相剋のドゥエット

うてな

文字の大きさ
上 下
89 / 94
08 天使がやってくる

089 反旗を見せたキリエル。

しおりを挟む
その日の事。
フューレンは部屋で革命派の新聞を読んでいた。

(裁判は進んでいるようだな…。ヴァレリカに邪魔されるような様子もなし…本当にヴァレリカは行動を起こさないのか…?)

その時だ、教会の方が騒がしくなる。
フューレンは変に思って部屋を出た。
すると、丁度地下からもキリエルが出てくる。
キリエルとフューレンの目が合うと、キリエルは言った。

「なんか教会の方が騒がしいね。」

「ああ、行ってみるか。」

その言葉にキリエルは頷き、フューレンと共に教会へ向かった。
教会内には数人の男性の姿が。
服装的には、賞金首を狩ってるような野蛮な人間には見えない。
キリエルは目を丸くして言う。

「魔術科学園の先生だ。」

「え?」

フューレンの言葉に、キリエルは更に頷いた。

「間違いないよ。何をしに来たんだろう。」

二人は話に耳を傾けた。

どうやら先生方はワレリーと話をしている。
先生は言った。

「明日、ここの教会の者達とあなたの裁判を執り行います。
朝一番に出迎えますので、逃げぬよう。
…とは言え、今夜から朝までここには見張りがつきますが。」

その言葉にキリエルは驚く。
フューレンも驚いてはいたが、いずれ来るものなので落ち着いた様子だった。
キリエルは慌てふためく。

「どうしようどうしよう…!!」

「落ち着けキリエル。
今までの裁判、確かに極刑の者もいたが極刑を免れている奴もいる。」

「でもでも!教会の人の殆どが極刑レベルの事してるもん!もう無理…!!」

キリエルは意気消沈して座り込んでしまう。
フューレンは呆れて溜息をつくと、話に再び集中。
するとワレリーは微笑んで言った。

「おや、最初の方とは嬉しいものですね。」

ワレリーの反応にフューレンは驚く。
この期に及んで笑顔でいられるワレリーの気が知れないからだ。
キリエルは頭を抱えて言った。

「牧師様も遂におかしくなったしぃ~!」

「お前はまずは落ち着け…」

フューレンはそう言ったが、キリエルの耳には入っていない様子。
先生の方も、ワレリーを奇妙に思いながらも教会を去っていった。
去っていったのを見て、ワレリーはふっと息をつく。
それからフューレン達の方を見て言った。

「盗み聞きとは感心なりませんね。」

「盗み聞きじゃないもん!見に来たんだもん!」

とキリエルは、まるで不貞腐れたフェオドラの様に精一杯反論。
ワレリーは思わず笑ってしまった。
笑ってしまうワレリーを見ると、キリエルは無愛想な顔。
ワレリーはそれを見て首を傾げると、キリエルは言った。

「牧師様って本当に意味がわからないよ…。
なんで自分が死ぬかもしれないのに、教会のみんなが死ぬかもしれないのに、そんなに笑顔でいられるの?
信じられない!」

それを聞いてワレリーは眉を困らせたが、やがて穏やかな笑みをキリエルに向けた。

「私に怖いものはありませんから。」

それを聞いて、更にキリエルの気に障るのか眉を潜める。
ワレリーはそのまま立ち去ってしまった。
キリエルはブツブツと言う。

「もう、本当に意味わかんないや。」

そしてキリエルは決心した顔で言った。

「決めた!」

「何を?」

フューレンの問いに、キリエルは真剣な表情で答えた。

「教会のみんなを逃がす!」

「監視がいるのに?」

「そこはなんとかするの!」

突拍子もなく、計画性もないキリエルの提案に呆れてしまうフューレン。

「なんとかって…どうするんだよ…」

「なるようになる!」

そう言ってキリエルは地下へ向かった。
大方、みんなを呼ぶ為だろう。
フューレンは呆れつつも思った。

(まあ、あれでもキリエルは真剣なんだろうな…)

そう思うしかないのである。



暫くして、キリエルが呼び出せたのは二人だけ。
モルビスとスピムだけだった。

それを遠目で見守るフューレン。
あまりの少なさにフューレンは目を丸くしていた。
スピムは言った。

「もう大人しくしてなさいよ。抵抗したってバレたら牧師様達だって罪が重くなるかもしれないのに。」

スピムに関してはキリエルを止める為である。
キリエルは言った。

「でもどうせみんな殺されちゃうでしょ!」

「そりゃそうだと思うけど…。牧師様はどうやら秘策がある顔してるし…」

キリエルは頬を膨らませる。
それから割に合わないほどの声を上げた。

「教会のみんなはいっつもそう!!「牧師様が言ったから」って、いっつも牧師様の指示に従って!
自分の身は自分で守ろうとか思わないわけ!?今回は牧師様でもムリ!みんな死んじゃう!」

「だからって抵抗するわけにもいかないでしょ…!相手は天使よ?」

スピムの言葉に、キリエルは無愛想な顔のまま言う。

「天使ってそんなに怖いの?怖いのは魔力を消せちゃうヴァレリカであってさ、天使自体は怖く無いじゃん。
ほら、フューレンとか見てみなよ!」

(それは若干気に障る言い方だな。)

フューレンは拳を用意して思いつつも、大人しく見守る。
モルビスも深く納得し、スピムも目を丸くした。

「確かに。」

「でしょ~!」

キリエルはそう言ったが、フューレンは思わず言ってしまう。

「キリエルが逃げたりしたら、ノルスはどうなるんだろうな?」

それを聞いたキリエルは気づいた顔。
キリエルはすぐに頭を抱えて座り込んだ。

「仮にお父さんを助けに行くって言っても…魔術科学園には恐ろしい程強い教師が山ほど…!
しかも裁判が執り行われている場所に突撃するなんて無謀にも程が…!」

キリエルはそう言って考えてはいたが、そこに更にスピムが追い打ちをかける。

「キリエルだけ逃げたら、父親は息子だけ逃がしたって非難浴びるかもね。」

更にダメージを受けるキリエル。
それに対し、モルビスはキリエルに言った。

「まあ牧師様も何かお考えだし、従っておこうぜ。
俺達牧師様に付き従う悪魔なんだ、最初から牧師様に逆らう事なんかできやしないさ。」

「それもそうだけど…」

キリエルはそう言って、更には黙り込む。
「最初から何もできない」、そう言われた感じがしたからだ。
キリエルは悲しくなっているのか、顔を引き攣ってしまう。
それから自分の部屋へ一直線に帰ってしまった。

一同はそれを目を丸くして見ていると、フューレンは言った。

「キリエルは多感な時期だから、一番辛いだろうな。」

するとモルビスは言う。

「俺も十五と多感な時期だけどな…」

その言葉にフューレンは納得。

「モルビスはキリエルよりも若いんだな。モルビスはよくもまあ大人しくしてられるな。」

モルビスは鼻で笑う。

「俺はいつだって死ぬ覚悟で賞金稼ぎしてたし、そうでもしないとギルドで生きてけなかったからな。」

「大変な思いをしてきたんだな。」

「まあな!」

しかしモルビスの顔はなんだか誇らしげ。
スピムとフューレンはそれを見て目を丸くしていた。

(なーにその反応。やっぱり若いのね…)

スピムはそう思っていた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...