10 / 49
10
しおりを挟む
ミシェラのお腹がいっぱいになると、ハウリーからはもう遅いから今日は帰るようにと言われてしまった。
あっという間の現実に憂鬱になったが、関係のないハウリーたちにそんな事を伝えても仕方ない。
先に帰された村長の事を考えると気が滅入りそうになるが、諦めよう。
どっちにしろ、殴られるに違いないのだ。
「また明日、一緒にご飯食べようね。送ってあげられなくてごめんね気をつけて帰るのよ」
扉の前で、シュシュが手を振ってくれた。親しげな仕草に恥ずかしくなりつつも、ミシェラもおずおずと手を振り返した。
「暗いからな。転ばないようにするんだ」
「途中で寝ないように」
ハウリーとダギーからも謎の注意を受けて、ミシェラはくすくすと笑いながら手を振った。
心配してくれる言葉が、心強い。
気を付けて、だって。
そんな風に言われたのは初めてで、何度も反芻する。
もう村の中は薄暗くなっていた。外に誰かいるかと思ったけれど誰もいない。
集会所は宿泊施設でもあるので、彼らはここに泊まるのだろう。彼らの世話をするために人は居るのだろうが。
もう、必要な人以外は家に戻ったのかもしれない。
暗い道をとぼとぼと歩く。
戻ったところで今日の村長の怒りは間違いなく、逃げてしまいたいが、ミシェラはこの村の事しか知らない。
この村の事ですら、村長から読まされる資料と手伝いの時に聞く噂話程度だ。
ここが辺鄙な場所にあるという事はわかっているものの、他の街との距離感はまったくわからない。
まして、他で生きていくことなど出来るはずもない。
まあ、そもそももう生贄になるんだろうけど。
よばれた時には今日こそは、と思っていたのに結局魔術師団の歓待だけで終わった。そもそもこの白い服は彼らに会わせるために用意されたのだろう。
今日じゃなかった……。
それが良かったとも、もう思えないけど。
それでも、今日は色々な人と話せて楽しかった。
あんなに人形みたいな美しい見た目のハウリーが、話すと優しくて世話焼きで、どんどん食事を勧めてくる事にもびっくりした。
さっきの話ぶりからして、また明日も話せるのかも。
ふふふ、と自然に笑みがこぼれる。
少し浮かれて歩いていたのだろう。ミシェラは近づく人影に気が付くのが遅れてしまった。
気が付いた時にはすでに腕を掴まれていて、強い力に痛みが走る。
「いたっ」
振り向くと、にやにやと笑うグルタが立っていた。グルタはそのまま、ためらいもなくミシェラの腕をひねりあげ自由を奪う。
ミシェラの事を対等な人間とは決して思っていない扱い。
先ほどの楽しい気持ちがあっという間に霧散する。
「ミシェラ。今日は俺の部屋に来るはずだっただろう? 遅いから迎えに来たんだぞ」
そんな約束はしていない。
そう言えれば良かったが、長年逆らわずに生きてきたミシェラにはそれは出来なかった。しかし、頷くことも出来ずに立ちつくす。
生贄になるよりもそれは嫌だった。
ミシェラにもついていけばどうなるかぐらいはわかっている。必死で断るすべを探したけれど、何も思いつかない。
何も言わないミシェラに、グルタはどんどん腕への力をかけていく。
「返事がないな。全くお前は素直じゃないんだから」
くっと楽しそうに笑うグルタは、もとよりミシェラの返事など期待していなかったのだろう。そのまま腕を掴まれた状態で自分の部屋の方へと向かう。
ミシェラが綺麗にして集会所に行ったことを、父親から聞きつけていたのだろう。
まさか、こんなところで待ち伏せされるなんて。
涙が出そうになるが、泣きたくなくてお腹に力を入れた。ずるずると引きずられるように、歩いていく。
グルタは離れの部屋を与えられているので、部屋についてしまえばやりたい放題だろう。
逃げるなら今しかない。
でも、何処に?
いつだって誰も助けてくれなかった。
ミシェラの胸に諦めが広がり、力が入らなくなる。手を引かれるままに、あっという間にグルタの部屋についた。
絶望に似た気持ちとともに、グルタの部屋をぼんやりと見る。
あっという間の現実に憂鬱になったが、関係のないハウリーたちにそんな事を伝えても仕方ない。
先に帰された村長の事を考えると気が滅入りそうになるが、諦めよう。
どっちにしろ、殴られるに違いないのだ。
「また明日、一緒にご飯食べようね。送ってあげられなくてごめんね気をつけて帰るのよ」
扉の前で、シュシュが手を振ってくれた。親しげな仕草に恥ずかしくなりつつも、ミシェラもおずおずと手を振り返した。
「暗いからな。転ばないようにするんだ」
「途中で寝ないように」
ハウリーとダギーからも謎の注意を受けて、ミシェラはくすくすと笑いながら手を振った。
心配してくれる言葉が、心強い。
気を付けて、だって。
そんな風に言われたのは初めてで、何度も反芻する。
もう村の中は薄暗くなっていた。外に誰かいるかと思ったけれど誰もいない。
集会所は宿泊施設でもあるので、彼らはここに泊まるのだろう。彼らの世話をするために人は居るのだろうが。
もう、必要な人以外は家に戻ったのかもしれない。
暗い道をとぼとぼと歩く。
戻ったところで今日の村長の怒りは間違いなく、逃げてしまいたいが、ミシェラはこの村の事しか知らない。
この村の事ですら、村長から読まされる資料と手伝いの時に聞く噂話程度だ。
ここが辺鄙な場所にあるという事はわかっているものの、他の街との距離感はまったくわからない。
まして、他で生きていくことなど出来るはずもない。
まあ、そもそももう生贄になるんだろうけど。
よばれた時には今日こそは、と思っていたのに結局魔術師団の歓待だけで終わった。そもそもこの白い服は彼らに会わせるために用意されたのだろう。
今日じゃなかった……。
それが良かったとも、もう思えないけど。
それでも、今日は色々な人と話せて楽しかった。
あんなに人形みたいな美しい見た目のハウリーが、話すと優しくて世話焼きで、どんどん食事を勧めてくる事にもびっくりした。
さっきの話ぶりからして、また明日も話せるのかも。
ふふふ、と自然に笑みがこぼれる。
少し浮かれて歩いていたのだろう。ミシェラは近づく人影に気が付くのが遅れてしまった。
気が付いた時にはすでに腕を掴まれていて、強い力に痛みが走る。
「いたっ」
振り向くと、にやにやと笑うグルタが立っていた。グルタはそのまま、ためらいもなくミシェラの腕をひねりあげ自由を奪う。
ミシェラの事を対等な人間とは決して思っていない扱い。
先ほどの楽しい気持ちがあっという間に霧散する。
「ミシェラ。今日は俺の部屋に来るはずだっただろう? 遅いから迎えに来たんだぞ」
そんな約束はしていない。
そう言えれば良かったが、長年逆らわずに生きてきたミシェラにはそれは出来なかった。しかし、頷くことも出来ずに立ちつくす。
生贄になるよりもそれは嫌だった。
ミシェラにもついていけばどうなるかぐらいはわかっている。必死で断るすべを探したけれど、何も思いつかない。
何も言わないミシェラに、グルタはどんどん腕への力をかけていく。
「返事がないな。全くお前は素直じゃないんだから」
くっと楽しそうに笑うグルタは、もとよりミシェラの返事など期待していなかったのだろう。そのまま腕を掴まれた状態で自分の部屋の方へと向かう。
ミシェラが綺麗にして集会所に行ったことを、父親から聞きつけていたのだろう。
まさか、こんなところで待ち伏せされるなんて。
涙が出そうになるが、泣きたくなくてお腹に力を入れた。ずるずると引きずられるように、歩いていく。
グルタは離れの部屋を与えられているので、部屋についてしまえばやりたい放題だろう。
逃げるなら今しかない。
でも、何処に?
いつだって誰も助けてくれなかった。
ミシェラの胸に諦めが広がり、力が入らなくなる。手を引かれるままに、あっという間にグルタの部屋についた。
絶望に似た気持ちとともに、グルタの部屋をぼんやりと見る。
1
お気に入りに追加
1,191
あなたにおすすめの小説
神様に愛された少女 ~生贄に捧げられましたが、なぜか溺愛されてます~
朝露ココア
恋愛
村で虐げられていた少女、フレーナ。
両親が疫病を持ち込んだとして、彼女は厳しい差別を受けていた。
村の仕事はすべて押しつけられ、日々の生活はまともに送れず。
友人たちにも裏切られた。
ある日、フレーナに役目が与えられた。
それは神の生贄となること。
神に食われ、苦しい生涯は幕を閉じるかと思われた。
しかし、神は思っていたよりも優しくて。
「いや、だから食わないって」
「今日からこの神殿はお前の家だと思ってくれていい」
「お前が喜んでくれれば十分だ」
なぜか神はフレーナを受け入れ、共に生活することに。
これは一人の少女が神に溺愛されるだけの物語。
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
冷酷非情の雷帝に嫁ぎます~妹の身代わりとして婚約者を押し付けられましたが、実は優しい男でした~
平山和人
恋愛
伯爵令嬢のフィーナは落ちこぼれと蔑まれながらも、希望だった魔法学校で奨学生として入学することができた。
ある日、妹のノエルが雷帝と恐れられるライトニング侯爵と婚約することになった。
ライトニング侯爵と結ばれたくないノエルは父に頼み、身代わりとしてフィーナを差し出すことにする。
保身第一な父、ワガママな妹と縁を切りたかったフィーナはこれを了承し、婚約者のもとへと嫁ぐ。
周りから恐れられているライトニング侯爵をフィーナは怖がらず、普通に妻として接する。
そんなフィーナの献身に始めは心を閉ざしていたライトニング侯爵は心を開いていく。
そしていつの間にか二人はラブラブになり、子宝にも恵まれ、ますます幸せになるのだった。
【完結済】冷血公爵様の家で働くことになりまして~婚約破棄された侯爵令嬢ですが公爵様の侍女として働いています。なぜか溺愛され離してくれません~
北城らんまる
恋愛
**HOTランキング11位入り! ありがとうございます!**
「薄気味悪い魔女め。おまえの悪行をここにて読み上げ、断罪する」
侯爵令嬢であるレティシア・ランドハルスは、ある日、婚約者の男から魔女と断罪され、婚約破棄を言い渡される。父に勘当されたレティシアだったが、それは娘の幸せを考えて、あえてしたことだった。父の手紙に書かれていた住所に向かうと、そこはなんと冷血と知られるルヴォンヒルテ次期公爵のジルクスが一人で住んでいる別荘だった。
「あなたの侍女になります」
「本気か?」
匿ってもらうだけの女になりたくない。
レティシアはルヴォンヒルテ次期公爵の見習い侍女として、第二の人生を歩み始めた。
一方その頃、レティシアを魔女と断罪した元婚約者には、不穏な影が忍び寄っていた。
レティシアが作っていたお守りが、実は元婚約者の身を魔物から守っていたのだ。そんなことも知らない元婚約者には、どんどん不幸なことが起こり始め……。
※ざまぁ要素あり(主人公が何かをするわけではありません)
※設定はゆるふわ。
※3万文字で終わります
※全話投稿済です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる