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ミシェラのお腹がいっぱいになると、ハウリーからはもう遅いから今日は帰るようにと言われてしまった。
あっという間の現実に憂鬱になったが、関係のないハウリーたちにそんな事を伝えても仕方ない。
先に帰された村長の事を考えると気が滅入りそうになるが、諦めよう。
どっちにしろ、殴られるに違いないのだ。
「また明日、一緒にご飯食べようね。送ってあげられなくてごめんね気をつけて帰るのよ」
扉の前で、シュシュが手を振ってくれた。親しげな仕草に恥ずかしくなりつつも、ミシェラもおずおずと手を振り返した。
「暗いからな。転ばないようにするんだ」
「途中で寝ないように」
ハウリーとダギーからも謎の注意を受けて、ミシェラはくすくすと笑いながら手を振った。
心配してくれる言葉が、心強い。
気を付けて、だって。
そんな風に言われたのは初めてで、何度も反芻する。
もう村の中は薄暗くなっていた。外に誰かいるかと思ったけれど誰もいない。
集会所は宿泊施設でもあるので、彼らはここに泊まるのだろう。彼らの世話をするために人は居るのだろうが。
もう、必要な人以外は家に戻ったのかもしれない。
暗い道をとぼとぼと歩く。
戻ったところで今日の村長の怒りは間違いなく、逃げてしまいたいが、ミシェラはこの村の事しか知らない。
この村の事ですら、村長から読まされる資料と手伝いの時に聞く噂話程度だ。
ここが辺鄙な場所にあるという事はわかっているものの、他の街との距離感はまったくわからない。
まして、他で生きていくことなど出来るはずもない。
まあ、そもそももう生贄になるんだろうけど。
よばれた時には今日こそは、と思っていたのに結局魔術師団の歓待だけで終わった。そもそもこの白い服は彼らに会わせるために用意されたのだろう。
今日じゃなかった……。
それが良かったとも、もう思えないけど。
それでも、今日は色々な人と話せて楽しかった。
あんなに人形みたいな美しい見た目のハウリーが、話すと優しくて世話焼きで、どんどん食事を勧めてくる事にもびっくりした。
さっきの話ぶりからして、また明日も話せるのかも。
ふふふ、と自然に笑みがこぼれる。
少し浮かれて歩いていたのだろう。ミシェラは近づく人影に気が付くのが遅れてしまった。
気が付いた時にはすでに腕を掴まれていて、強い力に痛みが走る。
「いたっ」
振り向くと、にやにやと笑うグルタが立っていた。グルタはそのまま、ためらいもなくミシェラの腕をひねりあげ自由を奪う。
ミシェラの事を対等な人間とは決して思っていない扱い。
先ほどの楽しい気持ちがあっという間に霧散する。
「ミシェラ。今日は俺の部屋に来るはずだっただろう? 遅いから迎えに来たんだぞ」
そんな約束はしていない。
そう言えれば良かったが、長年逆らわずに生きてきたミシェラにはそれは出来なかった。しかし、頷くことも出来ずに立ちつくす。
生贄になるよりもそれは嫌だった。
ミシェラにもついていけばどうなるかぐらいはわかっている。必死で断るすべを探したけれど、何も思いつかない。
何も言わないミシェラに、グルタはどんどん腕への力をかけていく。
「返事がないな。全くお前は素直じゃないんだから」
くっと楽しそうに笑うグルタは、もとよりミシェラの返事など期待していなかったのだろう。そのまま腕を掴まれた状態で自分の部屋の方へと向かう。
ミシェラが綺麗にして集会所に行ったことを、父親から聞きつけていたのだろう。
まさか、こんなところで待ち伏せされるなんて。
涙が出そうになるが、泣きたくなくてお腹に力を入れた。ずるずると引きずられるように、歩いていく。
グルタは離れの部屋を与えられているので、部屋についてしまえばやりたい放題だろう。
逃げるなら今しかない。
でも、何処に?
いつだって誰も助けてくれなかった。
ミシェラの胸に諦めが広がり、力が入らなくなる。手を引かれるままに、あっという間にグルタの部屋についた。
絶望に似た気持ちとともに、グルタの部屋をぼんやりと見る。
あっという間の現実に憂鬱になったが、関係のないハウリーたちにそんな事を伝えても仕方ない。
先に帰された村長の事を考えると気が滅入りそうになるが、諦めよう。
どっちにしろ、殴られるに違いないのだ。
「また明日、一緒にご飯食べようね。送ってあげられなくてごめんね気をつけて帰るのよ」
扉の前で、シュシュが手を振ってくれた。親しげな仕草に恥ずかしくなりつつも、ミシェラもおずおずと手を振り返した。
「暗いからな。転ばないようにするんだ」
「途中で寝ないように」
ハウリーとダギーからも謎の注意を受けて、ミシェラはくすくすと笑いながら手を振った。
心配してくれる言葉が、心強い。
気を付けて、だって。
そんな風に言われたのは初めてで、何度も反芻する。
もう村の中は薄暗くなっていた。外に誰かいるかと思ったけれど誰もいない。
集会所は宿泊施設でもあるので、彼らはここに泊まるのだろう。彼らの世話をするために人は居るのだろうが。
もう、必要な人以外は家に戻ったのかもしれない。
暗い道をとぼとぼと歩く。
戻ったところで今日の村長の怒りは間違いなく、逃げてしまいたいが、ミシェラはこの村の事しか知らない。
この村の事ですら、村長から読まされる資料と手伝いの時に聞く噂話程度だ。
ここが辺鄙な場所にあるという事はわかっているものの、他の街との距離感はまったくわからない。
まして、他で生きていくことなど出来るはずもない。
まあ、そもそももう生贄になるんだろうけど。
よばれた時には今日こそは、と思っていたのに結局魔術師団の歓待だけで終わった。そもそもこの白い服は彼らに会わせるために用意されたのだろう。
今日じゃなかった……。
それが良かったとも、もう思えないけど。
それでも、今日は色々な人と話せて楽しかった。
あんなに人形みたいな美しい見た目のハウリーが、話すと優しくて世話焼きで、どんどん食事を勧めてくる事にもびっくりした。
さっきの話ぶりからして、また明日も話せるのかも。
ふふふ、と自然に笑みがこぼれる。
少し浮かれて歩いていたのだろう。ミシェラは近づく人影に気が付くのが遅れてしまった。
気が付いた時にはすでに腕を掴まれていて、強い力に痛みが走る。
「いたっ」
振り向くと、にやにやと笑うグルタが立っていた。グルタはそのまま、ためらいもなくミシェラの腕をひねりあげ自由を奪う。
ミシェラの事を対等な人間とは決して思っていない扱い。
先ほどの楽しい気持ちがあっという間に霧散する。
「ミシェラ。今日は俺の部屋に来るはずだっただろう? 遅いから迎えに来たんだぞ」
そんな約束はしていない。
そう言えれば良かったが、長年逆らわずに生きてきたミシェラにはそれは出来なかった。しかし、頷くことも出来ずに立ちつくす。
生贄になるよりもそれは嫌だった。
ミシェラにもついていけばどうなるかぐらいはわかっている。必死で断るすべを探したけれど、何も思いつかない。
何も言わないミシェラに、グルタはどんどん腕への力をかけていく。
「返事がないな。全くお前は素直じゃないんだから」
くっと楽しそうに笑うグルタは、もとよりミシェラの返事など期待していなかったのだろう。そのまま腕を掴まれた状態で自分の部屋の方へと向かう。
ミシェラが綺麗にして集会所に行ったことを、父親から聞きつけていたのだろう。
まさか、こんなところで待ち伏せされるなんて。
涙が出そうになるが、泣きたくなくてお腹に力を入れた。ずるずると引きずられるように、歩いていく。
グルタは離れの部屋を与えられているので、部屋についてしまえばやりたい放題だろう。
逃げるなら今しかない。
でも、何処に?
いつだって誰も助けてくれなかった。
ミシェラの胸に諦めが広がり、力が入らなくなる。手を引かれるままに、あっという間にグルタの部屋についた。
絶望に似た気持ちとともに、グルタの部屋をぼんやりと見る。
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