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web連載
また仕事
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「イント君早く!」
ナナさんが俺の腕を掴み必死に引っ張る。
「あの、俺仕事中なんすけど……」
「そんなの良いから早く!」
そんなのって……。
「穏やかじゃないね受付嬢」
貫禄たっぷりで奥から出て来たのは雇い主のエリーさんだ。
「あたしゃギルドに依頼をして金を支払って、イント君に来てもらってんだがね?」
ナナさんはエリーさんの顔を見て、我に返って慌てて頭を下げる。
「大変申し訳ありません! 先約のある仕事を放棄するつもりはありませんが、この度は緊急事態に就き少しのお時間だけ、ギルド員をお貸し願えませんでしょうか、その分のペナルティとして指名依頼料金の割引と、代替ギルド員の派遣を致します」
エリーさんは苦笑いをしながら、ボリボリと頭を掻く。
「まあ、そこまでいじめるつもりはないさね、ただ仕事中に指名依頼を受けているギルド員を勝手に連れて行くのは、依頼主を始めギルド員にも迷惑と悪評価がつく、果てはギルド全体の信用問題になるからね、緊急事態の時こそ頭を冷やしな」
エリーさんがぽんぽんと頭を撫でると、ナナさんが顔を赤らめる、悔しさと恥かしさの入り混ざった様な複雑な表情だが、黒い感情が混ざらない表情なので、純粋に恥じているのだろう。
「イント君の土木作業の代替要員は用意するのは無理があるからね、用意する必要は無いよ、ただイント君を緊急で連れて行くなら、鍛冶屋の三姉妹も連れて行っておくれ、一人で行かせると、どうも不安だ」
ジロリと俺を横目で睨む。
「はい、解りました」
ナナさんが頷き、傍らにいるヴィータに三人を集める様にと話す。
「ねえねえ、それって黒仕事?」
孫の湯の受け付けホールの隅っこで、子供達を複数はべらしてヘブン状態のリンダが突然声をかけて来た。
「いたんすか?」
「いるわよ~色々と治療の必要な子もいるしねぇ、こっそり聞いてて耳がダンボになっちゃった」
「黒仕事ってなんすか?」
ナナさんがリンダから慌てて視線を外す。
「その態度から察するにそうみたいね、じゃあリンダも付いて行っちゃおっと!」
「いえ、あの、今回は……」
しどろもどろに渋るナナさんを見て、リンダがニヤニヤと笑う。
「わたしって流行に敏感だから〜トレンディな話題には目が無いの、やだミーハーよねわたしって!」
「ごめん、どこの方言かわからないけど、難しくてわかんない」
ギリギリとアイアンクローをかけてくるリンダ、何故俺の周りの女性は皆アイアンクローをかけてくるんだろう……。
「はぁ……好きにして下さい」
「きゃっほーい! マリアー! 準備してー! お出かけ~! おニューの洋服を用意して~」
「はい、リンダ様」
ナナさんが何もかも諦めた顔で、受け付けホールのベンチに座り込む。
「もう、嫌、ナナたん、おうちかえゆ」
とうとう現実逃避を始めたナナさんに、小さな影が近づいた。
頭を抱えて項垂れるナナさんの頭頂部に、そっと猫耳カチューシャを差し込むあけみちゃん。
「元気出して?」
ナナさんは項垂れていた顔を上げ、あけみちゃんと目を合わせた。
「くれるの?」
あけみちゃんは大きく頷く。
「あけみの手作りだよ、あけみとお揃いだね」
ナナさんはぐっと、涙をこらえながらあけみちゃんを抱きしめる。
「だから、元気出して、ママ」
「誰がママじゃあああい」
ナナさんは一瞬にして鬼に変貌した。
あけみちゃんの頬っぺたを、両手で挟み込みブリブリと振り回す。
当のあけみちゃんは楽しそうだ。
「待て! お揃いの何が悪い!」
猫耳カチューシャのアーノルドさんまで、参戦して来る。
ナナさん以外全員の支度は整っていて、エステアに至っては待ちくたびれてベンチで居眠りしている。
今回もなんとかなるでしょ……
ナナさんが俺の腕を掴み必死に引っ張る。
「あの、俺仕事中なんすけど……」
「そんなの良いから早く!」
そんなのって……。
「穏やかじゃないね受付嬢」
貫禄たっぷりで奥から出て来たのは雇い主のエリーさんだ。
「あたしゃギルドに依頼をして金を支払って、イント君に来てもらってんだがね?」
ナナさんはエリーさんの顔を見て、我に返って慌てて頭を下げる。
「大変申し訳ありません! 先約のある仕事を放棄するつもりはありませんが、この度は緊急事態に就き少しのお時間だけ、ギルド員をお貸し願えませんでしょうか、その分のペナルティとして指名依頼料金の割引と、代替ギルド員の派遣を致します」
エリーさんは苦笑いをしながら、ボリボリと頭を掻く。
「まあ、そこまでいじめるつもりはないさね、ただ仕事中に指名依頼を受けているギルド員を勝手に連れて行くのは、依頼主を始めギルド員にも迷惑と悪評価がつく、果てはギルド全体の信用問題になるからね、緊急事態の時こそ頭を冷やしな」
エリーさんがぽんぽんと頭を撫でると、ナナさんが顔を赤らめる、悔しさと恥かしさの入り混ざった様な複雑な表情だが、黒い感情が混ざらない表情なので、純粋に恥じているのだろう。
「イント君の土木作業の代替要員は用意するのは無理があるからね、用意する必要は無いよ、ただイント君を緊急で連れて行くなら、鍛冶屋の三姉妹も連れて行っておくれ、一人で行かせると、どうも不安だ」
ジロリと俺を横目で睨む。
「はい、解りました」
ナナさんが頷き、傍らにいるヴィータに三人を集める様にと話す。
「ねえねえ、それって黒仕事?」
孫の湯の受け付けホールの隅っこで、子供達を複数はべらしてヘブン状態のリンダが突然声をかけて来た。
「いたんすか?」
「いるわよ~色々と治療の必要な子もいるしねぇ、こっそり聞いてて耳がダンボになっちゃった」
「黒仕事ってなんすか?」
ナナさんがリンダから慌てて視線を外す。
「その態度から察するにそうみたいね、じゃあリンダも付いて行っちゃおっと!」
「いえ、あの、今回は……」
しどろもどろに渋るナナさんを見て、リンダがニヤニヤと笑う。
「わたしって流行に敏感だから〜トレンディな話題には目が無いの、やだミーハーよねわたしって!」
「ごめん、どこの方言かわからないけど、難しくてわかんない」
ギリギリとアイアンクローをかけてくるリンダ、何故俺の周りの女性は皆アイアンクローをかけてくるんだろう……。
「はぁ……好きにして下さい」
「きゃっほーい! マリアー! 準備してー! お出かけ~! おニューの洋服を用意して~」
「はい、リンダ様」
ナナさんが何もかも諦めた顔で、受け付けホールのベンチに座り込む。
「もう、嫌、ナナたん、おうちかえゆ」
とうとう現実逃避を始めたナナさんに、小さな影が近づいた。
頭を抱えて項垂れるナナさんの頭頂部に、そっと猫耳カチューシャを差し込むあけみちゃん。
「元気出して?」
ナナさんは項垂れていた顔を上げ、あけみちゃんと目を合わせた。
「くれるの?」
あけみちゃんは大きく頷く。
「あけみの手作りだよ、あけみとお揃いだね」
ナナさんはぐっと、涙をこらえながらあけみちゃんを抱きしめる。
「だから、元気出して、ママ」
「誰がママじゃあああい」
ナナさんは一瞬にして鬼に変貌した。
あけみちゃんの頬っぺたを、両手で挟み込みブリブリと振り回す。
当のあけみちゃんは楽しそうだ。
「待て! お揃いの何が悪い!」
猫耳カチューシャのアーノルドさんまで、参戦して来る。
ナナさん以外全員の支度は整っていて、エステアに至っては待ちくたびれてベンチで居眠りしている。
今回もなんとかなるでしょ……
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