25 / 49
22
しおりを挟む
ハウリーの腕をぎゅっとつかみつつ、ミシェラも一緒に市場に向かって歩く。
ミシェラはどこを見ていいかわからなくて、じっと足元を見た。
ミシェラは長い間狭い世界に暮らしていた。
今は村から抜け出せたけれど、連れ出してもらえたけれど、あまりにも自分と関係ない世界は眩しくて、ミシェラは目を細めた。
「城に行ったらなかなか出かけられないけれど、今日楽しかったらまた行こうな」
少し弾んだようなハウリーの言葉で、突然気が付く。
これって、お出かけだ。
食事という口実はあるものの特に何かしなければいけない事ではなく、楽しみの為に外に出る。本で見た時には、とても信じられなかった。
ミシェラが知る村の人は、村にずっといて何かしらの仕事をしていた。何もない時には、家で内職をしていた。
作業の合間に皆で雑談していて、ミシェラはそれすらうらやましい気持ちで眺めていた。
もしかしたらでお出かけ自体は、ミシェラが知らないところでは行われていたのかもしれないが。
しかしそれは、想像もしにくい事だった。
それを今、自分が体験している。
その事に思い当たった途端、急に視界が開ける気がした。
眩しいだけの日差しはキラキラと輝いているし、喧騒は楽しそうな会話となって、ミシェラの耳に届く。
きちんと周りを見れば、村とは違い、何かお店のようなものが並んでいるし、皆とても着飾っている。
ちらりと隣を見ると、視線に気が付いたハウリーがにっこりと微笑んだ。
彼はマントをつけてはいるものの、正装よりは砕けた服を着ている。しかし姿勢も綺麗で優雅な彼は貴族だと感じさせるには十分だった。
「ハウリー様も、フードは被られないのですね」
「そうだな。村では警戒の意味もありフードをかぶっていたが、普段はあまり被っていない。……顔も見えないし邪魔じゃないか?」
眉をひそめるハウリーに笑ってしまう。
「それは確かにそうです。せっかくの綺麗なお顔ですものね」
「顔は貴族ならこんなもんだ。もっと整っているものなどざらにいる」
「貴族とは恐ろしいですね」
そう答えたものの、屋敷で見た貴族らしき人々より、ハウリーの方が綺麗に見えた。しかし否定されるだけな気がして黙っておく。
「ほら、あの辺が市場だ。露店が多いだろう? この街は王都からは少し離れるが、交易拠点ともなっている大きな街なのだ。海が近いため珍しいものも多い。食事をして、欲しいものがあったら何か買おう」
「なんだか凄いですね……。村の事もそんなに知らないですが、こんなに人が居て、物があふれてて……」
「面白いだろう? 魔術師団の目的は、こういう景色を守る事だ。……今、ミシェラにもそう思ってもらえると嬉しい」
「ありがとうございます。なんだか……世界が広がった気がします」
ミシェラが実感を込めて言うと、ハウリーは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、もっと広げていこう。とりあえずは食事だ! ミシェラは美味しいものをたくさん知って、たくさん食べてくれ」
そっと掴んでいた腕をとり、手を繋がれた。
はぐれない為だろうか。
握手とはまた少し違くて、手のひらから伝わる温かさが不思議だ。
「大きくなるので、よろしくお願いします」
ミシェラはまじめな顔で返したが、ハウリーは可笑しそうに笑っただけだった。
通りは行きかう人が多く、どういう仕組みかハウリーはすいすい人をよけて進んでいくのでミシェラは必死でついていく。
ぎゅっと握られた手を離したら、きっとすぐにはぐれてしまうだろう。
安全対策としてだったのかと、驚く。
とても安心だ。
余裕そうなハウリーは、周りを見ながらミシェラに言った。
「街のものはミシェラの髪の色を気にしないだろう? もちろん魔力を持っているから届け出がいるという話は聞いているだろうが、この町には魔法師団が常駐しているので、ひとくくりで魔力を持つもの、だ。そもそも魔力を持っていないものは魔力量に関心がない。安心しただろうか」
そう言われて、やっとミシェラは周りを見る。
ハウリーの言う通り、たまにミシェラの髪を見るものはいたが、そこに悪意は感じられなかった。
自由になった気がして、ミシェラは頷いた。
そんなミシェラをほほえましそうに見たハウリーは、すぐに厳しい顔になった。
「ただ、城や魔法師団の中は違う。貴族相手もだ。決して油断はしないように。もし嫌なことがあっても表には出さないようにするんだ。つらくなったら一緒に町に行こう。すぐに言ってくれ」
「気を付けます。それに、今までのことを考えたら、全然大丈夫です。私、とっても丈夫ですし」
ミシェラはハウリーが安心するように微笑んだ。
嫌なことがあったら町に行く。きっとこれはハウリーがしている対処法だろうから。
「良かった。さあ、この辺が食べ物が集まっているところだ。気になるものがあったら買おうな」
「わかりました!」
ミシェラはどこを見ていいかわからなくて、じっと足元を見た。
ミシェラは長い間狭い世界に暮らしていた。
今は村から抜け出せたけれど、連れ出してもらえたけれど、あまりにも自分と関係ない世界は眩しくて、ミシェラは目を細めた。
「城に行ったらなかなか出かけられないけれど、今日楽しかったらまた行こうな」
少し弾んだようなハウリーの言葉で、突然気が付く。
これって、お出かけだ。
食事という口実はあるものの特に何かしなければいけない事ではなく、楽しみの為に外に出る。本で見た時には、とても信じられなかった。
ミシェラが知る村の人は、村にずっといて何かしらの仕事をしていた。何もない時には、家で内職をしていた。
作業の合間に皆で雑談していて、ミシェラはそれすらうらやましい気持ちで眺めていた。
もしかしたらでお出かけ自体は、ミシェラが知らないところでは行われていたのかもしれないが。
しかしそれは、想像もしにくい事だった。
それを今、自分が体験している。
その事に思い当たった途端、急に視界が開ける気がした。
眩しいだけの日差しはキラキラと輝いているし、喧騒は楽しそうな会話となって、ミシェラの耳に届く。
きちんと周りを見れば、村とは違い、何かお店のようなものが並んでいるし、皆とても着飾っている。
ちらりと隣を見ると、視線に気が付いたハウリーがにっこりと微笑んだ。
彼はマントをつけてはいるものの、正装よりは砕けた服を着ている。しかし姿勢も綺麗で優雅な彼は貴族だと感じさせるには十分だった。
「ハウリー様も、フードは被られないのですね」
「そうだな。村では警戒の意味もありフードをかぶっていたが、普段はあまり被っていない。……顔も見えないし邪魔じゃないか?」
眉をひそめるハウリーに笑ってしまう。
「それは確かにそうです。せっかくの綺麗なお顔ですものね」
「顔は貴族ならこんなもんだ。もっと整っているものなどざらにいる」
「貴族とは恐ろしいですね」
そう答えたものの、屋敷で見た貴族らしき人々より、ハウリーの方が綺麗に見えた。しかし否定されるだけな気がして黙っておく。
「ほら、あの辺が市場だ。露店が多いだろう? この街は王都からは少し離れるが、交易拠点ともなっている大きな街なのだ。海が近いため珍しいものも多い。食事をして、欲しいものがあったら何か買おう」
「なんだか凄いですね……。村の事もそんなに知らないですが、こんなに人が居て、物があふれてて……」
「面白いだろう? 魔術師団の目的は、こういう景色を守る事だ。……今、ミシェラにもそう思ってもらえると嬉しい」
「ありがとうございます。なんだか……世界が広がった気がします」
ミシェラが実感を込めて言うと、ハウリーは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、もっと広げていこう。とりあえずは食事だ! ミシェラは美味しいものをたくさん知って、たくさん食べてくれ」
そっと掴んでいた腕をとり、手を繋がれた。
はぐれない為だろうか。
握手とはまた少し違くて、手のひらから伝わる温かさが不思議だ。
「大きくなるので、よろしくお願いします」
ミシェラはまじめな顔で返したが、ハウリーは可笑しそうに笑っただけだった。
通りは行きかう人が多く、どういう仕組みかハウリーはすいすい人をよけて進んでいくのでミシェラは必死でついていく。
ぎゅっと握られた手を離したら、きっとすぐにはぐれてしまうだろう。
安全対策としてだったのかと、驚く。
とても安心だ。
余裕そうなハウリーは、周りを見ながらミシェラに言った。
「街のものはミシェラの髪の色を気にしないだろう? もちろん魔力を持っているから届け出がいるという話は聞いているだろうが、この町には魔法師団が常駐しているので、ひとくくりで魔力を持つもの、だ。そもそも魔力を持っていないものは魔力量に関心がない。安心しただろうか」
そう言われて、やっとミシェラは周りを見る。
ハウリーの言う通り、たまにミシェラの髪を見るものはいたが、そこに悪意は感じられなかった。
自由になった気がして、ミシェラは頷いた。
そんなミシェラをほほえましそうに見たハウリーは、すぐに厳しい顔になった。
「ただ、城や魔法師団の中は違う。貴族相手もだ。決して油断はしないように。もし嫌なことがあっても表には出さないようにするんだ。つらくなったら一緒に町に行こう。すぐに言ってくれ」
「気を付けます。それに、今までのことを考えたら、全然大丈夫です。私、とっても丈夫ですし」
ミシェラはハウリーが安心するように微笑んだ。
嫌なことがあったら町に行く。きっとこれはハウリーがしている対処法だろうから。
「良かった。さあ、この辺が食べ物が集まっているところだ。気になるものがあったら買おうな」
「わかりました!」
3
お気に入りに追加
1,189
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
この契約結婚は依頼につき〜依頼された悪役令嬢なのに、なぜか潔癖公爵様に溺愛されています!〜
海空里和
恋愛
まるで物語に出てくる「悪役令嬢」のようだと悪評のあるアリアは、魔法省局長で公爵の爵位を継いだフレディ・ローレンと契約結婚をした。フレディは潔癖で女嫌いと有名。煩わしい社交シーズン中の虫除けとしてアリアが彼の義兄でもある宰相に依頼されたのだ。
噂を知っていたフレディは、アリアを軽蔑しながらも違和感を抱く。そして初夜のベッドの上で待っていたのは、「悪役令嬢」のアリアではなく、フレディの初恋の人だった。
「私は悪役令嬢「役」を依頼されて来ました」
「「役」?! 役って何だ?!」
悪役令嬢になることでしか自分の価値を見出だせないアリアと、彼女にしか触れることの出来ない潔癖なフレディ。
溺愛したいフレディとそれをお仕事だと勘違いするアリアのすれ違いラブ!
愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!
香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。
ある日、父親から
「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」
と告げられる。
伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。
その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、
伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。
親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。
ライアンは、冷酷と噂されている。
さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。
決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!?
そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される
安眠にどね
恋愛
社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。
婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!?
【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】
この度、変態騎士の妻になりました
cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。
そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。
※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる