少年はそれとは対照的に

「俺ダンカンだ。兄ちゃんたち俺等と同い年くらいだな。」

 となれなれしく自己紹介をした。



「そうだ!!兄ちゃんたちさ助けてくれたお礼にとっておきの情報教えてあげるか?」

 とダンカンは調子よく言った。



「ちょっとダンカン!!その情報は・・・・」

 とザックが言いかけると



「いいじゃん。助けてもらったんだし。」

 と何やら地図を取り出した。



「今日ね、ここでディア・アスールが演説するよ。多分今日の午後3時くらいだな。ゲリラ演説って感じかな?公に決めずやっているらしいよ。」

 とある地点を指さした。



 モーガンは嬉しそうに

「ハクトの兄貴行きましょうよ!!兄貴ディア・アスールのファンでしょ。」

 と言った。納得していないとか関係なくなっていた。



 それを聞いたダンカンは

「それならなおさら行かなきゃ!!もうお目にかかれないかもしれないよ!!」

 と営業文句のように言った。



 ハクトは地図を見て移動時間を計算していた。



「俺もディア・アスール好きっすよ!!!めっちゃ美人ですよね。」

 シンタロウはハクトに興奮気味の口調で言った。



「まあ・・・・外見はそう見えるだろうな・・・・・」

 ハクトは目を泳がせて言った。



「ハクトさん照れていますね。」

 くすりと笑いザックが言った。



「て・・・・照れてって・・・これはな・・・その」

 そのハクトの動揺具合を見てみんな笑った。



「ザックいい感じじゃん。」

 コウヤはザックの肩を叩いた。



「そうですか?コウヤさん」

 コウヤは周りに合わせながら笑っていたが、頭の中は違った。ハクトがディア・アスールのことが好きだと聞いて別のことが頭を占めていた。



 《ディア・アスールは、ディアなのか?》

 彼女に会えばわかることかもしれないが、目の前に結論に近いものが転がっている気がした。



「そういやーみんな何歳です?」

 ダンカンが急に全員に話を振った。



「俺とハクトとシンタロウが18歳で・・・・」

 コウヤが自分と三人を指さして言い



「俺が16歳だぜ」

 モーガンが親指で自分を指さした。



「モーガン年下だ。」

 急にダンカンがため口になりモーガンは顔をぽかんとさせた。



「俺、17ですよ。」

 とダンカンは威張るように言った。



「ほお・・・・俺より年下だな。」

 ハクトは何か恨みでもあるように言った。



「僕は18歳ですよ。」

 ザックは強調して言った。



「へえ・・・・でも、ダンカンの方が態度でかくね?」

 シンタロウが二人を見比べながら言った。



「俺は誕生日がまだなだけですよ。実は同い年ってやつですね。」



「へえ・・・・まあモーガンが最年少なことには変わりはないけどな。」

 とコウヤは感心して聞いているモーガンに言った。



「コウヤひどっ!!俺コウヤはそんなこと言わないって信じていたのに!!!」

 モーガンは少ししょげた。



「モーガンお前の気持ちわかるぞ。・・・・・・わかっただろう!?俺の気持ちが・・・」

 とハクトがモーガンに最後の部分を強調して言った。



「すみません。聞いていませんでした。なんて言いました?」

 モーガンはとぼけた様子であっさりと流した。



「そういえば、二人はどうして第6ドームに来たんだ?」

 コウヤは笑っているザックに訊いた。



 ザックは一瞬気まずそうな顔をしたが

「それは、記者見習いですから、取材の仕方を見に来ました。」



「同じく―」

 とザックに続きダンカンも言った。



 その時



「こんなところにいたの?コウヤ!!!」

 と叫び声が聞こえた。



 声の先には女性陣がいた。



 それを見たダンカンとザックは



「では!!もし会えたら演説会場で会いましょう!!」

 と走り去った。



「ハクトさんご飯ごちそう様です。」

 とザックはお礼を付け足した。









「もうお昼済ませたんですか!!」

 と残念そうにリリーは言った。



「お腹がすいていたから。」

 とシンタロウは当然のように答えた。



「まあ、お昼は仕方ないとして次は皆で行動しましょう!!」

 と強制のようにソフィは言った。



「次さ、ディア・アスールの演説会場で生のディア・アスール見ようぜ。」

 とモーガンが提案した。



「賛成!!!あの人すっごく綺麗よね。でも演説なんてするの?」

 とソフィは言った。



「さっきの子達が記者の見習いで特別に教えてもらったんだ。兄貴が喧嘩の仲裁に入ってね。」

 モーガンは



 リリーは少し不安そうな顔をしたが

「ハクトさん行きますよね?」

 と訊いた。



 ハクトは少し考えてから

「当然だろ。行くぞ」

 とその場所を調べたのか先導するように歩きだした。







 そのはるか向こう側では



 ザックとダンカンが肩を並べて歩いていた。



「いい人たちでしたね。」



「そうだな。俺友達になってしまうところだったぜ。」



「会場に呼ぶ人はこれぐらいでいいですか?ダンカン。しかし、いい情報を手に入れてくれて、うちの情報部も捨てたものではないですね。」

 ザックは抱えたカメラを見て笑った。



「諜報員が多いからな、うちは。てか、もうダンカンって呼ばなくていいぜ。なんか慣れないな。」

 ダンカンだったはずの少年はこそばゆそうな素振りをした。



「わかりましたよ。キダ少尉。どうせ入国時だけだったからね。」

 と気の弱そうなザックだった少年は言った。



「マーズ中尉どのも結構ノリノリだったな。これで、演説会場は人がいっぱいになるな。」

 キダ・ジュン少尉はザックと名乗っていたダルトン・マーズ中尉を見て笑った。



「人ごみの方が暗殺には最適という。警備は大変だろうな。あと、ハクトさんには悪いけど・・・・」



「まあ、最後を見ることができるんだからいいだろ・・・・・」



「そうだね。なるべく・・・・・」



「もうそいつらの話はやめようぜ・・・・・情が移ると困る。」



「はい。仕事に行きますか・・・・」



「いつもの隊長に戻ったな。」

 二人は遥か遠くに見えるコウヤやハクト達の影を見て目つきを鋭くした。









 ディアは落ち着かなかった。



 理由は簡単だ。

 第6ドームに向かう途中で複数のドールが戦っているのを感じたからだ。



「総裁、どうしましたか?」

 補佐のテイリーが心配そうにディアの顔を覗き込んでいた。



「ああ、すまないな。今日はどこで演説をするんだ?」



「聞いててくださいよ。えっと今日は大きな演説をこのでっかい公園でします。」

 テイリーは地図を取り出しある地点を指さした。



「歩いて行けるな。」



「そうですね・・・・・って・・混乱しますよ!!そんなことしたら」

 とテイリーは大騒ぎをした。



 その様子を見たディアは楽しそうに



「そんな本気にするな。私がこのまま歩いて行くわけないだろ。」

 と言うとテイリーは安心したように



「驚かさないでください。総裁は冗談をあまり言われないので、では移動ですが・・・」



「変装して歩いて行く」

 とディアは衣装ダンスに歩いて行った。



「わかりましたって・・・・ええー!?・・・総裁・・・・」

 テイリーはがっくりとした。



「大丈夫だ。私だってばれない恰好で行く。これなんかどうだ?キャリアウーマンみたいだろ。」

 と笑って言うと



「総裁はその鼻にかけている丸メガネを取って髪形を変えれば案外バレナイと思いますよ。」

 と仕方なさそうに言った。



「そうか。ではこの恰好で行くとするか。」

 と一つに衣装を取り出し着替え始めた。



「総裁、まだですか?・・・・・あのお時間の方が」

 ディアからの返事は一向になかった。



 テイリーは顔を真っ赤にし

 扉に手をかけて



「総裁、すみません。失礼いたしま・・・」

 と扉を開けるとそこにディアの姿はなく一枚の髪が置いてあった。



 紙には



『ちょっと出かけたい。演説会場で会おう。  ディア』



 と書いていた。



「そうさーい!!!!」

 テイリーは部屋中に響く声で叫んだ。







 すごい人だかりができていた。



「やっぱりディア・アスールの演説だからか。」

 とモーガンは残念そうに言った。



「でも、前まで行ける。ついておいで」

 コウヤはうまく人波を抜けて行った。



 途中後ろを歩いていたアリアが躓き自分にぶつかったのであろう手を掴みそのまま進んだ。



 だいぶ開けた場所で



 コウヤは足を止め

「みんなついてきている?」

 と後ろを振り向き手を掴んでいた相手を見た。



「・・・・どなたでしょうか・・・・」

 握っていたのはアリアの手ではなく赤の他人の女性の手であった。



 コウヤは真っ赤になり



「すみません!!ごめんなさい!!!」

 と謝り倒した。



 女性はコウヤを見て驚いた表情をした。



 コウヤはその様子をみて

「あのう・・・・どうかしました?」

 と訊くと女性は

「いや、気にしないでくれ。ちょっと知り合いに似ていたものだからな。」

 と一風変わった言葉づかいをしていた。



 コウヤは女性に見覚えがあったが思い出せなかった。



「君はネイトラル総裁の演説を聞きにきたのかい?」

 と女性は訊いてきた。



「まあ・・・ちょっと気になりまして・・・・」

 と答えた。



 女性は何かを思いついたように

「そうだ。君、これから私とデートをしてくれないか?」

 と提案してきた。



 コウヤは驚いた。

「ええ!!?・・・・いやでも・・・・演説は・・・・」

 と言うと



 女性はニコリと笑い

「大丈夫だ。特等席を用意してやろう。」

 と言った。



「でも、連れもいますし・・・って特等席?」



「ああ。実はツテがある。だから気にせずに私とデートしてくれ。」



「えっと・・・・連れも特等席お願いしていいですか?」

 と訊くと



「もちろんだ。」

 と笑って言いコウヤの服の袖をつかみ



「では、行こうか。私はあのお店の甘味を食べてみたいのだ。」

 と引っ張って行った。





 お店で女性の注文通りのもの注文し席について二人で待った。



 とりとめのない話をしながら待っている間



 コウヤは女性をじっくりと見た。



 《ものすごい美人だな・・・・ディア・アスールくらいの・・・・》

 と考えたところで



「ああ!!!」

 とコウヤは何かに気付いた。



 女性はびっくりした様子でコウヤを見た

「どうした?」



 コウヤは女性に顔を寄せヒソヒソ声で

「あの、ディア・アスールさん・・・・ですよね。」

 と訊いた。すると彼女は

「なんだ。案外ばれるのだな。テイリーの奴め、メガネでばれないと抜かしていたが・・・・」

 とあっさり認めた。



 コウヤは眼球に焼き付けるように目の前の美しき指導者を見たがその時あることが頭をよぎった



「俺、テレビとかだけじゃなくてあなたを見たことがある気がするんです。」

 コウヤがそういうとディアはにっこりと笑い



「奇遇だな。私もだよ。」と言った。



「私の昔の親友に似ているんだ・・・・もう死んだがな。」

 ディアは哀しそうに小さく呟いた。



「「希望」の破壊でな・・・・いろんな人を亡くした。」

 ディアは飲み物を飲みながら言った。



 コウヤはこの人も希望の関係者なのなら、自分を知っているかもしれないと考えて



「俺も「希望」にいたことあるんですよ。」

 となんとなく言ってみると



 ディアの持っている飲み物のカップが揺れた。

「・・・・・そうか、ではどこかで会っているかもな。」

 ディアは複雑な表情をしたが平常に笑った。



「それで、この後はどこ行こうか・・・・公園で散歩と言うのに憧れているのだが・・・・」



「俺の自己紹介まだでしたよね。」

 コウヤは自分の名を明かしていないことに気づいて改まった。



「俺、コウ・・・・」

 と言いかけたところで



「コウヤーーーやっと見つけた。」

 とアリアの声が響いた。



 コウヤは恐る恐る後ろを振り向いた。



 ソフィ、リリー、モーガン、ハクト、シンタロウ、アリアがいた。



「どこいってたの?女の人とお茶なんかして」

 とアリアがコウヤを無理やり席から立たせて



「ちょっと痛い!!アリア腕折れるって!!」

 といつもの調子で騒いでいると



「コウヤそのすっごい美人どうやってお茶に誘ったんだよ!!」

 とモーガンが茶化してきた。



「ねえ!兄貴も気になりますで・・・・」

 とモーガンがハクトに話題を振った時



「ディア・・・・・」

 ハクトは手を震わせて持っている物を落とした。



 ディアと呼ばれたことに気づき

「・・・ここの彼にもばれたが案外ばれるものだな・・・・」

 とディアは名前を呼んだハクトの方を見た。



「ハクトさん荷物落としてますよ!!もう・・・・」

 とリリーがハクトの落としたものを拾っていると



 ガチャン



 ディアは手に持っていた飲み物のグラスを落とした。



「どうしたんです?」

 コウヤはディアの様子が尋常でないことに気づいた。



「お、お前は・・・・ハクトなのか!?」

 ディアは立ち上がりハクトの方に駆け寄って行った。



 思わずみんな道を開けてしまった。



 その言葉にハクトは静かにうなずき



「ディア、久しぶりだな。・・・・お前は変わったか?」

 とハクトが明らか特別な感じに言うと



「私は変わっていないさ、そういう君こそ変わったのか?」

 とディアも特別な感じに訊いた。



 ハクトはその質問に

「変わるわけないだろう。」

 と当然のように言った。



 ソフィとリリーがそんな二人のやりとりをポカーンと見ているとモーガンが何かに気づいたように叫んだ



「ああー!?あなたは・・・・ディア・アスール・・・」

 と大声で叫んだ。



「バカモーガン!!」

 とコウヤはモーガンをはたいた。



 その声で店中がパニックになった。



 仕方なく料金を置いてコウヤ達は店から出て行った。









 コウヤとのデートは何だったのかという様子でハクトとディアは二人離れた場所で話していた。



「そうか・・・・今は軍にいるのか・・・・」

 ディアとハクトは二人で今までのことを話していたようだ。



「お前はなんでこんなことをしているんだ?」



「秘密だ。時期が来たらわかるだろう。お前ならな。」

 そんな二人の様子を見ている他の人は





「艦長知り合いだったんですか・・・・どーりで」

 とリリーはしょぼくれていた。



「なんか昔馴染みらしいわよ。ディア・アスールも「希望」出身者だし。」

 とソフィが説明すると



「「希望」関係者なら仕方ないわ・・・・」

 と二人の会話が終わるのを待っていた。



「では、聞かれるのは恥ずかしいが、特別席に案内するという例の彼との約束でな・・・」

 とディアは会話が終わったのかみんなを演説会場に案内した。





 会場は普通の広場でちょっとステージが設けられている場所だった。



「こんなところで天下のアスール総裁の演説か・・・」

 モーガンは驚いたように言った。



「何事も小さなことまで気を配るのが大事なのだよ。」

 ディアはモーガンに笑いかけた。



 モーガンは照れた。それを見た女性陣は

「男ってああいうところがダメよね。」

 とヒソヒソと話していた。



「でも、会場狭くないですか?人でもう一杯ですよ。」



「まあ、ついてこい。」

 ディアは関係者専用の待機所にコウヤ達を連れて行った。



 スーツに身を包んだ20前後の男が警備の者になにやら話している。



 その男にディアは



「頑張っているな。私は優秀な補佐を持てて幸せだぞ。」

 と話しかけた。



 そう言われると男はディアの方を急いで見て

「どこ行ってたんですか!?総裁。心配したんですよ。公表していない演説なのに人も集まってくるし・・・・」

 と大声で言った。



「悪い悪い、昔の友人たちがいてな・・・・特等席に行きたいらしい。」

 とディアはコウヤ達を紹介した。



 すると補佐らしき男は

「ご友人なら仕方ないですが・・・・でも、勝手に出かけた理由は違いますよね。」



「よくわかったな。月の帰りに散々な目に遭ってから少々息苦しくてな。」

 とディアは少しいたずらっぽく言った。



 ハクトが「散々な目って・・・・一体何があったんだ?」

 と食いついてきた。



 ディアは人差し指を口に当てて

「それは地連の軍人には言えないな」とこっそり呟いた。

 その様子を補佐の男以外は仲のいい友人同士だと見ていた。



「よし、テイリー案内してくれ。」

 とコウヤ達の案内を補佐の男に命じた。



「わかりました。ではみなさんついてきてください。」

 連れてこられた場所はステージのど真ん前、他の場所取りをしていた観衆はコウヤ達が急に前に現れたことに嫌そうな顔をした。



「そりゃそうだよな・・・・俺だったらわざわざ場所取りしたのに前に急に来られたら腹立つもんな・・・・兄貴がディア・アスールの友達でよかった。」

 とモーガンは嬉しそうに言った。



「でも、艦長がディア・アスールのファンだったからじゃなくて友人だったから気にしていたのよね・・・・よかった。」

 とソフィは何か安心したように言った。



「「希望」出身者だしね・・・・」

 リリーはソフィとは対照的にまだ何か不安そうにしている。



「美人だけど、少しとっつきにくいかな・・・・俺は」

 とシンタロウはなんかわからないが評価していた。



 それを聞いたハクトは苦笑し

「あいつは変わっているからな・・・・昔から頭が良くてなんでもできる奴でな。」

 と少し懐かしそうにしゃべった。



 その様子を見ていた補佐のテイリーは

「総裁はお優しい方ですよ。他国ではどういわれているか知らないですが、総裁の周りで仕事をした者は皆総裁のことが好きです。」

 と断言した。



「別に性格が悪そうとかじゃないんだ。なんか距離を置くしゃべり方しているし・・・」

 とシンタロウは付け加えて言った。



「でも、あれだけ美人だったら関係ないでしょう。」

 とアリアは羨ましそうに言った。



「胸もあったしな・・・・」

 とモーガンが何かを思い返すように言った。



 それを聞いたリリーは

「モーガン最低!!」と大声で叫んだ。



「それではもうそろそろ始まりますので私は戻ります。くれぐれも騒ぎを起こさないでください。」

 といいテイリーは去って行った。



「あの補佐の人、ディア・アスールのこと好きね。」

 とアリアはテイリーの後ろ姿を見ながら言った。



 その言葉にハクトは目を見開いた。



「気づきませんでした?ハクト君の昔話しているときめっちゃ嫉妬心丸出しでしたよ。」

 と説明した。



「そういえば、べた褒めだったわよね」

 とソフィはにやけて言った。



「ハクトはあの人の恋が実ると思う?」

 とシンタロウは楽しそうに訊いた。



 ハクトは「実らないな・・・・あの男には悪いが、ディアはそういう奴だ。」

 と断言した。



 コウヤはハクトに訊いてみた。

「俺、ディアさんと初めて会った気がしないんだ。あの人「希望」出身だし何か知っているのかな・・・・あの人も俺と会ったことある気がするって言っていた。」

 とハクトの様子を探る様に言ってみると



「そうか・・・・では、演説が合わった後時間を見つけて訊こうか。」

 と提案した。
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