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ハウリーの腕をぎゅっとつかみつつ、ミシェラも一緒に市場に向かって歩く。
ミシェラはどこを見ていいかわからなくて、じっと足元を見た。
ミシェラは長い間狭い世界に暮らしていた。
今は村から抜け出せたけれど、連れ出してもらえたけれど、あまりにも自分と関係ない世界は眩しくて、ミシェラは目を細めた。
「城に行ったらなかなか出かけられないけれど、今日楽しかったらまた行こうな」
少し弾んだようなハウリーの言葉で、突然気が付く。
これって、お出かけだ。
食事という口実はあるものの特に何かしなければいけない事ではなく、楽しみの為に外に出る。本で見た時には、とても信じられなかった。
ミシェラが知る村の人は、村にずっといて何かしらの仕事をしていた。何もない時には、家で内職をしていた。
作業の合間に皆で雑談していて、ミシェラはそれすらうらやましい気持ちで眺めていた。
もしかしたらでお出かけ自体は、ミシェラが知らないところでは行われていたのかもしれないが。
しかしそれは、想像もしにくい事だった。
それを今、自分が体験している。
その事に思い当たった途端、急に視界が開ける気がした。
眩しいだけの日差しはキラキラと輝いているし、喧騒は楽しそうな会話となって、ミシェラの耳に届く。
きちんと周りを見れば、村とは違い、何かお店のようなものが並んでいるし、皆とても着飾っている。
ちらりと隣を見ると、視線に気が付いたハウリーがにっこりと微笑んだ。
彼はマントをつけてはいるものの、正装よりは砕けた服を着ている。しかし姿勢も綺麗で優雅な彼は貴族だと感じさせるには十分だった。
「ハウリー様も、フードは被られないのですね」
「そうだな。村では警戒の意味もありフードをかぶっていたが、普段はあまり被っていない。……顔も見えないし邪魔じゃないか?」
眉をひそめるハウリーに笑ってしまう。
「それは確かにそうです。せっかくの綺麗なお顔ですものね」
「顔は貴族ならこんなもんだ。もっと整っているものなどざらにいる」
「貴族とは恐ろしいですね」
そう答えたものの、屋敷で見た貴族らしき人々より、ハウリーの方が綺麗に見えた。しかし否定されるだけな気がして黙っておく。
「ほら、あの辺が市場だ。露店が多いだろう? この街は王都からは少し離れるが、交易拠点ともなっている大きな街なのだ。海が近いため珍しいものも多い。食事をして、欲しいものがあったら何か買おう」
「なんだか凄いですね……。村の事もそんなに知らないですが、こんなに人が居て、物があふれてて……」
「面白いだろう? 魔術師団の目的は、こういう景色を守る事だ。……今、ミシェラにもそう思ってもらえると嬉しい」
「ありがとうございます。なんだか……世界が広がった気がします」
ミシェラが実感を込めて言うと、ハウリーは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、もっと広げていこう。とりあえずは食事だ! ミシェラは美味しいものをたくさん知って、たくさん食べてくれ」
そっと掴んでいた腕をとり、手を繋がれた。
はぐれない為だろうか。
握手とはまた少し違くて、手のひらから伝わる温かさが不思議だ。
「大きくなるので、よろしくお願いします」
ミシェラはまじめな顔で返したが、ハウリーは可笑しそうに笑っただけだった。
通りは行きかう人が多く、どういう仕組みかハウリーはすいすい人をよけて進んでいくのでミシェラは必死でついていく。
ぎゅっと握られた手を離したら、きっとすぐにはぐれてしまうだろう。
安全対策としてだったのかと、驚く。
とても安心だ。
余裕そうなハウリーは、周りを見ながらミシェラに言った。
「街のものはミシェラの髪の色を気にしないだろう? もちろん魔力を持っているから届け出がいるという話は聞いているだろうが、この町には魔法師団が常駐しているので、ひとくくりで魔力を持つもの、だ。そもそも魔力を持っていないものは魔力量に関心がない。安心しただろうか」
そう言われて、やっとミシェラは周りを見る。
ハウリーの言う通り、たまにミシェラの髪を見るものはいたが、そこに悪意は感じられなかった。
自由になった気がして、ミシェラは頷いた。
そんなミシェラをほほえましそうに見たハウリーは、すぐに厳しい顔になった。
「ただ、城や魔法師団の中は違う。貴族相手もだ。決して油断はしないように。もし嫌なことがあっても表には出さないようにするんだ。つらくなったら一緒に町に行こう。すぐに言ってくれ」
「気を付けます。それに、今までのことを考えたら、全然大丈夫です。私、とっても丈夫ですし」
ミシェラはハウリーが安心するように微笑んだ。
嫌なことがあったら町に行く。きっとこれはハウリーがしている対処法だろうから。
「良かった。さあ、この辺が食べ物が集まっているところだ。気になるものがあったら買おうな」
「わかりました!」
ミシェラはどこを見ていいかわからなくて、じっと足元を見た。
ミシェラは長い間狭い世界に暮らしていた。
今は村から抜け出せたけれど、連れ出してもらえたけれど、あまりにも自分と関係ない世界は眩しくて、ミシェラは目を細めた。
「城に行ったらなかなか出かけられないけれど、今日楽しかったらまた行こうな」
少し弾んだようなハウリーの言葉で、突然気が付く。
これって、お出かけだ。
食事という口実はあるものの特に何かしなければいけない事ではなく、楽しみの為に外に出る。本で見た時には、とても信じられなかった。
ミシェラが知る村の人は、村にずっといて何かしらの仕事をしていた。何もない時には、家で内職をしていた。
作業の合間に皆で雑談していて、ミシェラはそれすらうらやましい気持ちで眺めていた。
もしかしたらでお出かけ自体は、ミシェラが知らないところでは行われていたのかもしれないが。
しかしそれは、想像もしにくい事だった。
それを今、自分が体験している。
その事に思い当たった途端、急に視界が開ける気がした。
眩しいだけの日差しはキラキラと輝いているし、喧騒は楽しそうな会話となって、ミシェラの耳に届く。
きちんと周りを見れば、村とは違い、何かお店のようなものが並んでいるし、皆とても着飾っている。
ちらりと隣を見ると、視線に気が付いたハウリーがにっこりと微笑んだ。
彼はマントをつけてはいるものの、正装よりは砕けた服を着ている。しかし姿勢も綺麗で優雅な彼は貴族だと感じさせるには十分だった。
「ハウリー様も、フードは被られないのですね」
「そうだな。村では警戒の意味もありフードをかぶっていたが、普段はあまり被っていない。……顔も見えないし邪魔じゃないか?」
眉をひそめるハウリーに笑ってしまう。
「それは確かにそうです。せっかくの綺麗なお顔ですものね」
「顔は貴族ならこんなもんだ。もっと整っているものなどざらにいる」
「貴族とは恐ろしいですね」
そう答えたものの、屋敷で見た貴族らしき人々より、ハウリーの方が綺麗に見えた。しかし否定されるだけな気がして黙っておく。
「ほら、あの辺が市場だ。露店が多いだろう? この街は王都からは少し離れるが、交易拠点ともなっている大きな街なのだ。海が近いため珍しいものも多い。食事をして、欲しいものがあったら何か買おう」
「なんだか凄いですね……。村の事もそんなに知らないですが、こんなに人が居て、物があふれてて……」
「面白いだろう? 魔術師団の目的は、こういう景色を守る事だ。……今、ミシェラにもそう思ってもらえると嬉しい」
「ありがとうございます。なんだか……世界が広がった気がします」
ミシェラが実感を込めて言うと、ハウリーは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、もっと広げていこう。とりあえずは食事だ! ミシェラは美味しいものをたくさん知って、たくさん食べてくれ」
そっと掴んでいた腕をとり、手を繋がれた。
はぐれない為だろうか。
握手とはまた少し違くて、手のひらから伝わる温かさが不思議だ。
「大きくなるので、よろしくお願いします」
ミシェラはまじめな顔で返したが、ハウリーは可笑しそうに笑っただけだった。
通りは行きかう人が多く、どういう仕組みかハウリーはすいすい人をよけて進んでいくのでミシェラは必死でついていく。
ぎゅっと握られた手を離したら、きっとすぐにはぐれてしまうだろう。
安全対策としてだったのかと、驚く。
とても安心だ。
余裕そうなハウリーは、周りを見ながらミシェラに言った。
「街のものはミシェラの髪の色を気にしないだろう? もちろん魔力を持っているから届け出がいるという話は聞いているだろうが、この町には魔法師団が常駐しているので、ひとくくりで魔力を持つもの、だ。そもそも魔力を持っていないものは魔力量に関心がない。安心しただろうか」
そう言われて、やっとミシェラは周りを見る。
ハウリーの言う通り、たまにミシェラの髪を見るものはいたが、そこに悪意は感じられなかった。
自由になった気がして、ミシェラは頷いた。
そんなミシェラをほほえましそうに見たハウリーは、すぐに厳しい顔になった。
「ただ、城や魔法師団の中は違う。貴族相手もだ。決して油断はしないように。もし嫌なことがあっても表には出さないようにするんだ。つらくなったら一緒に町に行こう。すぐに言ってくれ」
「気を付けます。それに、今までのことを考えたら、全然大丈夫です。私、とっても丈夫ですし」
ミシェラはハウリーが安心するように微笑んだ。
嫌なことがあったら町に行く。きっとこれはハウリーがしている対処法だろうから。
「良かった。さあ、この辺が食べ物が集まっているところだ。気になるものがあったら買おうな」
「わかりました!」
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