9 / 49
9
しおりを挟む
白い髪の話は……この村だけじゃなかったんだ。
単純な事に気が付かなかった自分に嫌気がさす。
もしかしたら、連れて帰って別の場所で回復役をさせられるのかもしれない。
先程のうれしさが、しゅるしゅるとしぼんでいく。
自分なんかを心配してくれる人が居たと喜んだ自分が馬鹿みたいな気がして悲しくて、下を向いてぎゅっと耐える。
理由がないと、優しくされるはずなんてないって、知ってるのに。
知ってたのに。
何だか一瞬、自分も普通の人みたいに思えて。
そんなはずなんて、ないのに。
「……怪我をしている人は、たくさんいるんですか?」
ミシェラが絞り出すように言ったのに、ハウリーは首を傾げただけだった。
「私達は、怪我はしていない。……何故そんな事を聞くんだ、ミシェラ」
不思議そうな声に、ミシェラは顔をあげる。そうすると、思いもよらないほどの優しげな顔があった。その意外な反応に、戸惑ってしまう。
「もしかして、さっきの回復で身体が痛いのか?」
「いえ、私は大丈夫です! ただ、魔力が必要なのかと……」
「何故そんな風に思うのだ。魔力なら、私だって持っているし、困っていない」
「えっ。ハウリー様も魔力を……?」
驚いたミシェラをじっと見たハウリーは、被っていたフードを下げた。
「もしかして……知らないのだろうか」
その髪色を見た瞬間、衝撃でミシェラの息は止まった。
「髪の毛が……!」
「そうだ。魔力が高くなると髪の毛に白が出る。君の白も、魔力が影響している」
ハウリーの髪には、青色の中にひと房、白があった。
心臓の音がどきどきと大きく響く。
息苦しくて、目の前が暗くなって、何故だか叫びだしそうになった。
生贄の白。
どうして、私以外にも?
手が震える。
信じて生きてきたものが壊れそうになるような感覚に、どうしていいかわからなくなってしまう。
諦めていたのに。仕方がないと。
「ミシェラ……!」
ハウリーが慌てた口調で、ミシェラの事をつよく抱きしめた。
ふわりと柔らかな肌が触れあたたかい体温に包まれて、少しずつ息が整う。
「他にも……居たんですね、白い髪の毛を持つ人……」
やっとの事で、ミシェラはそれを口にした。
「そうだ。そのつもりはなかったが、君の事を見つけたんだ」
「……私、あの……わたし」
パニックになってしまっているのか、まったく考えがまとまらず言葉も出てこない。
ぐるぐると、白い髪の映像が渦巻いている。
「混乱させてしまった。順序だててきちんと説明すべきだった。大丈夫か」
「師団長。……今日は、美味しいご飯があるのよ。とりあえず食べて、落ち着きましょう。ミシェラちゃん。お話は、また後にしましょうね」
優しく背中を撫でられ、ミシェラは良くわからないまま、頷いた。
「……そうだな。それがいい。とりあえず食べよう。君はお腹がすいていないか?」
ミシェラと同じ白い髪を持つ男の声が、優しく響いた。
「やっぱり肉を食べるのがいいかもしれない」
ミシェラがどうしていいのか迷っていると、いつの間にか隣に来ていたフォークに刺した肉をハウリーが差し出した。
目の前のいい匂いのするお肉に、思わずミシェラはかぶりついた。
こんなちゃんとしたお肉ははじめてだ。口の中に広がる脂に、ミシェラは夢中になった。
ぱくぱくと食べるミシェラを、ハウリーは嬉しそうに見ていたが、夢中になっているミシェラは気が付かなかった。
「おいしい……」
「良かった。好きなだけ食べていいから」
頭を撫でられ、フォークを渡される。
「難しい話は、また明日にしよう」
「そうね。こんなにお腹がすいていて……。これは一体どういうことなのかしら」
「たくさん食べたら、ゆっくり休んでくれ。また明日話そう、ミシェラ」
「これも美味しいと思う、私は好きだ」
「……はい」
三人に代わる代わる声をかけられて、ミシェラはきょろきょろとしてしまう。こんなに話しかけられたのは初めてで、どこで答えていいのかわからないうちに話が進む。
それでもミシェラが頷くと、三人ともに嬉しそうに笑ってくれた。
こんな風に優しくされる意味が分からなくてハウリーを見たが、にこにこと笑顔を返されるだけだった。
いったい、なんなんだろう……。
理由は今はわからない。
だけど。
だけど。抱きしめてくれたハウリーの体温は心地いい。ご飯はおいしい。
ハウリーの視線が、嬉しい。
シュシュもダギーも気を使ってくれているのがわかる。
時折頭を撫でられ、食事を勧められるのがくすぐったい。
こんな気持ちになるのなら、全部が嘘で、生贄だって魔力が必要とされていたって悪くない。
美味しい食事に温かい人たちに囲まれて、ミシェラは初めての優しさにうっとりとした。
単純な事に気が付かなかった自分に嫌気がさす。
もしかしたら、連れて帰って別の場所で回復役をさせられるのかもしれない。
先程のうれしさが、しゅるしゅるとしぼんでいく。
自分なんかを心配してくれる人が居たと喜んだ自分が馬鹿みたいな気がして悲しくて、下を向いてぎゅっと耐える。
理由がないと、優しくされるはずなんてないって、知ってるのに。
知ってたのに。
何だか一瞬、自分も普通の人みたいに思えて。
そんなはずなんて、ないのに。
「……怪我をしている人は、たくさんいるんですか?」
ミシェラが絞り出すように言ったのに、ハウリーは首を傾げただけだった。
「私達は、怪我はしていない。……何故そんな事を聞くんだ、ミシェラ」
不思議そうな声に、ミシェラは顔をあげる。そうすると、思いもよらないほどの優しげな顔があった。その意外な反応に、戸惑ってしまう。
「もしかして、さっきの回復で身体が痛いのか?」
「いえ、私は大丈夫です! ただ、魔力が必要なのかと……」
「何故そんな風に思うのだ。魔力なら、私だって持っているし、困っていない」
「えっ。ハウリー様も魔力を……?」
驚いたミシェラをじっと見たハウリーは、被っていたフードを下げた。
「もしかして……知らないのだろうか」
その髪色を見た瞬間、衝撃でミシェラの息は止まった。
「髪の毛が……!」
「そうだ。魔力が高くなると髪の毛に白が出る。君の白も、魔力が影響している」
ハウリーの髪には、青色の中にひと房、白があった。
心臓の音がどきどきと大きく響く。
息苦しくて、目の前が暗くなって、何故だか叫びだしそうになった。
生贄の白。
どうして、私以外にも?
手が震える。
信じて生きてきたものが壊れそうになるような感覚に、どうしていいかわからなくなってしまう。
諦めていたのに。仕方がないと。
「ミシェラ……!」
ハウリーが慌てた口調で、ミシェラの事をつよく抱きしめた。
ふわりと柔らかな肌が触れあたたかい体温に包まれて、少しずつ息が整う。
「他にも……居たんですね、白い髪の毛を持つ人……」
やっとの事で、ミシェラはそれを口にした。
「そうだ。そのつもりはなかったが、君の事を見つけたんだ」
「……私、あの……わたし」
パニックになってしまっているのか、まったく考えがまとまらず言葉も出てこない。
ぐるぐると、白い髪の映像が渦巻いている。
「混乱させてしまった。順序だててきちんと説明すべきだった。大丈夫か」
「師団長。……今日は、美味しいご飯があるのよ。とりあえず食べて、落ち着きましょう。ミシェラちゃん。お話は、また後にしましょうね」
優しく背中を撫でられ、ミシェラは良くわからないまま、頷いた。
「……そうだな。それがいい。とりあえず食べよう。君はお腹がすいていないか?」
ミシェラと同じ白い髪を持つ男の声が、優しく響いた。
「やっぱり肉を食べるのがいいかもしれない」
ミシェラがどうしていいのか迷っていると、いつの間にか隣に来ていたフォークに刺した肉をハウリーが差し出した。
目の前のいい匂いのするお肉に、思わずミシェラはかぶりついた。
こんなちゃんとしたお肉ははじめてだ。口の中に広がる脂に、ミシェラは夢中になった。
ぱくぱくと食べるミシェラを、ハウリーは嬉しそうに見ていたが、夢中になっているミシェラは気が付かなかった。
「おいしい……」
「良かった。好きなだけ食べていいから」
頭を撫でられ、フォークを渡される。
「難しい話は、また明日にしよう」
「そうね。こんなにお腹がすいていて……。これは一体どういうことなのかしら」
「たくさん食べたら、ゆっくり休んでくれ。また明日話そう、ミシェラ」
「これも美味しいと思う、私は好きだ」
「……はい」
三人に代わる代わる声をかけられて、ミシェラはきょろきょろとしてしまう。こんなに話しかけられたのは初めてで、どこで答えていいのかわからないうちに話が進む。
それでもミシェラが頷くと、三人ともに嬉しそうに笑ってくれた。
こんな風に優しくされる意味が分からなくてハウリーを見たが、にこにこと笑顔を返されるだけだった。
いったい、なんなんだろう……。
理由は今はわからない。
だけど。
だけど。抱きしめてくれたハウリーの体温は心地いい。ご飯はおいしい。
ハウリーの視線が、嬉しい。
シュシュもダギーも気を使ってくれているのがわかる。
時折頭を撫でられ、食事を勧められるのがくすぐったい。
こんな気持ちになるのなら、全部が嘘で、生贄だって魔力が必要とされていたって悪くない。
美味しい食事に温かい人たちに囲まれて、ミシェラは初めての優しさにうっとりとした。
0
お気に入りに追加
1,189
あなたにおすすめの小説
溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!
参
恋愛
男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。
ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。
全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?!
※結構ふざけたラブコメです。
恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。
ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。
前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。
※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。
この度、変態騎士の妻になりました
cyaru
恋愛
結婚間近の婚約者に大通りのカフェ婚約を破棄されてしまったエトランゼ。
そんな彼女の前に跪いて愛を乞うたのは王太子が【ド変態騎士】と呼ぶ国一番の騎士だった。
※話の都合上、少々いえ、かなり変態を感じさせる描写があります。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
運命の番なのに、炎帝陛下に全力で避けられています
四馬㋟
恋愛
美麗(みれい)は疲れていた。貧乏子沢山、六人姉弟の長女として生まれた美麗は、飲んだくれの父親に代わって必死に働き、五人の弟達を立派に育て上げたものの、気づけば29歳。結婚適齢期を過ぎたおばさんになっていた。長年片思いをしていた幼馴染の結婚を機に、田舎に引っ込もうとしたところ、宮城から迎えが来る。貴女は桃源国を治める朱雀―ー炎帝陛下の番(つがい)だと言われ、のこのこ使者について行った美麗だったが、炎帝陛下本人は「番なんて必要ない」と全力で拒否。その上、「痩せっぽっちで色気がない」「チビで子どもみたい」と美麗の外見を酷評する始末。それでも長女気質で頑張り屋の美麗は、彼の理想の女――番になるため、懸命に努力するのだが、「化粧濃すぎ」「太り過ぎ」と尽く失敗してしまい……
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる