相剋のドゥエット

うてな

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01 賞金狩り

007 魔術科学園の入学準備。

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今朝言われた通り、フューレンとワレリーは街まで買い物に来ていた。
街は人で賑わい、近代的な風景があちらこちらに見受けられる。
目の前を過ぎ去る車を見たフューレンは感心。

「おお、走ってる。」

「天使さんの星にはなかったのですか?
これは車と言って、人を乗せて走る乗り物です。」

ワレリーが説明すると、フューレンは鼻を押さえた。

「なるほどな。にしても…ここ空気悪いよな。」

ワレリーは眉を困らせる。

「そうですね。ですがこれが人の栄える地なのです。
店が固まっていて便利なので、悪い事ばかりではないですがね。
私達の様な田舎者は、必要な時に買い物するくらいがちょうどいいですね。」

「だな。」

フューレンは買い物メモを見つつ言った。

「殆ど教材だな。
知らない物が書いてあるけど、ワレリーはわかるのか?」

「魔術科学園では、多くの魔術を習えるので、その分必要な物も多いのですよ。
ですが全ての魔術を習うという者はひと握りです。
それぞれの魔術で必要な物が一通り記載されているだけであって、習いたいものだけに絞れば本当は多くないですよ。」

「この【魔除けのククルス】ってやつは何に使うんだ?魔術の種類関係なく買うやつみたいだけど。」

「普通の人間は、魔力のある空間に長居すると体調不良を起こしてしまいます。
それを防ぐ為のククルスなのです。…フューレンは要らないですかね?」

「要らない。」

フューレンの腰のメモ帳を見つめるワレリー、すると言う。

「フューレンは魔術に使う武器を持っているので、あまりお金はかからないですね。
昨夜の戦いも見事なものでしたから。」

「魔術科学園か、習うとしても召喚術くらいだな。」

「ふふ、頼もしいですね。これ以上何を極めると言うのですか?」

フューレンは難しい顔をしてしまう。
ワレリーはその様子に軽く首を傾げると、フューレンは言った。

「同じ程度の力を持つ者でも一部、召喚できない奴がいるんだ。それに、元々強力な奴を召喚できるわけでもない。」

「ほう、興味深いですね。これはじっくり観察してみなければなりません。」

ワレリーの言葉にフューレンは眉を潜めてしまう。

「お前が言うとなんか気持ちが悪いな…」

「なぜですか?」

「人の血を浴びて喜ぶ、悪魔みたいな人間だろお前。
気味悪いと言うか…」

「おや、人の溢れる街で恐ろしい言葉を発してはなりません。
比喩にしてはやりすぎですよ。」

「現実だろッ!」

するとワレリーはフューレンの耳元で低く囁く。

「だから人前でそれを言うのはやめろと言っているのです。」

それを聞いたフューレンは舌打ちをして視線を逸らすので、ワレリーはニコニコ。
道の邪魔になるので、路地裏で立ち止まって紙を確認するフューレン。

「そう言や、ワレリーはどうやって金を稼いでるんだ?ずっと教会にいるイメージだけど。」

「信徒にたまに狩りをやらせていますよ。」

「あの賞金首を狩るってやつ?」

「はい。」

「つまりお前ヒモなんだ。」

フューレンが言うと、ワレリーはニコニコしながら言った。

「宗教ってどこもそういうものですよ。」

若干の威圧を感じたが、フューレンは怯まずに言う。

「お前、その発言…なんで宗教のイメージダウンさせてんだ…」

「宗教など、手段の一つですから。私は、私が頂点の楽園を築きたいだけなのです。」

「そうかい。…俺もその賞金首を捕まえるのやってみるかな。申請とか必要なのか?」

「狩った後に申請はするものです。
この世界は人々の生死を管理するよう義務付けられていて、誰かを殺めたのなら必ず申請しなければなりません。
ある程度役所の人間が監視している地域もあるので、申請せずとも勝手に申請してくれる時もあります。
とは言え、黙る者も大勢いるのですが。」

「本当に殺さなきゃなんねぇのか?捕まえるとかじゃダメなのか?」

「殺さなければいけません。そういう世界ですから。」

フューレンは黙り込む。誰かを殺めるのに抵抗を感じている顔だ。
それを見たワレリーは眉を困らせる。

「誰かを殺め、罪を背負うのは…恐怖を感じますよね。罰を受けると考えれば尚更。」

「お前がそれを言うか?」

するとワレリーはあっけらかんとした様子で言った。

「私は罪など怖くありません。教会では私が神、私が全てを決めるのですから。」

フューレンは溜息が出てしまう。

「そうじゃないだろ、罪悪感ってものを知らねぇのかなワレリーは…」

その時、ワレリーの背後に誰かが迫ってくる。
二人は気づかずにいると、フェオドラを背負う為のおんぶ紐がナイフで切られた。
ワレリーは急に身が軽くなって変に思っていると、フューレンは切られたおんぶ紐を見て驚く。

「ワレリー!フェオドラを背負ってる紐が!」

ワレリーはやっと切れた紐に気づくと後ろを振り返る。

「フェオドラがいなくなった!?」

背後では走って逃げる男性数人の影、ワレリーは急いで追いかけた。
男の一人は、フェオドラを包んだ布を持っているのだ。
フューレンも一緒になって追いかけると、紙とペンを持って陣を描く。

「いでよ!ファルケ!」

ファルケは現れると、フューレンはファルケの足を掴んで飛行を始めた。
ワレリーは上空の影に気づいて空を見上げると、そこにはフューレン。

「フューレン!」

「俺が捕まえといてやる!お前は疲れない程度に走ってろ!」

そう言ってファルケは飛んでいってしまうと、ワレリーは眉を潜めて足を更に速くした。

男達は逃げながらも布の中を確認した。
スヤスヤと眠っているフェオドラを見ると、男性の一人は言う。

「このガキ金髪だぜ!?高く売れるぞ…!」

「っしゃ~!」

男達が喜んでいると、空からフューレンの声。

「お前ら!フェオドラを返してもらうぞ!」

男達は驚くと、足を速くした。

「なんだアイツ!?鳥使いか!?」

「いやいや!俺達の足にかなうわけないっしょ!」

男達の足は速く、ファルケでも追いつくかわからない。
フューレンは思わず舌打ちをしてしまう。

「なんつーすばしっこい奴等なんだ!」

フューレンは男達をよく見てみると、男達はフェオドラだけではない数人の赤子も抱えていた。

「な…なんなんだよアイツら…!」

フューレンは只事ではないと察すると、腰に固定してあったメモ帳の紙に陣を描く。

「いでよ!ゴーレム!」

男達の前にゴーレムが現れると、男達の行く手は阻まれた。
男達は慌てて足を止めると、フューレンは囲むように降り立つ。
一方通行の道だった為に、逃げ場を失う男達。
すると、男達はフェオドラに短剣を向けた。

「おい!このガキを殺してもいいのか!?」

「なっ…!卑怯だぞ!」

フューレンはそう言ったが、男は言う。

「さあ、道を開けろ!」

(どうする…?)

フューレンはフェオドラを助ける方法を考える。
そう考えている間にも、男性の持つ短剣はフェオドラの頬に向かっていた。





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