父が腐男子で困ってます!

あさみ

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両親の過去

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学校での昼休み。
教室にはいつものメンバーがそろっていた。

「昨日、リョウはシオンさんと一緒に帰ってたけど、どうだったんだ?」
奏に心配そうな顔で聞かれた。

遠山家に来た紫苑は、楽しみにしていたウサギに威嚇されていた。
それはもう不憫で見ていられなかった。
猫の虎徹で元気を出してもらおうと思ったら、その姿はどこにもなかった。
ユキオ曰く、紫苑の姿を見た瞬間、二階にダッシュで逃げていったとの事だった。

巧がウサギを押さえて、紫苑に触らせてくれたのだが、ウサギはその間必死で足を踏ん張っていた。
見るに堪えない状況だった。
遠山家の女子が気を遣って出してくれたお菓子などをすすめて、了は紫苑の気を紛らわそうと奮闘した。
その後、紫苑と一緒に帰ったのだがずっとフォローの言葉をかけ続ける事になった。


回想を終えると、了は奏の問いに答えた。
「うん、最初は落ち込んでたけど、でも結局はウサギを触れたから一応満足はしたみたいだったよ」
「あんな無理やりの状況で満足だったのか?」
響が首を傾げて言った。

「普段一人だと触る事も出来ず、すべての動物に逃げられるらしいんだよ。だから触れただけ良かったって気を取り直してた」
「動物は一体彼の何にあんなに怯えてるんだ?」
ミズキが真顔で訊ねた。

「うん、俺にも分からないけど、でも悪い人じゃないんだよ」
「それは知ってるよ」
ミズキが言うとみんなが頷いていた。
動物には嫌われているが、自分の友人達には理解してもらえているようで良かったと思った。

「二人で帰ったから、実はちょっと心配だったんだよ」
「心配?」
了は奏を見る。少し困ったような顔で奏は頭を押さえた。
「いや、慰めて欲しいって、動物の代わりにリョウに触りたいとか言いだすんじゃないかと思って……」
お茶をふきだす所だった。
「ないよ。あの人は俺の事そういう意味で見てないから。ブラコンみたいな感じなんだよ」
「兄弟じゃないじゃん」
「似たようなモノなんだよ」
奏の突っ込みに了は答えた。
すると奏を見て響がニヤリと笑う。

「リョウに触って癒されたいとか慰められたいって、自分が思ってるんじゃないの? カナデ君てばやらしー」
からかうように言われて、奏は顔を赤くした。
「別に良いだろ、好きなんだから」
「ストレートだな」
響が突っ込んだ横で、ミズキが真顔で言った。
「カナデの気持は普通じゃないか? 落ち込んでいる時に好きな子が傍にいてくれたら嬉しいものだろう? 触れられたらやっぱり元気は出ると思うよ」
「……みんな俺の前で言うのやめて? すごく困るから」
了は赤くなった顔を両手で押さえていた。




残暑は続いていたが、9月になると空気が変わっているのを感じた。
季節が確実に秋になりつつある。

家に帰るとリビングに宗親がいた。
「あれ、仕事はもう終わり?」
ソファにいた宗親が不機嫌そうに答える。
「さっきまでワタルが来てたんだよ」
テーブルには茶器が置かれたままだった。

「えっと、もしかしてまたケンカした?」
「いや、してないよ」
そうは言うがその顔は不機嫌そうに見える。

「あー、またなんかカップリングの相違があった?」
「あいつと好みのカップリングが同じだった事はない」
本当に趣味が合わない二人だなと思った。
それでも付き合いがあるんだから、逆にその他の部分が気が合うんだろう。

「それで好みのカップリングが違ってどうしたの?」
「いや、違ったら会話はそれで終わりだ」
「あーなるほどね」
そこはそうなるなと納得した。それが一番穏便にすごせる解決方法だ。

「じゃ、なんで今日はそんな顔してんの? カップリングの話はすぐにやめたんだろ? だったら言い争ったりしてないんでしょ?」
宗親は真顔で了を見た。
「あいつがお前の事をかわいいって言ってたんだ」
「え?」
宗親は了の肩をガシリと掴んだ。

「あいつは本気でお前の事を狙ってるかもしれない! 良いか、あいつには気をつけるんだぞ!」
「いやいや、それは父さんの勘違いでは?」
「勘違いじゃない! あいつは美少年が好きなんだよ! お前はあいつの好みの顔なんだ! 何されるかわからないから近づくなよ!?」
「……多分、あの人が好きなのは父さんだと思うよ。俺の顔が好きなのも父さんに似てるって理由だと思うし」
宗親は激しく首を振った。

「いや、確かにあいつは昔、俺の事を好きだと言っていた! でもそれは俺の高校の頃限定の話だ! おっさんになった俺に興味はないはずだ! いや、まぁ、俺は今でもイケメンで美形で格好良いけど。でもあいつが好きなのは少年なんだ! いいか、絶対に近づくなよ!」
宗親が力説するので、一応了は頷いて見せた。
「……わかったよ」
でも内心ではワタルの事はまったく心配していなかった。
了をかわいいとか好みだと言うのは宗親に構って欲しいからだろう。
そう思うと同情心がわいた。
高校時代の初恋を今も引きずっているのなら、応援したくなった。
ワタルさん頑張れ。
心の中でエールを送った。


部屋に戻った了がカバンの中身を整理していると、スマホにメッセージが届いた。
「お……」
久しぶりの母からの連絡に思わず声が出ていた。



両親が離婚した後も、母親の涼香とは会っていた。
最後に会ったのは了の誕生日の少し前の事だった。
食事をして誕生日プレゼントを貰った。
それから数カ月。了は久しぶりに涼香と会っていた。


老舗の有名ホテルのレストランで、了は母と向かい合って座っていた。
ホテルの内装を見て、どんな高級店だろうかと思ったが、ランチは比較的手頃な価格だった。
了はドリアのセット、涼香はパスタセットを注文した。

「今日は時間作ってくれてありがとうね」
「うん」
笑顔の母を見つめた。
宗親は普段から美女が好きだと公言していたが、母である涼香は確かに美人だった。
くっきりとした眉や大きな目が、意志の強さを感じさせる。
長い髪は下の方がクルクルと巻かれていて、爪にもマニュキアが見える。
40歳をすぎているが、もっと若く見えた。
同級生の母親と比べても、少し、いやかなり華美な見た目だ。

「本当は宗親君も誘ったんだよ。でも二人で会った方が良いんじゃなかって遠慮したみたい」
「そうなんだ」

涼香に最後に会った日、あの時はまだ宗親が腐男子だという事を知らなかった。
二人の離婚理由を聞いた事はなかったが、もう聞いても良いような気がしていた。
宗親の趣味が理由で離婚したんだと聞いても驚かないし、もっと重い理由があったんだとしても、今の了なら受け止められる気がしていた。
この数カ月濃厚な時間を過ごしてきたので、たいていの事ではショックは受けない自信があった。

「あのさ、実は誕生日に父さんにカミングアウトされたんだよ」
フォークを持った涼香の動きが止まった。
「カミングアウトって?」
涼香の真剣な目にドキリとしてしまった。
「えっと、母さんは知ってたのかもしれないけど、俺は誕生日に初めて知ったんだ。父さんが腐男子だって」
「ああ、なんだ、その事ね」
涼香はカラリと笑ったが、了は今の言い方が気になった。

「もしかして、俺には言ってない秘密がまだある?」
涼香はフォークを置くと紙ナプキンで口を拭った。
「そんなに緊張しなくてもたいした事じゃないよ」
やっぱり秘密があったんだ。緊張しなくても良いと言われても緊張してしまう。

「昔、私と宗親君の出会いは何かって聞かれて、友達の紹介って言ったでしょ?」
「……うん」
一般的によく聞く回答だとは思っていた。
でもそれは人に言えない場合に使われる事が多い。
了は何を言われるのか覚悟した。

「実は若かった頃の私と宗親君はコスプレが趣味でね、コスプレイベントで出会ったのがきっかけなんだ」
「え?」
完全に予想外だった。
今まで二人がコスプレをしていたなんて聞いた事がなかった。

「ごめんね、内緒にしてて。でも親になるんだし、こういう事はリョウが大人になるまでは内緒の方が良いかなって思ってたの。ほら子供ってすぐ正直に他人に言ったりするでしょ? お母さん、ママ友とかにはパンピーのフリしてたから言いたくなかったんだ」
了は驚いていた。
涼香も小説や漫画に詳しいとは思っていたが、そこまでオタクとは思っていなかった。

「この際だからぶっちゃけちゃうと、お母さんすっごいオタクだったんだ。初めてのコミケは中学二年、初めてのコスプレと同人誌製作は高校一年。コスプレ引退は妊娠するまでっていうね」
「えっと、もしかして腐女子とか?」
「やだ、そんなの当たり前でしょ。女子の99パーセントは腐女子よ」
言い過ぎでは? と思ったが、今まで会ってきた人たちを見るとそうとも言えない気がした。

「でも、まぁ宗親君の方がBL好きは上な気がするけどね。あんなに熱く萌を語る人、女の子の友達にもいないよ」
やっぱりそうかと思った。
あそこまで自分の欲望と妄想に忠実で、ウルサイ人間はそういないだろう。

「でもそのお陰で宗親君とは出会ってすぐ仲良くなったんだ。顔が好みだったっていうのもあるけど、考え方も近くて、ほら二人共外面が良いというか、余計な事は外では言わないタイプでしょ? お母さん、これでも仕事も出来て会社で役職あるし、見た目とかも気にするから隠れオタクだったのよ」
「……」
二人の出会いや、恋に落ちた理由はよく分かった。これは確かに気が合いそうだ。
了はずっと気になっていた事を聞いた。

「そんなに気が合ったのに、どうして離婚したの?」
一瞬涼香の顔が強張った。
やっぱり聞いてはいけなかったんだろうか。心臓の音が大きくなった。
涼香は悲しそうな顔で了を見た。

「そうね、言わないといけないよね。この話って宗親君から聞いてないんでしょ?」
了は頷いた。
涼香はふっと息を吐いてから覚悟を決めたように言った。

「私にね、すっごく好きな人が出来てしまったの」

覚悟をしていたが胸が痛んだ。
宗親を同情する気持ちがわいてくる。きっと宗親はずっと涼香の事を好きだっただろう。

涼香は食事を終えた皿を横にどかして、テーブルの上で手を組んだ。
「私ね、世界で一番素敵な人に会ってしまってね、その人の事以外考えられなくなってしまったの」

了は涼香の左手を見た。指輪はしていない。再婚はしていないんだろう。それとも了に会うために指輪を外して来ているのだろうか。

「永井義弘さんて知ってる?」
「え、あ、うん。人気のイケメン舞台俳優の……」
涼香の顔がぱっと明るくなった。
「え、嘘? あの永井義弘と付き合ってるの!?」
叫ぶ了に向かって涼香は手を振った。

「やだ、付き合えるわけないじゃない」
「え?」
思わず立ち上がりかけていた了は椅子に座りなおす。

「どゆこと?」
了が呟くと、涼香は顔を赤く染めて微笑んだまま言う。

「よんたさんの舞台を初めて見た時にね、衝撃を受けたの。こんなに綺麗な人がいるんだ。こんなに歌の上手い人がいるんだって。でもそれだけじゃないの。芝居も歌も上手い人は他にいくらでもいるのよ。でも彼は人を惹きつける力が凄いのよ。指の先から足の先まですべてに気を遣って役に入り込んで、こちらを別の世界につれていくの。神だと思ったわ。彼は100年に一人の逸材だってわかった。彼と同じ時代に生きられる事に感謝したわ。私が見た時はまだ無名でね、でもこれから有名になるって確信したの。それ位の才能でね」

涼香はずっと永井義弘の話をしていた。
完全にただのファンだった。彼がすごいというのはよくわかった。
『よんた』というあだ名なだというのも、涼香が彼を大好きなのも。
でも。

「え、それでなんで離婚になったの?」
ずっと微笑んで話していた涼香が真顔になった。ヘタに美人だからドキリとした。真顔の美人は怖い。

「宗親君が二番になってしまったから」
「え?」
理解できない了に、涼香は言う。

「私の中の世界一がよんたさんに変わってしまったの。宗親君が一番じゃなくなったの」
「でもそれってファンって事でしょ? 実生活での好きな人とは違うものじゃないの?」
「確かにそう。でもそれは分かってても、気持ちが冷めたの。あー私は一番じゃない人と暮らしてるって思うし、次の舞台の事ばかり考えるようになってしまったの」
了には理解できなかった。
趣味と生活は別だと思う。

「でも離婚する気なんかなかったのよ」
「え」
どういう事だ? そう思って涼香を見つめる。

「私の世界一がよんたさんになったからって、離婚して宗親君やリョウと離れる気なんかなかった。でもね、宗親君の方が気遣ってくれたのよ。舞台の追っかけって、けっこう大変なのよ。舞台によっては毎日公演があるし、場所も転々と変わるし。全部を追っかけるのって家事なんかしながらじゃ出来ない。それを宗親君が全部するって言ってくれてね、協力してくれた」
嬉しそうに微笑んだ後で、涼香は悲し気に目を細めた。

「でもね、そこまでしてもらうと罪悪感もわいちゃって、また辛くなってしまったの。そうしたら宗親君が私を自由にしてあげたいって離婚しようって言ってくれたの」
「それで離婚したの?」
「うん……」
どうにか上手くする方法はあったんじゃないかと思った。
趣味と家庭の両立なんか、みんなしている。出来て当たり前だ。

でもこの二人は違ったんだなと気付いた。
宗親が好きな物に向ける熱量は凄い。似たもの同士の涼香もそうだったんだろう。
お互いの趣味を優先して離婚する。それはそれでアリなのかもしれない。
一緒に暮らして、我慢をして耐え切れなくなって爆発して険悪になる可能性もあった。

そう考えると、今現在、二人共幸せそうなのだから間違っていなかったんだろう。


「自分勝手なお母さんで呆れたでしょ?」
涼香が言うので了は首を振った。

「別に良いと思うよ。自分の人生なんだから好きに生きればいい。やりたい事をやったら良いんだよ。それに二人が離婚しても、こうやって母さんとの縁も続いてるし、父さんと母さんが仲悪くなってるワケでもないし、子供としては気持ちはすごく楽だよ」
涼香は微笑んだ。
「リョウは優しいね」





涼香と別れた後、了は夕方前には家に帰りついた。
宗親はキッチンで料理をしていた。

「ただいま、母さんに会って来たよ」
「うん、元気そうだった? まぁ、涼香ちゃんが元気じゃない事ってないけど」
了はキッチンカウンターに手をつく。

「父さんと母さんの出会いも聞いたよ」
宗親は包丁を持つ手を止めて了を見た。
「ついに真実を知ったのか」
宗親は真面目な顔をしていた。

「昔、俺が暴走族総長だった時に、レディースだった涼香ちゃんと運命の出会いをしたんだ」
「ちょっと俺の聞いた話と違うんだけど!? コスプレイベントじゃなかったの!?」
了が突っ込むと宗親はニコリと笑った。

「いや、間違いじゃないぞ。そういうコスプレだったんだ。いや、王国の皇子と王女のコスプレで仲良くなったんだったかな?」
コスプレイベントなのは間違いがないようだった。

「父さんて何のコスプレしてたの?」
了は好奇心で訊ねてみた。
「その皇子が多かったかな。マントと仮面をつけた悪役っぽいキャラだったけど、あと黒い和服に刀持ったヤツとか、マフィアとか」
「あーなんかわかった」
昔のアニメなど、今は動画サイトで見る事が出来る。
宗親の買っていた漫画も全部読んでいるので見当がついた。

「写真見たいな。ないの?」
宗親は包丁を動かしながら答える。
「んーどうだったかな。でも昔の俺は美少年だったからな、見たら目ん玉飛び出るぞ」
「俺に似てるんだっけ?」
宗親は再び動きを止めた。

「言っておくが俺は攻めキャラだから。受けのお前とは違うからな」
「俺は受でも攻でもないから! つーか父さん自分で攻めキャラとか言っちゃうの!? BLな高校生活送ってたの!?」
「あくまでも妄想の話だよ。実際には美女が大好きだって言ってるだろ?」
自分出演でBL妄想が出来るのは強すぎるだろ。だが隼人も同じだったなと思いだした。二人共人生楽しそうだ。

「ご飯できたら呼んでよ。ちょっと部屋に行ってるから」
了は二階の自室に向かった。

スマホを取りだすとメッセージを送る。
返信はすぐにきた。


夕食時。
了は宗親に声をかけた。

「あのさ、今度ワタルさんに会う事になったんだけど」
「は?」
楽しそうに食事していた宗親の顔が曇った。
「なんであいつに会うんだ?」
「父さんのコスプレ写真持ってるっていうから見に行こうかと思って」
「駄目だ、駄目だ、駄目に決まってる!」
「なんで?」
宗親は箸を置くと頭を抱えた。

「あいつのマンションの部屋になんか行ったら何をされるか……俺のリョウが汚される……」
「いつもはノリノリで妄想するのに」
「少年同士は良いんだよ! でも相手はおっさんだ! おっさん×少年は俺の好みじゃないんだよ!」
「愛があれば年の差は関係ないんじゃない?」
宗親はテーブルに手をついた。
「愛!? 愛があるのか!? もしかしてリョウはあいつの事を!?」
「……いや、ぜんぜんないって。一般論」
「そうか」
安堵したように宗親は椅子に座りなおした。

「じゃ、見に行っても良いよな?」
「絶対に駄目だ。だいたい写真なんかデータを送ってもらえば良いだろう?」
「昔だからどこに保存されてるかわからないって。プリントしてアルバムにしたお気に入りがあるって言うから、それを見せてもらう予定」
「怪しいぞ! 保存されてる場所がわからないと言って、家に連れ込む気じゃないか!?」
了はため息をついた。
「わかったよ。じゃあ、ウチに持ってきてもらおう。それなら良いでしょ?」
宗親は渋々頷いた。



当日、ワタルはアルバムを何冊か持ってやってきた。
「いやー、昔の写真、俺も久しぶりに見たよ。ムネチーはやっぱり変わってないな。リョウ君、はい、堪能してね」
了は渡されたアルバムを開いた。

「おお!」
若い宗親に声を出してしまった。
「え、これ父さん? ちゃんとウィッグとかつけてるんだ! あと結構クオリティ高い!」
褒められた宗親は髪をかき上げて格好つける。
「そうだろう? 父さんは昔からイケメンだろ? 今は加工でどうとでも出来るからな、ブサイクでもごまかしがきく。でも父さんの時代は素材を生かしたコスプレだったんだ! 見ろこの美少年ぶりを!」
「あ、これって母さん? やっぱり美人だな。待って、こっちのこれって男装!? 母さんて男装コスプレもしてたんだ! すげーイケメン!」
「……」
宗親が無言になっていた。

引きつった顔のまま宗親は了に訊ねる。
「リョウは父さんと母さん、どっちがイケメンだと思ってるんだ?」
了はアルバムを見ながら考える。
「え、いや、うん、どっちも似合ってて格好良いよ。でもほら二次元のコスプレってやっぱり女性の方が綺麗じゃない? あ、これってもしかして母さん胸とか潰してコスプレしてるんだ! すげーマジで格好いい!」
宗親はソファにもたれて項垂れた。
「涼香ちゃんにイケメン度で負けるなんて……俺も美少年だったのに……」
落ち込む宗親を、ワタルは笑いながら眺めて言う。

「リョウ君、こっちの写真もおすすめだよ」
ワタルが捲ったページに釘付けになる。
「これは!?」
了が叫ぶと宗親は起き上がる。
「ん、なんの写真?」
了はそれを指さした。

金髪男装の涼香が、黒い髪の制服衣装の宗親に壁ドンしている写真だった。

「父さん、自分は攻めキャラだって言ってたのに、これって受なんじゃないの?」
「それは相手が涼香ちゃんだから良いんだよ! 男相手のカラミの時は俺が攻キャラなの!」
了は宗親を無視してワタルを見る。

「やっぱり母さんの方が、この頃から父さんより強い感じだったんですか?」
「そうだよ。宗親は彼女の好みのキャラをやらされて、彼女の好みのカップリングの写真を撮らされてたよ」
昔から力関係は変わっていなかったのだなと思った。
だいたいどこの家庭でも奥さんの方が強いものだ。
了が視線を向けると宗親は叫んだ。

「良いんだよ! カップリングの好みが一緒だったから、それは許容範囲なんだよ! 俺は攻めキャラ希望だが、そのキャラのカップリングは金髪×黒髪主人公だったから問題ないんだよ!」

コスプレにまで受け攻めがあるのか。大変だなと思った。

「えっとワタルさんの写真はないんですか?」
了が聞くとワタルはページを捲る。
「俺はあんまりコスプレしてなかったんだけど、付き合いでいくつかやったよ。ムネチーがどうしてもやってほしいキャラがあるって言うから、あ、ほらこの写真」

ワタルが指さした写真を見た。
栗色の髪の制服のワタルが、先ほどと同じ衣装の宗親を押し倒している写真だった。
「これも父さんが受けなんじゃない?」
宗親は髪を両手でかき乱しながら答える。

「そのキャラのコスするなら、この写真を撮らせてくれって、ワタルからの交換条件だったんだよ! でもそれも許容範囲内ではあるんだ! 何故なら栗色髪×黒髪はそのアニメの王道カプだからな! カップリングに間違いはない!」
叫ぶ宗親の前でワタルは了に囁く。
「結局、自分が一番好きなキャラやると自分が受けになるんだけどさ、ムネチーわかってないんだよな」
了は納得した。
宗親は自分を攻めキャラだと言っていたが、好きなキャラのコスプレをやるから、結局写真を撮る時は受けになっている。

「仕方ないだろ! 似合うキャラで合わせコスするとこうなったんだよ! コスプレは身長や体格も含め、似合うか似合わないが大事だし、周りとのバランスもあるんだ! でも一番優先されるのはやっぱりカップリングなんだよーーー!!」

ワタルは了にウインクした。
「ムネチーは主人公総受けでカップリングわかりやすいから、みんなに上手く誘導されてコスしてたよ」
学生時代の宗親は結構チョロかったんだなと思った。

そして写真を見る限り、宗親は攻めキャラではなく受けキャラだったんじゃないだろうかと思った。




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