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08 天使がやってくる
078 追い続けられる女は辛い。
しおりを挟むその日の夕方、フレノアは教会に帰宅。
フレノアは不機嫌なまま帰宅した為か、スピムがそれを指摘した。
「どうしたのフレノア、不機嫌ね。」
「そう?気のせいじゃない。」
フレノアは流すように言うと、スピムはフレノアを睨むようにして見た。
それからムスっとする。
「私がわからないとでも思った?アンタはいっつも気丈に振舞ってる。
そんなアンタが少しでも不機嫌になったら、いつもと違うってすぐにわかっちゃうわよ。」
フレノアはそれを黙って聞いていたが、聴き終えると溜息。
「オチビちゃんにしてはよくできたわね。」
そう言われると、スピムは怒り顔。
スピムの髪の蛇たちもフレノアを睨んだ。
「その呼び方いい加減にやめなさいよッ!あと無駄に上から目線なのもッ!」
するとフレノアは再び溜息。
スピムはその様子が気に食わないのか、「ぐぬぬ…」と言っていた。
フレノアは言う。
「保育園にタイミが来ていたのよ。」
それを聞くと、スピムは驚いた顔。
つい数秒前まで怒っていたとは思えないほどの切り替えっぷりだった。
スピムは言う。
「タイミ…?なんで保育園に?」
「タイミはその保育園で育ったからよ。」
スピムは初耳だったのか驚いた。
「エェ!?じゃあフレノアとタイミは一緒に育ってきたってわけ!?」
「そうなるわね。…でもアタシは一方的に相手を嫌っていたから、殆ど関わりを持っていなかったけど。」
スピムは顎に手を当てて納得。
「なるほど…二人の出会いは気になってはいたけど、そんな単純な出会いだったとは。」
「なぁに?飲み屋かバーに行って出会ったみたいなシチュエーションでも想像してた~?」
「近いわね…」
スピムは渋々とした様子で言うと、フレノアは頭を抱えて首を横に振った。
するとスピムは近くの椅子に座った。
「へー。あの悪魔使いがねー。なんで惚れられたの?」
「知らないわよ。勝手に惚れてきてずっとずぅっと追いかけられてるの。」
「逆にフレノアは何でタイミが嫌いなの?まさかタイミは昔から悪魔使いだったってわけでもないでしょ?」
「確かにそうよ。でもタイミは異端過ぎて嫌いだったわ。」
「異端?」
スピムは首を傾げた。
フレノアは過去を思い出すと寒気がするのか震える。
「私に近づく人を片っ端から傷つけていくのよ。
崖から突き落としたり、閉じ込めたり、悪い噂を流したり…もうやりたい放題だったわ。」
「うわ、性格は昔から悪かったのね。」
スピムは嫌そうな顔をして言った。
フレノアは頷く。
「そんな男を好きになれる訳ないでしょ。お陰で私も、周りの子供達から距離を置かれていたわ。」
「うわ…可哀想。」
するとそこに、ケリスがやってきた。
ケリスは話が聞こえていたようで言う。
「流石悪魔使いです…躊躇いなく牧師様を殺害しようとするのも理解できてしまいます…。」
それを聞くとフレノアは呆れた顔をして言った。
「悪魔使いって言っても、私が悪魔になったのをきっかけになったんだけどね。」
「タイミが?」
スピムの質問に、フレノアは頷く。
「最初からヴァレリカはいたみたいなんだけど、悪魔使いになったのは後よ。」
「確かにタイミは、ヴァレリカを直接呼び出すんじゃなくて指輪の力を使って呼び出しますね。」
ケリスが言うので、スピムも納得した。
フレノアは続ける。
「タイミは私が何かする度に、新しい事を始めるから行動が読めないのよね。
次は何をしてくるか…」
「あの人にはフレノア以外の趣味はないのかしら。」
スピムの言葉に、ケリスは上の空。
ケリスは呟く。
「あの人の屋敷は…書物が沢山ありましたね。殆ど悪魔術に関する書物のようでしたが。」
するとスピムは溜息をついた。
一同の視線がスピムに集まると、スピムは言う。
「ただでさえフレノアに執着して、更には牧師様を襲ってくる超がつくほど危険な男なのに…
ヴァレリカっていうこの世界で一番賞金をかけられてる最強の天使もついてるなんて。」
「嫌な運命としか言い様がないわ。」
とフレノア。
ケリスは思わず苦笑してしまう。
フレノアは頭を抱えたまま言った。
「もう話はいいかしら。タイミの話はしたくないわ。」
「そうね、私も気分悪くなってきそう。」
スピムはそう言って、ひと束の新聞紙を出した。
「それで話変わるけど、この記事を見て欲しいの。」
二人はスピムに集まって記事を見ると、目を丸くした。
「『魔術科学園にて、天使の裁判が始まる』…?」
「これは革命派の新聞の見出しなんだけど、天使の裁判って何かしら?まさかヴァレリカが出てくるとかじゃないわよね…?」
スピムが冷や汗で言うと、ケリスも首を傾げた。
「天使の裁判は、ちゃんと役職についた天使で行う裁判です。ヴァレリカは天使の傭兵出身らしいので、裁判はできないと思います。」
「じゃあ他の天使がこの世界にやってくるって事かしら?」
フレノアの言葉に、スピムは眉を潜める。
「え?できないに決まってるじゃない。こんな所に来たら、ヴァレリカに殺されるわよ。」
「それもそうね…」
更にケリスも言った。
「まだ革命派が呼んだって言うなら理解できましたが、これを見る限り魔術科学園も公認してますよね。
学園はヴァレリカの驚異や天使を殺せる事くらいわかるはずなのに、これを承諾したんですか?理解が追いつきません。」
「でも待って…」
とフレノアは言う。
二人はフレノアの顔を見た。
フレノアは深刻そうな顔をして、顔を真っ青にしている。
「どうしたのフレノア。」
「何か悪い事でも…?」
スピムとケリスが聞くと、フレノアは二人の顔を見て言った。
「革命派が起こす裁判なんて、賞金狩りをしている人間に関する裁判に決まっているわ…!
もしこの世界の賞金狩りが裁判にかけられたら…!」
そう言われるとやっと二人は気づく。
二人も一気に青ざめた。
「つまり私も…フレノアも…」
スピムが言うと、ケリスは頷いた。
「みんなみんな、罪に問われてしまいます。
人数が人数なので、極刑の可能性が高いと思われます…。」
「嘘嘘!嘘よ!止めましょうよ革命派を!」
スピムは焦って言うと、フレノアは頭を抱える。
「仮に事実だとして止める?一部の役場を抑えてしまった革命派よ?半端な戦力じゃないわ。」
「じゃあ死ぬまで待ってろって!?」
スピムがフレノアを睨みながら言うと、フレノアは少し考えてから答えた。
「…そんなに気になるのなら、みんなにこの事を話して意見をもらいましょう。」
するとスピムは落ち着いて返事をした。
「え、ええ。」
「じゃあケリスは皆さんを呼んできます!」
ケリスはそう言って部屋を立ち去る。
フレノアとスピムは部屋に残ると、フレノアは頭を抱えたまま。
スピムは言う。
「ヴァレリカに天使が殺されれば回避できるじゃない!」
「でも魔術科学園で行われるのよ?
魔術科学園は、ヴァレリカが通れないように施しがされてあるんだから。」
フレノアの言葉に、スピムは膨れてしまう。
それから呟いた。
「裁判なんか…しなくていいのに。」
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