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 結界の中には、次々と人が運び込まれてきた。

 ただ、運び込まれるのは、ミシェラが心配していた師団の人達ではなく、ミシェラが住んでいた村の住人だった。

 ミシェラだけではなく、結界内の後方支援にはもう一人マイヤという年嵩の女性がいたので、手分けして行う。

「……痛い、たすけて……」
「あんな、急に……竜神様の怒りをかったんだ」
「生贄に逃げられた。あいつらのせいだ。だからこんなことに……っ」
「痛いよー痛いよー」

 次々と村人が運び込まれ、ミシェラとマイヤに訴えかけたりうわごとのように呟いている。

「大丈夫ですよ。回復薬を飲んで安静にしてください」

 その一人一人に声をかけ、状態を確認していく。

 ミシェラは深々とフードをかぶっていたし、怪我人は自らの怪我に意識が向いていたので、気が付かれずに済んだ。
 その事にほっとしつつ、回復薬で処置していく。

 回復薬はミシェラの想像よりもずっと弱く効果が十分ではなかった。
 怪我がひどいものは命に別状はないものの、寝かしておかなければならない。

 怪我人用のテントでは、痛むのか苦しげな声が響いている。十数人の患者が並んだ寝床はぎゅうぎゅうだ。
 ミシェラが知っている顔もあったが、感情は揺れることなく、適切な処置ができている。

「これで、だいたい落ち着いた感じでしょうか?」

 ミシェラと一緒に作業をしていたマイヤがほっと息をつく。次々と運び込まれた村人たちは全員処置がされ、テントに入っている。

「そうですね。命に関わりそうな人が居なくてよかったです」
「本当ね。魔術師団が到着したはずだから、しばらくは村人が前線にたつことはないでしょう。ドラゴンなので、これから村に損害がないとは限らないだろうけど。今のうちに休憩しましょう」

 手慣れた様子の彼女は、ミシェラににこりと笑いかけ、救護用のテントから外に誘った。
 緊迫した空気のあるテントから外に出ると、日差しが眩しい。

 外にある簡易的な椅子とテーブルに座らされ、マイヤがお茶を出してくれる。ポットから注がれたそれは甘い砂糖が入った紅茶で、少しぬるくなっていた。

 緊張していたのか、温かいお茶を飲むとほっとする。

「……あったかい」
「ずっと張りつめていると持たないわよね。でも、あなた怪我人を見ても動揺もせずに的確にすすめていて、立派だわ。見ない顔だけど、初めてじゃないのかしら」
「ええと、そうですね。似たような現場にいたことがあります」
「やっぱりそうなのね。私は魔術師団所属だけど、あなたは? 回復魔術は多少は使えるけれど、魔力が多くて物を浮かせるのも得意なの。だからこういう場所で重宝されるのよ。転移陣で移動をさせたりが多いわ」
「私は……、魔術師団に入りたくてテストして頂いているところです。まだ落ちたという結果をもらっていないので、こうして後方支援をさせてもらえたんです。……でも、テストは魔法陣がが安定しなくて全然駄目だったんです」

 優し気な口調に、つい弱音が零れてしまった。マイヤはそんなミシェラににっこりと微笑んだ。

「あなたはまだ若いし、勇敢だわ。まだ安定していないという事は、伸びしろがある。これからも努力すれば大丈夫よ」
「ありがとうございます……」

 力強く頷かれ、気分が上向いた。

「こういう時はそうよ、甘いものでも食べましょう。あら? クッキーはまだ荷物の中に置きっぱなしだったかしら」
「私がとってきます。座っていてください」
「あらありがとう。悪いわね」

 ミシェラが立ち上がると、ありそうな場所を教えてくれた。救護テントの裏にある荷物置き場に向かう。
「この辺かな……?」
 とりあえず、積まれている木箱を確認するためにしゃがみこむ。食料には緑のラベルが貼ってあるらしい。

 ラベルを見ようと覗き込んでいると、何者かにぐいっと急に手をひかれた。

 急な強い力に、そのままミシェラは草むらに倒れ込んだ。何の受け身もできず、背中を打ち、草で肌が何か所か切れる鋭い痛みが走った。

「いたっ……なに?」

 突然の事態に驚いていると、地面に這いつくばるミシェラの上から声が聞こえた。

「ミシェラじゃないか」

 口調は軽いのに憎しみのこもった声に、ミシェラは恐る恐る顔をあげた。

 村長の息子の、グルタだ。

 ところどころ汚れてはいるものの、怪我もなく目は興奮でぎらぎらと輝いている。運ばれてきた怪我人の中にも、彼の姿も彼の父親の姿もなかったはずだ。

 なぜ、ここに。

 久しぶりに見た彼は、最後に見た時よりも大きく見えた。

 馴染んでいたミシェラを人だと思っても居ない視線をうけ、身体がこわばる。グルタはそのまま何てことなさそうな素振りでミシェラの事を蹴り上げた。

「随分好き勝手しているな。結局こうやって魔術師団とやらに入り込んで、恩でも売りに来たのか? それとも見下しに?」
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