赤い館をあなたにあげる

うてな

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幽閉

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「この家から出られないの…!」

茉百合は涙を目に浮かべ、掠れた声を振り絞った。

それを聞いた徳助は再び扉を潜り、もう一度出てみる。
しかし徳助は弾き返される事はない。

「俺はなんともないけど。」

「僕もです。なぜ茉百合ちゃんだけ…」

晴真も言うと、徳助は閃く。

「さっきの紙に『汚れは逃さない』ってあったよな?
まさか六歳娘ェ…」

徳助の視線が茉百合の方に行くので、晴真も便乗して茉百合を見た。
茉百合は怯えて背後を確認すると、徳助は言った。

「服、汚れてる?」

徳助の言葉に思わず晴真は眉を潜め、微妙な表情を見せた。
徳助はいつでもキラキラの笑顔を絶やさないので、煽っているようにも見える。

「服?汚れてるからって出られないと?」

晴真が言うと、茉百合は嘆くように言う。

「汚れてるわけないじゃない!
私がいつもママに怒られてばっかりだからバチが当たったんだわ!やだよぅ、怖いよぉ!」

茉百合は泣き出すと、今度は晴真は困った顔をした。

「それはどうだろうか。」

その時だ。
館の空気が急激に冷たくなる。
警察官の二人は館内に異変を感じて中に入ると、玄関扉が急に閉まった。

バタンッ!

大きな音に、茉百合は肩を跳ね上がらせる。
対し、晴真は冷静に呟いた。

「風か?」

すると薄暗い館のどこかから、酷くしゃがれた声が聞こえる。

「 ケ ガ  レテ 」

その声は如何にも苦しく、呻きにも近い声だった。
今いる三人の声とは到底思えない、誰かの声。

茉百合は震えて耳を塞いでいた。
晴真は茉百合に駆け寄り、徳助は実に楽しそうにスマホを構える。

一同が辺りに注意を配っていると…

ガサァッ

急に、館の全ての窓のカーテンが締まる。
全てのカーテンが一度に閉まるなど、普通に考えたら有り得ない。
陽が届かず、真っ暗になる廊下。

「キャぁっ!暗いっ!」

茉百合は叫ぶと、その声は廊下に響く。
晴真は茉百合を励ました。

「大丈夫、カーテンが閉まって暗くなっただけさ。」

続いてどこからか、聞きなれない物音が聞こえる。


グチャリ…
  グチャリ…


廊下に響き渡る、肉でも引きずるかのような気持ちの悪い音。


ハァ…
 ハァ…


鼻声のような息遣いも併せて聞こえる。

茉百合は恐怖のあまりに声を押し殺し、晴真の服を強く握っていた。
晴真は周囲に注意を配りながら茉百合を庇う。
対し徳助は緊張感が足りず、小さく「お~?」と期待に満ちた声を上げていた。
そんな徳助に、晴真は少々鬱憤を募らせながらも言う。

「中野警部補!近くのカーテン開いてくれますか?」

「はいはい。」

徳助は言われるがままにカーテンを開くと、次に茉百合の声が聞こえた。

「もう嫌ぁッ!!」

茉百合が叫んだ理由、
それは広すぎる廊下一面に『 ケガレロ 』と血で描かれていた為。
その上、茉百合の服にも血が飛び散っている。

「わーお」

徳助は薄いリアクションをしていた。
晴真は恐る恐る床の文字に指で触れ、自分の指を確認する。

「手に付かない。これ、書いてから時間が経ってますね。」

冷静に分析する晴真に徳助は言った。

「とは言えなぁ、誰が一瞬にしてこの文字を浮かばせたんだ?
もしかしてお化けの仕業~?」

徳助が煽り気味に茉百合に言うと、茉百合は晴真に抱きつく。

「いやぁ!!お巡りさん助けて!私殺されちゃう!!」

「仮にいたとして、僕達に何の恨みがあるんですか。」

「知らねー。」

徳助は軽く流して、次に周囲を確認する。
この広間から入れる扉は、左右と正面で三つ。
広間は二階が天井となっており、正面に二手に別れた二階への階段がある。
その先には三つ部屋があった。

「外から泥棒を探すのも六歳娘が可哀想だし、中から探してやっか!出る方法はその後から考える!」

「はい。 それと警部補。」

晴真が言うので、徳助は晴真の方を見る。
晴真は服が血塗れになってしまった茉百合を見て言った。

「左手の扉の先に洗面所があるのですが、茉百合ちゃんの顔だけでも拭いていいでしょうか?」

「水出るかなァ?」

徳助の言葉に晴真は困った顔。
すると晴真はポケットからハンカチを取り出し、茉百合の血のついた頬を優しく拭った。

「これで少しはマシになるかな。」

茉百合は晴真の目を見つめている。
すると、茉百合は急に切ない顔になるのだ。

(お巡りさん、すっごく優しい…。昔のママとパパを思い出す…。)

茉百合は目に薄ら浮かんでいた涙を自ら拭うと、晴真は微笑む。

「泣かないんだね、偉い。」

その言葉を聞いて、茉百合は一瞬驚いた顔。
褒められたのが嬉しかったのか、茉百合に笑顔が戻った。

「お巡りさんがいれば怖いものないもん!」

茉百合の無邪気な笑顔に、晴真は言った。

「そっか。」

すると徳助は言う。

「早く行くぞー」

「ああ、近くの棚にスリッパがあるので使ってください。」

「ういー。」

一同はスリッパに履き替え、茉百合は大きすぎるスリッパを引きずっていた。
晴真は眉を困らせる。

「大きすぎたね。」

「へーきへーき!」

茉百合はそう言って歩き出した。
徳助は晴真に言われた通り洗面所に向かっていた。
晴真は笑顔を浮かべながら眉を困らせる。

「結局行くんですか?」

「ま、タオルくらいはあるだろって気持ちでな。」

こうして三人は、一度洗面所へ向かう事に。
左手の扉を抜けると、その先は廊下が続いていた。
三人が一度に入っても広すぎるくらいの廊下だ。

一同は、正面の窓ガラスが割れているのを発見する。
廊下にガラスが散らばっているのを見るに、誰かが外から割ったのは確実。

「これは…!」

「泥棒が入った跡かもな!」

晴真と徳助は窓ガラスに集まると、茉百合は言った。

「本当に、人間が入ってきたの?お化けの罠だとか…」

それに対し徳助は即答する。

「仮にお化けだとしたら、俺達を招き入れた意味は何だ?俺達は普通に外に出られるってのによ。」

「確かに、なぜ茉百合ちゃんだけなのでしょう…」

晴真も難しい顔をすると、徳助は廊下を先々歩く。

「ま、とりあえず洗面所…」

徳助はそう言うと、近くの大きな時計に目がついた。
壁にしっかり固定された時計はまだ動いているようで、カチカチと音が鳴っている。
徳助は時計の上から微かに見える物に気づいていた。

「上に何か乗ってんぞ。」

「え?…ああ、本当ですね。鍵でしょうか。」

晴真が言うと、徳助は先に進んだ。

「脚立でも探そうぜ。あ、勿論先に洗面所だけど。」

「茉百合ちゃん、足元気をつけてね。」

「うん。」

茉百合はガラスに注意を配りながらも、そそくさと壊れたガラスの真横を通っていった。

こうして三人は洗面所に到着。
洗面所は扉を閉めると暗いので、扉を開いたまま中に入る。

晴真はタオルを拝借すると、少し被っていた埃を払った。

「念の為、余分に一枚持って行きましょう。」

そう言って晴真は汚れていない方のタオルを茉百合に渡す。
茉百合は自分で手などを拭くが、既に固まっていて拭けない状態だった。

すると、茉百合に渡されたタオルから何かが落ちる。

手のひらサイズの、燃える様に赤い球体。
落ちる時に音を出さず、薄光りを放つ物体なのかもわからない球体。

それを晴真が見た途端、晴真は再び耳鳴りに襲われる。
急に頭を抱えた晴真を見ると、一同は驚いた。

「晴真、どうした!」

「お巡りさん!」

晴真は耳が詰まったように二人の声が聞こえ、再び誰かの声が聞こえる。


――赤………をあ…………げる。――


晴真にとっては懐かしい様な、女性の声だった。
晴真がここまで聞くと、玄関で聞いたしゃがれた声も聞こえるようになる。
ちなみにしゃがれた声は徳助と茉百合にも聞こえたのか、二人は周囲をキョロキョロしだした。

「なに…今の声…!」

茉百合が怯える。
晴真は今聞こえている謎の幻聴、そして茉百合達にも聞こえている謎の声が重なる。


――汚れ………ル マデ。――


言葉が終わると同時に、次は洗面所の蛇口から水ではなく血が勢いよく流れ出てくる。
排水口が詰まっているのか血は溜まり、オーバーフローも機能していなかった。
結果血が溢れ出し、溢れた血に勢いよく血が流れ落ちる為に、周囲に大量に血が飛び散る。

「イヤーーッ!!」

赤く染まる洗面所、茉百合は怖くなって晴真の背に隠れた。
次に、扉が勢いよく閉まる。

バタンッ

小窓から日陰の薄い光は入るが、ほぼ真っ暗になる洗面所。
鉄の匂いが充満していく。
すると、洗面所にしゃがれた笑い声がエコーをかけたように響く。

ウッヒッヒヒ…
 ア ハッ … ハハハハハ!

奇妙な笑い声に、茉百合は恐怖のあまり耳を押さえた。
晴真はそれでも冷静に蛇口を閉めようとするが、いくら捻っても閉まったまま。

「閉まっているのに流れてきている!?」

晴真がそう言うと、徳助も廊下への扉をガチャガチャしながら笑う。

「開かね!すげぇ、開かねぇよ!」

「なんだって!?」

晴真はそう言うと、ふと茉百合の様子を見た。
茉百合は突然の出来事で状況がまだ整理できていないのか、呆然と立ち尽くしている。
晴真はまずいと思いながらも、脱出する方法を考えていた。

一同は急な事態に驚きを隠せなかった。
ただ一名、徳助を除いては。

徳助はあのしゃがれた声よりも楽しそうに笑っていた。

「はっは~楽し~!」

相変わらず、であった。
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